第1449堀:闇ギルド幹部の背景
闇ギルド幹部の背景
Side:エリス
ペラペラ……。
カリカリ……。
そんな書類をめくる音とペンを走らせる音が校長室に響きます。
とはいえ、内容は学校運営だけものモノではなく財務関連の書類も存在します。
今回、スウルスへ侵攻した大氾濫、そしてキナウフへの対応として軍を派遣したことで多大な物資と資金が動きました。
しかも、現代兵器の運用までしたのでその詳しい消費量や金銭換算はとんでもないことになります。
いえ、今回は少なめになっているのでそこまで額も大きくないのですが。
額の大きさで言うのであれば、年末年始の軍事演習とか、ズラブル大帝国とぶつかった時の兵器運用の方が酷かったのですが、だからと言って……。
「そろそろこの手の仕事もテファたちに引き継ぎたいですね……」
そう、いい加減私が処理するのも疲れてきたというのも本音だ。
そしてその呟きは校長の机で同じように書類仕事をしているラッツの耳にも届いて。
「うーん。気持ちは分かりますけどね~。私たちが手を出せるからこそ簡単に動かせるという側面もありますからね。情報の共有面とか、そこらへんでも」
「そうなのよね」
私たちがいまだにこの手の仕事をしている理由は速度に関係がある。
私たちは既に各部署の代表からは退いて副代表などに就いてはいるが、その実ほとんどの業務を任せてウィードの運営は出来るようになっている。
なのだが……こと、今回のような現代兵器の運用はもちろん軍を動かそうとなると、話は変わってくる。
先ほども言った速度だが、軍というのは動かすのにとてつもない手続きが必要だ。
なんの目的をもって何のために行軍するのかはもちろん、どれだけの人数を何日間、そして装備やほかの物資、何より出先の許可はもらっているのか。
つまり、多くの手続きがあってようやく動けるわけ。
ウィードだってそこはちゃんとやっている。
いえ、ウィードだからこそ、その手続きはより厳格になっている。
何故ならユキさんからもたらされた銃器をはじめとする地球の兵器群のためだ。
一つでも紛失しようものなら多くの命が失われかねない物が多くあり、その管理は厳重にしている。
その兵器を使用するなんて、まさに手続きの連続となるわけで、遅々として話が進みません。
なので私たちです。
専門として武器や物資の管理をしていて、ユキさんやセラリアの指示で即座に動かせるようにしているんです。
これは他のテファやノンに引き継げば手続きに時間がかかること間違いないでしょう。
「とはいえ、いずれ引継ぎをというのは分かります。そうでもないと私たちが隠居できませんし」
「ええ。いつまでも私たちがサポートできるとなんて思っても困るし。とはいえ、武器や物資に関しては結局ウィードから離れても私たちが管理することにはなりそうだけど」
「今更、他のみんなに任せてもですね~。まあ、やってできないことはないでしょうけど」
「時間がかかるモノね。一応私たちが休みの時は動けるようにってローテーションは組んでいるけど、それでもよほど重要な時は判断聞いてくるし」
「そこは仕方がないでしょう。判断一つで文字通り敵味方の生死にかかわりますからね。特に現代兵器は……」
そう、実際事務的な手続きは既にテファもノンも、そしてポーニたちもできますが……最後の決断を下すというのは精神的にすごく負担がかかるのです。
現代兵器の威力を知っていれば知っているほど。
まあ、兵士を向かわせて戦わせるのと何が違うのかってユキさんは言うのですが……。
……自分の許可一つで本当に命が消し飛ぶのです。
人と人で戦っているという意識が強いのでしょうね。
戦争は国と国なのです。
その意識が彼女たちにはまだ持てないのでしょう。
「いつか、戦場に連れて行かないといけないわね」
「そうですね~。いつか私たちがいなくなったときに決断できないのはつらいですし~」
「そうなると任期が短いのはどうなのかしら?」
「あー、任期終了後に再任っていうのもあるでしょうけど、再任できずに毎回引継ぎとなると……」
「経験が引き継がれませんね。あー、これって結構問題なのでは?」
「ユキさんもそこは心配していたけど、結局誰がやってもって話ではあるし、入れかえは必ずある。そうしないと誰かが倒れた時に機能停止するし」
「ですね~。いや難しい。それに地位に固執しても困るし~」
「そうなのよね~」
ウィードの各代表というのは責任が重くのしかかり仕事量も並ではない。
それはその立場を経験している私たちがよく知っている。
だからこそ権限が強く仕事に支障が出ないようにしているし、給料の面でもこのウィードの中でも随一でもある。
まあ、給料を使う時間があるかって話レベルで忙しいのだけれど。
と、そんなことを考えているとコールから連絡が来る。
「おっと、霧華からですね」
「ええ」
特に場所も時間も問題がないので素直にコールに出る。
『日中お忙しいところ失礼いたします』
「いえいえ、大丈夫ですよ~。ねえ?」
「ええ。大丈夫です。それで何かあったのですか?」
さっそく仕事の話をしろというのはアレだが、霧華は諜報部、あまりだらだらと話すのもどうかというやつだ。
友人として顔を合わせているわけでもないしね。
『はい。イリナウで現在エージル様たちが交渉に入っているのは御存じかと思います。昨夜私たちが敵の拠点を急襲したことも』
「ええ。聞いていますよ~」
そう、昨日霧華たちがイリナウに集まっていた闇ギルド連中に仕掛けた。
その結果は完璧。
半数を捕らえて、変装を利用して入れ替わりに成功して、残り半数も気づかれることなく拠点を漁れたようだ。
どれだけガバガバなのかって話なんですけど……。
『そこで幹部の情報も集まっていまして、取引相手のデータを送るので調べてもらえますでしょうか?』
「おー、任せてください」
「わかりました。資金の流れは此方で洗いましょう」
なるほど、幹部の情報が新たに出てきたわけですね。
『よろしくお願いいたします。最後にもう一つ、カヤ様たちには伺ったのですが学校はどうでしょうか? あちらは警備に関するものでしたので、学生たちの動きなどは?』
「そうですね~。普通に授業を受けているという感じですね~。ああ、意欲に関してはかなり高いです。流石選別されてきた学生たちという感じですね~」
「ええ、ラッツの言う通り優秀な生徒たちね」
『そうですか。ならよかったです。いまだに闇ギルドがどういう規模で動いているのかはよくわかっていません。闇ギルドの幹部の一人が小国とは言え商人としてはそれなりだったということを考えると、無自覚な協力者もまたいるだろうと思うのでよく注意をお願いいたします」
「わかりました。まあ、それとなく注意しておきますよ~」
「霧華も頑張って下さい」
『はい。では失礼いたします』
こうして霧華からの連絡は終わり、情報が送られてくる。
2人して即座にその情報に目を通す。
「ふむー、えーと、あれ? リテア聖国所属の小国になってますねね~」
「ああ、支店ということでごまかせていたのね。またルルアとアルシュテールが怒りだしそうな内容ね……」
2人して提出された情報に驚きながら、苦笑いをする私たち。
そう、幹部とされる男の表の顔だが当初は別の大国傘下の小国にある商人として話を聞いていたのですが、霧華の諜報部がよくよく調べてみるとリテア傘下の小国で興した商人が他国で抜擢されたということで、組織としてはそのリテア傘下の小国が本店となるわけです。
そうなると、またまた闇ギルドに関係している小国がいるリテアとしては対応せざるを得ないですし、責任問題にもなるでしょう。
怒らない方がどうかしているというわけ。
「巧みに隠しているのか、それとも偶然?」
「どちらとも言いにくいですね。私も昔は冒険者兼商人みたいなことであちこち歩きまわっていましたからね。私の故郷が本店って言われても微妙ですよ」
「確かにそうよね。でも、お店を出していないんでしょう?」
「まあ、そうですね。今回の幹部に関しては第一店舗目がリテア傘下の小国でそこから販路を広げていって当たったのが、ロシュール傘下の小国ですから、本店と言っても……問題ないんですかね?」
「そこらへんは本人の意思でしょう? というか、リテア傘下なら探りはどうする?」
「直接上に問い合わせるとリテアが現在軽い腰を動かしそうですからねぇ~」
ラッツの言いたいことはよくわかる。
スウルスにキナウフ、イリナウと問題の連続で国際交流加盟大国としての面子のためびっくりなほど動いているから、ついでに潰しそうなのよね……。
お互い少し沈黙して。
「一度私たちで調べてみるってことでいいんじゃない?」
「そうですね。それで埒が明かないとなればお兄さんに相談してリテアへの協力をどうするか判断してもらいましょうか~」
まずは自分たちで調べる。
その方針で決定した。
とはいえ、ウィードからリテアの小国の商店を調べるなんてのは簡単であり、難しいことである。
自分でも何を言っているんだろうと思いつつ、そのままパソコンのデータを検索する。
闇ギルドの幹部が運営している商会の名前は検索すれば即座に出てくる。
私の画面には取引した資金がずらっと並んでいる。
商会の名前はもちろん、所在地や取引先の国なども書いてあるから、間違いはない。
とはいえ、それだけだ。
「取引があるわね。びっくり」
正直、出てこないかもと思っていたが情報が出てきた。
でも、私が調べられるのはここまでだ。
商会がウィード内で取引をしているだけというのがわかるだけでほかの情報が出てくるわけではない。
あとわかるとしたら、取引している商品だけど。
そう思ってラッツの方へ視線を向ける。
「こっちも見つかりましたよ。取引相手は多岐にわたりますが、販売しているのは主に高級品の服を中心としたものです」
「仕立屋もしていると……それなら多少は上とつながりは持てそうね。とはいえ、それだけじゃないでしょうね」
「ですね。取引相手からちょっと探ってみましょう」
ということで、私たちはこの場では調べられない情報を引き出すため関係各所に連絡を取っていくのであった。
またもリテアが怒りそうな案件が一つ判明。
そして取引先もわかってしまういうずさん。
とはいえ、足がつくというのはこういうことからですね。




