第1421堀:もう一つの情報源はどこ
もう一つの情報源はどこ
Side:セラリア
エージルからの報告で、私たちは西の町の調査終了を認めた。
無理に調査をする必要性もないし、秘密裏にデータを取ることもできる。
あとは相手が納得するなら問題がないってわけ。
「でも、殆ど情報が得られなかったのは痛いのかしら?」
今回の調査、私の友を送り出してまで調べたけど明確な情報は得られなかった。
相手はダンジョンマスターや闇ギルドだからそう簡単には行くとは思っていなかったけど、ここまで空振りだと残念という気持ちもあるのよね。
そこは夫としてはどうなのかしらと思って聞いたんだけど。
「ん? 何もないっていうのが情報だろう。明らかに敵は痕跡を消すことを優先している。残っていた方がまだましだったのにな」
夫は特に不満もなさげな顔でそう言ってのける。
「どういうことかしら?」
「普通の大氾濫が起こったときの対処をことごとく外しているんだよな。自然発生したにしても、ダンジョンができたにしても、その痕跡が一切ない。つまりだ、どう見ても人為的だろう? 証拠をきれいさっぱり消しているってことから裏に誰かいるのが確定したわけだ」
「ああ、そういう意味にとるのね」
確かに夫の言う通りだ。
西の町にも発生地点とされる場所にも大氾濫の大元とされる証拠が一切残されていなかった。
だからこそ、それが人為的だという証拠なのだと。
「でも、証拠が残っていないのなら追いようがないと思うけど?」
「別にスウルスだけで証拠や情報を集める必要はないだろう。人為的ってわかっただけでも十分。セラリアの親友も色々調べているだろうし」
「そういえばローエルが勝手に動いているってガルツ王が言っていたわね」
まあローエルは前から妙なことがあるって動いていたしね。
反ウィード派ね。
そう言うのがあるのは前から知っていたけど、やっぱり繋がっていると見るべきかしら?
「そのローエルだけど、いつ合流できそうとか連絡は来てないか? 二国の訪問前に情報があればありがたいんだけど。まあ、繋がっているとは決まってないが」
「ああ、繋がっているのならそこから追えるってわけね。それなら確かにある程度でもいいから情報がもらえる方がいいわよね。ちょっとまって試作の無線機は渡しているから連絡してみるわ」
ローエルは色々な意味で私だけじゃなく夫、そして妻たち、子供たちにとってもかけがえのない存在だから、いざという時に連絡を取れるようにしている。
もちろん装備品も私たちよりは劣るが一級品で、そう簡単に敵に後れをとることもない。
だからこそ、単独行動をしていても特に心配はしていなかったのだけど、今回は別。
ということで、その場で連絡を取ってみると。
『ん? セラリアどうした? 何か急なことか?』
「そうよ。めったにこれで連絡はしないでしょう? で、今どこ?」
『今? ウィードの教会で子供たちにお菓子を配っているが? そういえばリリーシュ様はどこだ? ハイレンしかいないんだが?』
どうやらウィードに来ていたらしい。
なんというか、ちょうどいいというか。
とりあえず……。
「その説明も含めてするから今すぐ、会議室の方に来て」
『会議? 何かあったのか?』
「いや、あったわよ。大氾濫」
相変わらずの抜けっぷりだが、とりあえず説明する。
『ああ、あったな。わかった。子供たちにお菓子を配り終わったらいく』
そう言って通話が切れる。
いや、今すぐって言ったのにね。
私が視線を夫に向けると。
「別にウィードにいるなら問題ないだろう。子供たちのプレゼントをほっぽり出すのも子供たちが心配するしな。その間に俺も準備を整えるさ。セラリアの方も時間があった方がいいだろう?」
「言われてみるとそうね。クアル、大氾濫の情報と最近の大陸間交流同盟の状況をまとめて報告書の用意を」
「かしこまりました」
私が指示をだすとすぐに動き始めるクアル。
夫も同じように。
「じゃ、フィオラたちも大氾濫と国際交流学校の報告書の用意を頼む」
「「「はい」」」
夫についてきていたフィオラたちもすぐに行動を開始するのだが……。
「……ふぁ」
「えーと……」
「私たちはどうしたらいいかしら?」
ニーナ、リュシ、セナルは手持無沙汰でその場に立ちん坊している。
確かにニーナは夫の捜査に協力はしているけど報告書を作るのはフィオラたちの仕事。
リュシは見習いとはいえ夫の秘書であり護衛なので離れるなど言語道断。
最後にセナルはそのリュシのサポートだ。
リュシは今の所夫の元で精力的に働いているが、いつ不安定になるかわからないというのが現状。
ルルアやリリーシュ様は今はスウルスに行っているし、ハイレンは……信頼はしたいのだけれど完全に任せるのは不安が残るので、セナルという敵対していた女神を付けているのよね。
いえ、セナルの方も夫や私との契約はしているし指定保護による束縛もあるから心配はないし、精神性も信用はしている。
……それに負けるハイレンの破天荒さってどうなのよ?
と、そこはいいとして、彼女たちの現状よね。
「あなた。3人は手持無沙汰になっているわよ?」
「いや、普通に待機でいいだろう。何かすることはないんだし。普通に座って話を聞けばいい」
夫は普通にそういう。
まあ、今ここで何かできるかというと、そこまでやることはないわよね。
パソコンでも出せば仕事はできるけど、集中してできるかっていうと違うし、効率も違うわよね。
なので、やはり夫の言うようにできることと言えばお話ぐらいか。
「そうね。座って頂戴3人とも、私が許可するわ」
ウィードの女王は私、その許可というのは命令に等しい。
まあ、ニーナとセナルはそこまで気にしないでしょうけど、リュシは違うから。
「じゃ、遠慮なく」
「そうね。では、失礼します」
ニーナとセナルは慣れたものですぐに椅子に腰を下ろすが、やはりリュシは……。
「え? あの、座っていいのでしょうか?」
「ええ。私が許可したのよ。というか命令だし座りなさい。落ち着いて話をしたいから」
「はい!」
とはいえ、リュシは本当に良いというのが分かれば緊張……はすることはない?
ハキハキしてピシッと動くから外面には緊張は出ていないのよね。
言い方は悪いかもしれないけど、おどおどしているヤユイよりはとっつきやすいのよね。
まあ、これは私の性格が関係しているんでしょうけど。
で、全員が座ったところを見て、お茶がないことに気が付く。
私がソファーに座ることなく、執務室に置いているコーヒーメーカーに近づいて。
「みんなコーヒーで良いかしら? お茶とか紅茶もあるわよ。パックだけど」
「ああ、大丈夫」
「うん。コーヒーでいい」
「ええ、コーヒーでお願いするわ」
「え!? あ、あの、私が……」
平気な3人に比べて、リュシは流石に立ち上がってこちらに来ようとするが、それを手で制する。
「いいのよ。座ってって言ったのは私だし。これも息抜きの一環ね」
「あ、ユキ様も同じことを仰られていました」
「あら、そうなの?」
「仲がいい夫婦ってことだな」
「そうね」
こういう共通点が見つかるのはいいわね。
繋がっているって感じるわ。
そんなことを思いつつコーヒーの準備をしていると不意に夫が話しかけてくる。
「なあ、息抜きや趣味でコーヒー飲むのはいいとして、忙しい時はどうしてるんだ? メイドとかそういうのは見ないけど?」
夫は辺りをきょろきょろして部屋を見渡す。
確かにメイドはいない。
「あなた私が元々どんな立場だったか覚えているかしら?」
「元々お転婆姫」
「間違ってないけど間違っているわよ。一応一軍を率いる将軍だったの。つまり立場ある地位であり、メイドぐらい私も控えているわよ」
チリンと机の上にある鈴を鳴らすと、即座に会議室のドアが開き、メイド長であるウナが入ってくる。
「あ、ウナさん」
「どうも御主人様。いつも申しますが、ウナとお呼び捨てを」
「あはは、いつもセラリアとクアルの世話を焼いてもらっているのに呼び捨てなんてできませんよ。って、あれ? セラリアがメイドって言って呼んだってことは……」
「はい。私が女王陛下のメイド長も務めております。また近衛隊の補給や事務管理をしております」
そう、ウナはメイドの姿ではなく、近衛の鎧を身に着けているのだ。
ウナは私より一回り年上で私やクアルが女性として騎士となる見本となった人だ。
ウナ自身も私のお母さまたちの姿を見て騎士を志したっていう経緯があるから、そういう意味でも私にとってはありがたい人物ってわけ。
で、その事実を今更認識した夫はというと……。
「はぁ~。いや、何というか腑に落ちたというか。つまりセラリアが連れてきた騎士隊ってメイドも兼ねているってことか?」
「できる者とできない者で分かれております。理由としてはあの時、騎士隊としてしかついていけなかったというのがございました。行く先がダンジョンともなれば尚更ですからね」
「あ~、確かに。あの状況でメイドは集まらないか」
夫のところに人手を集めて戻ったときはダンジョンの中に住むってことだったしね。
そりゃエルジュが掌握したということは言っていたけど、何も知らない人からすれば安全の保障はない。
残念ながら当時、私は将軍として務めつつも、王城に姫として住んでいたからメイドの採用権限を持っているわけではなかったし、必要でもなかった。
王城のメイドはクソ親父の部下たちが城の維持管理で雇っているからね。
もちろん私の世話をするメイドも多少えり好みはできるけど、クソ親父の御意向が大事。
つまり腹心というのとは違ったわけ。
「まあ、元より陛下はお転婆が過ぎましたので、身体能力の低いメイドはついていけませんでしたが。それで、私は何のために呼ばれたのでしょうか? まさか、私の説明をさせるために?」
「そうよ。メイドがいないのが不思議って聞かれたから」
「今更ですね。とはいえ、そうして自分でコーヒーを淹れていれば当然不思議だとは思われます」
「……私にもメイドがいるって説明をしただけなのに、なんでここまで言われているのかしら?」
「それは陛下の胸に聞いてみればわかるかと、あと、陛下。コーヒーをもう一杯用意しておいた方がいいかと」
「え? どうし……」
私がそう聞き返した瞬間、ドアが勢いよく開いて……。
「おう、来たぞ~」
子供たちにお菓子を配ってからくると言ったローエルがもう到着していた。
なんでよ。
はぁ、コーヒー追加ね。
セラリアの友人登場。
相も変わらずなローエルです。




