第1401堀:本来の姿
本来の姿
Side:ヤユイ
私たちはラーリィさんたちがオーナーのお店で美味しい昼食と貴重な情報を得たあと、ウィードの病院にいた。
今日の闇ギルドの情報収集は病院にいる、あの事件の当事者であるリュシさんに話を聞くためだ。
でも……。
「あ、あの、どうリュシさんに接すればいいんでしょうか?」
私は白い壁が続く廊下で思わずフィオラ様に聞いてしまいます。
その問いかけで足が全員の足が止まります。
「確かに、心配ではありますが……そこはニーナ様が話を通しているのでは?」
そう言ってフィオラ様はニーナ様に視線を向けます。
ああ、確かに。
事前に話を聞きたいって連絡を取っているはず。
だから聞くべきはニーナ様だ。
「話は通したけど、いったんルルアと相談。いくら何でも聞く話がアレだし」
「確かにそうですね。リュシさんはいまだに治療中です。主治医の意見を無視して勝手にやるわけにはいかないでしょう。ということで今向かっているのはルルア様の所です。接し方についてはルルア様からお話があるでしょうから、そこはしっかり聞いてください」
プロフさんの言葉に頷いて再び廊下を歩いていく。
院長室は病院の上階にあるので、色々なところを通過していくんですけど、看護師さんやお医者さんが通り過ぎていっては此方に視線を向けてくるのがちょっと気になります。
「あはは、どうも視線が痛いですね」
「そ~お? 私たちって意外と~、ユキ様と一緒に病院には足運んでたわよ~?」
「ホービス、今日はユキさんいないんだよ」
「まあ、それはあるでしょう。何より私やニーナ様もいますからね」
「珍しい組み合わせ。まあ、最近はよくあるメンバー。と、あそこ」
そんな雑談をしていると院長室に着いたようでニーナ様がノックをすると。
『どうぞ』
返事が返ってきて、私たちは院長室へと入る。
そこには私たちと同じ……いえ、私たち以上の書類を抱えて仕事しているルルア様がいました。
「やっほールルア」
「いらっしゃい。ニーナさん。そしてみなさん。ちょっと待ってくださいね」
そう言ってルルア様は席を立ってお茶の準備をしようとするのですが、それは流石にということで私たちがすぐに動きます。
「ルルア様。お茶の準備は私たちが」
「そう? じゃあ、お願いしますね」
すぐに納得してくれてよかった。
ミリー様とかラッツ様、エリス様は自分で淹れるって聞かなかったですから。
「では、お菓子を出しましょう」
ルルア様は応接用のテーブルにアイテムボックスからお菓子を出して準備を整えます。
私たちもお茶に関してはそこまで準備がかかるモノではなく、院長室に置いてあったインスタントをパパッと用意してテーブルに置きます。
「改めまして、ルルア様。今日はお時間をいただきましてありがとうございます」
「いえいえ、みなさんが頑張ってくれているおかげで、旦那様も最近は余裕があるので妻としてもありがたいですから、この程度の協力は惜しみませんよ」
プロフさんの挨拶にルルア様は綺麗な笑顔で答えてくれます。
でも、気になることを言っていたので……。
「あ、あのルルア様。ユキ様が余裕があるって本当ですか? 私たち役に、立っているんでしょうか?」
思わず聞いてしまいました。
ルルア様は笑顔になって。
「ええ、本当ですよ。ヤユイさんたちが手伝ってくれるおかげで旦那様も助かっているって言っています。事実、最近は夜に仕事をすることは少なくなりましたからね」
「夜に仕事ですか?」
オレリアが不思議そうに首を傾げると……。
「ええ。食事が終わって子供たちが寝た後は、少し仕事をしていることがあったんです。いえ、今も緊急のことがあればみんなしていますけどね。それが減って仲良くする時間が増えたのは私たちが実感していますよ」
「それはよかったですぅ~」
えーと、仲良くする時間ってアレだよね。
と思っていると。
「ルルア様たち奥様とユキ様のお役に立てているなら幸いです。それで、お仕事の話に移ってよろしいでしょうか?」
プロフさんが笑顔で切り替えてきた。
あ、ごめんなさい。
「そうですね。このままお喋りをしていたいのだけれど、そうもいかないですからね。それで、本日はニーナさんから話を聞きましたが、リュシに話を聞きたいということでしたね?」
「はい。ルルア様、私たちが現在闇ギルドの情報を集めているのは御存じかと思います。それでリュシからの情報を聞きたいと思いまして。本人にとっては何気ないことかと思いますが、重要なことかもしれないというのはあると思います」
そうフィオラ様が告げると、ルルア様は頷きます。
「そうですね。聞く人が変われば視点も変わります。その意見には賛成ですが、問題はリュシの精神がということですよね?」
「ええ。リュシが口には言い表せないようなひどい目にあったのは私たちは全員存じております。そのことで自殺を考えてもおかしくないことも。私たちとしても無理をして情報を集めたいとは思ってはいません。ですが、一言も聞かずというのは此方の勝手でもあります」
こういうのって難しいですよね。
確かにフィオラ様の言うように聞かないでおこうという話もあったんですが、それは私たちの勝手な判断とプロフさんに言われました。
リュシさんが解決を望んでいた場合はそのチャンスを与えないことになるって。
だから私たちはこうしてルルア様と話しています。
そして、ルルア様の反応はというと……。
「そうですね。フィオラさんたちの言うことは分かります。さて……だそうですよ」
ルルアさんはなぜか院長室に隣接している書庫への扉に視線を向けます。
院長室の書庫はそこまで大きくなく主に重要な書類などを保管している場所でと思っているとドアが開いて。
「やっほー」
「まったく無理はしないようにね」
ハイレン様とセナル様が入ってきたと思ったらさらに奥からリュシさんが入ってきました。
「どうも」
そう言って頭を下げるリュシさんはちょっと困った感じです。
えーと、なんでこんな状況なのかと疑問に思っていると……。
「旦那様から話は聞いていましたからね。リュシには事前に話をしていました。もちろん精神面も考慮してです。いきなりこういう話を聞かせるわけにはいきませんからね。それで、リュシには皆さんのお話を聞いてもらってから判断してもらおうということになりました」
なるほど。
確かに私が来てからリュシさんに話を通すというのは時間がかかりすぎます。
リュシさんの心の準備もありますし。
「では、リュシ。改めて聞きます。フィオラさんたちの調査に協力しますか? 強制ではありません。あなたが無理だと思うならそれでいいのですよ」
そうルルアさんが聞きリュシさんの答えは……。
「大丈夫です。協力します。元から村長に逆らって反対していたんです。ひどい目にはあいましたが、それでも生きています。絶対にあの時のことをなかったことにはしません」
リュシさんは強い瞳ではっきりとそう告げました。
あれだけの目にあったというのにためらいはありません。
そして私たちはそのはっきりとした返事に逆に驚いていると、ハイレン様とセナル様が苦笑いしながら話をします。
「びっくりよね~。リュシがここまで言うとか」
「ええ。肝が据わっている子よね。最初から協力するって聞かなかったのよ」
「うんうん。最初は拷問されて自失状態だったのにさ」
「あの時のことは自分としても恥ずかしいです。最後の時には噛みついて喉笛だけでもって思ってましたから。ですが、裏がいるということもわかりましたし、その手伝いをすることがユキ様やルルア様達の恩返しになるなら、ためらうことなんてありません」
「元はこういう性格だったらしいわよ?」
なるほど。
こっちがリュシさん本来の姿ですか。
ああ、でもこれぐらいじゃないと村っていう狭い社会で反抗しようなんて思わないのかな?
「はぁ、リュシの意思は変わらないようですが、精神的には心配なので私たちの同席は認めてもらえますか?」
「あ、はい。それはもちろん」
「大丈夫です。私一人でちゃんと証言できます」
「ダメだって」
「そうよ。落ち着きなさい。そういう向こう見ずなのは」
リュシさんってこういう性格だったんだーって驚きながら私たちは本題に入ることにした。
「では、改めてリュシ。私たちは闇ギルドのことで情報を集めています。少しでも多くの情報が欲しいのです。リュシのような人を増やさないためにも」
「はい。なんでもきいてください。拷問の時の話でも」
フィオラ様が改めて本人にそう聞きますがためらいなく頷いてくれます。
「えーと、リュシのやる気はわかりましたが、落ち着いて。ちゃんと質問の内容は紙で用意しています。まずは此方に書いてください」
「質問をまとめたですか?」
「ええ。こういう思い出すタイプのことは、録音はもちろんしますが、紙に書くということで明確になることもあります。もちろん思い出すのが嫌であれば、書かなくてもいいです」
「いえ、やります!」
リュシさんはやる気満々で用紙を受け取ってすぐに記入を開始していきます。
もっと苦戦するかなと思っていた私たちはお互い顔を見合わせて苦笑いするのでした。
さあ、後はリュシさんが問題なく記入してくれればいいんですけど。
これぐらい行動力がないと村長とかに逆らわない。
とはいえ、ああいう目にあったから向こう見ずではある。




