第1395堀:出来ないことは出来ないから出来るように整理する
出来ないことは出来ないから出来るように整理する
Side:ヤユイ
昨日は疲れました。
料理はキルエ様やアスさんの指導で作ったことはありましたが、あくまでも見習い程度。
でも、昨日は奥様たちや子供たちの分、そしてユキ様やニーナ様といったお客様の分も作ることになって大変でした。
仕事ができないことでくよくよしてたのが全て吹き飛ぶほど。
仕事ができるプロフやホービスも初めてのことでてんやわんや。
その姿を見て、出来なくても覚えていけばいいんだと心から思えました。
おそらく昨日の料理はユキ様がそういうことも考えてやってくれたんじゃないかって思います。
でも、あの大人数分を作るのは本当に大変で、結局アスリン様たちはもちろん、キルエ様、サーサリ様たちも手伝ってくれました。
「普通は無理だよ~」
「そうなのです。大人数には大人数で立ち向かうのです。私たちはご飯を炊くのです」
「そうね。料理って慣れだし、私はお味噌汁ね」
「じゃ、私もお味噌汁手伝います」
「あ、ヒイロ。今日豚汁がいい」
「こらヒイロ。勝手にしない」
「いいじゃない。豚汁好きよ」
アスリン様たちは手慣れた様子で準備を始め……。
「初めての大人数料理をそつなくこなされては私たちの面目に関わります。なのでフィオラ様たちはそのまま旦那様のサポートを」
「そうですよ~。料理はメイドの領分。ちょっとばかりかじったオレリアたちには負けませんよ~」
流石は王家、貴族に仕えるメイドだったお二人は迷いなくスパスパ動いていきます。
私たちはユキ様の指示で大量に野菜やお肉を切ったりするので精一杯でした。
でも……。
「みんな美味しいって食べてくれて嬉しかった」
私はそう呟く。
本当にみんな私たちが作った料理を美味しい美味しいって食べてくれた。
ユキ様の子供たちは特に遠慮せずにぱくついていた。
子供たちはそういうことでお世辞は言わないだろうし、素直に嬉しいと思えた。
「そうね。嬉しかったけど、正直疲れたわ」
「同意~。あの量は疲れたわ~。今まではちょっと食材を運ぶとかぐらいだったけど、やっぱり作るのは別次元よ~」
オレリアとホービスも同じ意見みたいだけど、やっぱり疲れているみたい。
あの量は精神的に来るもんね。
肉体の疲れに関してはユキ様たちの温泉は回復効果もあるから、筋肉痛とかはないのが幸いだった。
そんな感じで話していると……。
「おはよう」
「「おはようございます」」
「おはよ~」
そう言って、執務室にユキ様、フィオラ様、プロフ、そしてニーナ様が入って来た。
いつもと違う面子に視線が集まる。
それはプロフとニーナ様だ。
プロフは総合庁舎で住民課と情報課の仕事があって、ニーナ様は基本的にイフ大陸での仕事だ。
だから早朝から集まるはずがないんだけど……。
「今日はプロフから予定を決めてもらう。プロフの職場はちゃんとしているから気にするな。ニーナに関しては、プロフの予定から先にアポイントを取ってもらうことになっている。まあ、昨日のうちに嫁さんたちには話を聞きに行くとは言っているけどな」
「ユキ様、普通昨日に伝えたからといって、今日面会の約束が取れるわけがないんですよ。奥様たちは重鎮中の重鎮。面会予約は数か月先までいっぱいです。特にエリス様やラッツ様は年単位です」
「そこまでいるんだな。ま、基本的に木っ端だろう?」
「まあ、そうではありますが。ウィードの資金、そして物資を握っている人とはどうしても顔を繋いでおきたい人は多いんです」
「そこはテファとノンが頑張ってくれているんだろう。今は学校の校長と副校長だし」
「いえいえ、どう考えても奥様たちの方が権限が上ですからね。まあ、面会拒否の理由は普通にそういう風にしていますが」
プロフの説明に普通なら奥様たちと話すならそんなに時間がかかるんだと驚いた。
何せ最近は普通に旅館で顔を合わせて雑談をしているから。
それに、何かユキ様から頼まれれば会いに行くことはよくあるし。
私たちは恵まれているんだな~。
「ま、そういうことだ。一応嫁さんたちも自分の仕事で忙しい合間にこちらに構ってくれたり準備を整えてくれる手はずだから、ちゃんと予定通りに動くのが大事だ。だから、まずは事前に打ち合わせをしてアポどりはニーナに任せて、その間に自分たちの仕事をプロフの教えてもらいながら上手くこなすこと。俺は霧華に付き添って今日も王様たちと会議だ。はぁー」
「何をため息をついているんですか。大国の王たちと身分が釣り合うのはユキ様だけですので、こちらの手助けは不要ですよ。いいですね?」
「わかってるって。プロフは意外と厳しいな」
「奥様たちが甘すぎるんです。だから余計な仕事を抱えるんでしょう」
「それは耳が痛い」
あー、プロフの言う通り確かにユキ様って私たちはもちろん、一般の人たちの意見とかもよく聞いて実行してくれてるから、その分大変だとは思う。
面会とかを後回しにして対処している時もよくあるから、そういう意味では面会をしたがる人にとっては厄介というか常識がないと思われているんだよね。
まあ、その常識がないって私たちに苦情を入れている馬鹿たちはユキ様の面通しをしたいって来ているのにそんな悪態ついて会わせてもらえると思っているのが不思議。
そういうのは私たちが報告して弾いているし、出身国に苦情を入れているから何かしらペナルティーが出ている。
ユキ様が優しいからってつけあがるなよ。
っと、そこはいいとして、ユキ様のその優しいところは美点だとは思いますが、プロフの言う通り欠点でもあります。
特に今回はユキ様しか相手ができない大国の王たちとの話し合い。
これはサボらせるわけにはいかない。
だから……。
「ユ、ユキ様、私たち、頑張りますから、信じてください」
「おう。ヤユイがそういうなら俺も頑張るか。オレリアもホービスも頑張れるか?」
「「はい」」
「よし、フィオラとプロフも3人のことを頼むぞ」
「「はい」」
そう言ってユキ様は会議に向かおうとしていたのですが……。
「ちょっとまて。私に優しい言葉はないのか」
「え? いるのか?」
「いる。不公平」
ニーナ様がなんかユキ様に文句を言い始めた。
しかも仕事に関係することではなく、ワガママの部類。
あまりのことに唖然とする私たち。
ユキ様に対してなんて口の利き方と思っていると……。
「ニーナ様がああなると面倒ですから、何か声をかけてあげてください」
「オレリアたちも落ち着きなさい。ニーナ殿がああいう性格なのは知っているでしょう?」
確かに、ウィードの紹介の時にあってぬいぐるみでお世話にはなったけど、リュシさんの件で訪問したときもおっぱいを見せていたけど、いえ、その時もかなり無礼だった気が。
そうか、ニーナ様ってこういう性格だったんだ。
つまり治らない。
「ああ、わかったわかった。ニーナもよろしく頼む。無理はするな」
「任せなさい」
そう言って胸を張るニーナ様はユキ様よりも先に部屋を出ていこうとして、すぐに首根っこを掴まれる。
「お前はプロフたちの会議の結果で連絡する相手が変わるんだからここで待つんだよ」
「おっと、そうだった。あふれるやる気が気を逸らせた」
「はぁ、まあ、その調子でフィオラ、オレリアたちのフォロー頼む」
「そこは任せて」
むう、付き合いが長いというのは本当なんだろう。
詳しく言わなくても伝わっている感がある。
「じゃ、改めて行ってきます」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
私たちは主であるユキ様を送り出してから、一斉に席に着く。
「さ、ユキ様に頼まれたからはには全力を尽くします。まずは今日の分の仕事を終わらせましょう。午前中にです。そして、午後からはまず国際交流学校に行き、ラッツ様、エリス様に面会をして、そのまま総合庁舎の会計課、物資課、そしてウィード商業ギルドに向かいます。今日はそこでいっぱいでしょう。ニーナ様はラッツ様、エリス様にご連絡をお願いします。ほかの部署には明日以降ということで連絡を」
「わかったわ。でも、それってそこまで時間がかからないけど、どうする?」
「ニーナ様は私たちが気が付かないところの調査をお願いします。ですが、午後には間に合わせてください。具体的にはお昼が終わる1時にはこちらに集合で」
「了解」
そう言ってニーナ様も出て行ってしまう。
まあ、いても私たちの仕事の手伝いにはならないと思うけど。
「では、さっそく今日こなす予定の仕事を教えてください」
こうして私たちはプロフさんにこういう忙しい時の仕事のやり方を教えてもらった。
やり方は実に簡単。
今日届いた仕事は急ぎなもの以外は明日に回す。
それだけ。
昨日の分というのは、昨日の業務中に届いた書類やアポのことだ。
そして今日の午前中にできないだろうとされる仕事については優先順位を付けて明日に回すことになる。
どうせ一日頑張ってもできないのだからという話。
区切りを付けてそこまでするだけ。
プロフ曰く……。
「私たちがどれだけ頑張ったところで、結局はトップ、つまりユキ様やセラリア様の裁可はもちろん、各部署の許可がなければ動かないので、一日二日どころか一週間遅れようが向こうは文句は言えないですし、戦争が発生している今当然のことです」
とのこと。
確かに、今ユキ様に面会したいとか言われてもすぐにはできないし、私たちも戦後処理で各国と連絡を取り合うのが優先だから当然か~。
「文句を言う人には、戦争を止めて戦後処理を終わらせてくださいとでも言えばいいでしょう。というか、こういう話をごり押しされる時点で、あなたたちが舐められているようなものですからね? 押せば通ると。そういうのはユキ様への侮りにもつながります。ですよね、フィオラ様」
「ええ。断るべきことはきっぱりと断ってください。今は優先するべき事柄があるとしっかり伝えてです。怠けるのと無理をしないのは同じではありませんので気にしなくていいです。相手は自分を気遣えというなら、向こうもこちらに気を遣うのは当然です」
そうか、優しさは侮りも生むんだよね。
ユキ様は優しいから、私たちもって思ってたけど、確かに向こうもこっちの事情を考えるべきだよね。
ユキ様と仲のいいおっちゃんたちも忙しい時のユキ様には頑張れよ~って声をかけるだけだし、そういうのをわきまえている。
「さ、ということで午前中に仕事を終わらせますよ」
「「「はい」」」
こうして私たちは新しい業務を学んでいくのでした。
きついときは一度整理して考えるのが大事。
どうしてもできないもんは出来ない。




