第1391堀:戦後の行動について
戦後の行動について
Side:ユキ
「ふぅ」
俺はイリナウ王国軍が撤退している映像を見て一息つく。
「キナウフ王国軍が戦いを選択したからどうなるかと思ったが、スウルスの使者は上手くやったようじゃな」
「いや、戦果を誇示して戦闘を避けるのは基本じゃろう」
そうユーピアとエメラルドは話している。
確かに、イリナウ王国軍を引かせた手段についてはいたって王道だ。
実績を見せればお前もこうなると脅しも兼ねられるからな。
「さて、後は大氾濫の調査と、二国への賠償請求、そして大氾濫の加担の疑いだが、どう攻める予定なのだ?」
聞いてくるのはジルバ王だ。
確かに二国への賠償請求はできるが、大氾濫への加担は否定されれば調査は難しいことになる。
とはいえ、そこらへんは分かっている。
「闇ギルドの件を利用する」
「闇ギルド? ああ、ローエルの奴が情報を掴んでいたな」
ガルツ王が思い出したように言う。
いや、自分の娘が頑張って仕入れた情報だぞ。
しっかり自慢してくれ。
「そう、そこから調べて物資が流れていることが分かった。つまり最初から戦争を仕掛けるつもりだったと証明できるわけだ。元々行動に移せるように準備していたのも今の動きからわかることだしな」
「……助けるためにしては行動が早すぎるというわけか。しかし、偶然だと言い訳は出そうだな。実際その時間を合わせて使者を送りだしていただろう?」
「いやいや、言い訳をしても大陸間交流同盟に喧嘩を売ったのは事実。そこを理由にすればいいだろう」
俺の説明に相手の言い訳を考えるエナーリア聖王と戦ったことを盾にいえばいいというハイデン王。
どっちもするだろうな。
言い訳をすれば色々な方向から攻める準備は出来ているわけだ。
「そもそもだ、大氾濫が起きたことに対する調査をする。それに協力をしないという時点で、後ろめたいことをしているとなる。同盟に入っていないと言っても意味がない。大氾濫はそもそも協力するものだ。そう言って二国もやってきたのだからな」
そうロシュール王は告げる。
あれだな、言っていることがブーメランになったわけだ。
何より……。
「今回のことはリテアとしては汗顔の至りです。我が傘下の者たちが大氾濫に加担している可能性だけでなく、キナウフ王国はリテアの宣言を無視して、東の町スアカニアを不法占拠した事実。イリナウ王国は……引いたのは事実ですが、水を確保しようとしたことがありありとわかります。何も守っていない何が防衛のために動いたですか」
リテアの聖女アルシュテールはコケにされたことから激おこ状態だ。
そういう意味でも二国と行われる調停や調査の受け入れなどは拒否すればするほど二国にとっては面倒なことになりかねない。
というか、大陸間交流同盟に対しての敵対行為で国を亡ぼすという判断がでてもおかしくはないだろう。
流石に、国民を根絶やしにするという方法ではなくトップというか貴族層の支持を無くして同盟に参加している国に帰属してもらうか移民してもらうことになる。
今でも、同盟国内では戦争が縮小、というかほぼなくなったことから、大規模な農地拡大、需要品の生産拡大など手掛けていて、未だにどこも人が足りない。
ウィードやリテア、そしてエナーリア、ヒフィーなどの医療先進国から衛生面はもちろん医学の知識が広まったことにより、乳児の死亡率も激減して、国民もどんどん増えている状態だ。
だから食料品はもちろん人が生きていくために必要な品物必需品は作れば作るだけ売れるという状態だ。
そして、それを生産するのは人。
だから、今回のことは大手を振って移民を募るにはいい状況なのだ。
もちろん多少の厚遇はするだろうが、悪いことにはならない。
なぜなら悪条件で連れていって使いつぶす理由がないから、先ほども言ったように人手は足らないのだ。
とはいえ、実施するにしてもどこの国がどれだけ引っ張っていくかという話にはなってくるだろうけどな。
その後の二国の存続についても話し合わないといけないから、面倒なのは間違いない。
だが、そこで気になることがある。
「リテアとしてはキナウフ王国、イリナウ王国に対してはどういう処置を求めるつもりなんだ? 大陸間交流同盟としては同盟に入ったスウルスの要望と大氾濫の調査要求ぐらいになるとは思うが。あと必要経費」
「リテア教会の撤退と医療行為の停止、優遇交易の撤廃、各ギルドへの通達、そしてリテアの保護から外します」
おっと、その発言に各国の王たちも驚く。
「そこまでするのか? 二国だけ保護のない国となる。つまり、堂々と攻めてよいということになるぞ?」
ユーピアの言う通り、小国が存続しているのは大国による同盟という名の庇護があるからだ。
大陸間交流同盟には入っていないが、リテアの傘下というのがあり、そのおかげで大陸間交流同盟に入っていなくても安全保障があったわけだが、それも外れると周りから攻められ放題となる。
「そうだ、ズラブル皇帝の言う通りだ。流石にそこまでするとロガリ大陸が荒れるのでは? 少し落ち着いてはどうだ?」
ロシュール王がなだめるように声をかける。
確かにこんな宣言をすればロガリ大陸の国は荒れるだろう。
とはいえ、自業自得ともいえるが、大陸間交流同盟に参加しなければ、大国の言うことを聞かなければ国を潰されると思うかもしれない。
それは反発を生むことになる。
その説得をされたアルシュテールだが……。
「そんなことは分かっています。リテアの保護、庇護を外すというのは駄々をこねた場合の最終手段です。ですが、今回のことでの制裁はなあなあにはしません。リリーシュ様からのご忠告を無視するなど、リテア教を無視するがごときの所業。それを放っておいてはリテアの意味がありません」
「「「……」」」
アルシュテールのぶち切れ理由がはっきりわかった。
そうだった。
今回の問題で使者として赴いたのはリテア教が崇め奉る女神リリーシュその人だ。
向こうの連中は知らないとはいえ、知っているアルシュテールとしては慈悲をかけて誤解で済ませようとしたのに、それも無視してあまつさえ宣戦布告。
ちょっと話し合ってもよかっただろうにってことだ。
将軍の独断なのか上の指示だかわからないが、リテアの逆鱗に触れたのは間違いない。
そして、それは各国の王たちもわかったようで。
「あー、なるほどのう。流石に国主を馬鹿にされては引けんな」
「それこそ沽券にかかわるか。確かにリリーシュ様の正体は知らなくても当然だが、リテアの名代として来ているのだから聖女アルシュテールの代わりということでもある。それをあしらわれれば当然か」
ユーピアとエメラルドはそう言って無理やり納得している。
いや、別に無理やりではない。
開戦理由としては使者を追い返すだけで十分だからな。
それで国が亡びるのも当然。
ただ、俺たち同盟の立場上できないと高をくくっていたのがリテア的にアウトだっただけだ。
そうか、よくよく考えれば同盟が攻める必要もないわけだ。
リテア公認の元攻めて良いとなれば、国土が欲しい連中が勝手に侵攻する。
そして同盟国には攻めるなと言えば、同盟の名前が傷がつかないわけだ。
まあ、そんなのを文面通りに受け取らない連中もいるだろうが、全員が納得するようなこと現実にはない。
出来るのはどれだけ大義名分を得るかだ。
つまり情報戦。
事実や虚構を織り交ぜて伝えて支持を得るというわけだ。
とはいえ嘘ばかりで相手を糾弾すれば事実を知っている連中は離れていくからそこは注意だ。
今回の件については、完全に事実だけで押していけるのでいいだろう。
だが……。
「戦争になった際の国民の安全確保はしないと非難されるぞ?」
「そこはご心配なく。ちゃんとやります。というか、調査の際に引き込みます」
ああ、なるほど。
大氾濫の調査か闇ギルドの調査かはわからないが、二国に乗り込んだ時点で国民たちに手を回しておくわけか。
リテア教のお知らせとか言えば、信者たちは集まってくるだろうし、そこから国民に伝わると。
……うん、宗教の力凄いな。
となると……。
「じゃあ、各国はリテアや同盟が調査に赴いて行動する正当性を国民や傘下の国に伝えてくれ」
情報戦はロガリ大陸だけにとどまらない。
他の大陸でもこの状況を伝えて、不義理をする国にはしかるべき対処を取るということを喧伝するいい機会だ。
自分の国が処罰するわけではないが、リテアの傘下と同じようなトラブルを起こせば容赦はしないと周りに伝えることになるわけだ。
遠慮はしないと。
まあ、これはこれで圧政につながりかねない話ではあるが、結局のところ何かを推し進める場合は誰かの意見を押しのけることでもある。
いつかは起こることだっただけだ。
そして、俺の意図はこの場にいる王たちには間違いなく伝わっていて、即座に頷く。
「とはいえ、ちゃんと手順は踏めよ。それに乗じて賛同と宣言を出す」
ガルツ王がいつになくいかつい感じで言う。
確かにこういうことはルールに乗っ取ってやらなければ、それこそ反発を生む。
勝手に行うのではなく、リテアの事情説明が終わってから賛同をするという方向にしないと、裏で動いたのではないかといわれるわけだ。
さてさて、二国の包囲網は出来上がっていくわけだが、裏で動いていた連中にはこの動きが予想できなかったとは思えない。
俺は戻って情報収集がどうなっているか確認だな。
リテア超激おこ




