第1387堀:上層部の判断
上層部の判断
Side:ユキ
無事にスウルス領、東の町スアカニアの解放は出来た。
敵軍も死者なく捕縛できるという幸運にも恵まれた。
だが、世の中これで終わりではない。
キナウフ王国が戦争を仕掛けてきた事実は変わらないので、この戦争が終わるまでは手を抜けないわけだ。
それに南の精霊の泉に接近しているイリナウ王国軍の対応も必要だ。
さて、とりあえずどれから手を付けるべきか……。
「普通に考えれば、解放できたスアカニアはスウルスに任せるべきじゃな。捕虜については、こちらで預かるのがよかろう。スウルスに捕虜を養えというのも酷じゃ」
「ユーピア殿の言う通りだな。侵攻してきた敵を養うなど、心情的にも難しい。リテアで行けるか?」
そうユーピアとガルツ王から視線を向けられたアルシュテールは頷いて。
「はい。そこは準備しています。なのでユキ様、輸送の手配を」
「わかった。まあ、そこはいいとして、今後の展開としてはすぐに南の精霊の泉にいるイリナウ王国か?」
「普通に考えればそうであるが、すぐに動けるか? 当初の話ではどうなっている?」
ロシュール王がそう聞いてくる。
隠す内容もないので素直に答えることにする。
「一応、キナウフ王国軍を撃退した後は、そのままイリナウ王国軍の対応に向かうことにはなっている」
リリーシュは悠長なことはしていられないとのことで、そういう方針が取られていた。
人的被害などもないから、普通ならそれをするべきだが……。
「流石に全員移動は混乱を招くだろう?」
「そうじゃな。事情を知らないものたちだけを残すのは問題がある。じゃが、戦力の低下は避けねばならんじゃろう?」
「そこを考えるなら、現場の戦力から2部隊とスウルスから付いてきた関係者を数名置いておくってところが妥当じゃないかって話ではある。まあ、この戦力で大規模は防げるわけはないが……」
「置いておかぬわけにはいかぬか。まあ、そこら辺の偵察はしておるのじゃし、ゲートもある。最悪の事態には備えられるのではないか?」
「できるが、勝手にゲートを設置した事実を咎められるしな。そうはなってほしくない」
「ユキ殿の言っていることはわかるが、その時はやらねばスウルスが持つまい」
エメラルド女王の言う通り、東の町スアカニアが再び攻められるなら守るために軍をゲートで輸送しなければ守れない。
その時は勝手にゲートを設置したことがバレるから全力で隠蔽をしないといけないんだよな。
「そこまで深刻に考える必要はあるか? すでに今回の件は同盟軍で動くと決まっているんだから、今は先行してウィードの軍が行っているだけだ。スアカニアには編成が済んだ同盟軍を送り込めばいいだろう?」
そういうのはローデイのブレード王。
その言葉に全員が頷く。
「そうだな。すぐに援軍が来るような場所でもない。ゲートが反対側にあるとはいえ、そこから進軍しても十分に間に合うだろう。スウルス王都からも少数ではあるが軍を出せば面目も立つだろう」
「だろう? そもそも国の規模を見たが、ほぼ全軍って所だろう。王都に防衛を残していたとしても1000に足りるかどうか。まあ、魔物が出てくるかもしれないが。それだと方向転換になるしな。占領したかったってのを放棄することになる。準備をしているとは思えんな」
同意するジルバ王にさらにローデイ王がいう。
確かにな。
今の所は町が欲しかったから人の軍をやっていたのだ。
それを魔物を使うとなると町は破壊されるだろうから、ローデイ王の言う通り方針が違いすぎる。
二段構えで備えていたとしても、スアカニアの上空に待機しているドローンからは100キロ先にも敵軍は確認できないから、いきなりダンジョンを作らない限りは援軍は間に合うだろう。
「よし、当初の予定とは変わらないってことで良いか?」
俺の話で全員頷く。
結局のところ、後詰めの援軍に関しても当初から考えられていたことだ。
思ったよりも早く予定が進みすぎて、援軍が到着する前に移動することになったのが今回の問題点だっただけだ。
とりあえずキナウフ王国がさらに攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。
そして援軍が到着するまでは3日ほどあるが、問題はないだろうと結論が出た。
あとは、南の精霊の泉に向かっているイリナウ王国軍への対応に向かうだけだ。
俺は話が付いたので、エージルに連絡を入れる。
「エージル聞こえるか?」
『ああ、感度良好。ユキの声はハッキリと聞こえるよ』
「話し合いが終わった。当初の予定通り、捕虜をリテアに輸送し、スウルスへの最低限の部隊を残した後はイリナウ王国軍がいる南にある精霊の泉に進軍してくれ」
『了解。東の町の詳しい事情については後回しってことでいいんだね?』
「ああ、そっちは残った部隊、諜報部から情報を集めるようにしてくれ。まずはスウルス王国の要望通り、侵攻してきた軍隊を撃退することを優先だ。とはいえ、東の町でひどい略奪とか暴行があったなら別だが?」
町の人たちが酷い目に合っているならその分の援助をせずに立ち去るのは、同盟としては外聞が悪い。
もう少し駐留部隊を増やすか、全軍でちょっと助けるかという話になるが……。
『いいや、まあ物資を奪われたことへの不満はあるけど町の人たちには基本的に害はなかったみたいだね。まあ、自分たちの物にしようっていうんだから反発は避けたかったんだろうね。危険物も検査の結果なかったのは知っているだろう?』
「ああ。なら移動を最優先で」
『了解。すぐに指示を出すよ』
エージルから返事が来たと思うと、遠征している軍に命令が発令されたのがコールから届く。
移動準備だ。
ちゃんとこちらにも戦況がどうなっているか分かるようになっている。
現場の判断を優先はするが、俺たちもこうしてリアルタイムで状況を把握できるようにしているし、指示も仰げる。
なので変化もすぐにわかる。
展開していた部隊が即座に動き始めたのだ。
まあ、戦闘用の道具を点検したり、車の点検を始めて出発準備を始めているだけなのだが。
「おうおう、機敏じゃな。そしてこの情報の伝達速度。やはりほしいのう。そう思わんかジルバ王?」
「うむ。やはり何度見てもこの道具は凄いの一言だ。玉座にいながら戦場を確認できる。ユーピア皇帝と同じく欲しい」
やっぱり最近まで戦争していた連中は感想が違いますね。
まあ、国防のためにとは言うだろうけど。
情報はやはり金より大事なのだ。
「そこらへんは、同盟内ではいずれとは思っていますけどね。ルールの制定とか設置条件も検討しないといけないですから」
「まったく、そこらへんは融通が効かぬか」
「仕方なかろう。同盟が、しかもその中核たる大国がルールを破れば、同盟の存在意義に関わる」
「道理じゃな。とはいえ、何事かの緊急事態には出撃や対応はして貰えるのじゃろう?」
「それはもちろん。そこは条約で決めているしな」
大国であっても緊急事態においては同盟でことに当たると記載している。
緊急事態の定義は、災害、疫病、大氾濫、戦争となっている。
戦争に関しては、同盟国の同盟外侵略戦争に対しては手を貸さないとなっている。
基本的に攻められている。つまり防衛のために軍を出すということ。
今回のように。
まあ、この後同盟国が被った被害を少しでも回復するために攻めてきた国に請求をするんだが、その対応いかんで同盟の面子を保つために相応の被害を被らせることはある。
だが、国を亡ぼすなんかはしない予定だ。
そうすると暴君体制と騒ぐ連中が出てくるからな。
今現在でも反ウィード派とか動いているから、それらに口実を与え利するようなことは基本的にしない予定だ。
あ、ちなみに同盟国間の侵略戦争は認められていない。
同盟に入った時点での申告領土がその国の領土となる。
国境争いに関しては、基本的に大国が出てお互いの主張とその線引きとなる町や村にどちらかを判断させるということになっている。
細かいことはあれど、今のところはそうなっている。
「そういえばガルツ。お前の所の姫が闇ギルドの関与を見つけたと言っていたが、戻って来たか?」
「いいや。向こうも物資の流れを調べているところのようだ。戻ってこいとはいったが、あれがそう簡単に戻ってくるわけはなかったな。裏が裏だけに下手に部下に調査を頼むことは出来ん」
ああ、そういえばローエルからの手紙は俺たちだけでなくちゃんとガルツにも送っていて、情報共有はされているんだな。
「こっちにも来たわ。それでこっちも探っているけど、何か出てきた?」
「いや、今言ったが、内部にどこまで入り込まれているかわからないからな。下手に闇ギルドが動いて戦争の支援をしていたなどと噂が広まれば面倒だ」
セラリアは自分の父親であるロシュール王に聞いてみるが、特に進展はないらしい。
言っていることは分かる。
何をどうやって調べればいいのかという所から始まるし、誰を指名するかって話になるからな。
「大々的に宣言して。っていう手もあるが……」
「それは相手が潜る可能性も高い。追えなくなるのは問題だろう。というか、その闇ギルドはイフ大陸の商人からも買い付けしているようだからな。下手をするとイフ大陸にも闇ギルドが入り込んでいる」
ガルツ王の言葉を続けて喋るのはエクス王のノーブル。
神でもあるが、こういう王としての立場もちゃんとしているし、こっちの意図も汲んでくれるので助かる。
ノーブルの言う通り、大々的に闇ギルドの関与を言っても、逃げて隠れる可能性があるからな。
ダンジョンマスターと組んでいる可能性が高いので、逃がすというのは避けたい。
秘密裏に何とか捕まえられないかという相談がいる。
「その闇ギルドの正体を探るためにも、キナウフ王国、イリナウ王国に探りを入れることは必要だろう」
「ああ、今は下手に動かず気が付かないふりをして、その二国に集中していると見せるのはどうだ?」
そう言ってくるのは新大陸のハイデン王とフィンダール王だ。
この二国も叡智の集という狂信者たちに内部を食い荒らされたからな。
そこらへんは経験からきての助言だ。
「下手に部下に指示できない現状では物資の動きをみるぐらいしかできんのう? 国際調査機関を動かすか? 今は反ウィード派を調べておるのじゃろう? あそこが闇ギルドとつながっていれば、もうどうにもならんじゃろう? それを調べるのにも有効じゃと思うが?」
「確かに、それはそうだな……」
ユーピアの言う通り、国際調査機関はそういう機密情報を握っている。
そこに任せて反応を待つのも手だ。
傍観するよりはマシか……。
「よし、じゃあ、連絡して動いている調査員の一部だけにその動きを調べてもらう。案外もう闇ギルドに関して掴んでいる連中もいるかもしれない」
俺がそういうと各国の王たちは頷く。
さてさて、こっちはこっちで闇ギルドを追うか。
反ウィード派も案外裏ではってないだろうな?
リュシの件もある、なるべく早く解決はしたいな。
予定通りに勝ってもそれはそれでやることは沢山ある。
予定外でも沢山やることがある。
結論、戦争はやっぱり面倒。




