第1385堀:敵軍攻略作戦会議
敵軍攻略作戦会議
Side:クリーナ
ついにウィード、いや大陸間交流同盟に喧嘩を売る連中が出てきた。
子供たちのためにも絶対に叩き潰す。
そう思っていると。
「クリーナさん。私たちは防衛ですからね。忘れてはいませんか?」
「ん。大丈夫。防衛魔法で押しつぶす」
「違います。守ることに使いなさい。というか作戦会議ですわよ」
そういわれて、あたりを見るとスタシアたちが集まっている。
確かスタシアは防衛に関しての指揮官だっけ?
まあ人数が多くなるとこうして指揮官だけでも分ける必要がある。
「来ましたね。別に難しいことはありません。基本的に私たちは自分たちを守ることが最優先です。クリーナ、サマンサは防御魔術を15メートルと20メートルで展開してください。いつものように多重構造防御壁です。それを術者を分けて二重に展開してしまえば、ほとんど抜けてはこないでしょう」
ん。私たちの防御魔術は超強力。
何せユキと戦えるように作り出したんだから。
「ああ、もちろんこちらからの攻撃はできるようにしてください。こちらの攻撃手段もメインは魔術による攻撃になります。近接になることは殆どないでしょう」
「つまり、私とディフェスは保険ってこと?」
「保険でいいさ。抜けてこられること前提だとまず守り切れない。物理的な防御は私とエノラだけなんだしな」
「そういうことです。エノラは不満かもしれませんが我慢してください」
「大丈夫よ。この程度で腐ったりはしないわ。それで私たちの位置は?」
「二人は防御をこなしつつも敵の動きを監視してください。そして私やエージルに逐一連絡を」
「ああ、そういうことね。私たちは斥候になるわけか」
「しかし、使い魔やドローンでわかるのではないか?」
「それで完璧ならよかったのですが、攻撃や敵の表情などは上空から読み取れませんからね。そこら辺を注視してください」
ん。確かに。
敵の表情はわからない。
戦意喪失している連中に攻撃を加えるほどウィードは鬼じゃない。
なぜなら賠償がもらえなくなるから。
「ああ、もちろん2人も多重構造防壁を張れるなら張ってください。抜けてきた攻撃を感知するにはそれがいいでしょう」
「そうね。じゃ、私たちは13メートルで展開するわ」
「ああ、そうしよう」
そう、物理的防御って言われているけど、魔術が全く使えないわけじゃない。
皆鍛えているからこれぐらいのことはやれる。
というか全員回復から攻撃まで万能。
ここはルナのパワーは凄いと素直に思う。
「そして、リリーシュ様にクロウディアは私たちの中央で回復と支援をお願いします」
「任せて~」
「はい。やってみましょう」
防衛班にはリリーシュ様とクロウディアも一緒だ。
どう考えても攻撃班じゃない。
まあ、回復だけで言うならリリーシュ様だけでも十分だと思うレベルだ。
なにせ、神様だし、私たちに回復魔術のスキルを付与した本人だし。
確か本人の話だと戦争では、即時回復して兵士を再度戦わせるという鬼の所業をしていたようだ。
合理的ではあるが、人の心がないとユキは言っていた。
「最後にミコス。貴方はこの戦場を記録するという大事な仕事があります。なのでリリーシュ様やクロウディアと一緒に中央です。いいですね」
「はい。ミコスちゃんは仔細漏らさず記録するよ!」
「よろしい」
ミコスは多分今後のウィードのために一番重要な記録を取ることになる。
つい先日までは戦争が怖いと言っていたけど、意識が変わるといつもの調子に戻った。
うん、ミコスらしい。
「では、方針は決めましたのでエージルに報告してきます」
そう言ってスタシアはその場を離れた、エージルが総指揮官だからその打ち合わせがあるんだろう。
その間に私たちは私たちで話をする。
「さぁて、これから戦争……というにはいささか力差がありすぎますわね」
「ん。とはいえ油断は禁物。ケガの一つでもすればユキはとても心配する。というか今でも心配している」
ユキは私たちが戦うようなことは基本的に嫌う。
戦うこと自体を避けるタイプだ。
まあ、だからと言って訓練をサボるようなことはしないけど。
だけど今回は仕方ない。
向こうが話し合いを蹴ったのだ。
東の町が理不尽に占領されていると言うのもある。
早急に実力行使をして立ち退きをしてもらわないといけない。
「そうなのよね~。ユキはいい夫だけど。そこは過保護なのよ。私とかデリーユと一緒で拳で戦うし生傷は絶えないんだけど」
「それは訓練だからだろう? こういう戦場の時は魔力で体に障壁を張るから体が傷つくことはない。というか、それなら手甲でもするか? 盾を持つか?」
「あー、私は本当に素手のほうがいいのよね」
ディフェスの提案をそういって断るエノラ。
エノラはデリーユと同じく武闘家で拳や足で戦うのが得意。
メイスとかも使えるんだけど、最近は特にデリーユと組手をよくやっているから、そっちが優先になっているんだろう。
とはいえ、素手や素足は心配だと思っていると。
「大丈夫。ちゃんと手袋とか靴だけじゃなくて服もナールジアさんの特別製でそろえているから、普通の防具よりも性能は上よ」
「ああ、そういうことか」
納得。
私たちは気に入った服の上からナールジアさん特製の鎧やマントを通じて防御を高めているけど、エノラは服がその防具になっているのか。
でも、デザインはそこまで細かく頼めないから単調になってしまう。
何より、そのデザインを任せるとナールジアさんは妥協しない。
あの人はそういう人。
だから、エノラが着ている服はかなり苦労をして手に入れたものだと予想ができる。
「あの、エノラさん。その服作るのに随分と苦労したのでは?」
私の疑問をサマンサが恐る恐る聞いてみると。
すぐにエノラの表情が暗くなって……。
「……ええ。自爆装置とか光体を発射するとか、金髪になるとか、なんか『カンジ』とか言う象形紋様を入れたオレンジ色の道着にするとか、妙なことを言っていたわ」
「「……」」
私とサマンサはそうだろうなとしか言えなかった。
あの漫画に感化されているに違いない。
というか、だからこそエノラの服タイプの武具を作ることに遠慮がなかったのだろう。
正直、エノラはデリーユと一緒に遊撃に回した方がよかったのではと思うぐらい。
あの人の装備はそれだけ性能がいい。
あと、自爆装置がある。
ネタではなく、技術流出を避けるための機能。
「まあ、なんとかハイレ教の司教服に仕立ててもらえたけど。大変だったわ」
それはそう。
彼女は独自の物を作るのが大好きで既存の物を模倣して作るのは基本的に嫌う。
最近では弟子に当たるフィーリアや、魔道具作り専門ではあるがナイルアがいるのでそこらへんは緩和されているが。
「ああ、私もそうだったな。この盾。そのまま砲撃に使えるようにしようという案があったな」
ディフェスもナールジアさんの魔改造を提案されていたようだ。
おそらくガードしたまま敵を攻撃する手段として考案したのだろう。
トーチカのような方法がないかと模索していたのを思い出す。
相変わらず、それを実現してしまう発想力が恐ろしい。
と、そんなことを話しているとスタシアが戻ってきた。
「お待たせしました。私たちは予定通りに、攻撃班と一緒に行動をして防御と支援を最優先で敵本陣を抑えることになりました」
「ん。了解」
「まあ、当然ですわね」
私たちの攻撃目標はやっぱりだった。
一応私たちは同盟の代表として来てはいるけど、それはお飾りではない。
ユキの妻である、あるいはメノウやショーウたちも、使者というだけではないのだ。
私たちは全員、相応の実力者であると世間に広めるためでもある。
女だからと舐めるなと。
未だにイフ大陸やこのロガリ大陸でも女が使者というのは相手を下に見ているというタイプがいる。
その認識を少しでも改める機会でもあるのだ。
ウィードは女が運営している国と下に見ている連中にもだ。
それはユキから常々言われている。
今回の人選もそういう意図がある。
だから、遠慮はしない。
「よっし。じゃ、行きましょうか」
「ああ」
「そうね~。あの将軍に一発入れないとね~」
「えーと、リリーシュ様はちゃんと手加減をしてくださいね」
私たちはそんなことを言いつつ。
攻撃班と合流をする。
細かい作戦会議というのもなく。
「では、先ほど聞いた防御壁の内側から基本的に攻撃魔術や遠距離攻撃で相手を無効化しつつ、敵本陣を制圧します」
「任せておいて。私も前線に立つとか久しぶり。何より圧倒的な火力で蹂躙っていうのがいいわよね」
「油断は禁物ですよメノウ。とはいえ、その気持ちは分かりますが、防衛も安心できますし、これ以上ないぐらいの状況ではあります」
メノウとショーウはウィードで鍛え上げてきた成果を見せつける?体感することを楽しみにしているようだ。
まあ、いつも訓練相手は私たちやルルアといった実力者で通用するかよくわからないと言ったところ。
だからこうした実戦でどれほど有効であるかを確認できるのはいいこと。
ショーウの言う通り油断は禁物だけど。
「私は雷での行動不能を優先するわ。水の散布お願いねカーヤ」
「ええ、任せなさい。カグラ」
どうやら、カグラとカーヤは連携して足止めをするようだ。
雷と水のコンボはひどい。
感電確実。
下手をすると一気に死んでしまうが、そこらへんはちゃんと調整しているのだろう。
それぐらいはできるのがカグラの凄いところ。
自分で電化製品を動かせるように電気の電圧とかも調整できるから。
私だとぶっ壊すので難しい。
でも、いつか覚えたい。
家でバッテリーに充電をして取り出して使うのは意外と面倒。
「リーアは、危ない相手を優先的に倒してください。剣圧の威力には注意を」
「あ、うん。多分大丈夫……」
どこかリーアは自信なさげだ。
それも仕方がない、基本的にリーアはデリーユとかセラリアとか戦闘狂との訓練が多い。
手加減をしている暇はないのだ。
まあ、手加減方法がないわけじゃないろうけど。
「デリーユは遊撃として不利なところのフォローへ」
「うむ。任せておけ」
デリーユに関しては心配いらず。
彼女は既に何度も戦場を駆け抜けているし、その拳と体術は文句なし。
ウィード最強。スラきちさんやスティーブたち以外は。
今回は魔物たちの力は使えないから、デリーユが最強。
うん問題ない。
「あと霧華の部下たちはエージルの指示で動くことになっていますので、私たちの指揮下ではないです。そこは注意してください」
霧華の部下の諜報部はエージルの直属で動くよう。
妥当だと思う。
そう思っていると……。
『会議は終わったかい? こっちも全軍の配置がすんだし、定位置にいけるかい?』
「ええ」
「大丈夫です」
どうやら、出撃の号令がそろそろ下るようだ。
ん。私も気合を入れなおそう。
使者が敵本陣に切り込む。
普通はないっす。




