第1378堀:依頼の方針
依頼の方針
Side:ユキ
現在、俺は総合庁舎の会議室でセラリアと顔を突き合わせている。
理由は……。
「二国についてだが、既に進軍している。これを迎撃というか牽制するために軍を派遣することになっているが、連絡とかはどうなっている?」
「そっちは各国に連絡済み。最初はウィードに駐留している部隊で動くことになっているわ」
「数が少ないのは?」
「最初っていってるでしょ。あとで増員よ。とはいえ、スウルスに攻め寄せている馬鹿たちに間に合うわけはないでしょうけど。というか、命令系統が統一化されてないから面倒よ。多分エージルの指揮下にはなると思うけど」
「そこの話を付けない限りは下手に出せないか。やっぱりスティーブたちの部隊で何とかするしかないな」
ということで、俺たちはスウルスから駐留許可がでたので、慌てて色々なことに着手している。
まあ、元々こういうことを想定してはいたんだが、やっぱりというか同盟軍の弱いところは指揮系統だ。
各国で指揮官はいるがそれを誰がまとめて指揮を執るかという話になる。
自国の兵だけ損なわれてもって話にもなるし、逆に一番槍を貰えなかったという馬鹿もいるだろう。
戦わせても戦わせなくても文句が出るという面倒極まりない状況だ。
なので話し合いが済んでいない今、指揮を執るのなら既にスウルスにいるエージルが一番だろう。
ちなみにこの場合エージルはウィード代表となるのだが、エナーリアは大々的に同盟軍の総司令になったっていうだろうな……。
「それで東の町や南側はどうなっているの? ドローンは飛ばしているのよね?」
「ああ、流石に使者の連絡が追い付いていないようですでに侵攻している。もう言い訳しようないな」
「ああ、やっぱりなのね」
俺はそう言いながら映像を見せるとセラリアがため息をつく。
実情はまだ、人的被害が出ていないという感じだ。
そう、既に東の町はスウルスの援軍ということを信じて軍を迎え入れてしまった。
歓迎もかねて東の町の物資を放出しているようだ。
いやー、後先考えないね。
まあ、さっさと連絡をしていなかったスウルスにも問題はあるが、東の町のトップも問題ありでしかない。
南の精霊の泉に関しては、まだ到着してはいない。
いや、勝手に土地に入ってきてはいるが、村とかがないので略奪するものがないし、行動に移せないんだろう。
なにせ大氾濫を防ぐための軍勢だ。
拠点がなければ不意打ちを受ける可能性があるし、水源を引くための工事をするわけにもいかないのだろう。
「しかし、そうなるとやっぱり戦争かしら?」
「普通に考えれば戦争案件だよな。なんだ、ロシュールの方は領土侵犯は勘違いで済ますのか?」
「無いわね」
「ありえませんね」
セラリアだけでなくクアルも即時に返事。
地球だって日本以外なら宣戦布告ものだしな。
「とはいえ、スウルスの状況を考えれば派兵は難しいのは事実です。下手に敵対宣言をするとは思いにくいですね」
フィオラは冷静に状況を分析する。
確かに、今スウルスは大氾濫の混乱を治めるために動かないといけない。
なのに、他国と戦争をしている余裕はないだろう。
だからこその大陸間交流同盟なんだが……。
『一応スウルスとしては、撤退するようにというようよ~。それで引くなら、領土侵犯に対しての金銭を請求して終り~』
リリーシュは俺たちの話を聞いていて、スウルスの方針を伝えてきた。
「領土侵犯の金銭ね。そういうのってありなのか?」
「まあ、アリと言えばアリね。被害を被った分だけ請求するのは当然の話ではあるんだけど……」
どうもセラリアの表情はよろしくない。
するとクアルが苦笑いしながら……。
「それだけお金があるのであれば、戦争なんて起こしませんね。賠償請求をされて支払えるのならそれで目的を達成するでしょう」
そう事実を言う。
その答えを聞いたオレリアたちは顔をゆがめて。
「お金がないから、戦争なんですか?」
「どういう理屈なんですか~?」
「い、意味が、わ、わかりません」
一般の人には意味が分からんよな。
だから俺は簡潔に言う。
「奪う方が丸儲けだって考えているんだよ。何より今回は助けるっていう名目での報酬だからな。抵抗もないと考えている」
馬鹿ほど敵から奪えば丸儲けと考えているが、それはこの大陸間交流同盟がある土地では悪手だ。
もう昔の感性なのだ。
だからこそ、援軍を装ってはいるんだが。
「……なるほど? ですがお金がないからこその領土侵犯なのですよね? その場合支払いができるとは思えないんですか?」
「そこはどうするおつもりなんですか~?」
「ですよね。請求しても支払えない。なら無理ですよね?」
「そもそも、前提が崩れていますからね。同盟が出てきた時点で引くのでは?」
うん、普通なら引く。
そしてお金を払うが……。
「普通ならな」
「普通ならね」
「いえ、普通ならこの手を使ったりはしませんよ」
俺とセラリアの意見は一致したが、クアルはまずこの領土侵犯自体がありえないと突っ込んだ。
いやその通りだけどな。
なので視線はクアルに集まる。
「普通でない相手に即時撤退、金銭を要求して素直に従うと思いますか? よしんば帰ったとしても支払いが行われる可能性は低い。つまり空手形になります。というか大陸間交流同盟に喧嘩を売ったことにもなりますから……自暴自棄になって下手をするとそこで戦争になりかねません」
「「「……」」」
クアルの言葉で絶句する3人。
プロフは特に驚いていない。
プロフも色々あったから戦争に巻き込まれたりして理不尽はよくわかっているんだろうな。
「ユ、ユキ様やセラリア様はどうお考えなのですか?」
「うーん、その場での戦闘はないと思っている。8割ぐらいか?」
「私としては9割ね」
「意外と高いですね~。その理由は~?」
「ホービスたちも経験はあるだろうが、仕事で連絡の行き違いで現場で仕事相手との情報が違っているとまずどうする?」
「どうするって~、まずは確認ですね~」
「そうだな。確認が取れてから行動に移す。そうじゃないと上の意向を無視して、大陸間交流同盟に喧嘩を売ったことになる。そんなことが現場の将軍レベルで判断できると思うか?」
「む、無理です!」
ヤユイはそう即答して首をぶんぶんと横に振る。
「そう、だから余程の馬鹿じゃない限り戦争、戦闘になる可能性は低いと思っている。町に対しての返還もこちらが大氾濫を抑えたと伝えれば、駐留する理由もなくなるから引くだろう。守るって大義名分もなくなるんだし」
「そうね。まあ、大事なのは相手を立てるって所かしら。ねえ、クアル?」
「ですね。現場の指揮官は守るために行けと言われているでしょう。ですので、不要だ、領土侵犯などといわれると怒るでしょう。そんな判断ができる将軍であれば東の町に踏み込んで騒いでませんから。ですから、リリーシュ様。おだててお疲れ様です。大陸間交流同盟が動いて解決しましたとでも言った方がよろしいでしょう」
『え~。簡単に帰らせるの~?』
不満そうな声がリリーシュから聞こえてくる。
本人にとっては喧嘩を売られたと同じだしな。
とはいえ、末端を叩いてもどうしようもない。
「後日抗議というか、原因解明として二国に乗り込めばいい。その時に向こう側にいる馬鹿が判明すると思う。いま騒いでも馬鹿に乗せられた超馬鹿しかいないからな」
『む~、確かにそうよね~』
「とはいえ、一番大事なのはスウルスの意向なんだけど。それはさっきリリーシュ様が言ったわよね。撤退と賠償請求。あとはそれをちゃんと行える人物がスウルスから派遣されるといいんだけど……」
「大事なのは、ちゃんと交渉できる人かどうかですからね。頭に血が上って戦闘になる可能性も……」
「しかしクアル様。そのような短気な人物を派遣するでしょうか?」
プロフの言う通り、流石にそこまでおバカな交渉相手を派遣するようなことはないと信じたい。
『大丈夫よ~。問題があると思えばチェンジを頼めばいいんだし~。私たちからも注意しておけばいいのよ~。何せ同盟代表だからお互いの戦争を止める力もあるわけだし~』
リリーシュの言う通り、駄目な交渉相手が来たなら変えろというだけだ。
文句は出るだろうが、挑発されて戦端を開いたらどうするんだで済むだろうしな。
何より、大陸間交流同盟の条約で動くこともできる。
今回は一応スウルスの顔を立ててはいるから、まずはスウルス側の使者が出ることになる。
まあ、同盟国とはいえ、隣国間の交渉を同盟が出張って全部やるのは主導権が全くないとも思われるからな。
同盟に入れば奴隷ですよみたいなあり方を見せるわけにはいかない。
と、そんなことを考えていると。
「ユキ様、リリーシュ様たちのお部屋に接近する集団を確認。おそらく同行する使者かと」
クアルの言葉で俺たちは話を打ち切って。
『わかったわ~。会話は聞いていてね~』
「ああ。まともだといいけどな」
さて、誰が来るのやら。
王に王妃、そして王女、いやー豪華だが、立場を考えれば当然か。
使者がかすむ気がするが、どうしようもないよな。
とりあえず、撤退と被害の補填を要求する予定。
だけど頷くかはわからない。
現実でもそういう馬鹿は多いからね。




