第1376堀:露骨な反応
露骨な反応
Side:オレリア
「はい。至急確認をお願いします。はい、はい」
「はい~。お願いしま~す」
「ひゃ、ひゃい。お、お願いします」
私たちは現在同盟のロガリ大陸小国に対して確認の連絡を行っています。
先ほどセラリア様からの連絡で闇ギルドとダンジョンマスターが組んでいる可能性があるというのが示唆されたと連絡がきました。
つまり、あの汚いことを平気で行う連中が、人を簡単に害せる魔物を操る力を持った可能性があるということです。
大国ならともかく、小国では簡単にと思われるのはアレですが、大国よりはと思うことでしょう。
ですから安否の確認を大使館を通じてしているわけです。
とはいえ、露骨に暗殺など行っていないでしょうし、聞き方を変えてはいますのでどこまで正確な情報が手に入るか。
私は連絡を取りつつ、ユキ様に視線を向けると……。
「ルルア、セラリアから連絡は来たか? ああ。ハイレンの側にいるリュシの警備を多くしてくれ、もしくは俺かルルアの側限定にしてくれ」
ユキ様は今回の件に闇ギルドがかかわっていることが分かるとまず、リュシさんの安否はもちろん、このウィードで働いているあの事件の被害者たちの安否確認も指示をだしました。
いえ、ウィードから出て行った人も含めてです。
さらに面倒なことに……。
『では、キナウフ王国、イリナウ王国の両国は、我が国に援軍を出してくれるというわけか?』
『はい~。このままでは我が国にも、いえイリナウ王国にも魔物の群れが来る可能性があれば、これはスウルスだけに危機にあらず』
『返信の速さから考えても、陛下は、いえキナウフ王も大事と心得ている証拠です。ここで言葉と書類をいただければすぐにでも援軍を出すと……』
ただいま、キナウフ王国、イリナウ王国の使者がスウルス王と謁見をしているのです。
リリーシュ様たちは臣下に紛れてその謁見を確認しています。
これはスウルス王の希望でもあります。
内容に関しては、まあ、分かりきった援軍を出しますという話。
魔物が健在であればとてもありがたい話なのですが、今は既に大氾濫は鎮圧されていて、必要ない状況なのです。
『それで、その対価は?』
『詳しくは国に戻って詳しく話さねばなりませんが、先日伺った内容も含まれるかと』
『我が国も同じです。先日のお話を聞いてくださればそれでお喜びになるはずです。無理をされた分のことはその後でのお話になるかと』
援軍の対価については、状況を知らなければ無理のないモノに聞こえますが、これを裏で描いていたとしたら悪辣すぎます。
『ふむ。先日というとキナウフは穀物、食料の安価での売却。イリナウは精霊の泉からの川をそちらまでという話だったな?』
『その通りでございます』
『我が国も厳しい状況なのでございます』
ここは否定しないだけ、素直だと認めるべきでしょうか?
しかし……。
『しかしだ。残念ながらそちらも知っていると思うが、大氾濫の件はリテアに援軍を頼んである。今の状況で食料の支援も、水源の割譲もできぬからな』
そう、既にリテアに依頼している状況で、他の軍に依頼を出すのはあまりに失礼。
それは分かっているはずですが……。
『確かにその通りです。しかしながら、リテアはいつご到着の予定でしょうか? 西の町は僅か数日で落ちたと聞きます。今は北の町が攻勢を受けていると聞き及びますが?』
『リテアの到着を待っていてはどうにもなりますまい。仰る通り、リテアからの使者が来たという話は聞き及びましたが、今から連絡を取ってはかなりの時間がかかるはず。そこを考えれば我が国やキナウフを頼っても文句は言いますまい。それに、輸送や工事に関しては……』
『流石にスウルスの手を煩わせては意味がありません。それは此方で持つという話です』
耳障りのいいことを言っていますが、それは他国の軍を国に入れるということにもなります。
また、何もしなくていいということは、軍が入っている地域は他国に任せると言っているようなものです。
ユキ様たちが仰ったように実効支配する気満々なのでしょう。
リテアが来ても、いつ敵が来るかわからないからスウルスの防衛のためにと言えば軍を置いていても私たち、大陸間交流同盟は手を出し辛い。
なにせ、同盟に参加してもいないのですから。
しかしそのようなこと、私でもわかるのですからスウルス王たちが分からないわけもないでしょう。
これが本当にリテアが間にあわないのであれば、選択としては亡国になるよりはマシでしょうが……。
『そこまで配慮をいただいて申し訳ないが、現在リテア、及び大陸間交流同盟軍がすでに大氾濫の排除に成功している』
『『は?』』
使者の言葉が重なります。
全然理解が追い付いてない顔をしていますね。
『驚くことも無理はないが、これは事実だ。すでにリテアと大陸間交流同盟が軍を派遣して大氾濫の撃破に成功している。そして、現在この混乱に乗じて領土侵犯がないか、及びほかにダンジョンが出来ていないか確認するために、南と東側に軍を移動してもらっている。まあ、許可を出していないのに、軍が我が領土に踏み込んでいるということはないだろうと思うが』
『『……』』
真っ青になる二国の使者。
そうです。許可もなく踏み込めばそれは領土侵犯。
そして……。
『今回の件で我が国は正式に大陸間交流同盟に入った。なので領土侵犯があれば同盟で対処することとなる。そこは王たちにしっかりと伝えてほしい』
『は、はは。そ、それはようございました』
『さ、さすがリテア、そして大陸間交流同盟ですな。わ、私たちは情報の行き違いがあれば問題なので、すぐに連絡を取らせていただいても?』
『ああ、構わないぞ。踏み込んでしまえば事だからな。もし万が一踏み込みがあれば、周りで情報を集めて、それ相応の対応をお願いすることになるだろう』
『そ、それは……。と、ともかく連絡を取らせていただきますので、失礼いたします』
使者たちは慌てて、謁見室から退出していきます。
一応礼儀は守りつつ、下がっていくのは流石というべきでしょうか?
そこだけは私たちも見習うべきことでしょう。
そして、使者たちがいなくなってから沈黙が続いていたかと思えば……。
『『『わっはっはっは!』』』
と、笑い声が謁見室に広がります。
『あそこまで露骨に動揺するとはな。せめて使者は無関係の者を送るべきだろう。ブハハハ!』
『そうもいきますまい。予定通りに実効支配をもくろんでいるのであれば、何も知らなければこの事態も伝わらず全滅の可能性があります。多少理性が残っていたと思うべきでしょう』
『そうね~。相手は戦うことは望んでいないみたいだし~。予定通り、こちらも王都に向かうように言うわ~。そちらからの使者も用意を済ませておいてね~』
『ああ頼む。しかし、あの様子で大氾濫を利用しているのははっきりしたな。あの慌てよう、既に軍を我が国内に侵入させていよう。しかし、東や南から連絡がないのは……』
『おそらく、それも情報封鎖されているのでしょう。そちらの方も冒険者ギルドへ今一度確認を取ってみましょう。南には街がありませぬから、東の町か、我が王都から人を出して確認する必要があるかと』
『ふむ。ならばまず、大陸間交流同盟には東に出向いてもらおう。東の町はキナウフに寄せられてそのような余裕はない可能性もある』
確かに、これを機にスウルスから領土を奪い取ろうとしているのですから、正確な情報が伝わるような真似はしないでしょう。
『わかったわ~。じゃ、急ぎで連絡するから、私たちも行くわね~』
『うむ。こちらは頼むしかできんが、よろしく頼む』
『任せて~。あと、馬鹿共が乗り込んで何かをたくらむ可能性もあるからそこは気を付けてね~』
『ああ。承知している』
そう言って、リリーシュ様たちは謁見室を後にすると……。
『ということで、ユキさん~、編成お願いね~』
「わかった。編成作業はもう終わってる。一応、軍隊としてはウィードに駐留している同盟軍を動かす。許可はもらっている。動員数は3000って所だが、車両移動だし何とかなる。出発はドローンからの情報も鑑みるが、今夜中には出られる」
『流石~。話が早いわ~。で、私たちはどうしたらいいと思う~?』
「全員出た方がいいだろう。大陸間交流同盟の目がないところでどう動くか見ものだしな」
『悪趣味ね~。とはいえ、私たちがいることで動くのをためらうのも確かね~』
「何より、リリーシュが出ないと相手も信じないだろう」
確かにリテアの代表が出てきたという証拠がなければ相手は押してきそうですからね。
『それで引いてくれなかったら一戦するけど~、いいの~?』
「良くはないがやるしかないだろう。何のための大陸間交流同盟なんだよ」
その通りです。
引かなければ戦闘は必至。
スウルスを守るために大陸間交流同盟が戦わなくては面子が立ちません。
「じゃ、とりあえずスウルスの使者と多少ついてくるであろう軍人さんたちの数は車両3台って所だから、精々18人だ」
『わかったわ~。それを伝えておくわ』
装甲車一台につき6人の計算ですか。
ちょっと狭い気がしますが、いえ、絶対狭いですよね。
鎧とか着こんでいるんですし。
とはいえ、少ないのも反発するでしょうし、妥当なところでしょうか?
「さて、問題のない奴が来てくれると嬉しいんだが……。よし、オレリアたち調子はどうだ?」
「あ、はい!」
私たちはユキ様に今の連絡状況を伝えつつ、リリーシュ様たちの安全を祈るのでした。
やっぱり何かをたくらんでいる様子。
まあ、分かりやすいのありがたいことです。




