第1373堀:多分味方かな?
多分味方かな?
Side:スタシア
私たちは、用意された客室で待機している状態です。
外には護衛の兵士といつでも私たちの希望にこたえられるようメイドが控えていることでしょう。
「どうかしら~? 言いたいこと、聞きたいことは全部伝えたわよ~」
と、リリーシュ様はのんびりとそういいますが、正直私たちは心配で冷や汗をかいていました。
小国とはいえ王相手、何よりそのメンツが大事な謁見室であのような態度をとるとは思いませんでしたから。
確かに、実力では負けることはありえませんが、戦いとはそういう当たり前が覆る場所。
いかに旦那様の加護があるとはいえ、戦闘になるのは避けたいところ。
それを構いもなく踏む込む胆力はさすが女神様というべき……なんでしょうか?
まあ、実際スウルスに対して聞きたいことは聞けた気がしますけど。
『そこは感謝している。こうなるとスウルスの上層部はやっぱりダンジョンマスターや反ウィード派とつながっているわけじゃなさそうだな。何せ、嫁さんたちを見ても特に反応なかったし』
「あはは、まあ情報収集不足だよね~。小さい国は自分たちだけで完結しているから」
と、旦那様の言葉にエージルが答えます。
確かに、あの場で重要なのはリテアの使者であるリリーシュ様がトップなのは間違いありませんが、大陸間交流同盟から派遣された私たちも、同じぐらいに重要な立場です。旦那様のもとに嫁いではいますが元の立場は大国の姫。大陸間交流同盟のトップの出。
それを知らないというのはいくら何でもというレベルです。
まあ、伝令を押さえてられているという状況を考えれば当然でしょうか?
「とはいえ、リリーシュ様がスウルス公国の王と面識、知り合いだとは思いませんでした。一体どういう経緯で?」
ジェシカがリリーシュ様とスウルス王のいきさつを聞きます。
確かに、それは私も気になります。
「さっきも言ったけど、当時のあの子って甘やかされすぎて、横暴だったのよ。自分が一番って感じで。それで教会でも横柄にしてたから、ガツンとやってやったわけ」
なるほど、よくある貴族ならではの跳ね返りですか。
私も弟を躾けたことがありましたね。
『よく、首をはねられなかったな』
「そりゃ、泣く子も黙るリテア教会の司祭よ? 当時からパワーバランスはリテアの方が強かったんだから。それに、腕っぷしでどうにかなる私じゃないし~」
『その割にはリテアの総本山から門を閉ざされて引き返してたじゃないか』
「わかってていっているでしょ~? 腕っぷしでぶっ飛ばしても解決にならないもの~」
確かに国の腐敗というのは、一人の力でどうにかなるものではありません。
ですからリリーシュ様は周りに賛同を求めるために動いていたのですね。
『そうだな。で、その関係で仲が良かったわけだ』
「そういうこと~。とはいえ、先王が王子に立場を譲ったっていうのは驚きだったけど~」
『なんだ、そういう情報は入ってなかったのか?』
「アルシュテールちゃんに聞くまで知らなかったわ~。まあ、死亡したわけじゃないから何か考えがあってのことでしょうけど。あの悪ガキが王って所で少し心配だったんだけど、杞憂みたいだったわね。特に何か操られている様子もなかったし~。それはユキさんも調べているんでしょ~?」
そういうことでしたか。
昔は悪ガキだったのが王になっていると少し悩みますね。
個人的な友好があるからと言って信頼するのもアレですし、何より今回のことでの後手後手の対応を考えると良き王ではありますが、頼りになる王かというと違うのでしょうね。
『ああ、そこらへんは調べてみたが特に問題はないな。先王についても王城の奥でのんびりしているようだな』
「それはよかったわ~。落ち着いたら一度面会しておきたいし~」
ふむ、現状では上層部が敵の手に落ちていないことは僥倖ですね。
あとは……。
「旦那様、スウルス上層部が安定しているのは何よりですが、軍を用意していた二国、キナウフ王国、イリナウ王国。そしてダンジョンマスターの関係者たちが動いている可能性は?」
『そこらへんは詳しくは分かっていない。だが、そちらでも確認してもらうと思うが、使者として来ている二国とスウルス国内で反ウィード派とついている子爵たちは動きを見せていない。リリーシュたちが入ってきたのは知っているとは思うんだがな……』
確かに、このスウルス王都をダンジョン化したときから敵と思われる相手は追跡していますが、特に動きを見せてはいません。
何を考えているのか、不思議なことです。
兵の配置についても私たちの周りはもちろんスウルスの王たちの周りも特に不審な様子はありません。
そう思っていると……。
「ミコスちゃんわかっちゃったかも。相手は、油断しきっていてまだ大丈夫だと思っているとか」
「「「……」」」
ミコスの言葉に全員が沈黙します。
それを言っては何も始まらないのですが……。
『まあ、それも考慮するべきだろうな。こっちでも考えたがその可能性もゼロじゃない。ウィードでもないんだから、二国が素早くというかいきなり援軍を出すとか伝えても、おかしいと思われるってな』
「ミコスの直感はあれとして、確かにユキの言う通り反応が早すぎるのもおかしいわよね」
「それ、露骨に絡んでいるって言っているようなものよね。そうなると動かないというより動けないという方が正しいわけか。でもって、退治するべき大氾濫を消滅していると。使者の人たちはどうするんだろう? というか、事前に入ってきていることに対して問題はないのかしら?」
「そこは問題なかろう。伝書鳩や独自の連絡を受けて話を持って来たと言えばいいのじゃからな」
ふむ、色々可能性はありますが、事実としては動いていないし、こちらに対して牽制もしていないと。
「それなら、相手はもう間に合わないと思っているのかもね。事実、リテアは北の方からのルートしかない。軍を集めて、侵攻するにも大氾濫とぶつかるのは必至。王都がどうなるかはわからない。つまり、二国の位置を考えると、先に駆け付けられるのは自分たちということになるわ」
「メノウ殿の意見には一理あるでしょう。現状に鑑みて、敵と思しき国は動いていない。つまりリテアや大陸間交流同盟の動きが間に合うとは思っていないのでしょう。まあ、最後の駆けつけるというのは怪しいところですが、混乱に乗じて王都を乗っ取るぐらいはするでしょう。大氾濫を利用しているのであれば」
確かにメノウ殿やショーウ殿の言う通り、二国、キナウフ王国、イリナウ王国はスウルス王国から見て東側、そして南側に位置している。
大氾濫の影響なく軍を動かせ、王都に迫ることができる位置ではある。
「しかし疑問があります。なぜスウルスなのか? 他に関係性の低いところであればもっと秘密裏に事態を進められたでしょう」
私がそんなことを考えているうちにショーウ殿が指を一本立ててそう話し始める。
『確かに、今回のことでリテアどころか大陸間交流同盟は動いた。敵が馬鹿じゃないならそれぐらいは予想は出来そうだよな』
「ユキ様も言っておりましたが、リリーシュ様や私たちを引きずり出すという目的があるにしてもここまでノーマークだとほかに狙いがあったとも思えてなりません」
「確かにそうですね。では、そういう要因がないかリリーシュ様に聞いてもらうのはどうでしょう?」
ジェシカの提案は特に気にしたようすもなく自然なものではあったのですが、私には思いつきませんでした。
まさか、スウルスに話を聞くというのは考えもしませんでした。
下手をすれば、自国の問題が他国に、というか今回の場合大陸間交流同盟に伝わってしまうのです。
これからこの同盟に参加しようというわけですから、そういう失点は隠したがるもの。
言って教えてくれるとは思わなかったのです。
『うーん、露骨に聞いて教えてくれるか問題だが、使者の件を伝えるのも問題のような気もするんだよな。どうやって情報を得たとかいう話になるしな』
「そんなの車でぱーっと行って来たとか冒険者ギルドから連絡を入れてもらったとかすればいいのよ~」
『そんなんでごまかせるか?』
「別に嘘でもないから大丈夫よ。何より、使者が来てから判断すればいいだけだし~」
確かにリリーシュ様の言う通り、使者が訪問してからその真意を確かめればいいだけではある。
『やっぱりその様子だと二国の使者はまだ訪問してないってことか?』
「聞いてないけど、そうでしょう。私たちの到着を待っているくらいなんだし、使者もまだ動いていないんでしょ~? リテアを筆頭に大陸間交流同盟軍がすでに動いているって援軍についてはお断りを入れるはずだし~」
『確かにな』
その通りですね。
事前に援軍の打診をしているのであれば、お断りの連絡、又はリリーシュ様に共同戦線の連絡の一つぐらいはよこすでしょう。
その話がなかったということは二国はまだ動いていないということでしょう。
「それで旦那様、子爵たちはまだ動いていないようですが、先ほどの情報封鎖の件。動いていないということでしょうか?」
『露骨にお前手紙を隠したか? って聞いて素直にハイっていうやつもいないだろうからな。向こうも準備を色々していると思うぞ』
ああ、確かにそうだ。
怪しいだけでしかないのに、それで問い詰めて素直に白状するとは思えない。
さて、そうなると今日は一日部屋に待機かと思っていると。
ドアのノックがあったのち。
「陛下が会議が終わったので、お話がしたいと」
どうやら思ったより早くスウルスの上層部は決断したようですね。
安全は訪れていないと警告した甲斐はあったということでしょうか?
さて、どんな話になるのか……。
敵か味方かわからないって不安ですよね。
特に最近はその手のゲーム多いですから。
疑心暗鬼というのがよくわかる。




