第1363堀:女神と一緒
女神と一緒
Side:リーア
私たちは結局砦の地下の本部でのんびり座っているだけで戦いは終わってしまった。
うん、それ自体はとてもいいことだよね。
私たちが戦場に立つなんてことはそれはとっても危険な状況だから。
何よりユキさんがそんな状況を望むわけないから、余程ってことになるもん。
とはいえ、私たちはいつ戦闘になってもいいようにフル装備でいるから……。
「あー、肩がこったよ。ミコスちゃん胸も大きいからいつもよりさらにキツイ……」
「あ? 何それ? 私に対する当てつけ?」
「こら、カグラいちいちつっかからないの。というか、カグラも普通に胸あるでしょうに」
「……ん。胸のあるなしは関係ない。でも、鎧を付けているのは私としても緊張感もあって多少疲れる気がする。ステータス的には何の負担もないはずなのに」
「雰囲気というやつですわね。今までは気が張り詰めていましたが、それが無くなったので慣れていない鎧に意識が回ったのでしょう。私も同じように苦しく感じていますもの」
と、普段鎧を付けていないメンバーは疲労感を話している。
ちなみに私のおっぱいは子供が生まれてからワンサイズ大きくなっている。
多分、普通よりも大きいぐらい。
「気が緩んでいるとこ悪いと思いますが、まだ状況は終了していない。そうですね? エージル?」
のんびり話している私たちにディフェスの言葉が突き刺さる。
「だね。まだ作戦終了の連絡は来ていない。まあ、この敵軍を退けるってことは成功しているけど……」
「ま、普通に考えてここだけ襲われているって思うのもおかしい話よね」
「そうですね。ほかの町の安否確認も必要かと」
カーヤとクロウディアの指摘ではっとする。
そうだ。
これってある種の戦争だよね。
スウルスを襲っている軍が1個、一ヶ所だけなんて限らない。
私たちのウィードだって、スティーブたちの魔物部隊、ドレッサが預かる海軍、アスリンが率いる魔物部隊、セラリアをトップとする人の部隊、そして運用試験中の航空部隊とかいろいろいるし、その部隊も細分化している。
……私の村だって軍から派遣された部隊で潰された。
昔のことを思い出して少し、気分が悪くなる。
「それで、スティーブ将軍。上は何て言ってるわけ? 私たちはこのまま待機?」
「今問い合わせ中っす。ちょっと待ってください」
メノウの質問にスティーブはコールでユキさんに連絡を取っているみたい。
私たちからも連絡するべきかなとエージルに視線を合わせると……。
「スティーブと被るから意味がないよ。まあ、この後考えられるのはスウルス各地にある町や村の安全確認かな。あと王都と連絡を取って援軍をだしたことの挨拶をしないとだめだろうね」
「そうですね。一応援軍の要請を貰ってはいますが、リテアに要請されたもので、そのあとは曲解して大陸間交流同盟が動きました。私たちとしては当たり前の行動ですが、スウルスにとっては見知らぬ軍隊が乗り込んできたと思っても仕方がありません。責任者と共に私たちが挨拶する必要性はあるかと……」
「うげっ。このまま王様とかに挨拶? 大丈夫なのかな? カグラどう?」
「戦時なんだから仕方ないわ。これで私たちに文句を垂れてくるなら程度がしれるわよ。今後のお付き合いは遠慮ね」
「そうね。とはいえ、こっちが無礼をしていいってわけでもないのよね。おそらくリテアからの使者がいるから、その人に多少はスウルスの礼儀について教えてもらえるといいんだけど……」
そう、エノラが言い終わると同時に。
「え? マジっすか? あの人がこっちに? あー、なるほど。はい、はい、分かったっす。偵察隊と諜報部は先行させるっす」
なんかスティーブが随分驚いた様子で話をしている。
誰が来るんだろう?
そう思っているとスティーブは顔を上げて。
「大将から連絡がきて、スウルス公国の王都に行って現状の確認を取れってことっす。リテアからの使者は北の町には到着して、既に出たって話っすけど、敵がここだけとも限らないし使者が無事に到着したとも限らないから、ゲートからリテアの使者を送るので護衛してくれって」
「まあ、妥当だね。というか、別の軍がっていうのは想像してなかったな。その可能性もあるけどさ」
エージルがそういうと、私たちも頷く。
うん、私もこれだけだと思っていたよ。
他にもある可能性は確かにあるし、確認は急がないといけないよね。
「話は分かりました。それで、こちらに来るリテアの使者というのは?」
「えーっと、それが……」
スティーブがなぜか口を濁らせていると……。
「やっほ~。みんな~」
そんな明るい声と共に、なぜかリリーシュ様が会議室に入って来た。
「「「え?」」」
理解が追い付かない。
なんでリリーシュ様が?
全員そういう思いで見つめていると、スティーブが説明を始める。
「驚きはわかるっす。とはいえ、説明を聞くと納得するっす。リリーシュ様は10年程前はスウルス公国の教会で司祭をやっていたということっす。スウルス内部の事情を知っていても当然だったというわけっす」
「「「あー」」」
なるほど。
そう納得しかけたけど、10年前ぐらいって私の村の方にいなかったっけ?
そう思っていると。
「リーアちゃんの所にいたのは、スウルスよりも前のことね。それにウィードに来てから年数も経っているし」
「あ、そういえばそうですね」
確かにもうウィードに来てから5年以上だし、私の村にリリーシュ様がいたのって15年以上前になるんだった。
……なんか私も年をとったんだなーって。
いやいや、私は十分に若いし、スタイル抜群だし。
「それで~。私がアルシュテールちゃんに頼まれて使者としてきたってわけ。そして護衛としてみんなに頼むことになったからよろしくね~」
私が変なことを考えている間にリリーシュ様がそう挨拶をしてくる。
「おっけー。リリーシュ様が行くなら問題ないね。どこまでこちらの情報を話せばいいのかなんて考えてたけど、そういうことを心配しなくていいのは助かるよ」
「確かに、これ以上ないぐらいの人材ですね。それで、スティーブ将軍。出発はいつに?」
「あと1時間後っす。先行して上空から偵察のドローンと使い魔が飛んでるっすから」
「今の所問題はないと?」
「今のところはっすね。敵が王都を囲んでいた場合は姐さんたちが所有しているコアからゲート作ってくれってことっす」
そこで疑問が出てくる。
「ねえ。その話だとスティーブたちはついてこないの?」
そう。今の話だとスティーブたちはついてこないといっている感じだ。
最大戦力であるスティーブたちがついてこないっていうのはどういうことだろう?
「この状況で魔物とか連れて行ったら、誤解の元っすからね。おいらたちはいざという時の援軍っすね。とりあえず後方で待機しているっす」
「よかったー。一緒ではないけどついては来るんだよね? そうだよね?」
「そうっすよ。ミコス姐さんの言う通りっす。姐さんたちに何かあればドッペルとは言えかなりの大問題っすからね」
なるほど、とりあえずこっそりついては来てくれるんだ。
それなら安心だね。
「それで、リリーシュ様。スウルス公国の王または重臣の方とは知り合いなのですか?」
「多少はね~。まあ今もその地位だとは限らないし、こうしてアルシュテールちゃんから親書ももらっているから、使者としての立場でも行けるから大丈夫よ~」
まあ、確かに10年もあれば代替わりしていることもあるだろうし、使者という立場があればいいのかな?
「面会に関してはいいが、トラブルがあった際の動きは決めておいた方がいいじゃろう。どうじゃエージル?」
「デリーユの言う通りだね。スムーズに済むなら何も心配はいらないけど、トラブルがあったときの行動は決めておいた方がいいよね。まあ、それもいつもの訓練パターンから選出できるけど」
エージルはそう言って、テーブルにA、B、Cと書かれたカードを取り出す。
「言わなくてもわかるけど、これは練習したパターンのどれを選ぶかってやつだから」
「3パターンだけで行くのですか?」
「いや、ジェシカ。パターンが多くても混乱します。それに今回はメノウ殿やショーウ殿たちもいるから、分かりやすい方がいいでしょう」
私もスタシアに賛成。
沢山のパターンは分かるけど、ABC以降はちょっと面倒になるし、これぐらいがいいと思う。
身内以外の人もいるし。
「そうね。わかりやすい方が助かるわ」
「そうですね。作戦をスムーズに進めるためには、簡素な方が理解しやすく、行動に移しやすいですから」
メノウさんやショーウさんも同意して頷く。
「じゃ、改めて説明するよ」
そう言ってエージルがパターンの説明を始める。
基本的に状況としては、敵のど真ん中で孤立したときの対応。
普通はそういう状況は起こらないけど、交渉の席ではそういうこともあるということで、ユキさんからは注意するようにときつく言われている。
そしてその際の対応としては。
パターンA:転移の魔術で一気に逃げる。もちろん妨害類も食い破る強力な奴。
パターンB:Aが無理だった場合は、魔術攻撃、あるいは物理攻撃で壁に穴をあけてそこから空へ。
パターンC:敵のトップを確保して、逆に制圧する。ちなみにこれは面倒なんで拉致してA、Bにすることもある。
ちなみに、細分化についてはそのままトーチカを作って周りを殲滅とかあるんだよね。
Bの細分化なんだけど。
「……ということだよ。合図とかはそのままA、B、Cで合図するからわかるよ」
「うん。単純明快ね。でも、この程度のこと相手が対応策を講じていないとは思わないけど」
「そこはメノウ殿の言う通りですが、基礎が違いますからね。相手は囲んでおいて逃げられるとは思っていないという心理も働くでしょうから。特に私たちは女性ですし」
「ああ、なるほど。油断を誘うためにもこのメンバーってことか」
「それもあるでしょうね」
うん。
ショーウさん正解。
あえて侮りやすいってことで私たちがいく。
もちろんスティーブたちが行くのもまずいっていうのもあるけどね。
そんなことを話しているうちに。
「うっす。準備が整ったっすから。全員車両に乗ってください」
どうやら私たちが出発する時間がやってきたようだ。
よし、ユキさんのためだ。
今日も頑張るぞ。
これで安心だね!
で、安心できる人が何人いるだろうか?




