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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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1605/2211

落とし穴外伝:夏の夜の夢

夏の夜の夢



Side:アスリン



今日は楽しい夏祭り。

しかも、警備とかそういうのに気を遣わなくていい、家族と知り合いだけの小さな夏祭り。

なので、私たちも思う存分楽しんでいる。

美味しいものやおもちゃを買ってはお屋敷に持って帰る。

アイテムボックスに入れて沢山買えばいいんだけど、毎回両手が一杯になったら走って帰って買いに戻るっていうのを繰り返している。

だって……。


「楽しいのです。道をびゅーって走れるのです」

「走るのはどうかと思うけど、こういうのは何というか楽しいっていうのは分かるわ」

「あはは、浴衣が乱れそうですけどね」


うん、誰もいない田舎道を走っているとここら辺が全部遊び場のような気分になるからね。

シェーラちゃんも苦笑いはしつつも同じように走ってるし。


「ま、いいんじゃない? 今日ぐらい」

「ドレッサも意外と楽しんでますよね」

「それは、ドレお姉も」


ドレッサちゃんもヴィリアちゃん、そしてヒイロも一緒に走っている。

みんな今日はのびのびしている感じ、楽しいこの時間を満喫するんだーって。

そして今日何度目かわからない帰宅をして戦利品を宴会場に置いていると、お兄ちゃんとユーピア皇帝ちゃんたちが集まって何かを話しているのに気が付いた。

何してるんだろうって近寄ってみると、何か人形を持っていて。


「……ということがあったんじゃ」

「ふうん。この人形をね」


お兄ちゃんの手にはボロボロだけど大事にされているお人形さんが握られている。


「どうしたの?」

「何があったのです?」


そう言って私とフィーリアちゃんはその話に加わることにする。

なにかとてもお人形さんに気を引かれたから。


「ん? おお、アスリンたちか。いや、夏祭りでこの人形を渡されてな。何かユキ殿たちからのサプライズかとおもったのだが、どうやら違うようじゃ」

「そういうのは考えてなかったからな。アスリンたちは何かわかるか?」


そう言ってお兄ちゃんはお人形さんをこちらに差し出してくる。


「ユーピア皇帝ちゃん手にとってもいい?」

「うむ。大事にな」

「うん」


そう言って人形を預かって、様子を見てみる。

やっぱり大事に扱われていることが分かる。

だって、何度も補修した後があるから。

それだけ大事だったってこと。


「しかし、この人形ワシやショーウも見覚えがあるんじゃよな」

「はい。なぜでしょう?」


そんなことを2人が話していると私はピンときた。

それなら……。


「セナルお姉ちゃんに聞こう」

「いい考えなのです」

「「「はい?」」」


フィーリアちゃんだけすぐにわかってくれたんだけどほかのみんなはピンとこなかったみたい。

だって、セナルお姉ちゃんはユーピア皇帝ちゃんの所の女神様だったんだから、こういうモノもよく知ってるかもしれないからね。

それを説明すると納得してくれて、セナルお姉ちゃんもお祭りに参加していたからすぐに来てくれて、お人形さんを見せると。


「あら、懐かしい。これって、西側の子供用の人形ね。随分前のモノだけど」

「西側? それはワシらが治めていた土地か?」

「そうよ。言い方は悪いけど、東側はダンジョンからの物資が多くあって意外と流通している品質はよかったの。でも、西側、つまりハイデン側に近いところは……」

「ダンジョンからの恩恵がなくつくりが雑だったと?」

「そうね。それに西側特有の人形の作りをしているし、中は藁でしょ? それを布で覆って人の絵を描いているけど描き方が特徴的ね。ちょっとまって……」


そういうとセナルお姉ちゃんはズラブル地方の地図をだして、丸を付ける。


「この人形に使われている染料って珍しいタイプでね。この地方でしか取れないものなのよ。ほら、角度を変えると光って見えるでしょ? ラメみたいな感じだけど、染料の元になっている鉱石が光に反射しているって、どうしたの!?」


セナルお姉ちゃんがそう言い切る前に、ユーピア皇帝ちゃんは人形を手に取って外に飛び出す。

ショーウお姉ちゃんはもちろん他のみんなも唖然としていたけど、私とフィーリアちゃんはすぐに追いかけた。

するとその途中でお兄ちゃんが連絡が入る。


『多分。あれを渡したのはユーピアの知り合いだろう』

「うん、そう思う。だってあんなに大事にしてた人形を渡したりしないもん」

「そうなのです。あれは大事な物なのです」

『ついて行ったり、連れていかれそうになれば押しとどめてくれ』

「もちろん。お友達だもん。ね?」

「そうなのです。ユーピア皇帝ちゃんはお友達なのです!」


そう言って、私たちはユーピアちゃんを追いかけていく。


「えっと、話が分からないんだけど、一体どういうこと?」

「はい。説明してください」


後ろから追いかけてきているラビリスちゃんとシェーラちゃんはあの人形を渡した相手が分かっていないようで私たちに聞いてくる。

だから、私は……。


「きっとユーピア皇帝ちゃんの親戚やお友達だよ」

「そうなのです。今日はお盆。あの世から戻ってきたのです」

「「はぁ!?」」


今日はそういう日なのです。

これ以上説明しようもないと思っていると。


『アスリン様、フィーリア様、ラビリス様、シェーラ様、こちらでユーピア皇帝を捕捉しております。ある霊を追って神社の裏手に向かっております。私がそうしました』


鈴彦姫からそう連絡がきた。


「なに? この事態は鈴彦姫が起こしたわけ? 彼女の身分を知らないわけじゃないでしょう?」

「ええ、その通りです。国際問題になりかねませんよ。その霊に危害を加えられたりしたらどうするのですか!」

『いいえ。この騒動は彼女自身が起こしたこと。唐児から夏祭りの在り方を聞いて、そして自分の内からでてきたもの。そしてこれは私たちが邪魔をしてはいけないもの。それに飲まれるのであればそれだけだったということ』

「何をふざけたことを! 陛下に危険が迫っているのに、邪魔をするなと!」


いつの間にかショーウお姉ちゃんも一緒にいてそう怒っていた。


『大皇が望んだ者。自身も相手の正体は気が付いているのでしょう?』

「……」

『沈黙が答えです。それを無下に邪魔すればこれからの関係は上手く行きません。なにより、貴女が信じなくてはいけません。上に頂くと決めたのですから。いえ、そこに据えたのですから』

「……ぐっ」


鈴彦姫の言葉を聞いてショーウお姉ちゃんは何も言えないみたい。

だから、私たちは……。


「大丈夫だよ。ユーピアちゃんはそんなことしないよ」

「ショーウ姉様もそれを知っているはずなのです」


そうはっきり言うと、ショーウお姉ちゃんは目を丸々として驚いたかと思ったらすぐに笑顔になり。


「その通りですね。私が信じなくては駄目ですね。何より陛下は弱くはない」


ショーウお姉ちゃんは不安や迷いのない顔になっていた。


「……えーと、走りながらこういう会話ってできるものなのね」

「ユキさんに鍛えられたおかげというべきですかね……。あ、見えてきましたよ。人がまだいますからぶつからないように速度を緩めてください。ぶつからなくても埃が立って迷惑ですから止まってください」


シェーラちゃんにそう言われて私たちは速度を緩めて歩きながら、夏祭り中の神社に入っていく。


「モグモグ……ん? アスリンたちどうしたの?」

「うま、うまっ。りんご飴うま。って、ほんとだ」

「い、いや、普通に追加買いに来たんだと、お、思うよ。ねえ?」


するとまだ買い物中のクリーナお姉ちゃんとハヴィアお姉ちゃん、ナイルアお姉ちゃんが話しかけてきた。

えーと、理由は言うべきかなと思ってラビリスちゃんとシェーラちゃんを見ると、すぐに察してくれて。


「ナイルアの言う通りよ。あと、ユーピア皇帝見なかった?」

「ん。奥の方へ走っていった。カレーの店舗があったからそこ」

「カレーって不思議だよね。あの匂いだけで引き寄せられる」

「……そうですか、ありがとうございます」


うーんユーピアちゃんってそこまでカレー好きって見られているのか……いいこと、なのかな?

シェーラちゃんも微妙な顔をしつつお礼をいって私たちは奥へと歩いていく。


「ごまかせたからいいのです。それに美味しいモノがあるのはいいことなのです。ですよねショーウ姉様」

「そうですね。まあ、あそこまで露骨に好物がバレると毒殺などが心配になりますが、そこもユキ様からいただいた毒無効のアクセサリーがありますからね。と、裏というのは此方でしょうか」


と、気がつけば神社の奥までやってきてた。

小さな社にはちょっとした提灯の飾りつけがしてあるだけで、通りのように賑やかというわけじゃない。

静かにそこいるって感じ。


「ようこそお待ちしておりました。こちらに」


すると、社の横からすっと鈴彦姫が現れて案内をしてくれる。

私たちはその背中を追って社の裏に回ると、薄暗い中、そこには狐のお面を付けた親子みたいな人と、その人たちに向き合うユーピア皇帝ちゃんがいた。


「……最初から声をかけてくれればいいのに」


多分ユーピア皇帝ちゃんの声だと思う。

でも、普段の威厳たっぷりの声じゃなく、子供の声だ。

私たちと楽しんでいる時の。


「声はかけたよ。でも気が付かなかったからね」

「……むう。それは、ごめんなさい」

「あはは、駄目だよ。そんな簡単に頭を下げちゃ。いまじゃあの一帯で一番偉いんでしょ?」

「うん。頑張った。頑張ったんだ」

「そうだね。頑張ったのは知ってるよ。いつも見てたし。ねえ?」


そう狐お面を付けた小さな子が隣の狐面を付けた大人を見るとこくんと頷く。


「でも、なんで今頃?」

「それはそこの神様のおかげかな」


そう言って狐面の子は此方に視線を向ける。

多分鈴彦姫のことを見ているんだとおもう。


「みんな……。いや、鈴彦姫がこの者たちを?」

「それは難しい質問です。場所を整えたのは確かに私ですが、出てくるかどうかを決めたのはそちらの2人です。元々今日は一夏の夢です。幽霊が戻ってくるそれだけの話。幽霊と会話をしてもいいでしょう」

「そうだね。私もこうしてまた話せるとは思ってなかったよ」

「でも、なぜ面を?」

「お面を付けないとお祭り楽しめないでしょ。私たちはユーピアやショーウの邪魔をしたいんじゃないの」

「は? 私も?」


いきなり話を振られたショーウお姉ちゃんは意味が分からないという顔をしていて。


「あはは、ショーウはあまり霊感とかないみたいだから、あまりこの人に焦点を合わせられなかったんだね。いまならわかるんじゃない?」


そういうと隣の大人の狐面を付けた人が……。


「まあ、現実を見定めて、確実な手をと教えましたのでこういった現象は信じないでしょうからね」

「はっ!? え、うそ!?」


なぜかショーウお姉ちゃんは大いに驚いて……。


「お、お師匠様?」

「うむ。まさか、お前がユーピア殿についていくとは思いませんでした。当時は現実的ではなかったでしょうに」

「あ、あ……う、うそだ。お師匠様は……」

「死者が現実に存在しているのはウィードで十二分に把握したでしょうに。まあ、この面に和服だと認識はしにくいだろうし、認めたくない気持ちもわかります。なにより、どうせこの瞬間だけの夢のようなものです。気に留めることもありません。これからも自分の信じた道を行け。もっと女がやれると世間に示せ」

「……はい」


あの狐の面を付けたお姉さんはショーウお姉ちゃんのお師匠さんみたい。

てっきりユーピア皇帝ちゃんの知り合いかと思ってたけど。

そんなことを考えつつ、ユーピア皇帝ちゃんに視線を向けると……。


「さ、これで夢は終わり。意外としゃべるって力を使うんだね」

「え」

「ハヴィア様のように霊魂が残っていたのならともかく、ユーピア様に残っていた残り香のようなものですから、今まで保っていたのが不思議なくらいです。加護とでもいえばいいでしょうか」

「かご。私を守ってくれていたの?」

「いやー、ただいただけだよ。そんなに強いならユーピアを置いていなくなったりしなかったしね。じゃ、ばいばい。ユーピアをよろしく」

「うん。ばいばい」


私がお別れの言葉を返すと狐面をとった女の子はこちらに向かって手を振って消えちゃった。

そして……。


「火傷。治ってよかったです」

「はい」

「あとは相手を見つけるだけですね。私みたいに最後まで一人でいる必要はないのですから」


ショーウお姉ちゃんのお師匠さんはそう言ってあっさりきえちゃった。


「最後は私への指導とは、はは、らしいですね……」

「そっちも終わったようじゃな」


ユーピア皇帝ちゃんはそう言ってショーウお姉ちゃんに近づいていって。


「……こういうこともあるのじゃな。夢か?」

「……夢でもいいのではないでしょうか。随分と気持ちが楽になりました」

「ああ、そうじゃな。鈴彦姫、礼を言うぞ」

「礼を言われることではありません、これは貴女様たちの必然。心弱きモノが過去に出会えばそのまま引きずり込まれることもありますれば。良き思い出にできるのは貴女様たちが強かったからこそ」

「うん、そうだよ。ユーピア皇帝ちゃんは優しいから」

「そうなのです。ショーウ姉様は頑張っているからご褒美が来たのです」


私とフィーリアちゃんがそういうと、みんな笑って……。


「そうね。だから沢山美味しいモノ買って帰りましょう」

「そうですね」

「うむ。カレーのいい匂いが漂っておるしのう」

「そうでしたね。今日は勘弁しておきましょう」


そうして私たちはみんなでまた屋台をめぐって楽しんでからお屋敷に戻ったのでした。



夜の夏祭りって非現実的なところがありますよね。

明るい所と暗いところ、喧騒と静けさがまじりあうその空間は不思議なところですよね。


とはいえ、ホラーの定番の場所でもあるので、迂闊にやらないようにしましょう。

神社などでの夏祭りではちゃんと礼儀を守って楽しみましょうね。

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