第1357堀:挨拶と作戦概要の説明
挨拶と作戦概要の説明
Side:エージル
カチャカチャ……。
そんな音を響かせつつ、私は自分の装備を確認していく。
隣のジェシカはすでに装備を終えているようで普通に佇んでいる。
「ジェシカは準備が早いね」
「マーリィ様と行動をしていると武器や鎧を装着する速度は大事でしたからね」
「ああ、納得」
あの戦闘馬鹿ならありそう。
対応力は物凄いんだけど、代わりについていく部下が大変というやつだ。
「しかし、僕はこうして装備を整えるのは久々だよ。ちょっと見てくれないか?」
「いいですよ」
ジェシカは僕の周りをまわって装備の確認をする。
「鎧の方は問題ないですね。しかし、白衣も今では相当な防具のはずでは?」
「うん。そうだよ。ナールジアさんに頼んだらフィーリアが作った繊維で編んでくれたよ」
そう、伝説の金属を糸のように軟性を持ったまま服にした優れもの。
ただの服でも通常の鎧よりもはるかに防御力があるという化け物装備。
それが僕たちの通常装備。
「ですよね。ならばなぜ鎧を?」
「それは意気込みだね。鎧を着こむから気合が入るってもんさ。ジェシカも同じでしょ?」
「ええ。なるほど、エージルもそういう気合の入れ方をするんですね」
「そりゃね。人数が多ければ後方でのんびりだけど、今回はそうもいかないからさ」
「……そうでした。ダンジョンマスターがいれば面倒なことになりかねませんからね」
「うん。最悪僕たちも前線に出る必要はあるからね。その時前衛を務めるのは僕たちの役目さ。あっちのカグラたちに任せられない」
僕は後方にいるカグラたちに視線を送るとジェシカも視線を向けて苦笑いをする。
なにせ、震えているのだ。
初めてってわけじゃないだろうに。
まあ、ダンジョンマスターがいるかもっていう情報があるから必要以上におびえているって所かな?
「あんたたち、さっさと着こみなさいよ。スティーブ将軍たちが目的地に到着するまでそんなに時間は無いのよ」
「わ、わかってるわよ。で、でも……」
「あはは、ちょ、ちょっと震えが……」
エノラに叱責されてはいるが、やはり怖いようで震えている。
あそこまでガチガチになっていると、下手に腰が引けて逆にピンチになりかねない。
やる気満々の猪突猛進も駄目なんだけど、あそこまでビビっているのもだめ。
さて、どうやって二人を正気に戻すか……。
「くぉら」
ゴンゴンッ。
「「!?!?」」
僕が動く前にそんな鈍い音と共にデリーユが現れていた。
どうやらげんこつを落としたようで、2人は頭を押さえてうずくまっている。
「まったく。ユキから頼むといわれておったが、最初からそんな状態でどうする」
「デ、デリーユさん」
「い、いたい~」
「戦闘になるから怖いのは分かるが、過剰に恐れる必要はない。ダンジョンマスターがいる可能性もあるが、スティーブが真っ先に拠点の構築をする。奪われないようにDPも大量に注ぎ込む予定じゃ。だから内部から崩れることはない。ダンジョンマスターが殴りこんできた時に真正面から殴り返せばいいだけじゃ」
そう言ってパンッと手の平に拳を叩き込む。
うん、武闘派魔王らしい意見だよ。
「デリーユの言う通り。って言ってすぐに落ち着けるわけはないだろうけど、時間までには冷静になっていなさい。そうすれば私たちがフォローできるから」
「ですね。戦場で落ち着き払うというのも何かおかしい気がしますが、若者のためともなれば恥ずべきことはありませんからね。メノウ殿、そして私を頼ってください。もちろん他のみんなもです」
外部からの援軍として派遣されるメノウとショーウは落ち着きはらっている。
ちなみに外部というのは嫁さんや身内じゃないってことね。
ディフェスたち聖剣使いたちは身内。
「ん。何も心配はいらない。状況がまずければ撤退もする」
「そうですわ。逃げ道も確保していて、ユキ様のバックアップもある。存分に今までの訓練の成果を見せるだけですわ」
なぜか、戦争の参加経験はそこまで多くないはずのクリーナとサマンサは思ったよりも肝が据わっている。
あれか、ユキと一緒に色々経験したからか?
「大丈夫ですよ。彼女たちはバイデでの防衛をしていたのです。いざとなれば冷静に振る舞います。敵対していた私が言うのです。信じてあげてください」
「「スタシア」」
スタシアも今回は気合を入れて鉄面を装備状態で顔が見えない。
それだけ気合を入れているということだろう。
そして、そのフォローで多少なりとも2人だけでなく周りの空気も軽くなった気がする。
実戦経験はあると改めて認識できたからだろうね。
さて、雰囲気も良くなったことだし……。
「よし、準備は整ったようだね。皆行くよ」
僕がそういうと全員頷いて、ユキの元に向かう。
ユキは会議室で待っていた。
そして大国の王たちもこちらを見ている。
というか、今回に限っては僕たちは大国からの援軍という立場になるんだよね。
あーあーユキの所に嫁に行ったのに、ここでも政治利用かと思うが、状況を考えると仕方がない。
どうしても、大国の援軍を待つ時間は無いからね。
そこら辺の常備兵とか即時対応軍の配備とかも今後は話し合ってほしいと思う。
「みんな体調不良とかはないか?」
「うん。全員問題なし」
僕が代表して答える。
一応将軍職に就いていたからね。
スタシアとジェシカが副将としての立場。
将軍としてなら、スタシアもふさわしいんだけど、そこは年功序列というやつで、僕の方がウィードのやり方に慣れているという事でみんなの指揮を預かることになっている。
普通ならここはセラリアがトップになるんだけど、今回はセラリアはこれの会議で残るし、他国からの援軍ということもあってウィードのメンバーは基本的に不参加だ。
何せ学校の運営があるからね。
まあ、デリーユとリーアという魔王と勇者のコンビが派遣されているからそれだけ心配しているっていうのは分かるけどね。
それで、ユキとの挨拶を済ませたあとは、各国の王たちに向かって。
「では、大陸間交流同盟を代表してリテアの救援に向かいます」
「うむ。だが、エージル。そして皆もユキ殿の妻であることは変わりない。無理はせぬようにな」
「「「はい」」」
エナーリア王からの言葉も珍しい。
まあ、僕が代表だし声をかけないわけもいかないか。
そのあとは、各々の王に挨拶をしたあと再び集合して、僕たちはスティーブたちの到着を待つばかりとなるが、一応作戦の概要を説明しておく必要はあるので、残った時間でブリーフィングを始める。
「さて、バタバタしているところだけど、作戦の説明をする。基本的に私たちは大陸間交流同盟の代表として援軍に行くわけだ。だけど、実際に前線にでて戦う可能性はほとんどない。ゲートが開通した時点で、僕たちだけじゃなくウィードから魔物軍の援軍を送り込んで防衛が始まるから、あくまでも私たちは後方で待機だ」
「え? それでいいの?」
ミコスは不思議そうに首を傾げている。
「いいんだよ。あくまでも僕たちは同盟としての援軍に立っただけで、本当に戦うわけじゃない。数だけで言えば戦力にもならないんだし、僕たちがケガをすればそれはそれで大問題なんだ。というかスティーブたちの方が対軍としては戦力があるしね」
何せ、スティーブたちは現代兵器使用が認められている。
迫撃砲をはじめとして、最悪は戦車や航空機もだ。
そんな中で私たちが前線に出るとか邪魔でしかない。
一応魔力のシールドで防御はできるけど、魔力無効化弾を撃たれるような場面になれば本当にどうしようもなくなるからね。
「じゃ、ダンジョンマスターが出てきた時は?」
「その時こそ僕たちは前に出ちゃいけないよ。その時はユキが会議をして対応を決める。まあ、スティーブたちからお願いがあれば動くぐらいだね」
「お飾り?」
「その認識でいいよ。とはいえ、いざという時に動けない戦えないは駄目だからちゃんと装備をしているんだよ」
援軍とは言うけど、そういう役割だ。
ミコスはなんだそれって感じだけど、世の中そういうもんだよ。
圧倒できる戦力があるのに、それを使わなくて被害拡大とか馬鹿のすることだからね。
それを避けるためにも命令を通しやすい身内だけで固めているっていうこともある。
「さて、作戦の内容は分かってもらえたと思うから、次は戦う場所についてだ」
僕は事前にユキから戦地の予定場所についてのデータと説明はして貰っているので、それをみんなに伝えることにする。
目の前に巨大な投影モニターをだして、地図を表示する。
「敵軍との遭遇予定地はここ。北の町から凡そ10キロ離れた地点の草原になる。周りには特に何もないけど、意外と地面の起伏が大きいから敵を見つけるのは難しいと思う。これを踏まえて……」
次に拠点と思える砦のイラストはある地点に置かれる。
「ここが一番標高の高い場所になる。スティーブたちは到着次第ここに拠点を形成して、敵と僕たちを迎え入れることになる。それで拠点の構造だけど」
拠点の図面を表示する。
内容はコンクリートで作られている頑丈な砦だ。
上空から見た形は星。
五稜郭という建物を見本にしている。
どこからでも敵の攻撃ができるという便利な構造だ。
まあ、航空戦力や大火力があれば意味がないんだけれど、今回は地上を進む歩兵だけの陸上部隊のみ。
大火力も持っている魔術師タイプはいないってことでこういうことになっている。
あ、もちろん接近する前に鉄条網やコンクリートの壁をたくさん出して足止めをするつもりではある。
「とまあ、正直な話。この砦に敵が大規模で取りついてきた時点で負けだね。スティーブたちの火力なら敵が近づく前に殲滅できるから、そういう意味で戦闘の心配はないってこと」
私がそう説明を終えるとメノウは手を上げてくる。
「なんだい?」
「この作戦ってさ、敵が北の町に向かっていることが前提よね? 砦を避けて進む可能性は? その場合は?」
「ああ、それも考慮している。迫撃砲の射程だけど、81mm、120mmで行うから最大射程は8キロもあるので、敵が砦からそれた場合は追いかけて撃ち込む予定。もちろん誘導も考えている」
スティーブたちの部隊が囮になって引き寄せる案と、ダンジョンの能力を使ってルートを制限するなど色々考えている。
「強力なダンジョンマスターがいた場合は砦の構築すらままならないから、前提条件の変更にはなるけど、町を襲った時点でDPの総量はそこまで多くないって見込んでいる。絶対ではないけどね」
とまあ、こんな感じで僕が説明をしているうちにスティーブたちが現場に到着したと連絡が来た。
さあ、頑張るか。
エージルはちゃんとリーダーとしも優秀です。
まあ、研究者としての才能の方がとびぬけているんだけど。