第1348堀:女の視点から
女の視点から
Side:ショーウ
「あー、飲みすぎた」
そんなことを言って、温泉を満喫しているのは、シーサイフォ王国から外交官として来ているメノウ殿。
普通であれば、なぜあなたがユキ様の自宅にいるのですかと問う所ですが、理由は別にあり、ユキ様やタイキ様、タイゾウ様と同じ出身だからなのです。
輪廻転生というやつで、前世の記憶、つまりユキ様たち地球での記憶があるというのです。
私からすれば胡散臭いことこの上ないのですが、ユキ様たちが間違いないと言っている以上私が何かを言うことはありません。
まあ、それを言ってしまえば、私もユキ様の自宅である旅館で同じように温泉に入っているので非難されて当然ですからね。
だから逆に考えるようにしています。
ユキ様たちからは得られない地球の知識などをメノウ殿から引き出せないかと。
もちろん、無理になどはしませんとも、対価を支払わなければ後でユキ様たちの評価が落ちるのは目に見えていますから。
そんなことを考えつつメノウ殿を見ていると、こちらの視線に気がついたのかこちらに振り向いて。
「なんかへん?」
「いえ。随分満喫しているなと思いまして。一応、ここは国主の住まいですから」
「あー」
私の指摘で思い出しような顔をして、笑いながら……。
「あはは、確かにそうだった。でも、旅館じゃね~。まあ格式はあるって感じだけど、内装はどこにでもあるあるって感じだし」
「そうなのですか? 私にとっては驚愕の内装でしたが?」
質の良い木々をこれでもかと組み合わせた和風の建築、趣のある暖かな作り。
石での建築が多い我がズラブル帝国ではこういうつくりの家屋は珍しいのです。
「確かに、ズラブル帝国じゃ珍しいわね。もちろんシーサイフォ王国でも」
「ん? ではどちらで?」
「ああ、日本よ。日本。私が懇意にしている理由は知っているでしょ」
「ええ。つまり、日本では旅館はありふれたものだということですか?」
「そうよ。作りは旅館で様々だけどベースは大体一緒ね。あ、設備に関してここは贅沢極まりないけど」
どうやら設備に関してはユキ様の自宅が一番らしい。
まあ、それぐらいではないと国主の家として問題はありそうですが。
と、そこはいいとしてせっかく話をしているのです。
この際色々聞いてみましょう。
「良ければ、日本のことを伺ってよろしいでしょうか?」
「日本のこと?」
「ええ。異世界、地球にある平和な国というのは伺っています。多少文化についてもうかがってはいますが、あくまでもユキ様やタイキ様、タイゾウ様からなので、女性からの視点というのを」
「あー、なるほどね。そういうのはあるかもね」
メノウ殿は納得してくれたようです。
よし、まあ、警戒をしていないのも考え物ですが、そこはこの場所に呼ばれた信頼ある者同士ということにしましょう。
そう思っていると。
「何か面白そうな話をしていますね」
「ルルア」
気がつけばルルアが近くに来ていました。
隠している話ではないので、私はそのままルルアだけでなくミリー殿たちもと思って声をかけます。
「ええ。女性視点での日本を聞きたいと思いまして、ミリーたちもどうですか?」
すると、のびのび入っていたミリーたちも興味が引かれたのか周りに集まってきます。
「聞きたいですね。ねえ、エリス?」
「ええ。ユキさんの話は確かに男性視点だからね」
「いい情報がありそうです。昨日は飲んでだらだらするのがメインでしたからね。今日はそういうのがあってもいいでしょう」
「だねー。ラッツの言うように昨日は飲みすぎた感があるし」
確かにラッツやリーアの言うように、昨日は日ごろの疲れをねぎらうことを優先して飲みに食べてしまいましたからね。
普段彼女たちがどれだけ仕事が忙しいのか、というのが伺える状況でした。
昨日の時点でこういうことも話したかったのですが、全然だったんですよね。
まあ、何が欲しい、買いたい、したいというのが分かったのでありがたいことですが。
後日、そういうところからプレゼントをして攻めようと思っております。
さて、そこはいいとしてあとはメノウ殿が話してくれるかどうかですが……。
「別に私はいいけど、ミリーたちはユキたちと夜食事会でしょ? 準備とかいいの?」
ああ、確かに。
今日の夜は昨日からバラバラに行動していたウィードメンバーが合流してお祝いの打ち上げをやる予定でしたね。
なぜか私もそれに呼ばれていますが。
まあ、身内と認められているという感じで嬉しいのですが。
と、そこはいいとして、準備はいいのでしょうか?
確かにユキ様の家族や身内といってもそれなりの人数がいます。
使用人に任せれば問題はないのですが、ユキ様たちはこういうことは自分たちでやるのが趣味なようで、準備は自分たちでしないといけないのです。
つまり、メノウの言う通り準備の時間はいるはずなのですが……。
「ああ、大丈夫。昨日焼き鳥とか作って保管してるから」
そう言ってミリーは出来立てほやほやの焼き鳥が乗ったお皿をアイテムボックスから取り出して見せます。
「ええ、そうです。というか、人数が多いですからねこういう風にしないと足りないんですよ」
エリスの説明でなるほどと思いましたが、貴重な時間停止のアイテムボックスをこうも簡単に見せられるのも驚きですが、美味しいご飯を保管するために使っているのにも驚きです。
いえ、合理的ではあるのですが、アイテムボックスは本当に貴重品などを入れていることが多いので、食べ物というのはなかなかないんですよね。
「じゃ、大丈夫なわけね。こっちもお土産は渡しているし大丈夫か」
「ですね」
もちろん私たちが手ぶらなわけがありません。
一応個人的な食事会ではありますが、面々はウィードの重鎮たちですからね。
ちゃんとユーピア陛下からしっかり努めて来いと言われております。
本音を言えば、自分が参加したかったといっていますが、流石にそれは無理がすぎますので我慢してもらいました。
ちゃんとアスリン殿たちにお土産を頼んでおいたのでそれで納得してもらいましょう。
「なら、お風呂から上がってのんびり涼みながら話そうか」
というメノウの言葉で私たちはお風呂から上がってゆっくりしながら話を聞くことになりました。
「でも、日本のことを話せって言われても何から話すべきかしら?」
メノウが少し首をかしげならそう聞いてくる。
「そうですね。女性視点でお願いしたことですから、まずは服とかですかね?」
「服か~。なら、この手合いね」
メノウはそういうなり、アイテムボックスから日本の複数雑誌を取り出します。
「これってミコスが参考にしているファッション雑誌ですね」
「ええ。というか、私が基本的におすすめしているわね」
「いつ見ても何というか、デザイナーというのがすごいのが分かりますね~」
「というか、モデルがいいんですね」
「あ、この帽子かわいい」
そんなことを言いながら雑誌を見て楽しそうにするルルアたちですが、私は一冊手に取ってそれを読んで改めて内心驚きです。
パソコンやタブレットを使って作っていると想像できますが、これほど人に魅せるという配置を考えて本を作っているというのがありえないほど驚いてしまいます。
ルルアが言ったようにミコス殿が見本にして作っているというのは分かりますが、その差は雲泥の差です。
どうしても、こちらに軍配が上がります。
情報量、デザインなどなど、それだけ基礎が違うというのが分かります。
これが誰にでも読める価格で提供され、月一ペースで刊行など正気の沙汰ではありません。
ですが、それが可能になっている社会が日本、そして地球という場所です。
ルルアからは医学の本などは読ませてもらっていますが、こういう雑誌であっても私にとっては貴重なものです。
服のデザインだけでも、新しい流行を作ることも可能でしょう。
貴族というのは新しいものが好きですからね。
そんな風に考えていると……。
「あとは、化粧水、お肌の保護も大事よね」
「ですね。肌へのアレルギーを抑えたものの開発はなかなか難しいですけど」
「ふむ。どう難しいのですか? 私としてもお肌の手入れは気になるところです」
私にとっても聞き逃せない話が出てきました。
お肌の手入れ。
女性ならいつまでも若い瑞々しい肌の方がいいに決まっています。
ユーピア陛下は神の呪いのおかげでいつもぷにぷにですが、私はそうもいかないのです。
ちょっと前までは、傷のおかげでそこまで気を使っていませんでしたが、今は違いますから。
そして、私の様子に。
「ショーウ、肌で痛いところでもあるのか?」
「あ、いえ。ようやく普通に過ごせるようになったので、多少はそういうモノに興味が出てきたのです。昔は火傷のこともあって化粧すらあまりしていませんでしたから」
すぐとは言いませんが、当時火傷の痛みなどでの脂汗で化粧が剥がれますからね。
何より男性に良く見える必要もなかったので無視していたのですが、今ではそういうわけにもいかなくなりました。
ようやく女としての自覚が出てきたというわけです。
それを周りは理解したようで……。
「じゃ、これとかどう? 意外と合うわよ」
「お化粧とかは実際見てみた方がいいですね」
「服も合わせて見繕ってみたらどうですか?」
「それがいいです。すぐに取り寄せできますし」
「あ、それなら私も取り寄せようかな? 新しいの欲しいし」
ということで、私は女性が買うモノに対しての知識を仕入れるのでした。
さて、これはズラブルの貴婦人たちが喜びそうな話ですね。
意外と今までお肌ケア関係の話は出ていませんでした。
こうしてメノウは日本人女性としての立場ができました。
そしてショーウとの関係性も深くなります。
いやー、化粧品とか男はさっぱりだからね。