第1331堀:鍛冶バカ妖精
鍛冶バカ妖精
Side:ナールジア
最近世間は騒がしいですね。
まあ、悪い意味で騒がしくないのでいいことなんですが。
戦争とかになると、私たちの確保に走る愚か者たちが多いので本当にこまるのですが、今回の騒がしさは留学生制度が始まったことに関してです。
色々な文化や価値観、そして技術の流入が始まり多くの人がその流れに乗っていろいろなものを得ようと画策、あるいは好奇心につき動かされているという状況です。
「ま、私もその1人なんですけど」
私はそういいながら、取り寄せたズラブル帝国で販売している刀剣、装飾品、魔道具をテーブルに置いて調査をしています。
最近はユキさんたちの動きが激しすぎて、サポートに回ることがおおくてこういう時間がなかなか取れませんでしたからね。
超技術と知識を吸収するいい機会だったのでそこまで苦痛ではなかったのですが、やはりこういう新しい技術や文化の象徴ともいえる物品を見るのはとても楽しいモノです。
とはいえ……。
私は一つの刀剣を手に取り確認します。
もちろん魔術による解析も行いますが……。
「分子のレベルでは粗が目立ちますね。まあ、当然といえば当然なのですが鋳造と魔術ではこれが限界ですね」
ズラブル大帝国での大量生産の主流は鋳造。
型に鉄を流し込むだけ。
まあ、当然の方法ではあるんですが、どうしても面白みに欠けます。
もちろん研ぎなどで見るべき点はありますが、技術としてはやはりウィードに比べると数段落ちます。
いえ、全部が全部鋳造というわけではありません。
私はもう一つの剣を手に取って確認します。
それは鍛造で作られたロングソード。
しかも有名鍛冶師によって打たれた一品もの。
価格としてはやはり一品ものであり著名な人物が作ったということで、一般の人の収入では手が届かないレベルの物です。
素材からしても貴重なモノを使っているのですが……。
「いい物ではありますが、やはり日本刀には及びませんね」
そう、私が望む完成型ともいえる日本刀。
まあ、日本刀についてもかなり種類がありますのが、私が好きなのは馬上で使う太刀、あるいは近接用の打刀です。
あの硬い鉄と柔らかい鉄を組み合わせるという発想。
そして何度も折り返し打ち重ねる技術に及ぶものはいまだに出会っていません。
「……今の時代。遠距離で決着だというのに。好きですねぇ」
と、後ろから声を掛けられて振り返るとそこにはザーギスさんが立っています。
私たち研究室の所長をしている方でもあり、リリアーナさんのもとで四天王という役職を担っていた方でもあります。
「とりあえず、頼まれていたアイスです」
彼は昼食を買うと言っていたのでついでに頼んでいたアイスを無事に買ってきたようです。
「ありがとうございます」
私はお礼を言いつつ受け取りさっそくアイス専用の冷凍庫に保管してから、食べても良いアイスを取り出してふたを開け、アイスを食べることにします。
ザーギスさんはその様子を見ながら苦笑いをして……。
「本当にアイスが好きですね」
「美味しいですから」
この食べ物と出会った時の衝撃ときたら。
以来、いろんなメーカーのアイスを食べてきましたがやはり一番はハーゲン〇ッツですね。
と、そこで誤魔化されてはいけません。
先ほどの話を詰めなくては。
「で、先ほどの発言は何でしょうか? 遠距離がメインだと近接が必要ないと?」
「不要だとはいいませんが、必要性は減るでしょう。何せ、使い手により性能が上下の幅が大きい近接武器はメインで使うには不向きです」
「確かにザーギスさんの意見はわかりますが、それは銃器にも言えることです」
そう、銃だって練習の果てに使いこなせる物です。
いえ、むしろ振りまわせば目標を攻撃できるものと違って、照準を合わせて引き金を引く。
そういう動作をしなければいけないのですから、剣よりもある意味難しいと言っていいでしょう。
さらに装弾や整備などを考えると、複雑さは剣よりもはるかに上です。
「それは認めますが、威力については誰が使っても変わりがありません。剣や近接武器のように達人になる必要性はありません。ただ狙いを定めて撃つだけで不可避で行動不能になる攻撃が放たれます。近接になる必要がない状況において、遠距離で敵を倒すというのは当たり前の戦術だと言っているのです。それはナールジアさんもよくご存じでしょう?」
「むう」
流石にそういわれると、私は言い返せない。
確かに、地球の戦法をなぞっているウィードにとって近接戦闘というのは狭い屋内を想定でしかないのです。
距離さえあれば、銃弾をぶち込むのが最適解。
銃の威力の前には薄い鎧など意味を成しませんし。
「ですが、やはり近接武器はロマンがあるんです。日本でもいまだに剣道や柔道、空手などやっているんですから」
「ロマンは認めます。その日本刀、打刀の製造など、本当に常識を疑うようなレベルの鍛造ですからね」
「でしょう?」
「魔術もなくそのようなものを作り上げる技術。そして込められている魂には目を見張るものがあります」
「ですよね!!」
なんだかんだと言いつつ、ザーギスさんも良い物悪い物は区別がつくのです。
「それで、机の上に置いているのはたしかズラブルの品々でしたか?」
「はい。向こうの技術力を確認するために数十点取り寄せてもらったのですが、どう思いますか?」
私がそういうとザーギスさんは鋳造の剣を手に取って少し目を細め見つめると、すぐに視線を外し。
「まあ、この程度でしょうね。細工に関しては文化による違いがあるのでいい悪いはわかりませんが、武器に関しては、そうとしか言いようがないです」
「残念ですよね。いつか刀を超える武器が出てくるといいんですが」
「なかなか難しいことを。そもそもナールジアさんが魔術と合わせて新型の刀は用意しているでしょう。メインはセラリア様とラビリスでしたか?」
「ええ。二人にはよくよく協力してもらっています。ですが、やはり何か違うのです。斬撃が飛ぶとか、切れ味が尋常じゃないというのはありますが、それは魔術での増幅なのです。一人の鍛冶師として刀を超える武器が作りたいんです」
「……気持ちは分かりましたが、なかなか難題ですね。構想などはあるんですか?」
「いえ、考えれば考えるほど、日本刀の形状が近接武器としては最適だと至るのです」
「でしょうね。これ以上に斬るということに適した武器はないですから」
そう、新しい武器を作るために刀を調べれば調べるほど、これ以上なものなどないという結論になるんですよね。
まあ強度とかを考えると、タノワールなどの曲刀などもあるんですが、あれは叩き切るという分類になるので美学に反するのです。
などと思っていると再び研究室の扉が開いて……。
「よう。今日も楽しそうだな」
ユキさんたちが入ってきました。
「えーと、何か約束ありましたっけ?」
私の記憶の限りでは今日は特に会う約束などはしていないはずです。
そうなると……。
「コヴィルに何かありましたか?」
コヴィルというのは現在の妖精族の代表を務めている子で、ユキさんの弟であるキユさんの妻にもなっている子です。
最近はその結婚をして活発な子だったのは成りを潜めているはずですが……。
「いや、コヴィルはキユと仲良くウィード内で情報集めているよ。まあ、ラーメン臭いって文句はあるけどな」
「豚骨のにおいって染みつきますからね~。でも美味しいんですよね~」
アイスの次の次の次ぐらいに好物と言っていいでしょう。
コヴィルはラーメン屋の屋台をキユさんとしていて、そこで情報収集をしているのです。
まあ、ユキさんが新婚夫婦を危険にさらすのを嫌がってというのが事実でしょうけどね。
「しかし、コヴィルでないとなるとどういったご用件でしょうか? 特に依頼されている武器とかはなかったはずですが? ああ、私ではなくザーギスさんに?」
別に私が目的ではないとそこで気がついた。
私と違ってザーギスさんは魔力の研究も専門でしているので、魔力枯渇現象に関連する仕事を請け負っているかもしれない。
まあ、私も多少は関わっているのですが、私のメインは武器とか魔道具ですし、その手の仕事はザーギスさんがトップなんで。
「いえ、私の方は今すぐのような仕事はないはずですが? 何かありましたか?」
「いや、ザーギスに用事じゃなくてナールジアさんに質問があって来たんだ」
「私にですか? 何か武具に不具合でも?」
私に対して用事となると武具などのフィッティングでしょうか?
武具というのは常日頃の整備が大事です。
永遠に劣化しないものなどないのですから。
特に敵を倒すために荒い使い方をする武具は劣化が激しくメンテを怠ると思わぬ危険にさらされます。
なので、そこらへんはユキさんたちには厳しく言い聞かせているので、ちょくちょくメンテに来ます。
特にアスリンちゃん、シェーラちゃん、ラビリスちゃん、ヴィリアちゃん、ヒイロちゃん、ドレッサちゃんはよくきて調整をしますね。
育ち盛りですから。
ちなみにフィーリアちゃんは一緒に仕事をしているので、その時にやっています。
「そっちじゃなくて、精霊について話が聞きたい」
「精霊ですか? また珍しい」
思わぬ言葉を聞いて私は驚いてしまいます。
あれらは、めったに見えないもので、どうにかできるようなものでもないのですが……。
「ナールジアさんは読みましたか? 希少種族に対しての告知を」
「ん~? ああ、珍しい種族を保護するために種族の容姿や特徴をしっかり伝えるというというやつですね。それで、精霊たちも?」
「まあ、そういうことです。ですが、俺たちのように群れているわけでもないですし、属性で姿かたちが違うとも聞きます。実際この森の精霊とかはパッと見た目は御老人の姿ですし、なんと説明したものかと思いました」
「なるほど」
確かに精霊のことを説明しようにも属性によって千差万別ともいうべき存在ですし。
何と言えばいいのか……。
そう悩んでいると、ザーギスさんが思い出したように。
「ユキ。そういえばなんで今更ナールジアさんにお話を聞きに? そういうお話であれば、彼女よりも最適な人がいそうですが?」
「ああ、そういえば確かに。誰から私を?」
精霊と妖精が近しい存在だと知っているのはそんなにいないはずです。
いえ、ユキさんに色々聞かれたときに言ったかもしれませんが、私はあくまでもそういうさわりを知っているレベルなのでって思ってたんですけど?
「ああ、ミヤビ女王からだ。妖精族は精霊に近しい存在だから自分たちに聞くよりよっぽど信ぴょう性があるんじゃないかってな。あと、聖女の泉にいる精霊に会う時に同行してほしいって話だ」
そういうことでしたか。
まあ、そういわれるとそうかもしれません。
とりあえず、私は改めて居住まいを正して話を始めることにします。
ナールジアさんはいつも変わらずこんな感じです。
まあ、仕事はちゃんとするので良しとしましょう。




