第1328堀:魔族としての立場
魔族としての立場
Side:ユキ
俺は只今元魔王城、ラスト王国王城に訪問していて、リュシの件を伝えていた。
まだ調査中ではあるが、この問題がウィードだけとは思えないからな。
もちろん、ロシュール、ガルツには連絡を入れて調査を開始してもらっている。
国際捜査隊が動き出しているわけだ。
だが、この事件に関係のない国々にもこの話は伝えている。
そういう馬鹿が動いている可能性があるってな。
まあ、実際には反ウィード連合っていう組織があるようだが、そこら辺のつながりはわかっていない。
そして、その話を聞いたリリアーナとレーイアというと……。
「……そこまでの搦め手をするものですか?」
と、考え込みながらも眉を八の字にして不快感を表している。
まあ、説明のためにこっちも書類をだしたからな、リュシのあの写真はもちろんほかの拷問を受けた人たちの写真も残っている。
「うーん。デキラとかならやりそうだよな。あいつはこういう搦め手はよくやってたし」
レーイアの方も写真をみて顔をしかめつつも、ありえると肯定する。
ラスト王国がデキラに占領されていた時はスラム住まいの魔族たちが随分不遇な扱いを受けていた過去があるからな。
まあ、そこはルーメルの勇者たちとおまけがどうにかしてはいたが。
「確かにあのごみも同じようなことはしていましたね。……ですが、ウィードの力を削ぐために?」
「いや、そこはまだ確定したわけじゃない。ただ単に領土拡大の可能性もある」
「ああ、その成果の代わりに金銭を闇ギルドが受け取ると」
「そういうこと。盗賊が商品である奴隷を村長たちと結託してたとはいえ、あそこまでする必要性を感じないからな」
「まあ、売れないだろうしな。となると盗賊はどうやって食いつないでたかってことになるか」
「その通り。ってリリアーナはともかく、レーイアも他国の習慣に詳しいな」
「そりゃこれでも他国の調査はしていたからな。各国の動きを見て警戒はしていたぞ。これでも四天王だからな」
と、大きな胸を張る。
ルルアを超えるレベルだから見ごたえはあるんだが、やはり思うことは重くないか?である。
いやそうじゃない。
このレーイアは真の黒と書いてしんこくと呼ぶ二つ名を持つ四天王だったりする。
なんの冗談だよと思うが事実だ。
魔王城では四天王という立場の者が魔王に次ぐ権力者であり、うちにいるザーギスもその四天王の一人だった。
だから、その四天王の立場の者として外の国、つまり魔王国を囲むロシュール、ガルツ、ルーメル、リテアの調査を行っていたというわけだ。
まあ、なんで四天王本人が行くんだよと組織的に突っ込みたい気持ちもあるが、そこは黙っておくべきだな。
「盗賊の裏に大きな組織がいて盗賊が下請けをしていたとしか考えられない状況ですね。ほかの被害に関しては?」
「それがさっぱり盗賊が潜んでいたアジトにしても、人が近寄らないっていうのはどこも同じだろうが、地方すぎて旅人がめったに通らないような場所だ。金目の物を盗るならもっと別の場所があるだろうしな」
「調べれば調べるほど怪しいってことか。じゃ、ガルツ側の領主とか村長を締め上げるのは?」
「そこまですると越権行為だし、2国ともいまだに盗賊行為としか思っていない。だからこその国際調査隊ってことだ」
「なるほど。今までは国境での活動は戦争の意志ありとして好まれた行動ではなかったですからね。そこが空白地帯となっているわけですが、今回のことで空白地でよからぬことを考えているが発覚したわけですか」
「しかも、下手をすると領主との癒着があるかもか……。面倒極まりないな。って待て、そういえば当初はユキの御用達の商人のところに奴隷を売りつけるって予定だったんだ。それを考えると余計偶然って言い切るにはおかしいよな。というか、その予定を考えると助けた奴隷たちって安全なのか?」
おお、そこに気が付くか。
そう、ここで問題になってくるのは保護をした非合法の奴隷たちだ。
もちろんリュシも含まれる。
「確かに、もともと奴隷を買い取らせる予定だったのですから、反ウィード連合としてはその奴隷たちに何か仕込みをした方がいいのでは?」
リリアーナの言う通り、意図的に非合法奴隷を俺たちに預けようとしていたのなら、警戒するべきはその奴隷たちだ。
反ウィード連合に催眠術、あるいは言い聞かせで洗脳してもいい。
俺たちウィードが君たち奴隷を作っていると盗賊を通じて教えるだけでいいからな。
そこで恨みをはぐくんで、その恨みをウィードで晴らす。
だが……。
「リリアーナとレーイアの言う心配はこっちもしていた。だが、リュシもそうだが、助けた非合法奴隷たちはお礼は言っても、こっちに襲い掛かるようなことはなかった。かれこれひと月は経っているけどな」
「期間としてはまだ短いです」
「そういうのはここぞというときにやるもんだからな。それがわかってないとも思えないが」
「ああ、まあ二人の言うことはわかるけど、それはプロであればだ」
「「あ」」
俺の言いたいことが伝わったのか、2人は思い出したような顔をしている。
「恨みを持って耐え忍んでここぞという時にっていうのは、よほど一族とかで教育していないと無理だ。しかもいくらウィードが原因だと言われてても、助けられて治療されて家を用意されていると恨みは抱きにくい。何より、ウィードを恨む前に村の方が怪しいと思うだろう?」
「確かにその通りですね。訓練された兵士ですら助けられた相手に敵対意思を保つのは難しいものです」
「それを村人だしな。そして村長たちから売られたも同然と。そりゃ信じるもくそもないな」
「だろ? まあ警戒は必要だけど、今のところそういう動きはない」
そこで一息入れてお茶を飲んでのどを潤してから……。
「ま、これが今のところこっちが直面していることだ。今のところラスト王国の方はそういう被害はないみたいだな」
「はい。こちらの方は盗賊自体がそもそも少ないどころかいないもので」
「普通に森にいれば魔物に食われるからな」
ラスト王国はもともと山と森に囲まれ、強力な魔物が徘徊する天然の要塞都市だ。
そして何よりもともと国交がなく盗賊が襲う相手がいないのだ。
だから、盗賊がはびこる理由がないということではあるが……。
「それはよかった。だが、最近は道を整備しているだろうし、魔族の有用性は認められているから奴隷にしようとする連中がいないとも限らないから気を付けてくれ」
「はい。そこは注意をしています。下手に奴隷にされて他国を襲えば魔族のせいにされかねませんからね」
「そこは4大国に連絡いれてる。今までその手合いがゼロってわけじゃなかったしな」
「ああ、もうそういうのがあったのか?」
俺にとって初耳の情報だった。
魔族が捕まったとかマジか。
「未遂レベルです。戦士の奴隷化はなかったのですが、最近ルーメルに観光に行った親子が騙されて奴隷化されて売り出されそうになったところ、税務官部長のキシュアさんが査察にきて発見したようです」
「キシュア? って魔剣使いのじゃないよな?」
「ん? ああ、そう言えば同名だったな。性格は全然違うぞ。ルーメルのキシュアは生真面目だ。魔剣使いのキシュアは男っぽいよな。って、よく考えれば容姿も似ているな」
「そういえば不思議ですね」
「ああ、世界には3人似た人がいるってやつか」
キシュアに今度伝えてみるか?
そんなことを考えていると、不意に時計が目に入りいい時間になっていることに気が付く。
「長話が過ぎたな。ま、そういうことで国際捜査組織が動くことになる。ラスト王国の方からも選出して貢献しておくと便利だろう」
「わかりました。話が来ればですが、なぜ今のところラスト王国に連絡がないのでしょうか?」
「魔族ってだけで目立つからな。そこらへん悩んでる」
今回の国際調査隊でラスト王国の招集がなかったのはそういうことだ。
魔族は特徴的であり、その種族自体が珍しくロガリ大陸でしか存在していない。
捜査という点ではそぐわないのだ。
まあ、姿を変える魔術もあるが、そこに予算を割くべきか?って話もある。
もちろん捜査だからそういうのを常備して当然だろうという意見もあるが、まあそこらへんは有限の予算をどう振り分けるかって話になっている。
「ああ。なるほど」
「捜査向きじゃないよなー。なら、制圧用の部隊ってのはどうだ?」
2人とも俺の言いたいことが分かったのか納得しているが、連絡しなかったのは失敗だな。
大陸間交流同盟としては仲間外れに見えるし、ラスト王国から抗議されればこっちが悪いとしか言えない。
まあ、それは反省点として……。
「そこらへんは相談だな。軍以外に治安維持以外のための組織制圧戦力をもつことが許されるかって話になる。しかも国際的に動けるとなると……」
「そう簡単に行きませんね。とりあえず、こちらから打診して書類仕事でもと言っておきます」
「ああ、それぐらいがいいだろうな。後方支援でも役に立つし」
調査に出るだけが仕事ではない。
裏で色々手続きが必要にもなる。
そういう縁の下の力持ちもいるわけだから、そういう人材がいてもいいだろう。
……ま、逆に考えると後ろを魔族に牛耳られると感じる連中もいるだろうが。
ほんとそこらへんのバランスって難しいよな。
そんなことを考えながら席を立つ。
「じゃ、今日はこれで戻る」
「はい。情報ありがとうございました」
「フィオラ、オレリア、ホービスにヤユイだったか? 今度遊びに来い。それかウィードの牧場に来るか?」
「「「?」」」
別れ際にフィオラたちはレーイアの誘いに首をかしげることになる。
ああ、そういえばそっちも知らなかったよな。
「レーイアはウィードにつかまったときに、しばらく牧場を運営してたんだよ。今もオーナーとしてちょくちょく来ている」
「レーイアの育てた牛の牛乳って美味しいんだよ」
「ん。だが胸は大きくならなかった」
「あはは……。それは残念ですね」
「いや、流石に胸が大きくなる牛乳とかないぞ。クリーナ」
「ん。それは理解した。だけどレーイアは大きい。その秘密がきっとある」
最後にクリーナはいまだに自分の胸を気にしていることが分かった。
ちなみにヤユイも自分の胸に手を当てていたのだが、雇用主としてはどうするのが正しいんだろうな……。
魔族も魔族で色々忙しいようです。
まあ、珍しい種族の筆頭ではあるからね。
ひとまずリリアーナもレーイアも元気そうで何よりです。
エルジュはどうやらほかの用事でいなかったようです。




