第1327堀:そっちの交渉は?
そっちの交渉は?
Side:リーア
私は久々にラスト城の待合室でリリアーナたちを待っている。
初めての時は変態を倒した時。
その後はリリアーナやエルジュとお茶とかお話をするため。
最近は色々忙しくてこっちに来ることはないから、新鮮な感じ。
多少模様替えしたかな?って調度品を見てそう思う。
普通なら、このままリリアーナやエルジュ、レーイアとお茶会なんだけど、今日はユキさんの護衛できているから、そういうのはまた今度かな?
そんなことを考えていると、顔がこわばっているフィオラやオレリアたちが視界に入る。
何でだろうと思って話を聞くことにする。
「どうしたの? なんかみんな表情が硬いけど?」
「あ、えっと……」
と、フィオラたちは何と答えていいのかわからない表情になる。
すると……。
「リーア。ここは元魔王城。読み物では難攻不落の城であり、強大な魔王が君臨する場所で人の生存は認められない所。そして何よりフィオラたちはその魔王の存在を実際に感じていたロガリ大陸の人たち。私たちとは、この城に立つという意味合いが全く違う」
そうクリーナが説明してくれる。
「あー……」
そういうことか。
確かにここは元魔王城。
このロガリ大陸にすむ人たちにとっては数年前までは、この城にどうやって攻め入りて魔王を倒すのかって話で一杯だった。
まあ、領土争いをしている国も沢山あったんだけどね。
「ま、緊張するなとは言わないが、リリアーナとはもう会ったことがあるよな?」
「はい。ありますが、こうしておとぎ話で語られた場所にいるというのは……」
「なんというか色々な意味で緊張しています」
「そうです~」
「は、はい」
そんな感じでフィオラ、オレリア、ホービス、ヤユイは緊張している。
うーん、どうにかできないかなとクリーナに視線を向けるが、首を横に振って。
「慣れろといって慣れる物じゃない。時間が解決する。リーアだってここに初めて踏み込んだ時は緊張していたはず」
「確かに緊張してたかも。私が切り札だって言われてたし」
「あの時はデキラがどんな能力を持っているかわからなかったからな。勇者であるリーアが要だった。まあ、そういう心配はなかったな。って、思い出した。リーアの緊張が解けたのは、デキラがリリアーナのパ……」
そう言いかけたユキさんの言葉を遮るように……。
「ユキさん。それ以上は駄目ですよ?」
と、リリアーナが笑顔でやって来た。
杖を構えていていつでも撃つぞって感じだ。
まあ、あのレベルじゃユキさんは傷つかないし、何よりリリアーナがユキさんを攻撃するわけがないから私もクリーナも身構えることすらしなかったんだけど、フィオラたちは違ったようで。
「な、なにを!?」
「お、落ち着いてください!」
「そうですよ~。平和が一番です~!」
「ぶ、武器をおろしてください!」
全員ユキさんの前に立って防御態勢をとっている。
正直におーって思った。
ちゃんとユキさんの盾になってる。
「ん。護衛として素晴らしい」
「だね」
クリーナもその動きを褒めている。
だけど……。
「えーと、ごめんなさい。この程度のことは挨拶みたいなものですよ?」
「ユキも悪い。女性に対してデリカシーがない」
リリアーナはフィオラたちの動きに苦笑いをしている。
そしてレーイアがユキさんに対して非難をする。
確かにさっきのはユキさんが悪い。
私もあのことは思い出したくないし。
「悪い悪い。フィオラ、オレリア、ホービス、ヤユイ。大丈夫だから構えを解け」
「「「……はい」」」
しぶしぶという感じでフィオラたちは迎撃態勢を解く。
やっぱりこの場所がそうさせてるのかな?
そう思いつつ……。
「やっほー、リリアーナ、レーイア」
「ん。元気そう」
「はい。リーアさんもクリーナさんも元気そうでなによりです」
「おう。2人ともいつものようでよかった」
とりあえず、私とクリーナはリリアーナとレーイアと普通に挨拶をする。
敵じゃないよって私たちで示さないとね。
2人もその意図が伝わったようでこちらに合わせてくる。
まあ、もともとリリアーナたちとは仲良しだけど。
そんなことを挟みつつ、リリアーナは私たちの向かいに座って……。
「では、改めてようこそおいでくださいましたユキ殿。ラスト王国の女王として歓迎いたします」
「丁寧なお出迎え感謝いたします」
お互いちゃんと国の代表者としての挨拶を交わす。
私としては面倒だと思うんだけど、これは必要なことなんだって。
で、挨拶が終わったと思ったら……。
「で、さっそく訪問した理由について話したいんだが……」
「そうですね。時間に余裕があるわけではないので手早く済ませましょう」
そんな風に切り替えるなら、その挨拶は抜きでいいんじゃないかな~って思うのはだめ?
「希少種族の調査については、まだ交渉中の段階です。なにせもともと交流がそこまでなかったので、こちらの話を警戒している節があります」
「ま、当然だな。とはいえ、留学生制度は待ってくれない。もうテストもほぼ終わって、予定を前倒しして始めようかという意見がちらほら出ている」
「それは喜ばしいことですね。ですが希少種族との交渉は間に合いませんね」
「間に合わないか」
「はい」
はっきりとそう告げるリリアーナ。
ここまで無理って言い切るのは凄いなーと思う。
「ユキさんが理解してないとは思いませんが、こういう種族間の交渉は数ヶ月程度で終わるモノではありません。積み重ねが大事なのです。数年、あるいは何十年とかけて信頼を築くものです」
言っていることはわかる。
個人的に友達になる人はいても、村全体から信頼されるかっていうと別問題だしね。
と、思っていると、レーイアがテーブルに書類を置く。
「ですが友人がいないというわけでもありません。彼女からある程度情報を引き出してはいますので、こちらで各国に注意を促してくれればと思います」
「彼女っていうと女性か」
「はい」
「書類は今見ても?」
「大丈夫です」
ユキさんは書類を手に取ってさっと目を通すと、私に書類を渡してくる。
なので私も書類に目を通していると、そこには写真付きで宝石族の人らしき人物が写真に写っている。
白くて長い髪を腰どころか太もも付近まで伸ばした肌の白い女性が映っている。
額にはダイヤモンドみたいな石がついている。
「ん。うつ伏せで寝るとき、額が痛そう」
「そうだね」
クリーナの的外れな感想に私も思わずうなずいてしまう。
だって、おでこから飛び出ているんだし、そこに接触するとすごい痛いよね?
「ああ、それは大丈夫だ。宝石族はうつ伏せで寝ない。痛いから」
「だろうな。ま、ここに大体記載はあるからこれで行けるか。ほかに隠していることとかあるか?」
「あるかもしれませんが、聞き出せていません。今お渡しした情報で各国に注意喚起をしてください。それ以外の相手を捕まえても処罰はできないことは伝えています」
「相手に伝えているならいいか。まあ、トラブルは起こったときに対処するしかないからな」
「ええ。今できることはそれぐらいです」
うーん、毎回のことでわかるんだけど、一回の話し合いですべて解決ってわけにはいかないよね。
「引き続き、希少種族とは仲良くしてくれ。そっちも上空から魔術爆撃は受けたくないだろう?」
「それはもちろん。これかも交渉は続けていきます。まあ、最近はウィードから甘味などがあって効いていますよ」
「甘い物が好きなのか」
「ええ。アルフィンさんと相談して色々用意してもらっています」
「「「……」」」
その言葉に私たちは沈黙してしまう。
だけど、ユキさんだけは違った。
「最近はお菓子屋兼喫茶店もだしたからな。そこらへんで頑張っているのか」
「はい。お願いすればオリジナルも作ってくれるので贈答用としてとても便利ですよ」
「王室御用達ってことか。アルフィンも出世したな。昔は俺たちにケーキとかを食べさせまくって、逃げてたんだがな」
うん。その記憶が私たちにはまだある。
確かに甘いものは好きだけど、限度がある。
クリーナも私もせいぜいケーキは2ホールが限度。
なのにアルフィンは一人当たり5ホールぐらい作るから、材料や機材だけあってもだめなんだってよくわかった。
消費する側の人も考えないといけない。
おかげでアルフィンを見るといまだに身構えてしまうことがある。
「リーア、クリーナ。どうしたのですか?」
私たちの変化を見て取ったフィオラがそう聞いてくるけど……。
「昔色々あったんだよ」
「ん。人には上限が存在する」
「はい?」
フィオラたちはまだ知らないのだ。
いや、知る機会がなかったのかな?
今は多少落ち着いているし。
「ま、今度アルフィンのところに言って色々話を聞いてみよう」
「ええ。色々作ってますからオリジナルとしてだせますよ。王相手にお菓子を堂々とだせる人なんてそんなにいませんから」
確かにそうだよね。
アルフィンは身内みたいなもんだし、その経歴で王様たちと話すことにもそこまで問題もない。
毒殺にも対応できるし菓子職人としては優秀だよね。
「おっと、なんか雑談になったな。報告書ありがとう。これで各国に注意しておく」
「はい。お願いいたします」
「あと、これは別件ではあるんだが、ラスト王国には闇ギルドの話は聞いてるか?」
ああ、ユキさんはリュシの件も含めて伝えるんだーと思ってたんだけど、なぜかリリアーナの顔は先ほどよりも真剣になって。
「聞いています。エルジュさんを通じてですが、やはりルーメルでも動きを活発化しているようです。ウィードの方でも?」
「いや、ウィードには直接的なことはないが、ロシュール、ガルツの国境近くの村で盗賊が村の統合に反対する者たちを拷問して売り払うようなことをしていた」
「……それはどういう?」
「意味が分からんぞ?」
「それはこれから説明する」
ということで、ラスト王国にあの国境問題の話を始めることになった。
アルフィン。
それは砂糖の代名詞であり、何事もほどほどにを教えてくれた偉大な人である。