第1305堀:冒険者ギルドの見解
冒険者ギルドの見解
Side:オレリア
本日私たちは早朝からユキ様に付き従って、冒険者ギルドへと来ています。
目的はランサー魔術学府が行っている大森林の調査を手助けできるような情報の確保。
だったのですが、意外なことに留学生制度に冒険者ギルドも協力していることや、物資流通の問題などを聞くことになりました。
確かにウィードを起点とするゲート輸送は便利なのですが、その分地方には商人が通わなくなるのは道理。
そういう調整もウィードが頑張ってしないといけないのですね。
あとで、ラッツ様やエリス様にこの話を聞いておくべきだと思いました。
それで、本題の魔物分布についてですが……。
「なるほどな。大樹海と同じような環境の場所か……」
そう言ってギルド長であるロックさんは私が渡した資料を見て難しい顔で腕を組んでいます。
正直、そう簡単に同じような環境が見つかるとは思えません。
これも時間をかけて調べるしかないと思っていたのですが……。
「うーん。あれ? なんか見覚えがある気が……」
と、副ギルド長のキナさんが首を傾げながら資料を手に取ってよくよく見ています。
「何か思い当たりがあるの?」
「ちょっと待って、思い出せそう……」
ミリーさんに手の平を見せて待ってと意思表示をするキナさん。
何か、手助けになることはないのでしょうか?
そう思っていると……。
「副ギルド長。魔王リリアーナ様がお待ちです」
「あ! そう、魔族領! ラスト王国!」
「「「?」」」
私たち秘書は首を傾げていますが、ユキ様たちはポンと手を叩いています。
「確かに……どうだユキ殿?」
「うーん、確かに似ているような気はするけど、ちょうどいいし本人に確認とるか」
「それがいいです。キナ、今から話できる?」
「オッケーちょっと話聞いてくるよ」
そう言ってキナさんは部屋を出ていく。
「え、えーっと、ユキ様。魔王領が似ているんですか?」
ヤユイが恐る恐る手を上げながら聞くと……。
「そこらへんがちょっと微妙なんだよな。ロック、地図あるか?」
「ちょっと待てもうすぐで終わる。……よし、終わった。待ってろ」
ロックさんはそう言って書類を箱の中に入れてから、席を立って棚の一つを開けておそらく地図であろう紙をもって戻ってきて、それを一気に私たちの前にあるテーブルに広げます。
「これは~ロガリ大陸の地図ですね~」
ホービスの言う通りこれはロガリ大陸の地図です。
先ほどの話からラスト王国が大樹海に似ているという話ですからロガリ大陸の地図を持ってくるのは当然だとは思いますが……。
「これが似ているのでしょうか?」
と、フィオラ様が首を傾げながら質問をします。
私たちも正直似ているとは思えないです。
「難しいところなんだけどな。環境としては……」
「似ていると言えば似ているな。とりあえず、環境、魔物の分布を改めて表記していこう。これは予備だから気にせず書き込んでいい」
「ああ、わかった」
そう言ってユキ様とロックさんはペンを持つ。
「まず、俺たちが見るべきは中央のラスト王国を中心に、山脈に囲われ、さらに大樹海に囲まれている中央山脈だ。これは、フィオラたちもわかるな?」
そう聞かれて頷く私たち。
ロガリ大陸の真ん中にはちょっと前までは魔王の住まう死の山、森といわれていたラスト王国が存在します。
「こうして、改めて見ると似ていないことはないですね」
フィオラ様の意見はわかります。
確かにイフ大陸の学府と同じような状況ではあります。
山脈に囲まれ、その中には強力な魔物が生息している。
とはいえ、住まうのは魔王ですからね……。
スケールが違うというかなんというか……。
「元々ユキ殿も大森林の奥深くには強力な個体がいるという予想はあっただろう?」
「ああ。特殊な環境だからな」
「それを考えるとドラゴンとか魔王みたいなのがいてもおかしくないよな」
はい? 大森林の中に魔王がいるかも?
あまりの話に混乱していると、ヤユイが質問をする。
「え、えーと、大森林を上空から撮影したときはお城なんてなかったですけど」
「そ、そうです。そういうのは無かったはずですが」
私もヤユイを後押しするように意見を言う。
それは私たちが魔王と戦うかもしれないという恐怖からなのか、それともありえないと思うからなのかはわかりません。
「別に人型の魔王である必要性はないからな」
「あるいは地下のダンジョンみたいに住んでいてもいいしな」
あ、確かに。
その可能性は考えていませんでした。
「じゃ、じゃあ、コメットさんたちが危険では?」
「そこら辺の可能性は考えているしな。強力な個体って言っているし、何よりこっちも魔王様を編成にいれているしな」
「ま、倒せないにしても撤退ぐらいはできるだろう。上から追ってもいるんだろう?」
「そこらへんはぬかりなく」
私の心配は2人にとっては特に問題がないようで慌てた様子はありません。
そうかデリーユ様がいるのですから、大抵の敵は拳で何とかなりますし、魔術が得意なコメットさんもいますし前衛と後衛がいるのでバランスがいい。
……あれ、問題は無いように見えますね。
「ま、そこは分かっていたことだ。問題は調査隊が魔物と出くわさなかったという話だが……。これはあれじゃないか? 餌場に集まるとか魔力だまりができるかどうか」
「ああ、その可能性があるな」
ロックさんの言葉にポンと手を叩くユキさん。
一体どういうことなのでしょうか?
私たちは話についていけず困っていると、ドアが開いて……。
「そのお話ですが、おそらくただ単にいない場所を駆け抜けただけでは?」
「やっぱりそうか」
と、そんなことを言いながらキナさんがリリアーナ様を連れて戻ってきました。
「どうもユキさん。ロックさん。そしてみなさんごきげんよう」
「仕事の途中で悪いな」
「どうぞこちらに」
「失礼します。まあ、仕事に関しては大丈夫ですよ。ウィードに来る時はこういう飛び込みとか多いんで一日ある程度自由なんです」
リリアーナ様がそう笑顔で返す。
ウィードに来る他国の王様や重鎮は確かにその場での遭遇や仕事の話が舞い込むから、意外と大変なのです。
妙な組み合わせでご飯を食べている時もありますが、それも外交の一環だと霧華さんやキルエ様たちから聞いています。
本当に大変な世界です。
「それで、話というのは学府の大森林の魔物未遭遇の件で間違いないですか?」
「ああ、ラスト王国がランサー魔術学府と状況が似ていると思ってな。どうだ?」
「何から何まで似ているとは言いませんが、確かに似ていることは似ていますね。それで私たちの環境から考えると、今回コメットさんたちが魔物と遭遇しなかったのは場所がよかったというのと、速度が速かっただけでしょう」
そう言い切るリリアーナ様。
「理由は?」
「これは絶対ではありません。それを前提に聞いてください。まず魔物が集まる場所というのがあります。魔物は基本的に魔力だけで生きていけるモノではありますが、狩りや食事などをすれば個体として強力になりますので、獲物がいる地域に集まる傾向があります」
「つまり魔力溜まりとか人がいる地域ってことだよな?」
「はい。ですが、こういう欲求が強いのは元々弱い個体、魔物に限ります。強い魔物は基本的に奥で寝て過ごします。まあ休眠というべきでしょうか。ということで、そこの隙をつくように動けば魔物に会わずに森の奥に行くことができます」
「うん。私もそういう話はよく聞くよ。冒険者ギルドで説明する戦術の一つだよね」
「だな。まともに正面から雑魚と戦っていると損耗して、本命と戦えなくなるからな」
なるほど、確かに目的の魔物を退治する仕事で目的外の魔物を倒すのは無駄な労力です。
まあ、稼げないことはないでしょうけど、本命の仕事を放置してというのはないですね。
「しかし、それは下手をすると後ろ、つまり撤退路を塞がれることになりませんか?」
「可能性はありますが、突破するだけですからね。状況によりけりではありますが……」
「魔物をなぎ倒しつつ進むと、音や血の香りで敵をおびき寄せる可能性があるからな」
「どっちもどっちだよね。ま、そこは冒険者の勘だよね」
フィオラ様の意見にはどっちもどっちだという意見になります。
私も話を聞く限りどっちが正しいとは言えない気がします。
「ありがとう。とりあえず今の状況はラスト王国の観点からは大氾濫の兆候ではないということだな?」
「はい。魔物の群れができるときはもっと森が静かになりますね。騒いでいる魔物たちが一致団結していますから」
「ああ、そういう兆候はあるな。大氾濫を起こす魔物たちが周囲の動物や魔物を襲って食料にするから、その分森が静かになるんだよな」
「うんうん。そして生き残りはその地域から逃げ出すから。静かになるんだよね。まあ、その前に魔物が周囲に散るから周辺の魔物遭遇率があがるんだけど。そういう兆候はないんでしょ?」
「ないな。となるとたまたま偶然って判断で間違いなさそうだな」
「しつこいようですが、あくまでも私たちの意見はです。常に警戒はして、油断していいということではありませんので」
リリアーナ様が再度忠告をしてきます。
確かにあくまでも今の話はロガリ大陸での話ですから魔力の分布事情が違う大樹海はまた話が違う可能性も十分にあります。
「そこは注意しておく。それで、大樹海の件はいいとして、その大氾濫の詳しい兆候はズラブル側には伝えているか?」
「ん? ズラブル大帝国にか? 一応大氾濫の資料は提出しているな。直接質問などはなかったよな?」
「ですね。ショーウ様がこられて大氾濫の資料を持っていかれましたよ。何か問題でも?」
「いや、ズラブル側とは大氾濫の危険性と兆候については話してはいたけど最近めっきりその手の話はなくてな」
「それはしかたないだろう? ほかのことで忙しいんだからな。気になるなら、そっちから連絡してみたらどうだ?」
「そうだな。こっちから連絡はしておくか。ありがとう。とりあえず、エージルさっきの話は聞いていたか?」
『ああ、聞いていたよ。とりあえず、こちらが持っている知識の中では問題なさそうだ。一応地図とかその手の書類送ってくれないかい?』
「わかった。オレリアたち頼めるか?」
「「「はい!」」」
よかった私たちはただ話を聞くだけで終わらずにすみました。
役に立たなくてはいけませんから。
ロガリの冒険者ギルドも魔王様もとりあえず動きはないと判断。
ひとまず安心。
ズラブルの方へも情報を流して安定を図る。




