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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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1514/2210

第1280堀:調査再開について

調査再開について



Side:ポープリ



留学生制度の選抜試験の準備をしているさなか、急にユキ殿が訪ねてきた。


「どうしたんだい? 何かあの子たちがしでかしたかい?」


ユキ殿に預けているナイルア、ワズフィ、ハヴィア。

あの3人は変わり者も多い魔術学府の中でもけっこう異色だからね。

何かとんでもないことをしでかしても不思議じゃない。

まあ、あのユキ殿がお手上げになったり放り出すとは思えないし、こりゃ何かとんでもない相談じゃなければいいけどと思って身構えていたんだけど……。


「いや、そっちは問題なし。別の話だ」

「別の話かい。悪いがちょっと待ってておくれ」


と私は断わって机の上に置いてある仕事の書類の中から特に急ぎで片付けなきゃならないモノに目を通して印鑑を押していく。

軽く5分ぐらいで一区切りついたので改めて顔を上げると、そこにはお茶を淹れてのんびりと飲んでいるユキ殿の姿があった。


「待たせたね」

「ああ、悪いな急に」

「まあそれは、お互いいつものことだね」


何て言ってもユキ殿はダンジョンマスターで、私はその配下という立場なんだから、主の出入りを止めるなんてことはしないし、ユキ殿も私がウィードに来るのを制約したりはしない。

いや、実に良い上下関係だといえる。

私はそんなことを考えながら、ララが用意してくれたお茶を一服して……。


「それで、あの子たちのことじゃないとしたら、留学生制度のことかい?」

「ん? いや違うけど。ところでランサー魔術学府は今回から生徒を送ってくるのか? たしか今回は大国だけのはずだったが?」

「ああそうだよ。ただ、その大国の留学生候補の中にはこの学校の卒業生も多いんだ。そのための資料集めてって所かな」

「ああ、選抜のためにか」

「そういうこと。まあ、今回の第一陣はそれなりの立場の子たちになるだろうけどね。それ以降のことも考えてってやつさ。ま、それだけ各国ともウィードが行う留学に関して興味があるってことだよ」


まあ、それだけウィードの力や立場を重く見ている。

あるいは無視できないと思っているということだ。

これは私たちにとってもありがたい話だ。

そのことは間接的に魔術学府の存在価値も認められるってことだからね。


「で? 留学生の選抜の話でもないとなると、いったいなんの用だい?」


仕事の話の筈なんだが、わざわざこのタイミングで押しかけてくる用件に心当たりがない。

う~ん、何かほかにあったかなと首を傾げつつユキ殿に尋ねてみると……。


「ハヴィアの遺体捜索と大森林の調査の続きをと思ってな」

「ああ、それはありがたいけど、ほかの仕事はいいのかい?」


確か大森林の調査は色々仕事が重なっているということで後回しになったはずだけど。

しかもその主な原因ってのが今私が選別用の資料を作っている『留学生制度』のはずだったんだが……。


「とりあえずこっちの段取りは終わったからな。留学生制度については、あとは各国から学生を入れて運営していくだけだ。まぁ、いろいろトラブルはあるだろうけどな。ああ、そこらへんについてはいろんな国からの学生を受け入れて学府を運営しているポープリに意見というかアドバイスを貰いたいってのがあるから、後日ウィードに来てもらうことになるとは思う」

「なるほど。準備は整ったわけか。意見のこともわかったよ。どうせウィードにはちょくちょく顔を出してはいるんだ」

「頼む」

「それで、ようやく大森林の調査に入るわけか。私としてはようやく願いが叶うってこと……なのか?」


私は自分で口にしながらも首を傾げてしまう。

ララはその私の様子に如何にも不思議そうに……。


「学長、何か問題でも? 大森林の調査はハヴィアの遺体の捜索でもあるはずですが? 安全と安心のための調査ですよ?」

「ああ、いやね。大森林の調査自体は大歓迎だけど、今更ながらハヴィアの遺体捜索の方はどうなんだろうって思い始めてね。確かに神様の用意した薬で安定したとはいえ……」

「ああ、実際自分の遺体を見るとか、過去の足跡が明らかになることで不安定になるかもって心配か?」


そう、ユキ殿の言う通り、今更わざわざハヴィアの精神を揺さぶるようなことをするのはと思ってしまったんだよ。


「そうだね。それが心配だね。なにせ彼女はよくわからない幽霊ってやつだしね。何がきっかけになるかなんて誰にも分らない。ああしてせっかくウィードで楽しく自分のやりたいことをやっているんだ。わざわざ危険を冒すようなことはないだろう?って思ってしまってさ」

「……確かに、そうですね」


ララも私の不安を聞いて悩んでいる。


「ま、そういうことが心配なのはわかった。だが、それについてはハヴィアに直接聞いて判断してもらう。俺たちが勝手に決めていいわけでもない。それに話さなかったせいで勝手に行動されても、ハヴィアが死んだ時の二の舞になりかねないしな」

「あ、うん。そうだね」


そうだよね、ハヴィアが死ぬことになったのは勝手に大森林の調査についていったためだった。

ハヴィアも最初の頃はちゃんと申請はしていたのだが、そういうのは受け入れられなかった。

学生がってことでね。

実際にはその判断をしてたのは私じゃなかったんだけど……、そんなことをなぞるような真似はしてはいけないのはよく分かる。


「じゃ、その話は俺だけでするよりも……」

「そうだね。私たちもそろって話した方がいいだろう。ノリコ殿やナイルア、ワズフィも一緒にね」

「ああ、そうだな。ちなみにこの件は留学生制度が始まる前にある程度は決着付けたいんだよな。ほら、ナイルアやワズフィは留学生制度のサポートもしてもらうからな。大森林の安全確認は先にやっておいた方がいいだろう?」

「そういう観点から見ると確かにそうだね」


ちなみにここ、魔術学府はイフ大陸中央部にある山脈に囲まれた『大森林』の北部を開拓したものだ。

なぜこのようなところに学府があるのかというと、ダンジョンマスターでもあった我が師コメットが孤児たちをかくまうためにと選んだのだ。

敵が攻めてこないよう、あえて魔物があまた生息する大森林を選んで居を構えたわけだ。

とはいえ、それは諸刃の剣でもあった。

ユキ殿は大国の配置が関与していると考えているようだけど、今現在、なんとこの大森林一帯は魔力の集積地となっていて、いつ魔物の大量発生による災害、『魔物の氾濫』が起こってもおかしくないと目されている。

つまり、このイフ大陸で一番の危険地帯がこの学府ではないかというわけだ。


そんな中、大森林はこの魔力が枯渇したイフ大陸での最大の特異点でもあるが故にユキ殿たちはここを調査したい。

そして継続的に調査を続けるためには安全を確保する必要がある。

そのためにも大森林を一度きちんと調査して状況を確認する必要があるのだ。

さらにこの場所で魔物が大量発生でもすれば、学府の戦力では抑えられないし、大国であってもそれは同じだ。

学府以外では魔物との戦闘経験がほぼないからというのもある。

つまり大森林の安全を確保することは、イフ大陸の平和を守ることでもある。


ついでに、私の教え子を守るためでもある。


とはいえ、うっかりこんな事を公表してしまえば真実はいざ知らずランサー魔術学府は潰してしまえということになりかねないし、ユキ殿にとっても大事なサンプルである場所に変な影響が出かねないのでこうして徐々にやっているわけだ。

まあ、調べたからといって絶対の安全が確保されるわけではないんだけどね。

そもそも魔物が発生する理由、氾濫が起こる理由、それらをはっきりしない限りこの問題はどこにでも起こりえるということでもある。

だからこそ調査を進めなくてはいけないのだ。


「だけど、元々魔力枯渇現象調査をスムーズにするために留学生制度を進めて、そのせいでこっちがさらに遅れたんだけどね。世の中難しいね」

「本当にな」


その私の皮肉にユキ殿は苦笑いをする。

どっちも魔力枯渇現象調査のためにやっていることだけど、その中にも優先度が存在しているわけだ。

もちろん、そういう事故が起こらないために予防線は張っているけどね。


「頑張っていくしかないわけだ」

「昔から世の中はそうらしい」


お互いそう言って苦笑いをする。

ユキ殿が来てから格段と便利になり、技術力の大幅な向上もあったけど、それでも結局私たち自身が頑張らないことには仕方がないようだ。


「で、調査再開はいつからの予定だい?」

「なるべく早くだが、そっちの都合にも合わせないとな」

「計画書を見せてくれ。話はそれからだ。君がそのあたりわかっていないとは思わないけど?」

「それには事前にすり合わせて許可をもらっとかないと話にならないだろう?」

「それもそうか。とにかく調査再開には賛成だ。で、正式に許可を出すためにも計画書の提出をお願いするよ」

「明日にはポープリの『師匠』がもってくるさ。ああ、今日の内がいいか?」

「それだけは頼むからやめてくれ。師匠が来て説明された日には寝る暇もないよ。明日ぜひエージル殿に頼む」


ほんと師匠はこの手の研究に関しては私よりも遥かに上ではあるが、同時に周りが全く見えていない。

こっちの都合も迷惑も全く考えずやってくれるからね。


「わかった。そうしとく」


ユキ殿はそう答えたところで立ち上がり、そのまま学長室を出ようとしたところでふと……。


「そういえば、それと並行して神様たちへの聞き取りをするつもりだけど、どうする?」

「……神様ねぇ。ユキ殿はいつもは神って呼び捨てだろう?」

「敬わないとまともに話してくれないかもしれないからな」

「はっ。それもそうだ。しかし、さっきも言ったけどお互い仕事が沢山だ」

「ああ」


お互い肩を竦めたところでユキ殿は出てゆき、私は仕事の続きを始めなくちゃと思いながらも。

大森林より神様の方が疲れそうだねー。

とはいえ、同席しない方がデメリットが大きいかな?


「はぁー」

「学長。ココアです」

「ありがとう」


せめてこの瞬間だけは甘い物でゆっくりしよう。



さあ大森林の調査が再開し始めたけど、ハヴィアはどうするのか?

彼女の意思は。

安全は?



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