第1277堀:魔力枯渇現象調査についての問題
魔力枯渇現象調査についての問題
Side:ユキ
次はいよいよ俺の本業である……。
・魔力枯渇現象調査
「これについては、改めて説明しておこう」
そう、このメンバーは皆、俺がそのためにクソ駄女神に呼び寄せられたのは知っている。
とはいってもどこまでキチンと認識しているかはバラバラだからこそ、ちゃんと認識の統一をしておこう。
特にオレリアたちとか神様相手には腰が低くなるからなー。
すぐに何とかしろとは言ってはこないが、でも何のかんのと相手は自然と無茶ぶりをしてくるからな。
チャンと『ノー』と言えるように教育しておかないといけない。
「『魔力枯渇現象』を調査する。まあ、言うだけなら簡単だが実際調べるのはそうもいかないのはみんなよく知っていると思う。なにせ、今交流のあるロガリ大陸、イフ大陸、ハイデン地方、ズラブル地方だけでなく、この星全体の魔力枯渇現象を止めなくてはいけない。今の所、魔力枯渇現象が顕著なのが分かっているのはイフ大陸だが、ほかの場所にこれ以上の所があってもおかしくはない。だから、これからどんどん調べていくことになる」
「つまり、これからもほかの国とのつながりは増えていくってわけよね?」
「……ああ、残念ながらな。そして俺たちの目的を達成するには多くの国はもちろんものすごく多くの人に協力してもらう必要がある。ある意味世界征服と変わらないな。全世界を網羅しようって考えだからな」
ん、世界一周旅行の方がしっくりくるか?
まあ、そこは些末な問題か。
「とはいえ、それはまだまだずっと先だ。まだ知らない土地で魔力枯渇現象調査をするには外交もほかの国の意向も絡むことだからな。とりあえず、最終目標として……」
・魔力枯渇現象調査 最終目標:全世界の調査
と記入しておく。
「で、これを目指す上で今現在最も問題になっていることだが……」
・魔力枯渇現象調査 問題
・調査個所の拡大
・人手不足
「そうだねぇ。ってイフ大陸から来た私が言うのもあれだけどね」
コメットはそう言いながら苦笑いする。
研究大好きのコメットもというか、だからこそ今の人手不足はしっかりと理解しているようだ。
なにせ必要なデータ集めるだけでも一苦労だからな。
「でも、そこは大陸間交流同盟が立ち上がって、水のことで来たフィオラと一緒に面接をした小国の小娘たちを叩きなおして調査員にするって話じゃなかったかしら?」
「それはあくまでも各国でしてもらう調査の話だな。大国の方でもある程度そういう調査を頼んではいるが……」
「流石に、ウィードと同レベルの調査ができるわけじゃないからね。ああ、というか、魔力枯渇現象調査は大陸間交流同盟で推し進めていくんだから、機器の貸し出しは……やっぱり無理だよねぇ……」
エージルは自問自答して駄目だと理解したようでため息をつく。
「え? なんで無理なんですか? 私たちだけでは人手が足りないなら、もう各国に機器の使い方を教えてやってもらうしかないのでは?」
オレリアが一見『当たり前の疑問』を言ってきたんだが……。
「あはは、そもそもその『理解』をしてもらうだけでものすごく大変なんだよ。無線機とかカメラとかならわかりやすい結果がすぐ出る。でもこういった単に『数値を集める』だけのことをしてくれるかっていうと……」
「ああ、ものすごく難しいだろうね。まずその数値にどういう意味があって、どういう理屈のもとに決めているとか、そこらへんの説明からしないといけないし、したからといって素直にこっちのいうことを聞くかっていうのもある。そもそも魔力枯渇現象については色々な解釈があるからね。こっちは統計を取るためというのもあって集めているけど、相手にはそもそもその統計学なんて知識すらないからねー」
「目に見えて金や力や安全なんかに関わるってなら別だけど、そんな『単なる数値』を集めるのに軍や人材をかける必要があるってことそのものが理解ができないと思う。オレリアたちも大森林なんかのデータを見たはずだけど、あれを理解できて必要性を説明し、さらに相手の説得までできるかい?」
「「「……」」」
エージルの言葉に沈黙する3人。
そうなんだよ。
確かに強制的に『言われたとおりにやれ』と言ってやらせることは、今までの経歴から可能ではある。
だがそれは、使われる側にとっては明らかに我慢ならないことである。
大国とかではすでに各々で魔力枯渇現象を調べているわけだが、実際それをやっている部署は何のバックグラウンドもなくその時突然できたわけではない。
元々その手の研究をしていた国内の人たちを集めて出来上がった部署だ。
だからこそ自分たちなりの方法があるし、今までやって来たという自負もある。
それを曲げてウィードの方法を受け入れてくれというのはなかなか難しい。
「ユキがやり方を教えた小国の小娘たちの方は、それだけの国力がないとかいろんな理由でそれまで非協力的で、魔力調査をしていなかったところだ。だから担当することになった小娘たちには元々その仕事に対する矜持なんかないし、やり方を一から教えても全く問題はなかった。まあ、一部は独自に調べもするだろうけど、それでも僕たちが教え込んだ方法と混ぜてだ。若いからね」
そう、フィオラと同じくっていうと失礼かもしれないが、ウィードの有用性を理解して近づいてきた小娘たちは若いという点ではよかった。
その道の大家であるなんて矜持は当然ないし、新しいものは好きだし、自分たちで何かを成したいという意思がある。
だからしっかり説明をすれば受け入れられるし、ましてやこちらも資金などのバックアップをすると言えば喜んで受けてもらえる。
だが、昔からこういうことを調べているところにとっては……。
「だけど昔からやっている所だと……努力して集めた数値は自分たち自身のために使うのじゃなく、こちらに提出することになる。しかもその結果、各地のデータの集積されるウィードが有利だ。まあ、希望されれば各地のデータは渡すけどね? とはいえ自分たちが汗水たらして集めた情報をポンと渡してしまうのは……正直気分はよくないだろうね。成果を奪われるって感じがするんだ」
そうなんだよ。
どう見ても成果を奪うことになる。
こっちとしても集まったデータを渡すとは言うけど、そのために『若い連中のやり方を受け入れろ』って話が付いてくるんだからな。
しかも、元々各国で独自に調査をしてくれと俺が頼んでいたことだ。
俺のやり方でという一方だけの視点では視野狭窄になるからそうした。
そこにさらに新しいやり方というか、俺たちが欲しいデータ採取を相手に頼むっていうのは、向こうの人手を奪うことにもなるし、向こうにとってはあまりおいしいとこがないんだよな。
「なるほどね。他国にしてみれば機器を押し付けて調査しろというなら、必要な人手も貸せってことになるわね。それは……受け入れづらいわね。私でも拒否するわ。自国でどうにかしろっていうわ」
「だよな。ということで、なかなか難しいんだ」
「あう。すみません」
「いや。謝らなくていいぞ。わからないことは聞く。いい姿勢だ。こんな感じで見る視点が変われば受け取られ方も違うと覚えて次に生かせばいい」
「はい」
ヤユイはリエルと似ているところがあるんだよな。
分からないことはハッキリ言うし、意外なところで鋭いことも言う。
そのリエルの方は最近留学生の学校警備に力入れているし、やっぱりヤユイはこうして側に置いておくっていうのはいいかもしれない。
「さて、今の話をまとめると、今後増えていくであろう、また今現在調べているはずの場所であっても、少なくとも私たちが求める質のデータを集めるにはウィード内部でどうにかする必要があるってことだね」
「だが、正直に言ってそれって私たちだけじゃ回らないよ。というか魔力枯渇現象に関してはもう大陸間交流同盟で動いていることだし、キチンとそういう部署を新たに作って大々的に人員募集していいと思うけどね。もう魔物たちの増員だけじゃきついし。だけどお金の計算とかはきついから任せる」
「私もエージルの意見に賛成だね。まあ、お金についてはよくわからないけど、これ以上は物理的に無理だし、この際しっかり増員を考えるべきだと思うよ」
と魔力枯渇現象調査のツートップに言い切られる。
いや、俺もわかっていたけどなー。
「つまりだ。魔力枯渇現象を調査するための人員確保をし、その教育環境と部署を本格的に用意しろってことか……」
「そうだね。それが理想だ」
「立ち上がりは遅くなるだろうけど後々楽になるさ。ほら、ナイルアとかワズフィ、そしてハヴィアを筆頭にする」
「いいわね。あ、待ってでもワズフィとハヴィアはともかく、ナイルアって魔道具が専門じゃなかったかしら?」
「そこは部署分けさ。調査に必要な魔道具を作成するってことにすればいい」
なんて詐欺臭い。
とはいえ、職員の安全を確保することにもつながるから問題はないのか?
いやまて、なんか安易に言ってはいるが……。
「……はぁー。また場所と予算と物資が必要になるわね。いえ、これこそ必要経費だからDPでどうにかなるけど、問題は育成をする人員ね。まさか魔物たちにやらせるわけにもいかないし……」
「そこは流石に私やエージルが引き受けるよ。ウィードの研究のトップが上に着くならその名声で魔力枯渇現象調査部署に就職したがる人も増えるだろう?」
「だといいけどねー。というか、その場合僕は外交とかどうなるんだろうね。いや、そこは押し込めば行けるか? どうせプリズムとか普段からウィード出入りしてるんだし、エナーリアの顔を売るには僕よりもってことで……」
また色々問題が出てきたな。
それもまとめて書き留めるしかないか。
とりあえず、今は魔力枯渇現象の調査について……。
・人手不足を解消する 職員を雇用し育成を目指す
さて、最後にこの項目に足して現在進行中の事柄についてだ。
「よし。職員の雇用、育成についてはまた別でやろう。最後にこの3つの項目に関して今現在ウィードが行っているというか、俺たちがやっている仕事を書き出していくぞ」
俺たちが『今抱えている仕事』の確認。
これが一番大事だ。
少しは整理できるといいんだけどなー。
意外とここに人手が取られていたりする。
調査って実はお金と時間と人手が必要だったりする。
というか、そういうのがかからない仕事はないんだけどね。
リソース、限りあるモノをどういう風に分配するかって話。
調査だけにかまけるわけにもいかないのがウィードの現状。




