第1272堀:やるべきことは?
やるべきことは?
Side:ユキ
留学生区画の防衛機能確認試験も無事終わり、さらに代表及び学校の校長、副校長も決まって俺は一息をついている。
「いやー、適材といえるのはあの2人しかいなかったが、でも無理を押し付けてないかなー」
「大丈夫ですよ。あの2人は上手くやります」
「そうですよ。ちゃんと計算してますって」
「ええ。あのお2人はちゃんと自己管理は出来ますわ」
「ん。エリス師匠は時間きっちり。ラッツもしっかりしている」
その俺の心配に杞憂に過ぎないと返してくる護衛の4人。
ちなみにエリスとラッツは早速今回の改善点も踏まえて学校や寮の方に出向いて確認しているそうだ。
いやー、誰が管理するのかとか、すっかり抜け落ちていた。
留学生制度を始めるにあたって敵対勢力に対する警備関連が大きな課題として挙がり、それをトーリたちに担ってもらうと決めたところで、それ以外がすっとんでたな。
で、気心の知れたトーリたちが警備だから、ラッツやエリスはそっちでも適切に動けるだろう。
「私も驚きました。警備担当まで決めたのですから、てっきりそれ以前にこの地区の管理者も決めてあるものと思っていましたから」
などとフィオラは言いながらスッとお茶を差し出してきた。
「ありがとう。いや、俺もうっかりしていたよ。ウィードという国としてやる制度ってことでしいて言うなら対外的には女王であるセラリアがトップだって思っていた上に全員で取り組んでいたことだから、地区としての代表が必要でそれを誰がとか全く考えてなかったな。」
「確かに制度という意味ではセラリアがトップでしょう。とはいえ、セラリア自らが運営までは出来ませんからね」
「ですねー。私も必要な部署は全員決まってたから、管理の代表とか考えてませんでしたよ」
ジェシカもリーアもお茶を飲みながらうんうんと頷いてくれる。
だろ? あの状況だとトップはセラリアだから、特に管理とか代表者は必要なかったんだよな。
というか、名目上はセラリアなだけで本当は俺の発案だから本来なら俺が校長を務めるべきなんだろうが、それが許されるほどゆとりは無い。
「それだけ、私たち全員で集中して留学生制度に取り組んでいたということですわ。というか、別にラッツさんやエリスさんが管理に付いたとはいえ、私たちも顔を出すでしょうし」
「ん。いかに交流が目的の留学制度とはいえ、案内があった方がいい。つまり私たちが間を取り持つ」
「そうですね。私も案内に出ることになるでしょう」
「え? そうなると私はまた1人?」
あー、ジェシカたちが外交の仕事の方をすることになると専門の護衛として動くのはリーアだけになるからなー。
とはいえ……。
「今回、リーアは1人じゃない」
「どういうことですか? って、ああ!」
リーアはお菓子の用意をしてくれているオレリアたちの姿を見て気がついたようだ。
「そう。オレリアたちだって俺の護衛も兼ねているからな。まあ、誰かが外交の仕事に残らないといけないだろうが」
「はい。ちゃんとローテーションは組んでいます。その分一般からの陳情仕事は重くはなりますが、元々からユキ様の護衛も仕事でしたので」
オレリアがそういうと2人も頷く。
一般相手の外交窓口として働いてもらってはいるが、俺の護衛でもある。
なので今後、リーア1人で頑張る必要はない。
「ま、そういうことで護衛で後輩ができるから、ちゃんと先輩としてアドバイスとかしてやってくれ」
「わかりました。って、もう結構一緒に訓練したよね?」
「は、はい! リーア様とはよく訓練させてもらっていましゅ!」
「あれ? そうなのか? それはキルエとサーサリじゃないのか?」
「キルエ様とサーサリ様にも教えてもらいましたよ~。でもこの頃リーア様も訓練に入ってきたんですぅ~」
「はい。ほら、ようやく赤ちゃんが生まれて訓練し直していた時からですよ」
「ああ、そうか産休の時はトーリやリエルがついていたからできてたのか」
「そうです」
リーアたちは今では完全に職務に復帰しているが最近まで産休を取っていた。
とにかく子供たちも無事に生まれてなによりだが、その間の俺の護衛が問題だったし、細かい仕事の対応もあった。
だからオレリアたちを俺の部下として引き込んだわけだ。
それで、色々助かった。
とはいえ、一緒に訓練しているとは思ってなかったけどな。
「なら、さらに安心だな。留学生制度が始まっても俺たちの仕事は忙しいからな。クリーナたちが動けないときはよろしく頼む」
「「「はい」」」
これで、留学生制度が始まっても配置には問題ない。
「……ユキ。留学生制度はこれであとは開始するだけにはなった。ま、まだ各国の調整は必要だけど、私たちが関われることではない。で、これからどう動くつもり?」
そう、俺はようやく一仕事が終わったなーと思っていたのだったが、そこにクリーナから鋭い質問が飛んできた。
そう、この仕事が終わったからといって俺の仕事全部が片付いたわけではない。
というか、むしろ後回しにしていたほかの仕事に手を付けないといけなくなる。
例えば……。
「まずは魔力枯渇現象の調査だな。大森林、ゴブリン村、ブルーホール、ズラブル方面と色々あるからなー」
「それについては既に情報が多すぎますね。これを精査するだけでも大変です」
俺があげた『仕事』にジェシカが肩を竦ませる。
本当にな。
一方面だけでも既に膨大なデータが存在しているからその処理をするだけでも気が遠くなる。
「あとは、神様関連も調べないとまずいな」
「神様といいますと、中級神の一派でしょうか?」
「ああ。サマンサはよく覚えているな」
「忘れるわけがありませんわ。カグラさんのところやユーピア陛下のところで出てきてろくでもないことをしていたのです。ある意味ユキ様の目的にとってわかりやすい敵対勢力といえるでしょう」
「……敵対勢力な。そうだな。そうとらえるのが一番か」
俺はチョット憂鬱な気分で天井を見つめながら呟く。
中級神一派。
その一言で括ってはいるが、具体的に言うのであれば、ルナに従わなかったアロウリトの神々だ。
ズラブル大帝国とハイーン皇国の戦いで邪魔をしてきたのはセナルという女神だった。
もっとも、あの女神自身は別に中級神に従っていたわけじゃなく、単に上級神であるルナに対して反発していただけだった。
つまり、実際には真の中級神派と上級神反発派とに分けられる。
だから纏めるなら『ルナ大嫌い組』ってところか。
俺もそこに入りたいなー。
「そういえば、その一人であるセナルはどうしているのですか? まだウィードにいるのでしょう?」
「ああ、今はルルアたちの手伝いとして病院で働きながら、リテア教会にも居ついているな」
「……ん。リテア教会は今や神様の巣窟」
「だな。リリーシュにハイレン、セナル。たまにヒフィーやノノア。そしてノゴーシュやノーブルも来るからな。いや『ノ』がつくやつほんと多いな」
「相変わらずファイデさんだけは近寄りもしないですけどねー。あははは……」
そのリーアの苦笑いには俺たちは何の反応もできない。
ちなみにファイデというのは農耕神でリテア教会があがめる女神リリーシュの元旦那だ。
で、子供であるリテアのことで意見が食い違い、現在でも喧嘩中だ。
それも地面が割れるほどな。
ま、それだけ子供のことが可愛かったんだろう。
どっちが悪いとは俺には言えない。
なにせ『家庭』のことだしな。
「ファイデ様のことは仕方ありませんわ。というかセナルのこととは全く無関係です。それでユキ様、セナルから事情などは?」
「詳しい話はまだだな。そういえば以前話した時にセナルからズラブル方面の稼働中ダンジョンについて説明を受けてただろう? それをリーアたちに任せてたがどうなってる?」
すっかり忘れていたってわけじゃないが、セナルを下した後、セナルの支配下にはないダンジョン攻略を妊娠中のリーアたちに任せていたんだ。
もちろん現場に突入するってわけじゃなく、あくまで攻略のための参謀本部としてだ。
「報告書は見ているでしょう? 全部ハズレです。ダンジョンマスターは欠片も出てきませんでした。そして全てのダンジョンは掌握に成功と。その後も新たなダンジョンの発生を含め何も起こっていません」
「ああ、見たよ」
クリーナたちに任せてたダンジョンアタックは全部成功。
つまりズラブル国内のダンジョンにダンジョンマスターの痕跡はなかった。
そして今になっても取り返すような動き一つないか。
つまり、ズラブル国内にダンジョンマスターはいないということになる。
おそらくすでに亡くなっている可能性が高いと。
まあ、別の場所へ移っている可能性もあるけど、今の所は安全ということだ。
無事にクリーナたちが指揮官として作戦を立て後方から指示して実施する訓練になったわけだ。
「ズラブルではダンジョンからの新しい情報は得られなかった。となると、エージルが調べている大山脈で消息を絶ったダンジョンマスターと思しき人物の捜索か、セナルの協力を仰いで新しい神のことを聞きだしたいって所だな。ま、ジェシカたちはこれから留学生制度の手伝いがメインになるし、手数の少ない俺たちでやる必要があるから、規模はどうしても小さくなるな」
「そうですわね。下手な手出しをして大蛇が出てきたりすればそれこそ余計な手を取られますわね。そういう意味でもダンジョンマスターの捜索は悪手ですから、まずはセナルの事情聴取ですか?」
「そうなるな。あとはデータの確認だが……」
「ううっ、そ、それは苦手かなぁ……」
リーアだけじゃなくオレリアたちも同じように苦笑いをしている。
確かにエージルからデータを見せてもらったときはチンプンカンプンだったみたいだからな。
「あ、そういえば、ブルーホールでしたっけ? あちらの海産物の調査とかはいいんでしょうか?」
「ヤユイ。海産物などはラッツ様たちの管轄ですよ」
だが、そのヤユイの何気ない一言。
オレリアはやれやれという感じで注意したが、何かが引っかかった。
なんだ?
「……そういえば。ユーピアがハイーン皇国は思っていたより海軍に力を入れていたとか言ってた」
「それだ」
そうだ。
ハイーン皇国はオーレリア港に対してしょぼくはあるが艦隊を派遣してきた。
そして王都やその近郊ではなく、わざわざ海沿いに造船所を作ってた。
そういえばそこの話を詳しく聞いてなかったな。
「よし。ちょっと聞きに行くだけだ。まずはユーピアと話してみるか」
どうせ留学生制度で話したいことは沢山あるだろうからな。
あー、仕事が減らねーな。
留学生制度の準備ができたからといって仕事がお話あるわけではありません。
次から次に湧くのが仕事。
というか、後回しになっていたものの確認が必要となってきます。
皆さんタスク管理はちゃんとしていますか?




