第1271堀:誰が管理するの?
誰が管理するの?
Side:ヤユイ
本日、ここウィードに新しく出来た留学生区画と関連する区画の防衛体制をチェックするために実働実験を行ったのですが、あっという間に攻め手のユキ様が勝利して終わっちゃったんです。
その後すぐに、タイキ様、タイゾウ様、ソウタ様たちといろいろとお話していた内容は難しすぎて私にはさっぱりでしたが、とにかくユキ様ですらたった一つしか防衛体制に隙が見つけられなかったというのはいいことだと思います。
何せこれで、本番では敵対組織にそこを突かれることは無くなるってことだし、絶対はないとユキ様はいつも言いますけど、それでもこれでそう易々とウィードが侵略されることはないってことだと思うし。
あとは、セラリア様たちと合流して今回確認された問題点の整理と改善について話し合うことでより強固な防衛体制を整えるということだったのですが……。
「ということで、主犯。というか首謀者はこのヤユイだ!」
「ふぁい!?」
なぜかユキ様に私こそが首謀者だったなんて訳の分からないことを言われてしまいました。
「え、え、え」
「「……」」
全く身に覚えがないのにそんなことを言われて驚き慌てふためいている私のことを、オレリアとホービスまでがジトーって感じで半目で睨んできていますぅ。
「ち、違うよ!? 私何も、何も知らない……、知らないからぁ!?」
「わかっています。ヤユイにそんな器用なことができるとは思いませんから」
「ですよね~。すぐにこうして表情にでるんだし~」
慌てて否定した私に対しオレリアはあきれ顔で、ホービスなんか口元を手で隠して笑いながらそんなことを言ってきたんです。
あれっ、からかわれた!?
「もー! もー!」
「落ち着きなさい。別に馬鹿にしたわけじゃないんだから」
「そうですよ~。それより今はセラリア様たちと会議中ですよ~」
「むうっ」
確かにそうでした。
セラリア様たちの前で失礼なことはだめです。
なのでぐっとこらえて黙ると、セラリア様たちは……。
「やっぱりそういうことね。フソラ嬢から話を聞いて別に怪しい人物との接触はなかったというのは確認しているし、多分こういうことだろうとは思っていたけど……。でもこの場合、首謀者はあなたじゃないのかしら?」
うん、そう思います。
というかユキ様、なんでいつの間に私が首謀者になったんですか?
「いや、元々攻め手は俺というのは確定だったしな。俺が指定した者を現地首謀者ってことにしようって話したじゃないか。俺はあくまで黒幕で、この件ではフソラには一切コンタクトしてない。必要なブツも話もフソラのところに持って行ったのはこのヤユイだ。で、こういう自覚のない主犯もいるってことだ」
自覚がないのはそうでしたけど。
……せめて一言命令なり相談なりして欲しかったです。
いえ、それだと顔に出たんでしょうけど……。
「……言っていることは一応分かるけど……、どうも釈然としないわ。というか、今回のコアへのアクセスは同じダンジョンマスターじゃないと成立しないわ。そこらへんはどう考えているの?」
「そこは喜ぶべきことだな。今の所、この手段でしかウィードに損害は与えられないと判断した。もう一つあってダンジョンマスターが自ら侵入してきてからのダンジョン掌握だが……」
「それこそ不可能ね。一体どれだけDPがかかるか想像もつかないわよ」
「だよな。だから今回の改善案は、防壁の追加って所だろうな。あそこのシステムをダンジョンコアに直接つないでいるのがシステムダウンにつながった」
難しいことはよくわかりませんが、ほかの方法だとウィードはもちろん住人にも危害を加えられないとユキ様が判断したということはいいことだと思います。
「……つまり今の所。ウィードが警戒するべき相手は他のダンジョンマスターだけってことかしら?」
「いや、そうじゃない。ほら、エクスのノーブルが、まああれも独自研究とは言いづらいが、コアの研究をしてハッキングを行ったっていうのが実際あっただろう? な、コメット?」
「ん? ああ、そうだね。実際ホワイトフォレストで保管されていたベツ剣のレプリカに使われていたダンジョンコアの使用制限を解除というか焼き切った例はあるからね。とはいえ、ユキみたいにシステムダウンを狙えるかっていうと……エージルどう思う?」
「ユキがしたことと同じことをしようとしたらダンジョンコアってシステムというかプログラムを深く深く理解していないと無理だとは思うけどね。まあ、絶対ではないから、ダミーなりファイヤーウォールなりを間に入れるのは必要だとは思うけど」
と答えたコメット様、エージル様はものすごく難しい顔をしながらコール画面を見つめています。
彼女たちはウィードの頭脳です。
私にはさっぱりなことも、このようにタダ単に整理したり纏めたりどころか対策まで考えられるすごいお人たちなのです。
「なるほど。だからこそ対策は必須ってことね。ところであなたが隠し武器や薬の持ちこみをしていなかったというのは無理だったからってことでいいのね?」
「ああ、今の所。そっちはどうやっても認識されてしまうから、こっちの方法になった。そういう意味ではダンジョンの鉄壁さが分かったってことだ」
「ふむ。それは喜ぶべきことじゃが、それに胡坐をかくわけにもいかんな」
デリーユ様がそういうと、トーリ様たち警察のみんなが揃って頷きます。
「世の中絶対はないですからね」
「ちゃんと調べるってことはしていこう」
「……うん。それは大事。でも、ユキならそういう研究をしていると思うけど?」
カヤ様がそう言ってユキ様を見ると……。
「ああ。今もナールジアさんにも協力して貰いながらスティーブやザーギスを中心に、ばれないように凶器の類いや毒物などの持ち込みができないかってのをいろいろ試してはいる」
「それでも見つからないのね。まあ全く抜け道がないとは言い切れないから、その対策はトーリたちも調べてみて。万が一持ち込まれて商業区で暴れられれば大事よ」
「「「はい」」」
確かにその通りです。
そんなことは有ってはいけませんから、何としても研究しておくべきです。
「あとは、今回実行役だったフソラ嬢を拘束するまでの動きがぎこちなかったっていうことがあるけれど、そこらへんは追々練習を重ねていくしかないわね」
「そうですね。総合庁舎の方に連絡が来るのがずいぶん遅いとは思いましたが、単なる練度不足でしょう」
「こっちもです。冒険者ギルドはいつでも動けるようにはしていたんですが、そもそも連絡が来たのがフソラちゃんを確保したあとでした。まあ、留学生区画の職員が慣れていないのが原因だとは思います。あ、そういえばユキさん。留学生区画の管理者は誰にするつもりなんでしょうか?」
あ、確かに。
ウィードの各区画には代表者がいて、そこを統括することになっています。
そうすることで、女王のセラリア様やユキ様の負担を減らすことにもなっているのです。
というか、そうでもしないとユキ様とかは特にどこからも引っ張りだこなので倒れてしまいますから。
「そこも問題なんだよなー。学生としてかかわらせるメンバーは決まっているんだが」
「大体想像はつくけど言ってみてくれる?」
「そりゃ、ラビリスたちだ。それともちろんドレッサたちもだ」
「まかせなさい」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。ラビリスたちはともかく、私は海軍の統括があるのよ? ヴィリアだってヒイロも、というかアスリンやフィーリアだって指揮官よ? 今だってあまり顔を出せていないのに」
意外なことにドレッサ様がユキ様に反対しました。
ちなみに、ドレッサ様はまだお若いのになんと海に浮かぶ巨大な城とでもいいって良い船を管理しておられます。
私が初めて連れて行ってもらったときはそれこそ島が動いていると思ったほどです。
確かクウボとかいっていました。
そこで海からの魔物に対応しているとのことです。
それだけじゃなく、海からの幸に関しても重要な仕事をしているので、お魚が大好きな私は積極的にドレッサ様とは仲良くさせてもらっています。
ですから、その仕事がおろそかになるのは……というのは確かにわかります。
「いや、海軍の統括が旗艦に乗っておかないといけないとかはないぞ? というか基本的に陸地の基地にいて後方から指示だ。まあ、最初は初めての海軍ってことであれだったが、今じゃ皆慣れてきているだろう? 独り立ちできる。違うか?」
「む。それぐらいできるように訓練はしているわ。わかったわよ。艦長に任せて私たちは政治ってことね」
「わかってるじゃないか。流石お姫様」
「馬鹿にしないでよ。いいわ。これを機会に全ての海がある国という国に船を浮かべてやるんだから」
なるほど、ドレッサ様が留学生たちと交流を持つことによってそういう展開が望めるのですか。
素晴らしいと思います。
「おー、それはいいですねー。商売の幅が広がりますよー。でも、それに見合う造船の基礎が大事になりますねー。お兄さん。そこらへんはどう考えていますか?」
「丈夫な船の作り方か……。空母のような鉄の船は……」
「無理に決まってますねー。とはいえ、魔物の脅威もありますし下手なものは作れませんよ。そこらへんは要研究でしょうか。でも、商売になるとおもいますよ?」
「いいねぇ。その話私とエージルが請け負うよ。海の調査場所が増えるのはいいことさ」
「だね。まだ見ぬ魔物や食べ物が増えるってことだからね」
皆さんも乗り気のようでワイワイ楽しそうに話合っています。
ですが、肝心の代表者はまだ決まってない……。
ここは、私が言わなくちゃならないかなぁと思っていると……。
「ユキ様。ウィードからの学生は分かりましたが、代表者はいかがするのでしょうか?」
と、ばっさり会話に割って入ったのがフィオラ様です。
流石私たちの上司。
言うべきことははっきり言ってくれます。
「んー。今手ぶらなメンバーっているか?」
「残念ながらそのような方は誰一人としていません。誰かが兼任するということになるでしょう」
「だよな。学校の先生役だけじゃなく、他国との交渉もする立場だしなー。かと言って下手にルルアやデリーユ、シェーラ、サマンサとかは使えないよな?」
「はい。元々どこかの王族だった奥様たちをトップに据えるのは不満の原因になるかと。かといって経験の浅いモノや、あまり見た目が若すぎても侮られることになりましょう」
「まあ、見た目の若さで侮るのは相手の責任だが……、交渉とかそういうのがあるだろうからな。いちいち納得させるのも手間だしちゃんと対応できる人がいいか」
「はい。それがよろしいかと」
え? そうなると元の身分が高くない人ってことですよね?
このメンバーだと……。
「じゃついでだ、いい加減独立を目指してみるか」
ユキ様はそういうと……。
「校長としてラッツ。副校長としてエリス。サポートには各国のみんなってところか。いけそうか?」
「大丈夫ですよ。そろそろ商業代表も完全に私から独り立ちした方がいいでしょう。まあ、最近はノンも実質独りで取り仕切っているようなものですし」
「そうですね。最近ではテファ代表の手伝いはあまりしていませんし、私が別の役職に就くのはいい機会かと」
「とはいえ、ゆっくりさせてやれないのが悪いと思っている」
「別にいいんですよー。それに前よりはゆっくりできるでしょう」
「はい。そこらへんは上手くやりますので大丈夫ですよ。なにしろ留学生区画の予算管理や物品管理もありますし私たち以上の人材もいないでしょう」
確かに、ウィードにこのお二人以上に交渉もできてモノやお金の管理ができる人はいない。
ということで、2人が協力して留学生区画の管理をすることになりました。
責任者って誰にするか悩むよね。
能力があればいいけど、その能力の有無って本当にやっていないとわからないし、信頼もないとだめ。
だからこそ身内でっていうのが多くなる。




