第1260堀:学園が舞台という理由
学園が舞台という理由
Side:ユキ
「いやぁ、たかが留学生を受け入れるってだけでここまで面倒くさいことになるとか、ホント恐ろしいですね」
なんて感想を述べてるのはタイキ君だ。
俺はセラリアに敵対組織対策もしなくちゃならないと話したあと、タイキ君たちに会っていた。
こういう敵対組織に対する知識はやはり現代日本を知るメンバーの方がいいと思ったからだ。
「確かにね。ただ単に受け入れるってわけにはいかないとは思っていたけど、言われてみればその通りですね。タイゾウさんはどうですか?」
「そうですね。私の戦前でも独国に留学というのにもライバルを蹴落とそうとする連中はいましたね。おそらくその作戦が成功した者もいるでしょう。裏にどのような関係があったかはわかりませんが」
ソウタさんとタイゾウさんも同意しつつそう答える。
ソウタさんは昭和生まれ、タイゾウさんは大正生まれで第二次大戦も経験している。
ソウタさんの方はともかくタイゾウさんの話は軍事が絡む技術の取得のための留学。
裏ではものすごい戦いがあったと想像できる。
「しかし、元々学園っていう舞台はトラブル要素が満載で、なんであれだけフラグが立つのかと思っていたけど。今こうして自分たちで状況やら背景やらを見てみると、問題がない方がおかしいぐらいだ」
「ああ、そうだな」
タイキ君の言う通り、なんで学園モノでのトラブルってのがそんなにあって、しかも普通ラノベとか漫画とかでしかこんなことおこらんやろと思っていたが、そもそもこれ以上ないぐらいのトラブル装置であることが今回のことで深く理解できた。
「そうですね。日本でも地方の学校であればまあその規模に見合った程度でしょうが、それでも問題がないわけではありません」
「ですな。そもそも学校、それも高等教育ともなれば単なる学問の学び舎というだけでなく、各地から選ばれた人物たちが集い出会う場でもある。そこにはどうしてもそこら辺の力関係などが出てくるのは当然というのは今更ながら当たり前なのですが。ですが今までそこまで考えていませんでしたな」
「そうですね。私が学生のころにも露骨にこいつなんで先生やっているんだとかいうのはありましたからね。日本の一地方の学校でそれだったんです。ウィードで行われる留学生制度となるとその問題も大規模になるのは当然ですね」
ソウタさんとタイゾウさんの言う通り、日本の学校でも何もトラブルがなかったのかというと違う。
常に何かしらのトラブルが起きている。
先生たちの権力争いや汚職もあれば、生徒たちのいじめや非行。
その内容や規模は様々だろうけど、何もない学校などないのだ。
ましてやそれが大陸間交流同盟に加入する全ての国々から生徒が集まるともなると、色々な思惑が蠢いて当然である。
何度も言うようだが、学校というのはそもそもトラブルが起きて当然の場所だ。
「とりあえず今はセラリアがこのウィードで敵対組織、犯罪組織の誘い出しをするかどうかの判断をするんだが……」
「セラリアさんがかー。うーん、微妙だなー。あの人結構優しいからな」
「ま、そうなんだがそこは国主たる者が為すべき決断ですからね。とはいえ、ぶっちゃけて言えば例えウィードからは締め出しても出身国やウィードとの行き来なんかでトラブルに見舞われることもありますからね」
「そうだな。結局事件が起こる舞台が変わるだけとも言える。で、そうなったら動かないわけにはいかないからな。単にウィードに滞在中の留学生を守ることだけでよいというのであれば決断もたやすかろうが……。まあ、そこをどう考えるかだな」
3人ともセラリアがどんな答えを出すかは予測できないようだ。
まあ、それも当然か。なんにせ子供たちを危険にさらすのかってことだしな。
セラリアも今や一児の母。
子供をおとりに、そして国主として国民をおとりにというのはなかなか悩むことだろう。
「じゃ、感情論は一切抜きにしてという条件なら皆さんはどういう答えを出しますか?」
「それなら簡単ですよ。ウィードに馬鹿どもを集めて叩く」
「私もそうだな。ウィード以上に防衛体制を整えるのに適した場所はない」
「そうですね。私も同意見です。何よりそのことで各国の敵対勢力の確認や各国との協力も容易となるでしょう。さらにウィードのというかユキ君の今後のことを考えるならこちらの方がいいでしょう」
ここも3人は同意見のようだ。
俺の目的や実際敵対勢力に対して行動を起こすことを考えれば、ウィードほど環境が整っている場所はないからだ。
ウィードには来ないようにしてしまうと逆に、その対応は他国で行うことになるが、特にゲートを通じて他の勢力と組んでいる場合、物凄く面倒なことになる。
その捜査の際いちいちその国と交渉をしなければいけないからだ。
キチンとしっぽを掴んでいるならいざ知らず、もちろん、そんな敵対組織を抱えていると指摘された側は素直には認めないだろう。
下手をすれば、何か被害が出た場合賠償責任も出てくるからだ。
だからなんとか独力でつぶしたいというのが本音だし、そんな組織を国内に放置していたということは国際社会において恥でしかない。
この問題は、地球でも足を引っ張っている。
そういうトラブルを回避するためにもウィードに誘い込み、どことどう繋がっているのかを見極めた上で合同で協力して叩き潰すのが理想なのだ。
その際に、国の責任は問わないとか、敵対組織による損害は補助をするとか言えば何とかなるだろう。
そうした実績を積むことで、ソウタさんが言うように俺が今後魔力枯渇現象に関しての調査で他国に赴く際の面倒な手続きの低減にもなるだろう。
まあ、そもそもウィードで留学生を受け入れる時点で他国への訪問も簡単にはなるだろうとは予想しているが、それに合わせて敵対組織の壊滅のためといった実績があればなおのこと受け入れやすくなるだろう。
「うん。やっぱりセラリアが反対という決断をしたら説得する方がいいのか?」
「その際の問題は国民や子供たちの安全でしょう? そこを確保できるなら反対する理由はないでしょう?」
「だな。とりあえずセラリア君が納得、賛同しやすい監視体制や生徒たちの安全保障のルールを考えてみてはどうだろうか?」
「そうですね。デメリットを限りなく減らして、それと共に得られるメリットをしっかり提示するのが大事でしょう。まあ、ユキ君への信頼から無理に押し通すこともできるでしょうけど……」
「そういうのはしませんよ。俺としては嫁さんたちが心配になるようなことは極力避けたい」
大事な奥さんたちだしな。
今まで散々無理を頼んできた。
そこで俺が強権を発動しても不承不承で動きが遅くなること請け合いだ。
それが致命的なミスにつながる。
だからそこはちゃんと説明して納得してからだ。
まあそれも、結局俺が『説得』という名の強権を発動したともとれるが、何も説明しないよりははるかにましだと思おう。
「じゃ、ちゃんと安心できる作戦を考えましょうか」
「そうだな。まずはどうやって敵対勢力、組織をウィードに引き込むかだな。相手もウィードに拠点を作りたいとは思うだろうが、そもそもセキュリティの強固さを考えるとあきらめる可能性も高い」
「そうですね。今のところウィードにはスラムのような場所は存在していませんからね。それに誰にも仕事がある状態ですし……」
そうウィードはもともと奴隷や行き場のない人たちを集めて作った国だ。
そういう連中の中には当然荒くれものも少なからず存在している。
だからこそ、犯罪行為に走らないように、スラムが作られないように調整しているのだ。
働けるのに働かず所得がなく路上で生活するような奴には、職業訓練場に行くというか強制連行にしているし、それでも更生の余地がないと判断された場合は国外退去となる。
まあ、そういうはみ出し者が生まれる土壌はそもそも仕事がないから仕方なくという事情が多いので、ちゃんと仕事さえあればそれなりに問題は解決できるのだ。
だが、今回はそれがあだになっている。
敵対勢力からすれば付け入る隙が物理的にないのだ。
スラムなんて都合のいい身を隠す場所は存在していないから。
これはウィードに旅行に来る連中も同じで、全員身分証を与えて目的と滞在期間を確認して、登録までしていて動きはばっちり確認できる。
何せ商業地区や冒険者地区は当然、他国から流れて来たものも数多く生活している場所でもあり、そういう敵対勢力の拠点となりうるからこそ厳しく取り締まっているのだ。
「そういった場所を下手に作っても、誘い込もうとしていると思うでしょうね」
そう、タイキ君の言う通り、今からそういう敵対勢力を誘い込むための場所を作ってもいいが、それではあまりに露骨すぎるというのは理解できる。
「いや、タイキ君の言うのは妙手かもしれないぞ。下手に『作る』ではなく、留学生を受け入れる場所を作ったら出来てしまったという体にするのだ。何も不自然じゃない」
「ああ、確かにその通りですね。受け入れるのは留学生だけというわけにもいかないでしょう?」
「確かにそういわれるとそうですね。各国の代表というか引率者とか、そういう人たちもいますし、その場所を作るということですか」
「プラス、それに合わせて商業区や冒険者区の住居拡張してもおかしくないでしょう。ウィードはさらに発展する予定なんだし」
「だな。エリス君も年々増える移住希望者や観光客に対して住居の拡張を考えていたはずだ」
「ええ。私もそう伺っています。それを利用するのはどうでしょうか? 大陸間交流同盟の留学生受け入れ記念で住居を増やすとでも告知すれば、便乗するでしょう」
「それで、その拡張したところに網を張るってことですか」
「ああ。とはいえ多少なりと頭が回る連中なら網が張られていることは予測するだろうが、さすがにダンジョンマスターの力で詳細まで確認されているとは思わないはずだ」
「それにリスクを負ってでも留学生に対して何かしらのアクションを起こしたいと思う人たちは多いでしょうから」
わかりやすい罠とは思いつつも手を出さない手はない……か。
ま、トカゲのしっぽ切りになりそうだが、それもダンジョンマスターの力を使えばかなり過去までさかのぼって追える。
「留学生たちにはお約束の『寮』を用意するとして、学校の周囲。配置場所は……適切な位置はどこでしょうね?」
「そうだな……。冒険者地区とは離すべきだろう。商業地区の方がいいはずだ。安全面を考えるとな」
「私はあえて別階層を用意してもいいと思いますけどね。まあ、それはさすがに露骨すぎますか」
「いえ、ソウタさんの意見もありだと思います。ダンジョンを増やして別空間で留学生たちを監視すれば余人が来ればすぐにわかる。何かしらのイベントをするにも便利ではあります」
だけどそれは逆に敵対勢力にとっては留学生に対してさらにアクションは起こしづらいという意味でもある。
だがそれは留学生たちの安全確保にも繋がるか……。
うーん、難しいところだな。
商業地区と地続きにするとテロリストが特攻して来た場合防衛が間に合わない可能性があるか。
「まあ、詳細はセラリアさんたちとも話して詰めるべきでしょ? 今の話を整理してどっちを取るかってことで、あと学生たちの身分証明と横暴を防ぐためのルール制定については……」
こうして俺たちは話し合いを続けていくのであった。
いやー、学校って本当に何でもありの場所なんだなーと改めて思った。
学園でなんでこんなにイベントが起こるのかと疑問だった皆さん。
よくよく考えればこれほど何かが起こる舞台というのはそうそうないようです。
何も無いことの方がおかしいぐらいです。
特に国際化しているならなおのことですね。
それだけ学園という環境は得意な場所と言えるでしょう。




