第1258堀:洞窟会議
洞窟会議
Side:デリーユ
「ふむ……」
ユキに言われて、ライエを呼び出したついでに同席させてもらったが、これはのぅ。
「義兄さん。その『反ウィード派』というのはどういう定義なんでしょうか?」
「確かにその通りですね。そこの定義を決めないとどうしようもないですが」
と、我が弟であるライエとランクスやらあの一帯のダンジョンマスターであるアーウィンが聞き返すのも納得じゃ。
「いやぁ、そこが問題なんだよな。乗り込んできてバカやったどこぞのお姫様みたいのを除けば、今まで放ってきた事柄だし、ウィードを妬ましいと思ってるってなら普通にいるだろうしということで、何をどうして反ウィードと判定するか難しいんだよな」
ユキもその質問に苦笑いをしながら首をひねる。
確かにその通りじゃ。
『反ウィード派』を定義せいといわれても、さてどうするか。
単に文句を言うだけというは確かにありえん。そんなのたかが一個人の意見でしかなく、その上何も実行もしておらんからな。
「それで義兄さん。なんで今日このタイミングなんでしょうか?」
「そうですね。何かきっかけでもあったのでしょうか?」
「それはな。今、大陸間交流の一環で留学生制度が動き出しているのは知っているか?」
「はい。姉さんから聞いております」
「私もタイキ君やタイゾウ殿から聞いていますね。その関連で?」
「ああ。その留学生を預かるウィードで留学生自身に何かあればウィードの信用は地に落ちる」
「「「ああ」」」
その一言に妾を含めて揃って納得した。
「なるほど、トラブルを起こすならここが狙い目ってことですね」
「確かに。要人なら護衛もつくが、数多くいて護衛を付けられない留学生を狙うのならやりやすいか」
「加えて、まあ優秀ではあろうがまだ若者で、さらにはこちらの常識にも慣れておらん。斯様なやつらはだますのも簡単じゃろうて。だからユキはウィードに悪意を持つ者が動く可能性があると」
「そういうこと。とりあえずエルジュ、リリアーナと共同で希少種族との対話に動いているが、その際に『他国の悪意』に関してどうするかってのがあるなと思いだしてな。そのまま今までのようにでいいのか、何か手を打つべきなのかってあたりの意見を聞きたいわけだ。監視を頼んでいるしな」
なるほどのう。
ユキのいう『監視』というのはダンジョンマスターとしてという意味でじゃろうな。
各国には内部の反発に関してはそれぞれで抑えてもらうようにしておるし、隠密である……。
「霧華も姿を現してこの話に加わってくれ」
「はっ」
そう、ただの情報収集であるのなら霧華たちで十分事足りる。
これはダンジョンマスターである者たちに独自の意見を聞きたいということじゃな。
「それでどう思う? まずはそういう間諜とか馬鹿対策を強めるかどうかだ」
「それでしたら強めるべきかと。あえて隙を誘うのもありでしょうけど、それでも各国に対してアピールしておく必要はあるのでは?」
「私もライエ君の意見に賛成かな。改めて対策の見直し強化は必要で、留学生を送り込んでくる各国もそれで安心するでしょう。まあ、それでも何かしてくる連中はおそらく出てくるでしょうが。で、まず最初に聞きたいんですがその留学生にちょっかいを出してくるなど警戒すべき国はもうありますか?」
「霧華どうだ?」
「今の所はそういうのはありませんね。確かにウィードに対する不満を持っている人たちはいますが、留学生に手を出せば下手をすれば己が国まで危うくすることになりますから」
確かに霧華の言う通りじゃ。
留学生に手を出すということは、その母国をも敵に回すことになる。
「それに、まだ留学生制度自体、まだ話すら決まってないですからね」
「確かにそうだな。詳しい内容が決まってもないのに相手も作戦の立てようがないか」
「でしたら義兄さん、逆にやられたら困ること。こっちならこうするってことを考えた方がよくないですか?」
「ライエ君のいうとおりだが、それはそもそも私たちダンジョンマスターに警戒してほしいこととは別なんじゃないか? その手の対策の立案は各国で集まって話すことではないだろうか?」
アーウィンの言う通りじゃな。
斯様なモノ、このメンバーで話しても仕方のないことじゃ。
いや、原案を考えるという意味ならやらなくはないが、結局の所それではダンジョンマスターである必要はないしの。
「ああ、そうだな。留学生制度の話をしたばかりにややこしくなったな。簡単にいこう。俺が聞きたいのは、そちらの管理下でウィードに対して妙な動きを見せているところはあるか?」
「なるほど。そういう話ですね」
「ああ、それならわかりやすくてありがたいですね。つまり、留学生制度を利用して動き出すようなモノは、私たちが捕捉、確認している敵の可能性が高いというわけですか」
「ああ。ということで、とりあえず留学生制度に関係なく『敵』はいま確認しているかってことだな」
なるほど、そういうことか。
確かに今の段階でこの二人のダンジョンマスターに警戒されているやつらがいるのであれば、要注意じゃな。
「で、どうだ?」
「そうですね。僕に管理が任されているエリアでは特に……。それならアーウィンさんが任されているところの方が怪しいのでは? アーウィンさんの管理しているところの多くは大陸間交流同盟未参加の地域ですから」
「そうですね。一応警戒している国がいくつかありますが、まだどこもとにかくダンジョンマスターを自国で確保しようというレベルですね。まあ、ウィードから大陸交流同盟を取り上げないと干上がる一方ですからね」
「そういうレベルでしたら、僕の管理エリアにもありますけど、ウィードの評判を落とそうにも表向き交易の管理は各大国が握ってますからね。ということでロガリ大陸内では特に動きはないです。イフ大陸の方はどうなんですか?」
「そっちは、そろそろ……」
ユキがそう言いかけたちょうどそのタイミングで会議室のドアが開いて。
「やぁ、待たせたね」
と言いながらサクリが入ってきた。
彼はイフ大陸で現存している3人のダンジョンマスターのうちの1人。
もちろんその一人は妾の夫であるユキ。
そして前ダンジョンマスターであるコメット。
最後が、このサクリである。
ちなみにこの男、かつての魔王ピース・ガードワールドとの戦いで体を欠損する大けがをしていたのだが、ユキたちの治療で傷自体は完全に治したものの、欠損した部分はそのままでいるのだ。
なので義手義足の姿で多少見た目が痛々しい。
ま、それも本人の意向ではあるのじゃがな。あれじゃ、傷は誇りというやつじゃ。
「って、サクリさん一人ですか?」
「あはは。そこまで気づかいしなくてもいいよ。ユキ君たちのおかげで下手な生身よりこっちの義手義足の方が強いし動かしやすいんだからね。ナールジアさんにはホント感謝さ」
「「「……」」」
笑うサクリに妾たちは全員沈黙する。
ナールジアが手による義手義足であれば丹精を込めて作ったのは間違いなく、その性能は確かにお墨付きじゃ。
だがのう……。確実にいらんギミックがついておること請け合いじゃ。
端的に言えば爆弾を身に着けているのと変わらん。
と、そんなかわいそうなものを見る目をしておった妾たちの様子を見てサクリは苦笑いになって……。
「心配しなくても大丈夫だよ。ナールジアさんやフィーリアちゃんたちはそんなことしないって。まあ、心配する気持ちは分かるけどね。ところで本題だけど、今日の話はイヤホンで聞かせてもらったよ」
と、サクリはあっさり話を切り替えて、反ウィード派の国についての話になる。
「ああ、そうでした。それでどうですか?」
「そうだね。正直に言って、イフ大陸ではウィードへの反発なんていうのはないね」
「ん? なんでじゃ? ユキに嫉妬が集まっとるのではないか?」
「いや、むしろロガリ大陸に学生を送れるというだけで諸手を挙げて歓迎しているね。何せ技術大国と認識しているウィードへの留学だしね。イフ大陸で嫉妬の対象になっているのはゲートを管理している大国だ」
「「「ああ」」」
なるほど。
サクリの言うように、イフ大陸でゲートの管理をしているのは向こうの各大国じゃ。ウィードはイフ大陸内のゲートの設置や流通のコントロールをして大儲けをしているわけでもない。
「ってことで、むしろ反発がありそうなのは、僕たちのいるエクス王国と、ウィードの窓口を自国内に擁しているジルバ帝国かな。ゲート技術の独占をしているように見えるからね」
「確かにサクリさんの言う通り、イフ大陸ではエクス王国がゲートの設置をしているし、ウィードが管理しているベータンはジルバ領ですからね」
「そうなると、サクリさんの言う通り害をなすのであれば、ウィードではなくジルバやエクスになりますね」
「そうかー。なるほどな。とはいえ、そうなると対策が面倒になってくるな」
「その話ですが、次の会議で議題に出しておくべきでしょう。ウィードの評判もそうですが、留学生に何かあれば関わる大国やその国元も非難されることになります。そしてウィードだけで背後関係を洗うのは無理でしょう」
その通りじゃな。
サクリの話を聞く限り、ウィードだけを注意しておればよい話ではない。
「お互いの足の引っ張り合いで変な動きをする馬鹿が出てくるというわけじゃな」
「はい。その通りですデリーユさん。学び舎というのはその者の出身地の面子を誇示する場所でもありますからね。ウィードだけを貶めようなんてそんな単純な理由での動きはあってもごく一部でしょう。そういうのもユキ君は分かっていると思うけど?」
「まあなー。でも、俺たち自身で守らねばならないのはウィードだから、まずはウィード関係を洗うのが先かなと思ったわけだ」
「確かにね。ならば、ウィード関連はロガリ大陸に絞った方がいいね。イフ大陸は僕と、コメットさんはー……」
「あれは無理だからやめとけ」
「そうだね」
うむ。妾にもようわかるが、コメットにこの手の仕事はむりじゃ。
あれは本当に研究馬鹿じゃからな。
「そうなると、新大陸の方にも連絡は入れておくべきか」
「そうだね。でも、新大陸はハイデン・フィンダール方面にしろズラブル方面にしろ今のところダンジョンマスターはいないよね?」
「そうなんだよな。まあしょうがないから、国に外交上注意しておけとしか言いようがないよな。あとはこっちで管理している範囲を広げるかだが……いかにせん人が足らん。新大陸の監視割り振っていけるか?」
「無理ですよ。今のままでも手一杯です。かといって新しく部隊を作っても育ててる暇ないですし」
「うーん、できなくはないですが、それでもライエ君の言う通り精度が大きく下がりますねー」
「ダンジョン側からの監視強化については、また別で話し合うべきですね。それこそウィードの面々を集めて。ダンジョンの管理に関してはここが総本山ですし」
「わかった。やるべきことは次の会議で、留学生に対しての不法行為、特に敵対国敵対勢力の行動があり得ることの注意。それとは別で各大陸のダンジョンによる監視体制の強化の話合いだな」
とユキが纏めると、みんな頷く。
さぁて、ますます忙しくなってくるのう。
そろそろ妾も警察の特務から外れ……。
んー? いや、まて。妾はむしろ警察の立場でこそここは動けるか?
久々のデリーユ弟ライエと剣聖の弟子アーウィン。
覚えているかな?
エルジュとかリリアーナとか懐かしいキャラが出てきております。
さて、もうそろそろ記憶が追い付かないなー。




