落とし穴番外:元廃村への対応
元廃村への対策
Side:タイゾウ
「なんでそんなに怒るのよー」
などと文句を言いながら頬を膨らませているルナ殿。
無関係な第三者が見ればルナ殿の様な美人がそのような行動をしているのはそれはそれで映えるので微笑ましいと思えるのかもしれないが、私たちはそんな悠長なことは言ってられなかった。
「馬鹿かお前は!! 一から創造したってならよかったけど、手抜きで廃村をもってきて修復とか馬鹿か! 何が入っているかちゃんとチェックしたんだろうな!」
「はぁ? ずっと前から廃村だったんだから、んなことしなくたってすっからかんでしょう? で、それをそのまま持ってきてちゃんと修復したんだから何も問題あるわけないじゃない」
ああ、何たることだ。その言葉を聞いただけで余程の事態だ。
この廃村、いやのどかな村というかせいぜい集落レベルだが、神社も含めてすべて長年放置されていたようだ。
家屋の方はともかく、神社が放置などとはかなりまずい。
そう、私でもそれはまずいとわかることだ。
どう考えても……。
「それって夜になると幽霊祭りになりそうですねー。俺、もう帰っていいですか?」
そうだな。
タイキ君の言う通り夜になればどんな怪異が起こるか想像もつかない。
そして帰りたいというのは私も同感だが……。
「帰ったら、家屋で見つけた妙な箱とか人形とか姿見とかまとめて送り付けてやるからな」
「ええっ、そんなの絶対やめてくださいよ!?」
うむ、ユキ君ならやりかねないな。
いや、私でもそうするな。
なにせ、自身の管轄にこんなところができてしまえば何としてもさっさと解決しないとまずいからな。
それに役立つ人材を逃がすような真似はしない。
「え? この不思議な村にある箱とか人形とかってお土産に持って帰っていいの?」
などととんでもないことを言っているのは、この場になぜか首を突っ込んできたハイレン殿だ。
「いや、絶対に持って帰ってはだめですよ。そういうのは『呪物』になっていることが多いですからね」
「うむ。こういう古い家屋にあるものはちょっとまずいだろうな。まあ、どうしても何か持って帰りたければ、私かソウタに相談してからだ」
「じゅぶつ? なにそれ?」
『呪物』などと言われてもハイレン殿にはサッパリわからぬのだろう。
まぁ、私にしたところでその言葉の基本的な意味までは知っているが実物なぞ見たことはない。
とはいえ、私もそういうモノを持ち帰ろうなどという気持ちにはならないな。
「呪物というのは、呪いの品物ですね。ほら、ハイレンもノリコさんからの漫画で読んでいるでしょう?」
「ああ、髪が伸びる人形とかね。ってそんなのが本当にあるの!?」
「いや、ノリコの描いている話はまだ優しい方だぞ。ホントに厄介な呪物、呪いの器物になると平気で人を祟り殺す。で、こういう小さい集落なんかではそういう呪いが凝縮しやすいからな」
「ええっ? それってとんでもなく危険じゃない?」
「はい、非常に危険だからこそ、ユキ君たちはこうして私たちを集めたんですよ。いやはや、夏休みの休暇がとんだことになりましたね」
「はー、でなんでルナ様はそんなことをしたの?」
ハイレン殿の素朴な疑問にそんなことをしでかしたルナ殿に視線が集まる。
「別にあるって決まったわけじゃないでしょう。ま、神霊や幽霊とかがいない程度は確認しているわよ。本当にたださびれたってだけのものだったからこっちに持ってきたの」
「じゃあ、平気じゃん」
「それが本当ならな。安全確認をちゃんとするっていうのがいるんだよ。なにせ子供たちもいるんだからな」
その通りだ。
ルナ殿を信用するしない以前の問題だ。
私たちが過ごすのだから安全の把握ができていないというのは避けるべきだ。
家屋の調査もしかりだ。
なにせ私たちにとっては問題がないものでも子供たちにとっては危険なものは沢山ある。
「包丁などの刃物がそこらへんに置きっぱなしなどということもあるしな。それに井戸に蓋がされていないなど結構田舎ではあるからな」
「え? それって普通じゃないの?」
「ハイレン。そういうのは元々田舎に住んでいる子供たちは普段から身の回りにあるそういう危険について言い聞かせられているからいいんだ。だが、ユキ君たちの子供たちはそうではない。だからちゃんと危ないものなんかはチェックして取り除くなり立ち入り禁止にするなりをしないといけないんだよ。意外と子供っていうのは行動力があるからね。わかるだろう?」
「あー、確かにちゃんと言ってなかったから、ミラクルなことをする子っているわよね。うん、それって危険よねー」
ソウタ殿がここまで噛んで含んで説明してようやく納得するハイレン殿。
まあ、子供というものは突拍子のないことをすることこそある意味子供らしいのだがね。
とはいえ、大人としてはそれを無為無策に放置するわけにはいかない。
命の危険があるのならなおのことな。
「そういえば、ユキ君。この集落のことは、奥さんや子供たちには?」
「ああ、セラリアたちには既に伝えていますけど、子供たちには下手に駄目っていうと逆に来るでしょう? だからとりあえずこの辺りは『工事中』ということで伝えていて、霧華に頼んでここ一帯の監視をしてもらっています」
「はい。工事中ということで警備の部下を監視に当たらせていますので大丈夫かと。あとコールのMAPもチェックしていますので、お子様たちの動きが分からないというのは無いでしょう」
確かにこのダンジョン内であれば、人の動きは監視できる。
そこまですればとりあえず問題はないか。
だが、それで気になるのは……。
「で、霧華君の部下たちは大丈夫なのかい?」
「はい? それはどういう意味でしょうか? この程度の山の調査ぐらいでしたら何も問題はありませんが?」
霧華君には私の言葉の意味が分からなかったようで首をかしげている。
しかし、ユキ君は気づいたようで……。
「ああ、山の中といえば怪異に遭遇する確率が上がりますからね。特に夜とか」
「その通りだ。で、霧華君たちの部下はそういう対処は問題なくできるのかい?」
「えーと、実際には『怪異』に対する経験はありませんので何とも。ですが、私たちはデュラハン・アサシンですので、その手の怪異からは同業者とみられるのではないでしょうか?」
「まぁ、そういう可能性もあるな。だが、とりあえずこの手合いの場合山の中での怪異遭遇率は高いから、定時連絡は小刻みにする方がいいかもな」
「かしこまりました。では、通常の30分おきではなく20分おきにしておきます」
「それがいいだろうな」
よし、これで霧華君たちの部下の安全は確保したとはいえればいいが、まぁ、何かあればすぐに確認が取れるだろう。
あとは……。
「周囲の警備はそれでいいとして、結局これから俺たちがしなきゃならないのは家の捜索ですよね?」
「そうだな。まず、ハイレンは単独でいいとして」
「なんでよ!? 私が呪われてもいいわけ!?」
「女神が呪われるなよ。そんなのなんとかしろ。女神パワーで」
「便利な小道具かなんかみたいに女神パワーでとか言わないでくれない!?」
「いや、この状況作り出したのそこの女神のパワーだが?」
「ぐっ」
「あまり褒めるんじゃないわよ。ま、そういう呪物がないとは言い切れないけど、私の所に持ってきたら解呪してあげるからそこは心配しないでいいわよ」
おや、ルナ殿が意外なほど協力的だ。
「で、何を考えてるんだ?」
「何も考えてないわよ。私だって『のんびり夏を過ごす』ために用意した場所だからね。あんたたちはともかく子供たちや奥さんたちを危険な目に合わせるつもりはこの私にはないわよ。どう、これ以上ないほどの説得力じゃない?」
「「「……」」」
うむ、説得力など無いと否定したいところだが、ルナ殿は対応できない相手に無茶をするような人物ではないのは確かだ。
だが、私たちがまた怪異に巻き込まれるということ自体を否定してほしいものだな。
「まあまあ、とりあえずここは家屋の調査を始めようじゃないか。ユキたちに悪戯しないように私たちの方からもお願いするしさ」
そう言いながらニコニコと話に入ってきたのは一緒にこの集落の様子を見に来たコメット君だった。
「そうだね。ルナ。ユキは僕たちの大事な人だし、タイゾウさんやタイキも僕たちの良き友人だ。久々の休みなんだから、ここはひとつ何もしないでやってくれないかい?」
と、エージル君も一緒に『お願い』をしてくれる。
「私は別に何かするなんて一言も言ってないわよ。てか、先ほども言ったようにそもそも何もする気はないから、さっさと調査してきなさいな。私はここでの~んびり田舎の夏を楽しんでいるから」
そういうなりルナ殿は畳の上にゴロッと横になり、テレビを付けてDVDを見始める。
……本当に夏の田舎だなぁ。
「はぁ、わかったよ。とりあえず、12軒ある家を徹底的に確認だ。怪しい部屋があった場合は入室は禁止、隠し部屋も同様。御札が張ってある場合ははがさない。割り振った各建屋を3人一組で調査だ。いいな?」
「「「了解」」」
ユキ君の当たり前の注意を聞いて、私たちは各々動き始める。
当然、私は……。
「夏休みにわざわざすみません」
「なに、気にしなくていいさ。むしろ、こんなところで日本の夏を感じられるとは思わなかったしな」
「ですねー。怪異が絡まなければ特に何も問題ないんですから、ただの家の探検ってことで。というか、全部の家が捜索し放題って楽しくないですか?」
「ま、そうだな。楽しむか」
「ああ、こういう時は楽しむのが一番さ」
ということで、私たちは割り振られた家屋の調査へと向かう。
「しかし、ユキ君まで私たちが一緒の組みで良かったのかい?」
「そうですね。俺たちって怪異を知っているからばらけた方がよかったじゃないですか?」
「んー。それも考えたんだけどな。ほかもソウタさん、エノルさん、水とか強力なメンバーもいるしな」
確かに今回の捜索に関わるメンバーは意外と心霊に強いか、極端に研究重視のメンバーになっているからそこまで心配はないだろうな。
「ハイレンが何もしないといいですけどねー」
「いや、あれは単独行動させれば高確率で何か厄介ごと起こすからな。こういう時には逆に便利だろ?」
「確かに、ハイレン君にはわるいがあの悪運は利用するべきだな」
「でしょ? それと、俺たちは俺たちだけで固まっていればルナが悪戯する相手は俺たちだけになるでしょう?」
「あー、俺たちは囮ってわけですか」
「被害は最小限にか。となると、調べにいく家屋では細心の注意を払った方がいいな」
「割り振りは俺たちが決めたとはいえ、あのルナのことですから何か仕掛けてこないとも限らないですからね。ということで覚悟を決めていきましょう」
そう言いながらユキ君が立ち止まった目の前には、一軒の古風な平屋の家がポツンと建っているのであった。
何もなければいいんだがな……。
さあ、皆さん。
家の捜索で怪異がでるかはあなたたち次第。
幽霊、怪異は出てほしいですか?




