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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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第1199堀:学府の行く先について

学府の行く先について



Side:コメット



「……という感じでレポートを纏めてますね」

「ふむふむ。いい着眼点だと思うよ」


私はポープリから渡されたカグラたちのレポートの評価をする。

『学府が存続するための方法』っていうところは『政治』が絡んで気に食わないけど、その中身としてこれまでの学府の歴史から工夫された特異な魔術の使い方を調べて研究していく。

それこそがこの学府だけにしかできないこととして挙げてあるのは実に好ましい。

それってポープリたちが頑張ってきたからこそできるものだからね。

ほかの魔術学校ではこうもいかないだろう。


「それで、これで推せば学府が不要って連中は抑えられそうかい?」

「それについては元々、別大陸の各国からも支持を貰う予定でしたので、こちらは更なる後押しというやつですね。これで単に私がユキ殿との知り合いということを利用しているだけという連中も封殺できるでしょう」


ああ、そういえばユキが手を回して別大陸の各国から存続の支援をするようにしているんだっけ?

それのダメ押しってわけだ。

これで表立ってこの魔術学府は不要と否定してくる連中は抑えられるだろう。

気になるのは……。


「あとは、『直接的な邪魔』をしてくる連中を警戒しとくぐらいか」

「師匠もそういうのを警戒しますか?」

「当り前さ。私も元々はどこぞの学校に通ってて煙たがられた質さ。で、そういうやつらに限って最後は物理手段に訴えるのさ。私の場合はあくまで個人でしかなかったからね。さっさと逃げだせば終わりだったけど、この学府を背負っているポープリはそうはいかないからね」

「そこの注意が必要だということですか」

「そういうこと。とはいえ、流石にあまりに露骨な手段に出ると相手方も立場を失うだろうから、そこはネチネチと証拠が出ないようなやり方になるだろうね」


ホント、ああいう連中って全くめんどくさいね。

相手の足を引っ張ってる暇があったら、自分たちの実力でどうにかしようって思わないのかな。

いやぁ、そういうのができないからこそ他人の足を引っ張るんだろうね。

そっちの方が現実的だって。

で、この忠告もポープリは分かっている感じで……。


「まあ、そうするしかないですね。とりあえず、学府内には一応通達しておきましょう」


こんなアドバイスは彼女には不要だったかな?

なにせ私よりもよっぽど長い間組織の運営をしているんだ。

これぐらいは何度も経験があったんだろう。

とはいえ、師匠としては言っておいた方がいいだろうということでもう少しおせっかいをすることにする。


「そうだね。学府にいる生徒たちにはちゃんと大陸間交流加盟各国の承認が下りて大陸間交流にイフ大陸代表の魔術学園として認められたっていうだけでも十分効果があるだろう。あとは、どっかの幹部候補にって甘い話で引き抜きがあっても迂闊にいかないようにってやつだね」

「それは前からやっていますが、今後はさらに念を入れてということですね」

「ああ。それがいい。とくにあの『りゅうきし』?だっけ、あの子たちはそこらへん念入りにしておくといい。学府の秘蔵っ子なんだろう?」

「りゅうきし? ああ、竜騎士のアマンダとエオイドですね。彼らはその辺りを含め、ユキ殿たちの指導をしっかり受けているのであまり心配はないかと思いますが、一応注意はしておきましょう」


何せアマンダがのっているワイバーンは結局アスリンの配下なんだしね。

たとえアマンダが篭絡されても、アレがアスリンや私たちに背くわけがない。

まあそれでも『乗り手』を狙おうって馬鹿は出てくるんだろうねぇ。

何より竜の替えはないけど、乗り手の替えはあるはずだと馬鹿どもは勘違いしているだろうからね。

ここは、私からユキたちにも言っておく必要があるね。

前に実はアマンダを巻き込んだのはユキたちだとも言っていたしね。

などと、私は私でこの学府のためにできることを考えていたら、今度はポープリの方から質問をしてきた。


「師匠。ナイルア、ワズフィがそちらに行っていますが調子というか様子は御存じですか?」

「ん? ああ、あの二人ね。私は今学府で大樹海探索の準備だから、詳しくは知らないけど、それでもデリーユたちからいろいろと話は聞いているよ」


ポープリが聞いてきたのはウィードに来たここの生徒のこと。

こんな時でもやっぱり生徒を気遣うか。

いや、こんな時だからこそかな?


「別段問題はないようだね。むしろ、意外とワズフィは根性があるってデリーユが褒めてたよ。それにナイルアは魔道具開発においてはやっぱり光るものがあるようだよ。ナールジアにザーギスが教えがいがあるといっていたしね」

「はぁ~、ワズフィは相変わらず『拳』なんですねー。ですが、ナイルアについてはそのお二人から称賛を受けているというのは驚きですね」

「ああ、スキルを道具、アクセサリーに付与というのはなかなか凄い話だからね。手にしただけでそういうスキルが発動できるというのはかなり研究する価値はあるだろう」


そう、これができれば、タイゾウさんの科学と同じく、才能の有無にかかわらず誰でも平等にその魔術が使えることになる。

そうなれば、もっと世の中が便利になる。

とはいえ、そうそう簡単にことは進まないだろうというのはこの私自身がよくわかっている。

きっと今魔術が使える連中が足を引っ張りにかかってくるだろう。

魔術師という立場がなくなるって思いこむ馬鹿どもが現れるだろうからね。

新しい技術は便利な反面、既存の労働というものにえてして悪影響を及ぼすってタイゾウさんとかユキがよく言っているからね。

そこらへんはよく注意していかないとね。


「……で、彼女たちはウィードで働くに値する能力の持ち主でしょうか? 自信をもって送り出したつもりではあるのですが、やはり教え子のことは心配で。何より彼女たちには『後』が基本的にないですからね」

「そうだね。今のままでも私の助手としてナイルアは雇っていいね。それにナールジア、ザーギスも欲しがりそうだ。で、ワズフィに関しては、技術者ではなく実力者だから、デリーユとかトーリたちが喜んで引っ張るだろうね」

「そうですか。それならひとまずは安心ですね」

「そもそも、あのユキが引き受けたんだ。彼が放り出すわけがない。まあ、どこまで『関わらせる』かはわからないけどね。でも、この前の交流会には参加していたようだし、いまんところ幹部候補かな。それはポープリの狙いでもあるだろう?」


ワズフィはともかく、ナイルアの立場はこのイフ大陸においては非常に微妙だ。

というか、生存がバレればそのまま死刑にしないといけないレベルで。

そんなナイルアをユキに預けたというのは、つまりそういうことだ。


「はい。それは狙っていますね。なによりユキ殿ならナイルアを無下には扱わないだろうと確信はしていましたし」

「私もそれは同意見だ。とはいえ、そのユキは女性をポイッと押し付けられて困っていたけどね。ま、奥さんもいるんだし当然だけどね」


ユキが愛妻家なのは私たちもよく知るところだ。

その上ほかの女をどうにかしろといわれて喜ぶようなタイプではない。


「そこは悪いと思っていますが、ナイルアはあのままでは日の目を見ることはできませんでしたからね。彼女の才能を最大限生かせるのは彼の所だと」

「うん。あのナイルアの才能を最大限に生かせるのは確かにユキの所だろうね。なによりウィードでなら存分に支援してもらえる。私も興味があるからね」

「くやしながら、我がランサー魔術学府では彼女を表立って支援するわけにもいきません。エナーリアとの関係もありますが、何よりその研究物が魔術師の価値を相対的に下げるものとなれば……」

「なおのこと、学府で支援するわけには行かないね。下手すると、学府内部まで分裂するおそれ……いや、絶対するね」


イフ大陸においてこの学府は魔術を学ぶ上での最高学府だ。

だから、『この学府に通うこと』を『名誉』としている馬鹿もたくさんいる。

それが魔術師の価値が下がるようなことに支援をしているってなれば必ずポープリの足を引っ張る連中が出てくるのは目に見えているね。


「ですよね。ま、私としてはユキ殿にナイルアに手を出してもらえれば今後安泰なんで、是非してほしいんですけどね」

「はぁ~、そんなことを言い出したら、学府の困っている女生徒全員面倒見てくれとかいう話になりかねないけどね」

「はい。そこは重々承知です。だからナイルア個人が頑張ってくれればいいんですが。愛人ってだけでもいいんですけどねー」

「そりゃないね。あのユキは女性はちゃんと大事にするタイプなのは知っているだろう? もしそうなりゃ立派な側室だね。とはいえ、あのナイルアがアピールできるとは思えないけど。ついでにワズフィも」

「あはは……。はぁ~、クリーナとサマンサの方は上手くいったんですがねー」

「いや、あの二人はユキがじゃなくて、ほかの奥さんたちが欲したからね。各国との繋ぎとして。ナイルアにワズフィにはその点『ただの一芸』しかないからなー」


あのレベルでユキの奥さんたちが支援してくれるかなー?


「あ、一芸で思い出しましたが、ワズフィは確かに行動派ではありますが、魔物研究ではそれなりのはずですよ? そちらの評価については?」

「確かにワズフィの魔物に関する調査や知識はそれなりに大したものだよ。だけど、今の所せいぜい欲しい人材どまりだね。彼女レベルなら残念ながら各国ではたくさん存在する。なにせイフ大陸と違ってほかの大陸は魔物の被害が顕著だからね」

「むむむ。確かに言われるとそうですね。イフ大陸よりも別の大陸の方が魔物に対しての研究は進んでいますからねー」

「まあ、芽がないわけじゃない。直々にデリーユという魔王様から手ほどきを受けているんだ。この時点でウィード幹部にするつもりってことだろう。と、そこで思い出したけど、ポープリ。君はハヴィアを結局どうしたいんだい?」

「え? 話の流れつながっていましたか?」

「ああ、つながっているだろう。『生徒たちの将来』を気にしているってことで。で、ハヴィアも今現在存在している以上。次を考えないといけない。幽霊という存在ではあるけどね」


というか、ナイルア、ワズフィについてはあのユキが引き受けてくれた時点でほぼ進路は確定しているようなものだ。

いまさら不採用とかになるのはあくまで本人たちの意思になるだろうね。

だけど、ハヴィアはそうはいかない。

幽霊という不確定な存在であり、ユキたちも持て余しているはずだ。

何をどうするのがいいのかってのをユキたちですらわかっていない。

で、ポープリは彼女になにを、いや、どうなることを望んでいるのだろう?

で、その質問を受けたポープリはどうやらあまり考えたくもないことってのを考えたのか、少し顔を顰めて……。


「そうですね。理想は穏やかに天に召されるのがいいのでしょうか? ですが、もしその前に害をなすのであれば実力で排除することになるでしょう。ですが、これはおそらく彼女にとっては迷惑でしかないですね。簡単に言えば、学府からいなくなってもらえればということでしかないですから」

「あはは。悪意のある言い方だね。別の見方をすれば巣立ってほしいということかな」

「巣立つですか? 確かに、それが『未来ある』生徒であればそれを望みますが……。そもそも彼女に未来はあるのでしょうか?」

「さあ、こればっかりはわからないね。とはいえ、楽しそうに毎日漫画を読んだり研究をしたりしているよ」

「私の願いが叶うのであれば、そのままその道に進んで満足いくまでやって欲しいですけどねー。ですが、それはハヴィアをウィードに押し付けることになる」

「いや、それって今更だとは思うけどね。それにナイルア、ワズフィを押し付けてハヴィアは駄目というのもおかしな話だ」

「あはは。確かにそうですね。とはいえ、200年以上ものあいだ、気が付いてあげられなかった。それがどうもですね……」


なるほど、死なせた負い目ってやつかな?

それともそれって学長としての生徒に対する当然の感情かな?

まあ、どのみち……。


「まあ、その件でもあのユキが動いているからねぇ。案外うまくいくかもしれない。困っていたら手伝ってあげるといい。もちろん私も手伝うけどねー。何せ幽霊なんて面白い現象なんだし。あとノリコも来るしねー」

「えっ、ノリコですか。いやぁ、ウィードの幽霊は自由なんですねー。そこから何かヒントでもあったのでしょうか?」

「いやー。ノリコはルナさんの影響受けているから全く参考にならないね」


それだけははっきり言える。

ルナさんが絡んでしまうと『基準』ってやつには一切できないからね。

まぁ、そのノリコの漫画は私も好きなんだけど。


ん? そういやハヴィアって漫画好きだったよね? 確かノリコの漫画も……。



予定通り着実に周りを固めていきます。

あとは暴走する組織がいないかぐらいです。


ランサー魔術学府の支持案件はこれで何とかなりそうですが、あとは大樹海と幽霊問題。

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