第1177堀:戦いはすでに始まっている
戦いはすでに始まっている
Side:ミリー
セラリアが交流会やるって言いだした時はどうなるかと思ったけど、そこはやっぱりユキさん。
しっかり内容をまとめてきて、私たちに改めて説明してくれたんだけど……。
「はー、お兄さんも考えましたね」
「ええ、そう思うわ。まさにユキさんらしい方法ね。ミリーはどうかしら?」
「あ、うん。本当にユキさんらしいと思う」
私の手にある紙にはこう書かれている。
交流会チームトーナメント参加条件
・3人1組のチームを作ってユキに申し込む ※2人でもいい
・チームに対して5万ポイントが与えられる
・そのポイントを使ってトーナメントのエントリーができ、ほかのポイントを増やすためにも使用できる。
ポイントの消費数は以下の通りである
・トーナメント参加費用一人につき2万ポイント
・昼食 上:5000 中:3000 下:1000 最下:500 ※1食分 なお上はとても美味しいです
ポイント獲得方法は以下のとおりである
・午前中のテストを攻略することでポイントをもらえる
・午前中の武闘大会でもポイントがもらえる
「しかし、この武闘大会でポイントがもらえるっていうのは何やら作為的なことを感じますね」
「ええ。武闘となるとデリーユやセラリアが一番得意よね……って、そういうことか」
「エリス何かわかったの?」
「そうよ。腕に自信のあるメンバーはこぞってこっちに行くでしょう? ということは自然と競争率が高くなる」
「ああ、なるほど。その間に私たちはテストを突破してポイントを稼げるってことね」
「ふむふむ。頭を使わないといけないということですね。そして、トーナメントっていうのがこれまた……」
ラッツの言うように最後のトーナメントは本当に総力戦になりそう。
なにせ……。
「一定の地域でのバトルロイヤル方式。どこかのゲームを参考にしていますね」
「ランダムで地域が指定されて、そこに向かわなくてはいけないという枷に、相手を見つけても戦うかどうかも考えないといけない」
「こういうのは戦うこと自体が悪手になりかねないものね」
それを3戦して順位を競い、今までのテストも含めて総合を競い、最後の4戦目は上位5組バトル。
「あはは、まあポイントが足らなくても参加はできますが、被弾が二回で終わりですからね」
「逆にポイントが多ければその分被弾を増やせると……」
「どこまでポイントを貯めるかがコツねー。まあ、場所どりも重要になるわ。なるほど、ユキさんが楽しみながらやるわけね」
「さらに重要なのはこのバトルロイヤルはスキル封鎖、身体能力も落とされて均等にされて、武器は戦闘フィールドにランダムに配置している銃を使うのがメインですねー」
「一応、格闘戦もあるって言っているけど、身体能力が落とされているってことは銃撃の方が強いわよね」
「そうでしょうねー。そうじゃないとデリーユとか避けそうですし、頭を使わなくていいですから」
「これである意味平等ってことになるわ。まあ運もあるでしょうけど、運も実力の内っていうし……」
「事前にどれだけ準備ができるかで決まりそうね」
「となると、やっぱりだれを仲間にするかが肝になるわね」
チームは最大3人。
2人でチームでも組むことは可能だけど、最後のチームバトルロイヤルとトーナメントを考えると人数が多いに越したことはない。
仲間がいるというのはそれだけ有利だから、少なくして挑むことはまずありえない。
「でも、これでオレリアとか、フィオラ姫は楽しめるんでしょうかねー?」
「楽しめるかどうかは分からないけど、話すきっかけにはなると思うわ」
「そうね。オレリアたちは流石に今回のバトルロイヤルは勝てるわけないから、代理として霧華、リリーシュ様、ハイレンが出るみたい」
「えーと、まともなのが霧華だけのような?」
「あれでしょう。2人を放置させて引っ掻き回されるよりはという……」
「納得。エリスの言う通りだと思うわ」
リリーシュ様もハイレンも周りが楽しんでいる時にじっとしてられないものね。
と、そこはいいとして……。
「それでチームなんだけど、ここは私たちで組むべきだと思うわ。あのゲームも経験しているし、銃もそれなりに使える。テストもこなせると思う」
私がそう提案すると、ラッツとエリスもうなずく。
「ここは慣れたメンバーと組むのが鉄板ですね。まあレクリエーションの側面もありますが、ここは勝ちを狙いましょう」
「ええ。今回はスキルとか魔術がつかえないから、完全に最初の作戦がモノを言うわ。まあ、勘とか経験からデリーユやセラリアは侮れないけど……」
「ま、そこも作戦をちゃんと立てないと、四方八方から撃たれるものね。それにいつも戦闘訓練で勝てないデリーユやセラリアに勝つチャンスでもある」
そう、デリーユとセラリアは私たちの中では戦闘力が一番高い。
勝てないことはないが、負け越している。
とはいえ、それは一対一で、さらにスキルや魔術ありでの話。
チーム戦であり、スキル魔術を封じられての戦いとなれば話は違う。
まあ、普段から体を動かしているデリーユやセラリアに比べて反応速度とかは変わるだろうけどそれでも圧倒的な差にはならない。
この勝負はそういう意味でも平等。
「じゃ、私、エリス、ミリーで組むってことでいいですかねー」
「ええ。そうしましょう。まずはさっさとチーム登録をして作戦会議ね」
「そうね。時間はないからね」
ということで、私たちは早速、ユキさんが指定している登録場所に行って登録を済ませるんだけど……。
「あれ? お兄さんが登録じゃないんですか?」
「いや、大将はこっちに来てないですよ。まあ、バトルロイヤルを考えているみたいですから、そっちの準備で忙しいんじゃないですかね」
そう、なぜか登録場所にはユキさんではなく、部下のスティーブでもないゴブリンたちが受付をしていた。
確かに、理由を聞けば納得ではある。
やろうとしているのはほぼ1フロアを今回の大会で使おうってことだし、準備は想像するだけでも大変だ。
「……というか、いま改めて思うけど、ユキさんのやっていることってものすごいことよね」
「確かにそうですよねー。セラリアがおねだりしただけでこうやって私たちが楽しめるイベントをぽいっと作ってくれますからね」
「さらに普通に考えれば予算がものすごいことになるけれど、自費のDPからだものね。私も何も否定できなかったわ。ユキさんが自腹でここまでするとは思ってなかったわ」
「ま、大将は姐さんたちが大好きっすからね。そのためなら頑張る人なのは、姐さんたちがよく知っているのでは?」
「わかっていますよー。お兄さんは私たちラブですから」
「ええ。ユキさんと私たちはいつまでも熱々なのよ」
「それが夫婦というものです。と、そこはいいとして、ほかの参加者とかのお話は聞けるんですか?」
おっと、エリスの言う通りだ。
レクリエーションではあるけど、勝つつもりでいるから情報収集はやらないとね。
「あー、それは追ってコールで連絡が行くそうですよ。あと、はい」
受付のゴブリンは一枚の紙を渡してくる。
「なに? えーと、地図? これは?」
そう、それはどこかの地図だ。
しかもしっかりと作られているタイプのもので、私たちが作戦を考えるときに使うレベルのモノ。
そんなものをポンと渡されたのだ。
「バトルロイヤルで戦うことになるMAPですよ。どこかのゲームを真似ているからMAPを見せても問題はないんでしょう。だから、これを見て作戦を立てろってことですね」
「……お兄さんも意地悪ですね。沢山悩めということですか」
「事前情報なしにいきなりこのMAPに飛ばされても、適当に動くことになる。まあ、それもいいでしょうけど……」
「この地図に書いてあるメモ」
そこには「建物の中には武器や道具が落ちています」と丁寧に説明が書いてある。
大きい建物ほど、落ちている数は多い。
「つまり、中央の建物が乱立しているところは、武器や道具が豊富に手に入るってことね」
「とはいえ、そこにはほかのチームも集まるでしょうね。普通に考えれば」
この地図には中央にそれなりの建物があるのが分かる。
ということはここに行けば武器の確保には困らないだろうとおのずとわかる。
そう思うのは、この地図をもらった全員だろう。
つまり、この場所はほかのチームと遭遇しやすい場所ともいえる。
「えーと、悩むのはわかりますけど、場所を変えたらどうでしょう?」
「あ、それもそうね。場所を変えましょう」
「ですねー。ほかのチームきたみたいですし」
そう言われて振り返るとそこには……。
「あら、ラッツたちじゃない。なるほど、チームってことで良いのかしら?」
「そうですよー。セラリアたちも3人の所を見るとチームですか?」
「ええ。交流が目的とはいえ遠慮はしないわ。何せ夫がここまで大規模なことを考えてくれたんだから。ねぇ?」
「そうだな。こんな面白そうなこと参加せんわけにはいかん」
「はぁ、交流が目的で、なんでこんなガチなんですか、というのはだめでしょうか?」
セラリアが連れているメンバーはローエル、クアルとなんかお友達を連れてきている。
「え? そういうのありなんですか?」
「別に身内も同然だからいいでしょう。楽しいことはみんなで楽しまないとね。それともダメかしら?」
そう受付のゴブリンに聞くと……。
「別に問題ないですよ。オレリアさんたちの代わりにリリーシュ様とか参戦してますし、今更です」
「あー、確かにそこを言われるとつらいわね。でも、クアルはともかくローエルとコンビネーションっていけるの?」
「普通にできるわよ。よく一緒に鍛錬しているし」
「まあな。セラリアはウィード勤めが多いからな。私も訪ねてよく勝負をしている。お互い軍も率いることができるし、バトルロイヤルは負けないぞ。あと、武闘大会に入り浸りになると思わないことだ」
「とりあえず、この2人のフォローをしないといけない私を助けてはくれませんか?」
クアルの要求には残念ながら答えられない。
この二人のお世話とか、別に嫌な意味じゃなくても大変だもの。
というか、将軍が2人ってチーム戦で有利になるのかしら?
作戦でもめそうよね。
最終決戦はバトルロワイヤル。
しかも魔術とかスキル無し。
体一つで銃をもって戦い抜こう!
これぞまさにすべてを振り絞って戦う場所だ。
さあ、次回はチーム発表どのチームが優勝するか考えてみようか。




