第1176堀:どんな交流会が楽しいだろうか?
どんな交流会が楽しいだろうか?
Side:ユーピア
突然『雑談したい』などという不思議な要望をユキ殿から貰い顔を出してみれば……。
「人材評価の基準のう」
「ああ、どういう感じに評価しているか聞きたくてな」
「その評価というのは仕事の成果というわけではないのじゃろう?」
「ああ、そうだな。仕事の成果じゃ測れないのもいるし、それ以外の基準もないと勝負にならないからな」
「ふむ。そうなると臣下の評価基準というわけではなく、人材確保に於いての評価基準が必要じゃな」
そう、仕事の成果では測れぬということは、そもそも部下ではないということじゃ。
新たしき人材を登用するためには、如何なる才を有するかを知るため種々の視点からテストを行うことになる。
「しかし、何故身内に斯様なことを? 今更才能なぞ測る必要もないじゃろう?」
そう、なにより不思議なのがこの面倒な人材評価をなぜか良ぅ知るはずの身内の中で行うということなのじゃ。
ユキ殿の奥方たちの才は各々が飛びぬけておることなぞ周知じゃ。
もはや彼女たちこそが各部門のTOPであり、その才を評価される側ではなく、評価する側なのじゃ。
「いや、ほら最近新しい部下が入ってきただろう? あと小国の姫も。それで改めて全員で一度そういうのをしてみたいってことになってな」
「ああ、親交を深めるという方向か」
「そうそう。で、トーナメントという武闘関係だけだと力を見せられるのが腕っぷしの強い奴だけになるだろう? それじゃ学のあるメンバーにとっては自分の能力を発揮できないのがな」
「なるほどのう。確かに文官たちはその能力を戦いのように魅せ見せるというはなかなかないのぅ。そこなショーウほどの者でもない限りのう」
「そうですね。文官は基本的に裏方で必死に書類と戦うものですからね。だからこそ、花形とされる武将とは相性がすこぶる悪い。なにせ物資を、つまり費用を切り詰めるのが仕事ですから」
「うむ、自らの身命を賭して戦うのに、そに必要な物資を絞られるというは戦う者としては馬鹿なという話じゃからな」
故に文官はあまり表には出ぬ。
ショーウのように戦いにおいても知略を発揮せぬ限りは、基本的に国の命に従って税を集めるのが仕事じゃからのう。
「そりゃあくまで国民にとってはだからな。そうだから、そういうのを『競技』としてこなせば多少なりとお互いのことが分かるだろう。それが……」
「『交流』というわけじゃな。ま、新人もおるのであらば文官の良さというのもわかるというわけか」
「そうそう。それで、武官はトーナメントで見せ場があるとして、魔術師とか、内政とかのメンバーの見せ場は何があるかって話でな」
「うぬ、話はあい分かったが、魔術師は派手な魔術を披露するとかでできるじゃろうが、内政の方はのう、どうしても地味になるのう」
「計算や書類作成の話ですからね。とはいえ、それを武官にもやらせるというのは面白そうですね。我々文官のいつもの苦労を体感してもらうのはいいかと……ふふふ」
おお、ショーウが悪い顔になっているのぅ。
まあ、日頃より予算の関係で軍と遣り合ぅておるしのぅ。
「ショーウもそこらへんは苦労しておるからのう。軍の言うがまま潤沢に財を振り分ければ他がそして国や民も立ち行かぬからな。もっとも、国が大きくなってからはその辺りも方面軍のトップに任せておるからずいぶん楽ではあるが、あっちはあっちで頭が痛いことではあろうな。毎度のごとく物資の支援を頼むと陳情が届いておったわ」
そう、ついこの間までハイーン皇国と全面戦争をしていたからこそわかるのじゃ。
軍とは金食い虫であると。
とはいえ、そこを絞りすぎると国を守れぬという二律背反。
「と、話はそれたが『交流』とはいっても、そはユキ殿たちの奥方や身内の話じゃろう? 別に競う形にせんでもいいと思うのじゃが?」
「そうですね。食事会とかでも十分だとは思いますが……。そう言えばセラリア女王がおっしゃったのですよね?」
ワシはユキ殿に最大の疑問をぶつける。そもそも奥方たちの仲が悪いなどとは聞いておらん。
それなのに競争形式にしてわざわざ軋轢の原因を作る必要もないと思うのじゃが……ショーウの一言で何となくわかった。
「残念ながらショーウの言う通りでな。とりあえず一度競うのがお互いを知るのにはいいだろうって言ってるんだよ」
「うむ、それもまた事実ではある。そういえば、セラリア女王自身そっちもやるとは聞いていたな」
セラリア女王も自らが戦うのは趣味だと言ぅとるくらいじゃ。
腕前も相当じゃろう。
そして、戦うからこそ、競うからこそ相手の一面を知ることもある。
「はい、陛下と同じで武闘派ですよ。元々はロシュール王国の王女の立場でありながら自らが戦場に赴くタイプの将軍だったそうです」
「ははは。セラリア殿らしいのう。まあ、そういう話であれば食事会は最後の締めということじゃな」
「そうなると、テストを分けて行うことになりますが、大変ですね。何をすれば正当な評価につながるのか……。いっそ全部まとめてできれば楽なんですけどね」
「それができれば苦労はないのう」
ん? じゃが、なんか引っかかったのぅ。
全部まとめてできればいいか。
そは理想じゃ。
して、そを実現するには何がいる?
纏められぬか? まとめる方法は?
とワシが考えてこんでおると、ユキ殿が不意に……。
「……予算配分か?」
そう呟く。
おお、ワシもその言葉にとても引かれる。
「予算配分とな? 何ぞ思いついたか?」
「ええ。まだまとまっていないのですが、ちょっと話をきいてもらっていいですか?」
「無論。そのために時間を取っておるのじゃからな」
「まず、武力を測るにはトーナメントが一番いいのはわかります。次に知力を測るのはテスト、だけどこれは見るほうにとって退屈なことになります。それが問題だ。ならそれをまとめればと思ったんです」
「いや、そもそもそれができれば苦労はないと思うのじゃが」
『観衆を飽きさせない』テストなどというをどうするかが一番の問題なのじゃ。
「纏める方法を思いついたのですか?」
「ええ。単なるテストではなく『予算』に置き換えるんです。資金は……下手に実際のお金にするとどこからか調達しそうなんで、チームにつき10万ポイントとしましょう。それをどうやりくりするかにする。途中でそのポイントを使ってクリアするステージを用意して、最後のトーナメントはその時所持するポイントを使って参戦できるということにします」
ふむ。ユキ殿が思いついたは、予算という枠をどううまく使ってトーナメントまでたどり着き戦うかという話か。
「ほほう。なかなか面白い思い付きじゃな。最後に予算をかけなければいけないが、途中でも予算を使わなくてはいけないか。単に腕っぷしだけでのチームにはつらいのう」
なるほどのぅ、腕だけでなく、頭を使わなくては勝負のトーナメントにすらたどり着けぬということか。
「いいですね。面白そうです。確かにそんな風に予算が付きまとうのであれば、それを常に意識しなくてはいけない。とはいえ、どの様に予算を消費させるのかを考えなくてはいけませんね。それと予算を増やす方法はあるのですか?」
「そこはどうしようかと思っているな。増やすにしてもどれぐらいがいいのか。それとも単に失敗したら減らしていく方法にするのか」
「ワシとしては増やす方法があるほうがよいのう。どうせ長くとも数日なのじゃろう? さもなくば下手をすればそれまでじっとして動かない可能性もあるからのう」
「そうですね。初期の費用10万というのは準備期間の生活費とトーナメントの参加費用2人分で一杯一杯になるぐらいで調節して、指定のポイントをクリアできればポイントが増えるというのがいいと思います」
うむ、ショーウがいう案を採用したい。
こうすれば嫌でもポイント取得に動かなくてはいけなくなる。
さすれば腕っぷしのチームはどうしても頭を使うメンバーを引き入れる必要がでてくるわけじゃ。
「そうだな。この方向で調整してみよう。とはいえ、長期間は取れないからまぁ3日間ぐらいが精一杯だな。チームで生活してもらいつつ、ポイントを稼いでもらってトーナメントに参加できるかどうかを決める」
「ふむ。それもありじゃが、あまり開催期間を長引かせてはだれるからのう。1日で済ませるようにすればよい。何よりユキ殿たちも普通に休めるなら休むほうがいいじゃろう?」
「確かにそれはそうですが……。そうなると生活費とかのポイントをどうするか」
「そこは別に生活費にこだわる必要は無いでしょう。その日の食事代だけでもいいですし、ポイントを得るためのヒントとかテストを受ける費用としてもいいかもしれません」
「そういう方法もあるか。ユーピア殿の言うように長々としてもだれるし、確かに人によってはイライラしそうだしな。特に食事制限とかはな」
「うむ、食事がないというつらさは経験しておくべきことではあるが、何もここで無理に体験させることでもないからのう」
いや、今ウィードの重鎮の体調が崩れられようものならワシたちとて困る。
故にその日のうちの短期決戦がいいじゃろう。
知識も必要だということを経験させればいいのじゃ。
「よし。ならこれで行くとしよう。ユーピア殿、ショーウ殿、参考になったよ。ありがとう」
「うむ。ワシも意外な話ができてうれしく思うぞ。ワシらもそっちでうまくいけばやってみようかと思う」
「そうですね。こういうのは組織を運用するうえで必ず必要なことですからね。是非我が国にも取り入れたいですね。それで相談なのですが……」
やはり大皇望、ワシが提案をする前に、ショーウの方が先に動き出した。
「なんでしょうか?」
「私たちもその交流会に参加させて頂けないでしょうか? こういうことは直に体験することで問題がより分かるはずです。それにユキ様も次の機会のためにも多くの意見が欲しいはずです」
この企画への参加許可を求めた。
ワシもこんな面白い交流会なら是非とも参加しておきたい。
何よりユキ殿の奥方たちと仲良くなれるいいチャンスでもあるし、ユキ殿が認めた奴隷を直接見るいい機会でもある。
「ええ。大丈夫ですよ。身内にとってもいい刺激になるでしょう」
おや? 意外とあっさり受け入れたのう?
普通こういうのは嫌がるはずなんじゃが……。
「何か考えておるのか?」
「こっちとしてもユーピア殿、ショーウ殿にはフィオラ姫や奴隷たちの紹介はしておくべきかと思いましてね」
「ああ、そっちか。というか元々はそのための交流会じゃったのう」
「そういうことです」
ワシとしたことが『交流会』というお題目に、最も大事にすべきことをすっかり忘れておったわ。
ワシたちの交流会参加よりもよっぽど重要じゃ。
そう、新たな『ユキ殿を助ける女たち』がどれだけ使えるのか見極めねばな。
こういう時はみんなならどんな交流会を開催しますか?
まあ、楽しいのが一番だよね。




