第1158堀:迷ったときは……
迷ったときは……
Side:ユキ
数多の女性を引き連れて、女性の奴隷を買いに行く。
うん、ライトノベルとかではよくある描写だが、現に体験すると実に居心地が悪い。
自分の趣味といわれるのも嫌だし、適当に選ぶのも今後のことを考えても面倒だ。
モーブも俺に評価されたときはそうだったのかな。
いや、まああれはあれで楽しかったからいいけど。
せざるを得ないとは言えさらに憂鬱な気分で、俺はアスの後ろをついていく。
なぜそんなことをしているかというと、先ほど話していたのはアスの屋敷の方だったからな。
で、俺たちが今向かっているのは店の方だ。
そう、奴隷を取り扱うお店。
昔ならきっとワクワクしていたんだろうが、今となってはこのウィードを仕切る者としてはちょっと微妙だ。
奴隷を選ぶうしろめたさというか、この奴隷というシステムを容認していたことに対してだ。
まあ、奴隷制度は駄目なんて言えば各国が反発するのは目に見えているからな。
そういうことも含めて続けているわけだ。
だが、どんな理由を並べ立てても、結局の所人の売り買いを認めたということには変わりはない。
だから売られていった本人は俺に対して恨み言を言う権利があるわけだ。
あー、なんかさらにやる気がなえる。
「ふーん。ユキがずっと乗り気じゃなかったのはそういうことなのね」
俺の心が読めるラビリスは今の思考を読み取って一応は納得してくれるのだが……。
「けど、ユキを恨むなんて人いるわけないと思うけど。奴隷自体の価値と待遇を上げたんだし」
「ええ。そうですね。ユキ様に感謝こそすれ恨み言を言う奴隷はいないでしょう。それどころか、このウィードに来たいがためにわざわざ身売りする人もいますからね」
「あーそりゃ聞きたくない話だな。そもそもその村がどれだけ悲惨かってことだからな。で、その状態に追い込んだのはウィードって可能性もある」
「そんなこと言いだしたらキリがないわよ。それに元々敵意のあるなしは指定保護で判断できるんだしいいんじゃない?」
そりゃドレッサの言う通り、指定保護をかけてしまえば裏切り行為は出来なくなるがあくまで裏切り行為ができないだけ。それでも俺に恨みを持っていれば心までは変えられないし変わらない。
どう考えてもそんな相手と円滑な関係が保てるとは思えない。
「あはは、ユキ様のご懸念は分かりますが、そういう部分も含めて奴隷というのは選ぶものなのです。なるほど、確かにそのようにお考えでしたら自らが選んだ奴隷を配下にすることはいいかもしれませんね」
「あー、そういう選別もできるわけか。確かに今までモーブたちに選んできてもらってばかりだったからな。あとは、あくまでウィードという国としての奴隷購入だからな」
「実質そちらは移民と変わりませんが」
そう、国民がいない国とか笑えるので初期はロシュールとガルツの戦いで奴隷となった一般人、まぁ主に元ガルツの国民だった人たちをウィードに受け入れてたんだよな。
そして今もなお奴隷を買い取っては国民として受け入れている。何せ働く場所はいくらでも用意できるからな。
とはいえ、今は大陸間交流同盟中で働き手を大いに募集中なので、ウィードへの奴隷の流入も減ってきている。
……まてよ。その需要を賄うためにわざと奴隷を増やしている?
いや、流石にありえないか。自国だって労働力を必要としてるんだから、わざわざ奴隷にして他国に輸出するのって意味あるか?
そう、国境争いで確かに自国の領地が増えるのはいいが、そこでの働き手がいないなんてなれば本末転倒だよなー。
まあ、案外短絡的にそこに住んでた邪魔な奴は追い出して、別の所から奴隷を買い入れて入れ替える予定だったとかか?
うーん、そこらへんも考慮して調査する必要があるな。
おっと、今はとにかく奴隷を見ることか。
しょうが無い。ちゃんと今回来た目的を達成しよう。
ラビリスたちにも悪いしな。
「では、こちらの部屋でお待ちください」
アスはそう言って俺たちを客間というか、応接室のような場所に残して部屋を出て行く。
奴隷を売っているお店についたはずなのだが、ここはパッと見綺麗で高級な家にしか見えない。
俺の奴隷を売ってるところのイメージは露店とかおどろおどろしい小汚い屋敷で簡素な牢屋や檻に鎖で繋がれた連中が押し込められているていうのなんだが、まあ普通に考えれば、そういう売り方をされている奴隷は犯罪者とかたたき売りの奴隷だよな。
まぁ、今の奴隷の重要性を考えればこの扱いでおかしくはないか。
というか、わざわざ商品である奴隷の体調を崩して価値を下げるような売り方を普通はしないだろうしなー。
「しかし、こうやって奴隷を待つっていうのはあれだな。就職希望者との面談みたいだな」
「あー、そうね。ウィードに職を求めてやってきた移民たちの面談と似ているわね」
「まぁ、実質同じような物ではありますからねー。あはは」
「それわかるわー。私もこんな感じで面接に行ったわ。冒険者ギルドの仕事とかで」
「あぁ、行きましたね。なぜか依頼を出しているくせに面接があったんですよね」
「結局お店の店員を探してたって話」
まあ、確かにそういうのは面接がいるだろうが、それを冒険者に頼むのはなんか違う気がするな。
「で、結果は?」
「そりゃー合格よ。何せ可愛いんだから」
「ウェイトレスを募集してました」
「新装開店で臨時の給仕さんが必要だった」
「ああ、それで面接か。女性限定とかだったんだろうな」
「いいえ。男性の冒険者も結構受かってたわね。あれよ、冒険者向けのレストランだったから用心棒というか護衛も兼ねていたんでしょうね」
「なるほどな。確かにそれなら冒険者のウエイターやウェイトレスがいれば助かるな」
と、そんな他愛もない話をしていると、ノックの音と共に部屋のドアが開き、アスに続いて使用人と思しき人と、奴隷と思わしきチョーカーを付けた3人の女性たちが入ってくる。
「お待たせいたしました。まず、この者はこの店を任せているグイアです」
「初めまして。ユキ様、そして奥様方。私がこの店をアスより任されているグイアと申します」
おお、使用人じゃなくて店長だったようだ。
そうか、アスは色々商売抱えているから商会長って所だよな。
実際にはお店は誰かに任せているってことだな。
「ああ、よろしく頼むグイア。アスとはウィードができたころからの付き合いだ。今回は奴隷が必要で来たんだが、おそらく前から付き合いはあったんだろうな」
「はい。トーリ様、リエル様、カヤ様、そしてエリス様、ラッツ様は奴隷の教育、購入、そして必要な道具などでしばしばお世話になっております」
ああ、トーリたちに最初は職業訓練所任せてたよな。
その頃からっていう事は、俺自身は初めてだが、ウィードとしてはこのグイアともかなり長い付き合いになるんだな。
「ホントは色々雑談をしたいところだが、ケガ人を病院に置いているもんでな。手早く済ませたいっていうのは間違いか?」
「いえ。ユキ様がその判断するのであればそれが正しいのでしょう。そして私は貴方を尊敬し信頼しております。ひとかけらの名誉も求めず、誰かを助ける受け皿としてウィードを作った方であると。そのことを私は知っています」
「……はい?」
ちょっとまて、表向き俺はあくまでセラリアのおまけって扱いのはずなんだが、なんでそこまでグイアは詳しいんだ?
それに公式には、そもそもこのダンジョンを制御したのはエルジュってことになっているんだが……。
「おや、これは公然の秘密でしたね。表向きユキ様はあくまでセラリア様たちをつなぐ旦那様となっておりますから」
「あー、うん。やっぱりバレてる?」
「はい。とはいえ、このことを知っている者はごくわずかですね。なにより、数多の実績自体ちゃんと奥様達が打ち立てたものですから、ユキ様ご自身の活躍を知っているのはごくわずかでしょう」
「今後一般の人からそういうことを言われそうか?」
「あはは。そのようなことはありませんよ。私たちが許しませんから。ですよね、店長」
「はい。ユキ様のことは極秘事項ですからね。というよりむしろ、本当のことを言っても信じる人は少ないと思われます。なにしろ、公園で屋台をやっていたり、こうして私たちのような者とも普通に会っている時点で大したことはないだろうと」
「なるほどな」
一安心って言いたいがまぁ、真実にたどり着いているやつもいるだろうな。
いや、今さらではある。
俺という存在はすでに大国は知っているんだし、まぁ、一般の人も気がついて当然だな。
「ま、そこはどうとでもなるか。それより、そっちの奴隷たちを紹介してくれるか?」
「はい。ではこちらがご希望の奴隷でございます。ちゃんと普通の奴隷を連れてまいりました」
「ありがとう。というか、普通じゃない奴隷ってケガ人とかか?」
「いえいえ。そんな奴隷では商売になりませんから。きちんと治療をしていますよ」
「だよな。疑って悪かった」
「いえ、昨日のことがあれば当然かと。では、右から……」
グイアが名前を呼ぶと一歩前に出て緊張した面持ちで礼をする奴隷の女性たち。
うん。俺の話を聞いたけどそれを全部流されるっていうのは、別の意味で悲しい気がする。
とはいえ、傍から見たら女をとっかえひっかえしてるだけの野郎だしな。
さて、そこはいいとして、奴隷さんたちの紹介はしてもらった。
そして、自分から頑張りますと意気込んでももらえた。
まあ、一応俺はこの国の王配だからその俺に買われるというのはいいことってことで気合が入るのも当然なのだが……。
どうも正直、ピンとこない。
「ご不満ですか?」
グイアがそう尋ねたのを聞いたとたん、奴隷の子たちは揃って悲しそうな顔になった。
まぁ、露骨すぎてあれだが、ここで何も反応しないのも人としてどうかというやつだ。
俺はむしろ分かりやすい軟弱者がいいからな。
「いやいや、彼女たちに不満はない。やる気はある。だから仕事をさせれば頑張れるとは思う。でもな、聞いていると思うが、俺が求めているのはあくまで俺に代わって一般の人たち相手の対応をしてもらうことなんだよな」
「はい。それは伺っています。ですので彼女たちもそのつもりで連れてきました」
「え? その話までしているの?」
「「「はい!」」」
「流石に求められている仕事はこの国を左右することになりそうですからね。私どもの商会としてもそこに何の覚悟もない奴隷なぞとてもご紹介できません」
「確かに言われるとその通りだな」
となるとこの子たちは『選ばれし者』ってことか。
まぁ、確かに奴隷商としても俺の目的を知った上で覚悟のない奴隷を連れてくるわけにもいかないか。
この中の一人をね……。
全員さすがに嫁さんほどとは言わないがけっこう整っている顔とスタイルだ。
ま、そこらへんも当然選んでいるんだろうな。
……何だろう選びに来たのに心が萎えている。
う~ん、俺って奴隷にロマンを感じてなかったのか。
いや、昨日の今日だからか。
とはいえ、このままでは埒が明かない。
「よし。やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじだな」
「「「?」」」
奴隷の子たちは揃って首をかしげているが、ラビリスたちは苦笑いをしている。
「あら、いきなり思い切ったわね。どうしたのかしら?」
「一人に絞る理由はない。人は力を合わせるものだ。この3人はグイアが認め、自分も覚悟を決めたんだろう。なら俺は全員選ぼう。何せ仕事は忙しいからな。一人だけ選んで育てて駄目でしたじゃあれだ。3人で互いにフォローしてもらおう」
「「「ええ!?」」」
「なるほど。確かにごく当たり前の考えですね。むしろユキ様の仕事をたった一人でこなせるわけもなしですか」
「そういうことだ。あ、それと別に夜の相手とかはいいぞ。ちゃんと仕事していい男を見つけろ。それでいいから」
「「「ええー!?」」」
さらに驚く奴隷たち。
いやいや、ウィードの奴隷ってそういうもんだろう。
うん、ついでだ。いい加減魔物軍も人を入れないといけないと思っていたし、俺の仕事の増強ついでに他のテコ入れも併せてやってやろう。
別に一つに絞る必要無し、全部買って使ってみればいい!
まあ、これって金持ちの発想だよね。
気になったPC 全部買えるわけないじゃん!
ということでみんなは真似しないように。
ちゃんと吟味して選びましょう。




