第1153堀:買い物は信用の置けるところで
買い物は信用の置けるところで
Side:ユキ
「さて、奴隷でも選びに行きますか。とは言ったものの、いったいどうしたらいいんだろうな」
俺はとりあえず仕事が終わったので、いざ『約束の奴隷探し』をしなくちゃと思ったのだが、ふと気づくとそもそも奴隷ってどこで買うのかがわからなかった。
「え? 大将。奴隷って言ったら奴隷商人からっしょ?」
俺の疑問に何をいまさら言い出すんですかって言わんばかりにスティーブが応えてくれる。
「まあ、そうだよな。で、ウィードで奴隷を取り扱っている地区って覚えているか?」
「え? えーと、巡回路は設定したことありますし……ちょっと待ってくださいっす」
「ほら、スティーブだってそんなもんだろ。俺たちが下手に奴隷商なんかによれば大騒ぎだもんな」
「あー、なるほど。おいらたちの記憶に殆ど残っていないっていうのは、意図的に避けてたからっすか?」
「だろうな。なにせ俺たちって一応ウィードの要人だしな。立場ってものがある。その俺たちが自ら奴隷を買い付けるってかなり問題だしな」
「一応ウィードで人は平等だーって言って、元々は奴隷だろうが関係なく勉強させて仕事を与えているっすからね。でも、それって一般的な奴隷っしょう? 冒険者のチームメンバーとしての奴隷ってのはいけないんすか?」
「そりゃそっちならありだとは思うが、そもそも冒険者ではないしな」
「あ、それもそうっすね」
そう、そもそも冒険者じゃないのに、冒険者御用達の奴隷商で奴隷買うってなんか間違っているよな?
スポーツが大好きなわけでもないのに、高価なスポーツグッズ買いに行く理由がないのと一緒だ。
「でも、奴隷そのものは必要なんでしょ? その場合当然じゃないっすか? そもそも大将の仕事を割り振れる人ってかなり重要っすよ?」
「お前も同じ意見か」
「そんなの当たり前っすよ。大将はこうしておいらたちに対してだって書類仕事があるっすよ? で、その書類待ちの時間も減るなら軍の動きもよくなるっすし。だから、外交はその奴隷に任せた方がいいっしょ?」
「ま、そうだよな。俺もそう思う。しかし、行ったことのないお店にいきなり足を踏み入れるのは勇気がいるな。というかまずは場所探しからだが」
「ですねー。というか、まぁ周りの目が気になるっているのは当然っすよね。なにせ大将はウィードの王配っすから」
「ああ、俺が入った奴隷商が盛り上がりそうだなー。それはそれで問題だ。俺の個人情報駄々洩れになりそうだ。男を買っても女を買っても」
「え? 女じゃないっすか?」
なんかこいつも俺が奴隷を買うなら女という認識になっているな。
「なんで、そこで女にみんな固執するんだ?」
不思議でたまらないので質問してみる。
「いやいや~、何言ってるっすか。今更男とか、そんなことしたら大将が捨てられるとかそういう噂が立ちかねませんよ?」
「はぁ~?」
「ほら。一応ウィードって表向きセラリア姐さんがトップでしょう? 大将が男の奴隷を買い求めたってことは実はそっちのけがあるか、さもなくば姐さんの命令ってことになるでしょう」
「いや、そっちのけはないが。まぁ、確かに今回の話はセラリアの命令でもあるしな。だけどそれがなんで『捨てられる』ってことになるんだよ」
「えぇっ、それマジで言ってます? 大将は指輪の台座って評価、忘れっちまいましたか? いままではあくまでセラリア姐さんが『大将以外に男を入れない』ことによって他の嫁さんズとの繋ぎとなり、各国との同盟を結んできたんすよ? そこにほかの男をなんてことになると大将が世間的に役に立たなくなったとしか見られませんよ」
おお、なるほど。
そういう見方もあるのか。
でもなんでわざわざ俺が男の奴隷を買ってそれにとってかわられるんだよ。
「話の筋書きに無理がありすぎないか?」
「そりゃあるっすけど、人のうわさなんてのは適当な思い込みとかでもでますからね。あと、その右腕だって大将のことっすから、いずれ奴隷の身分からは解放するんでしょう?」
「そりゃな。人生は本人のものだ。きちんと役目を果たすなら自由にさせるのが一番だ」
「はぁー。大将、ウィードの機密を知った男ってのがホントに自由に生きられるなんて思っているっすか?」
「そりゃ監視とかはつけるが。それでも本人が自由と思っていればそれでいいだろう」
「監視に人員なんか割くよりも、そもそも女性を買って侍らせていれば今まで通りで楽でしょうに」
「……そういうことか」
「そういうことっす。それに、そもそもウィードは『女性のトップたち』でまとめてきたんすよ? 唯一例外は夫である大将だけ。あとはおいらたち魔物軍ぐらいっすかね? セラリア姐さんたちは立場の弱い者のためにウィードを作ったっていう建前があるっすからね。そこに男って余程っすよ? それ以上に、そこに大将以外の男を放り込んでまとまるというか、そもそも生きてけると思うっすか? みーんな大将大好きで、その男は仕事だけの関係であとはほったらかし。これってある意味酷いいじめじゃないっすか?」
「だなー」
確かに、ほかの男を入れたら嫁さんたちは遠慮をするだろう。
主に新しく入ってきた男の奴隷は孤立するか……。
「言えばちゃんと仲良くするだろうが……」
「それで男の奴隷の精神が持ちますかね? まあ命令といわれれば頑張るっすけど、酷過ぎないっすか?」
「うーん。まあ、その時は別の所に住んでもらって、そこから出勤ってことでもいいんじゃないか?」
俺がそうすりゃいいだろとスティーブに提案したちょうどその時、急に執務室のドアが開いてドレッサを先頭にちびっ子たちが入ってくる。
ああ、護衛メンバーだな。
あれ? でも、今日はドレッサとかヴィリアは休みだったはずだけど……。
「相変わらずそういう所は変に抜けているわよね。元々ユキの代わりに色々できる人が必要って言っているのに、一緒に暮らさないとか。そんなのでいつになったら一人前になるのよ?」
「そうねぇ。まあ、かなり時間をかければ行けなくはないとは思うけど……」
「非現実的ですね。私たちも遠慮をしないといけないような奴隷ではだめです。なので」
「女の子を探そうねーお兄ちゃん」
「男の子はだめなのです。兄様の傍にいるのは女の子なのです」
「はい。お兄様は男性の奴隷にも優しくするのが目に見えていますから」
「そういうのはだめ」
最初の方はまあ納得できる内容だったが、後半は何かおかしくなってきたぞ?
「はぁ。その様子から察するについてくる気満々か」
「そりゃ当然よ」
ドレッサがはっきり答えたのに合わせて、ラビリスたちもうなずく。
まあ、別にいいけど。
「で、スティーブはどうする?」
「おいらはついていかないっすよ。大将が奴隷選びに行っている間はおいらが代わりに執務室に籠るんすから、なるべく早く仕事できる子を連れてきてくださいっす」
「今日明日でモノになるわけないけどな。とりあえず使えそうな子がいることを祈ってくれ」
ということで、スティーブに仕事を任せて俺たちは外へとでる。
今日はいい天気のようだ。
洗濯ものがよく乾くだろう。
布団干しとけばよかったか?
「なに、主夫の思考してるのよ。そういうのはキルエたちに任せなさい。で、奴隷商人ってどこの店に行くの?」
ラビリスにあっさり感情を読まれて逃避せずに現実を見ろと言われる。
「どこって言っても、まぁ、とりあえず知り合いの所だな」
「知り合いの所ですか? 奴隷商人にお知り合いがいましたっけ?」
「ああ、リーアを連れてきた奴隷商人だな。アスだ。本人は今でも奴隷商人といわれると苦笑いだけどな」
「でも、アスおじさんなら安心だよ」
「安心なのです」
そう安心安全を採るのであれば、やはりアスの奴隷商館に行くべきだろう。
まあ、他もウィードの厳しい検査を抜けて御用達になっているのだからどこでも安全とは言えるが……。
「ま、妥当よね。ユキってほかの奴隷商とは知り合いってわけでもないから」
「ああ、なるほど。そんなところに行くとお兄様に取り入ろうとする相手が出てくるんですね」
「お兄と知り合えるのはとてもすごいこと。だからヒイロたちにもそういう話はあるもんね」
そう、第二の理由は、ドレッサたちが言ったように俺との繋がりっていうのを気にして目的の奴隷が探せない可能性があるということ。
なにせ向こうとしては商売させてもらっている国のナンバー2が来るんだから、適当に選んでねなんて言えるわけもない。
むしろ普通ならVIP相手なんだし付きっきりで『いい物件』っていうやつを押し付けようとするだろう。
俺でも簡単にわかる話だ。
だからこそ、知り合いの店にいくのが安全なわけだ。
「でも、アスには今日行くって伝えているのかしら?」
「いや、こういうのって身構えられるとダメだろう。普通に雑談しに行く感じでいいんだよ」
「ですが、アスさんに会えなかったらどうするんですか?」
「その時はまた出直しか、とりあえず奴隷を見てくるだけでもいいんじゃないかとは思う。というか、別にアス本人に会わなくても奴隷は買えるしな。個人的には最近奴隷の量が増えているって話についても聞きたかったから後日会いにはいくが」
「むしろ、そっちが目的ね」
ラビリスがそうジト目で睨んでくるが、それについては特に隠す理由もないの素直にうなずく。
「ああ。最近奴隷の量が増えているのは、小国同士の国境線争いだとは聞いているけど、現場の声を聞きたくてな。奴隷商人または奴隷本人の声をな」
そう、右腕というお手伝いが欲しいのは事実だ。
だが俺にとってはそれはある意味二の次だ。
どこまで小国の国境争いが酷いのか。
下手をすると面倒な大規模戦争に発展しかねないからな。
ロガリ大陸には神やダンジョンマスターで俺がそいつがどんなやつかを確認していないのがまだまだいる。
「それにロガリのダンジョンマスターメンツからは特に連絡がないしな。ライエもアーウィンも」
「あはは。あのお二人は、どちらかというと保守派と個人武勇派ですからね」
そう、シェーラの言う通り、俺の身内のダンジョンマスターでありデリーユの弟でもあるライエはダンジョンを一つしか持っていないし、タイキ君の国で天下五剣の関係で知り合ったアーウィンはただの侍だった。
いずれも一応、所持しているダンジョンの管理はしているものの、ダンジョンマスターとしてこれといって成果を上げていない。
うん、これが単にチート能力を持っていても駄目だという事例だろう。
でも、それって別にライエやアーウィンが悪いわけではない。単に向き不向きってやつだ。
「ま、ということでそっち方面の情報も必要なんだよ」
「話は分かるけど、なんかわざと別の目的にしてそうね。ちゃんとユキの仕事を手伝える子を選びなさいよ」
「はい。お兄様それこそが大事です」
「お兄の負担を減らす」
「わかってるって」
まあ、さすがに今日無理に選べともいわれていないけどな。
しかし、今の俺はさっぱりわからない。
俺が『これだと思える女性』とはいったいどんなのだろう?
いやぁ、本気で首をかしげる内容だ。
何せ、すでに美人な奥さんが山ほどいるからな。
「どうしたのかしら?」
「いやぁ今更だが、どんな女性を選べばいいのかわからなくてな」
「まあ、そこはとにかく一度会ってみてからですね。こういうのはやってみてです」
「確かにそうだよな。人なんて目に見えるスキルや才能だけじゃないからな。そのくらいならスティーブたちゴブリンがあそこまで強くなるわけがない」
「「「いや、あれは違う」」」
なぜかこのメンバーにすら全否定をされるスティーブ。
かわいそうに。
アス。
リーアを売りにというか献上しに来た商人さん。
皆さん覚えていますか?
雪だるま覚えていなくて読み返して何とか名前を書きました。
いや、読み直せるって素晴らしいですね。
そして奴隷もゴブリンもステータスやスキルで決まるわけではない。
そんなのは覚えてしまえばいいのだ。
大事なのはやる気である!
あれ? スティーブってやる気あったっけ?




