第1148堀:人手の追加予定
人手の追加予定
Side:セラリア
「……ということで主様は今お休みになっています」
「そう。アスリンたちがいるなら問題ないと思うけど、霧華も部下をつかってなるべく夫が休めるようにしてあげなさい」
「かしこまりました」
そう霧華は返事をしたら即座にその場から消えていく。
「霧華は本当に素晴らしいですね。ぜひ私の部下にほしいぐらいです」
「さすがにそれはダメよ。霧華の部下は借り受けているでしょうに、それで我慢なさい。それよりも、まったく頭の痛いことね」
私は霧華から受け取ったその書類に視線を向けて、思わず顔をしかめる。
そこにはとんでもない冗談がそのまま現実になったような内容が書いてある。
「はぁー。幽霊の捕縛ですか。しかもポープリ学長の生徒とは。さらに大樹海との関連が予測される以上ないがしろにもできないですか。これって喜ぶべきことなのか、嘆くべきことなのかつくづく困りますね。それにしても、まさかお遊びの幽霊調査から本物を見つけてそれも捕縛できるとか、どこぞの質の悪い女神様でも絡んでいる冗談としか思えませんが」
「ホントに冗談であってほしいわよ。でも、ハイデン魔術学院でもあったことだし、それらしき情報を無視するわけにもいかなかったというのもあるわ」
「ですがそのために、ユキ様は疲労困憊状態。いえ、基本的に仕事で徹夜すればそのあと休みを入れてちゃんと寝るのがこの国では常識ですけどね」
「それで夜には夫に疲れが残ってないといいんだけれど。はぁ、今日の相手は誰だったかしら?」
そう、夫の生活が乱れれば私たち妻たちの夜の生活もあおりを喰らって乱れるのだ。
最近はずいぶん奥さんが増えたこともあって、イチャイチャできるスパンがすごく長いのよね。
なのに待ちに待った夫とイチャイチャできる日がなしなんかになれば、その日を待ちに待っていた妻は悲しすぎるわ。
「あー、そっちも問題ですか。単純に奥様が増えて何よりだと思っていましたが、なるほどそういう問題もあるのですね」
「そうよ。ただ国交を結んだ印としての形だけの結婚ならともかく、私たちは全員、夫が大好きだから一緒になっているのよ。なのにその機会がなくなるのはちょっと問題なのよ」
「単純にずらせばいいというわけにもいかないですし。それではほかに影響が出ますからね。いやー、大変ですね」
「本当に大変なのよ。で、今日は……あら、エリスね」
「え? それは不味くないですか? エリス様といえばウィードの金庫番ですよ? いえ、一応建前上はテファに引き継いでいますが……、しかもユキ様好きではちょっとあれですよ?」
「もちろんそんなの良く知っているわよ」
さて、エリスに今回のことを伝えなければならないけど……。
「ま、大丈夫でしょう」
「え?」
「何意外そうな顔をしているのよ。エリスは夫のことが大好きだけど、だからこそ夫が困るようなことは決してしないわ。もちろん国が乱れるようなことも。子作りができなくて残念がるだろうけれど、それだけよ。まあ、次の機会には夫に精々頑張ってもらいましょう」
そう、今回はあくまで夫が無理をして夜の調整ができなかったのが悪い。
それにエリスを慰められるのは本人だけ。
とはいえ、エリスもそこまで無茶は言わないと思うけどね。
「ああ、そういうことですか。しかし、ユキ様も本当に大変ですね。朝に夜にと本当に多忙で。というか、実際この激務をこなしているとか何かの冗談のように思えてきますね」
「そうよ。その事実をしっかり再認識しておきなさい。夫は特に弱音とか吐かないから、いかにも簡単にこなしているように見えるけど、実際そんな簡単なことじゃないわ。それに夫が倒れてみなさい。外交関係とかがどうなるかしら?」
「あはは、理解したくないほど大混乱しそうですね」
「そうならないように、何とか各国相互の連携を強めようとしてはいるけど、それでもまだ私たちユキの妻を使った直通の連絡網はものすごく効果的なのよ」
「それはもう、通常ルートで話をしようとすると大変ですからね。よくわかります」
そう、私たち妻という窓口を使うとものすごく話が早い。
通常国の窓口なんて、面会日程の設定だけでも一週間以上、そして実際その面会が行われるのは、早くても一か月近く先。
もちろん優先される大国>小国>商人>一般といろいろと伸びてしまうことも多々ある。
そんな時間のかかる公式な窓口を使うより、妻という窓口から夫に直接相談した方が早いのは当たり前のこと。
でも何より問題なのは、大国がこぞって「夫」を頼るのが当たり前になってしまっている。
本来は大国が小国のそれも王配に過ぎない人物を頼るとかホントにおかしな話ではあるけれど、実際そうなっている。
それも大きな問題を解決できる能力があると示しているから。
だからこそ、大国は躍起になって「女」を夫の傍に送り込んだ。
まあ、全員メロメロにしていて夫の敵になるようなことはないからいいのだけれど。
と、問題はそこじゃない。
「とは言っても、大変だからといって、夫ばかりを頼られても困るというのが本音ね。というかそのために外務省作ってるんだから、そっちをちゃんと稼働させて欲しいわ」
「一応ロガリ大陸内部だけは稼働していますけどね。今はそれをベースにイフ大陸、新大陸が見様見真似で作り始めているところです。ですので、最近はロガリ大陸大国からのユキ様への直接要請はないはずですが?」
「そうね。ロガリだけはようやく稼働してはいるけど、それでもやっぱり夫への直接要請は多いのよ。ほら、この前の小国の話覚えているでしょう?」
「ダファイオ王国のことですね。……まあ、あれは一見事態の優先度が低いからこそ、通常外交ルートではなく、ユキ様に直接面会を求めた話でしたか」
「違うわよ。ダファイオ王国の話自体は緊急性の高いことだったからいいのよ。問題はその他の有象無象。ただ単に夫に顔繋ぎをしてあわよくば娘をって馬鹿どもばかりだったじゃない」
「あー、そっちですか。まあ、ある意味労なく大国とのつながりを持てそうな唯一の方法ですからね。はたから見れば、ユキ様はどこの馬の骨とも知れない一般人からの成り上り。それが多くの女を囲んでいるだけの好色家にしか見えませんから」
「どこが、女を囲んでいるよ。どの子も国家の要人ばかりよ。ウィードのメンバーだって元は奴隷だったとはいえ今じゃ関係各所の要人よ」
「だからこそって話になりましたよね? ユキ様のお手付きになるということは、奥様方とも生活するということ。いやー、それだけで各大国のお姫様に、要人、そしてウィード要人すべてと縁が持てる。恐ろしいことですね。もし私が小国の人だったなら、絶対人を送り込むぐらいの努力はしますね。ダメもとでも」
「はっきり言うわね」
「というか、陛下もあの時はこれを機にお遊びの、いえ手足になるような女を引き入れればって言ってたじゃないですか」
むう。
確かにそういった。
わざわざ人が集まってくるのだから、そうでもしないと割に合わないと思ったから。
でも……。
「結局夫はその女性たちを全てウィードで教育した後、各国の魔力枯渇現象調査員とすることにしたのよ。まあ、それもある意味手足ではあるわ。知ってるでしょう?」
「あはは。そうでしたね。ユキ様もその辺りよくもまあ、うまくかわしますね。本来は『本当の手足』となる人材が欲しかったのですよね。陛下は」
「そうよ。夫の代わりに動ける各国との調整役が欲しかったのよ。まあ、そこまでは期待しすぎでも、少なくともいろんな雑務を任せられるような人物がいればよかったんだけど。夫の目には全く留まらなかったみたいね」
「それは簡単に見つかるようなものでもないと思いますけどね。そもそもユキ様の代わりなんて、陛下にラビリス様。うーん、あとは100歩譲ってコメット様ぐらいではないでしょうか? タイキ様、タイゾウ様は候補ではありますが、お二方は背負っている国がありますからね。で、ほかの奥様たちはユキ様がいなくなった時点で正気を保てるかどうか……」
「そうなのよね。意外と脆いのよウィードの内部は。というか、それを実感したわ。カグラにはそういう意味では感謝よ」
「召喚誘拐事件ですね。あの時はユキ様だけでなくラビリス様も巻き込まれて、残っているのは代役は陛下にコメット様ぐらいでしたが、状況はかなりひどかったですから。なにせ陛下も含めて戦争だーって。いえ、あの時コメット様は冷静でしたからそういった意味では意外と器が大きいとは思いますが……それでも」
やはりクアルは難しい顔をする。
そうなのよね。コメットではやっぱり代わりにならないのよね。
「……ダメね。コメットは研究者としての顔が強力すぎる。教育すればある程度は何とかなるだろうけど、それよりも研究者として活動してもらった方が、ウィードにとっても益があるわ」
「そうなんですよね。それに、コメット様は奥様ではない上に、リッチでもあります。しかも、イフ大陸出身ですから、色々面倒そうですね」
クアルの言う通りその出自にも問題があるわ。
そしてアンデッドだということも。
「それこそイフ大陸の面々がここぞとばかりに色々要求してきそうよね。まあ、コメットのことは表に出すつもりはないけど。だからこそダファイオ王国のフィオラ姫は惜しかったのよね」
「彼女は優秀ですものね。叩き込めば立派になるとわかります。かつての陛下を見るようです」
「クアルもそうみるのね。私も同じよ。まあ、私よりずいぶん生真面目ではあるけれど」
「だからこそ信用が置けますね。とはいえ、そんな責任感の強いお姫様がそうそう国元を離れるとは思えませんが。今も、水の監視と管理中なのでしょう?」
「ええ。コーラルというドラゴンがいなくなって、水源が元に戻るのかと、水を生み出す魔道具の経過を確認しているわね。まあ、その確認が終わった後で『対価』として来てもらうのもアリとは思うけど……」
「ふむ。もう来てもらうこと確定でいいのでは? 水の問題を解決した対価が姫一人で済むとか向こうとしてもありがたいでしょう。一応建前では対価は『実験場の提供』っていってますけど、その程度で周りが納得すると思います?」
「思わないわね。実際実験場を提供するだけでウィードに来てもらえるならって言いだしているところがポコポコ出てきたわ」
「当然ですね。単に土地を貸すだけでユキ様がやってくるとか、万々歳じゃないですか」
「そうなのよ」
夫は今後の要請を断るために、あくまで今回は新技術の実験場を提供してもらったという旨を伝えたけれど、ウィードとの繋がりがちょっと土地を提供するだけで済むのなら誰だって思うわよ。
まあ、夫はあくまで『水の実験』のためであって今後は断るとか言ってたけど、そうなると逆に優遇されたダファイオ王国が窮地になるのよね。
しかもその水問題を解決できなかったロシュールまでも。
だから、あくまでユキが対価としてフィオラ姫をもらったっていうのが一番いいのよね。
「あのお姫様が優秀なのが幸いしましたね。少なくとも彼女ほどの才覚がなければ対応しませんっていえるんですから」
「ええ。単に美貌だけじゃダメって言えるのがものすごくいいわね。それに小国出身というのもいいわね。そうなれば小国からの要望は彼女を通して対処してもらえるわ」
「さしずめ、小国専門窓口といったところでしょうか」
「そうね。何せ初めて小国からのお姫様なんですから、どうやって取り入ったのか聞きに来たい人たちはそれは多いでしょう。そしてそれで脅せると判断する馬鹿者も増えるわ。そうやってふるいにかけられるのもいいわ」
「うん。絶対フィオラ姫はもらい……来てもらいましょう」
「そうね。あとは、そうなると一般相手向けだけど……奴隷が増えているって調査もあるし、ユキに選んでもらおうかしら?」
「あー、新たに奴隷を育て上げるということですね。ですが、それならリーア様が……って駄目ですね」
「そうよ。リーアは同時に勇者なの。公表していい存在じゃないから表立って交渉役として扱うわけにはいかないの。というかそもそも護衛でもあるし。だからこそ追加がいるのよ。結局、エリスやミリー、ラッツたちもいまだに動けないし」
ウィードを建国した時は数年後には自由になるって想定してたのにうまくいかないのよね。
まあ、『ユキが選ぶ女性』っていうのも確かめてみたいし、いいでしょう。
「ともかく、早く樹海の調査が終わってくれるといいですね」
「そうね。どう結末を迎えるのか」
本当に人手が足らないので追加確定です。
これだけ人がいるのに人が足りないって悲しいよね。
まあ、ユキが好き勝手動いた結果でもあるのですが。
うーん、ヒロイン候補ではなく、窓口とか悲しいね。
フィオラ姫は悲劇のお姫さまになってしまうのか!?
あと、ユキが選ぶ奴隷とは!!
ちなみにユキが奴隷を選ぶのは初めてのことです。
ほらラビリスとかはモーブたちが連れてきたし。




