第1139堀:反応が良すぎても逆に疑わしい
反応が良すぎても逆に疑わしい
Side:コメット
私は今、日本で有名なとある狩りゲームに集中している。
一応幽霊調査ということで集まってはいるが、あくまで私に任せられているのは「監視」そして「映像調査」だけ。
つまりだ、我が任務である『何か』が起こるまで、言い換えれば『その時が来た』後でしか活躍できないってこと。
かといってそれまで眠るってわけにもいかないから、こうしてゲームをして時間を潰している。
そうでもないと暇すぎて寝てしまいかねないからね。
まあ、ほかの研究でもできればいいんだけど、さすがにこの場じゃそうもいかないからね。
「はぁ。師匠は本当にどこでもマイペースですね」
私がゲームをしていると、お茶を飲んで少し落ち着いたらしいポープリがやってくる。
「それが私のいいところだからね。焦っても時間が経つのが早くなるわけじゃない。持っている時間は有限だし、じたばたするしかないならいくらでもじたばたするけどさ。今はその時じゃない。その時間で素材を集められるなら集めるさ」
そう、有効に時間を使う。
これってさ、たとえ死んでも大事なんだよね。
いやぁ、ユキと一緒にいると面白いくらい仕事が次から次へと舞い込んでくる。
いや、そりゃヒフィーとの時も同じか。
私は死体となってもまだ忙しいようだからさ、こうして遊ぶというのを覚えられたのはいいことだと思うんだ。
だけど……。
「ポープリ。実際に目を開けて生きてきた時間が長いのは君だろうけどさ。どうも今の君は妙に余裕がないように見えるよ。何が君をそんなに追い詰めているんだい?」
そう、なぜか私の教え子であるポープリはひどく浮かない顔をしている。
パッと見た感じ、身体的には別に問題なさそうに見えるんだけど、どうやら精神的に疲弊しているようだ。
それも、仕事をしすぎて疲労困憊してるとかそういうのじゃない。
それって明らかに今回の幽霊に関係している。
「……思い出せないんです」
「それは日中も聞いたね。で、なんで思い出せないことにそんなにこだわるんだい?」
私にはそれが不思議でたまらない。
思い出せないのならそれまでだ。
「大事な記憶だった気がするんです」
「ふむふむ。そのはずなのに忘れているから気になっているか」
まあ、あれか。
気になりだしたら解決するまで止まれないってやつかな?
でもねー。
「思い出せないものをむりやり思い出すっていうのはなかなか難しいからね」
「……それは分かっています」
「それと思い出せないっていうのは何についてだい? あの幽霊かい? それともあの幽霊が現れた廊下かい?」
「……多分、あの幽霊のことが気になっているとは思いますが」
ったく、本当にはっきりしないね。
「すみません」
私の不満を感じたのか謝るポープリ。
ユキならこんな弱っているポープリを見たらサポートするんだろうけど。
「そんなことで謝るぐらいなら、から元気でも出してちゃんと背筋を伸ばすんだね。学長なんだろう?」
私はそこまで甘くないので、びしっと言わせてもらう。
そうでもしないと、ゲームがゆっくりできないしね。
とはいえ、そこは流石に学長をやっているだけあって、すぐに目に力が戻り。
「はい。その通りです。気合を入れなおします」
「うん。それならよし。でも、私が言ったことが分かってないとは思えないんだよね。まあ、それだけ気になるってことなんだろうけど」
「ええ。なんかとても気になるんですよね。と失礼しますね。お菓子もらいます」
「へいへい」
ポープリはいつもの調子を取り戻してきたのか、テーブルのお菓子を摘まんでさらにお茶を飲む。
「これはあとでトイレに行きたくなるってパターンだよねー」
ほんとに何気なく言ったつもりだったんだけど、ピシッとポープリが固まった。
「おいおい。もしかして怖いの?」
「いや、実際幽霊がカメラに映ったんですから怖くて当然じゃないですか?」
「ああー確かにそうだね」
幽霊とは未知の存在。
いや、ノリコとか実際に幽霊の知り合いがいるからそこまで未知ってわけでもないんだけど、かえって知り合いだからってのがあるしね。
それに、いくら私でもさすがにその幽霊を分解して内容を確かめたことはないから、結構未知の生物?だよね。
うん、それはやっぱり怖いか。
と、そんなことを考えていると、いっしょにゲームをしているユキが顔を上げて……。
「ああ、トイレに関しては最低3人一緒に行けよ。学校のトイレとか怪談スポットとしてはトップスリーには入るからな」
「ですねー。怪談の定番ってやつですね。でもさすがに、ここには花子とかはいないと思いますけど」
「まあ、それは日本独特のものだしな。まぁ、海外では恐れられる場所も変わってくるだろうけどな。と、もう一戦いくか」
「おう、やろうやろう。といいたいんだけど、いったんモニター確認しよう。予定の時間にはまだ早いけど、そろそろ0時だし」
うん、気が付けばもう日付が変わる時間帯だ。
こういう時間帯は幽霊が出やすい。
というか、丑の刻ってやつだ。
「そうですね。皆さん一旦ゲームはやめてモニターの確認をしましょうか」
空気を読めないザーギスはなんとソロでポケモ○をしていた。
この前、私に負けたのがよっぽど悔しいようだ。
だが、あれは運で負けたのではない。しっかり実力差があったのだ。
だから、ちょっとやそっと頑張ったからといって私には勝てるわけがない。
まあ、努力を否定する気はないけど。
「コメット殿。何か?」
「いや、何にも。ささ、モニターを……」
と言いながらモニターに視線を向けたらなんと、そこには確かに銀髪で、ポープリの資料にあった学生服を着た女生徒が廊下に立っていた。
「……」
とはいえ、これが見えたと認識しているからといって真実とは限らない。
そう、私がポープリから事前に情報を仕入れていたので、意外にも影響を受けてそんな『幻覚』を見ている可能性がある。
いや、むしろ私としてはその可能性を押したい。
昨日の今日で幽霊の撮影に成功するとかどう見てもやらせ番組のやり方だ。
なので、まずは私以外にも『それ』が見えているかを確認するべきだ。
ということで、モニターから視線を外して隣の席でモニターを見ているはずのエージルを見ると……。
「「……」」
エージルは偶然こちらが気になったのか、それとも用事があったのか、ギギギギギッて感じでこちらを向き、顔を見合わせることになってしまった。
そのエージルの顔にはわずかながら動揺が見られる。
うん、なにか見てはいけないモノを見てしまったような感じの顔だ。
つまり、おそらく、状況から察するに、ほぼ私と同じモノを見ちまってこちらを見ていると……。
いや、まて。
ちゃんと確認するまではあくまで想像、それは確実じゃない。
ただ単に何も映ってないよ。とか、単におなかすいたから何か食べないって言いたいのかもしれない。
「……エージル。もしかして見えた?」
「……うん。その様子だとコメットもか。今も見えてる?」
そういわれて、視線をモニターに戻すしたけどやっぱりいなくなっているということはなく、いまだにゆっくりと廊下を歩いていく銀髪の女学生の後ろ姿が見えている。
「ああ、やっぱりまだ見えるね。そっちもまだ見えるかい?」
「うん。となると見間違えってことはなさそうだね。ほかのみんなは……」
エージルが他のメンバーの方を見たのにつられて、私も同じよう見回したのだが、やはり私たちと同じように顔を見合わせていたりモニターを何度も見ている姿が見られる。
うわー、こりゃ全員が見えている感じだな。
さて、どうしたものかと思っていると。
「みんな。その様子だと例のモノが見えているようだが、はっきりさせよう。今自分のモニターに銀髪の女学生が見えている人は手を上げてくれ」
おお、ここは頼りになるリーダーのユキのおかげで、みんなが一斉に手を上げる。
手を上げていない者はいない。
つまり全員認識しているってことだ。
「そうか、よし霧華前面モニターに映像頼む」
「かしこまりました」
そう言われて、霧華はすぐに教壇の黒板の前に空中投影モニターの方に私たちが見ている監視モニターの映像をまわす。
そこにも、確かに銀髪の女学生が映っている。
私が見てた後ろ姿だけじゃなく、今回ははっきりと正面の映像も映っており、もうちょっと近づけば顔も確認できるだろうって感じ。
「みんな、前面のモニターでも銀髪の少女は確認できるな?」
ユキの言葉に全員頷く。
こういうのって、映す画面を切り替えるだけで見えなくなるっていうのもあるって聞くけど。
この幽霊の場合は違うみたいで、空中投影モニターにもちゃんと映っている。
「ふむ。これではっきりしたのはポープリ殿が魔力を流したか触れたかまではわからないが、そういうものを介してしか、これの存在を確認できないということだね」
そう、タイゾウさんの言う通り。
このカメラはすべてポープリが触って魔力を流したもの。
昨日の映像から要因はこれだろうと推定してやってみたら見事成功したわけだ。
とはいえ、なんでポープリの魔力に反応しているのかまでは謎だけど。
「それで、ポープリにララ。彼女には見覚えはあるか?」
そうそう、一番気になるのはそこ。
遠目ではあるけど、顔も見えてきた。
映像に映る銀髪の少女の顔は、けして死人という感じはしない、ただ普通の学生のようにも見えるのだが、併せて設置しているポープリの触れていないカメラからの映像には何も映っていないことからも、この少女が普通の存在ではないというのは明白。
この子は一体なんなのか。
そう、それを知っている可能性が高いポープリは、ユキの質問に……。
「いや、まさか、彼女は……」
「間違い、ないでしょう。でも……」
どうやらポープリだけでなくララも良く知っているみたいで……。
「その様子だと心当たりがあるみたいだな。とりあえず教えてくれないか?」
「……ああ。でも、私とララの記憶とは髪の色が変わっている。彼女の髪色は元来青のはずだ」
「はい。髪の長さも違います。ですが、そこはいいのです。彼女は確かに230年前の大樹海調査で行方不明になっているはずです」
ほう。大樹海で行方不明ね。
まあ、この地の特殊さを考えるとそういう人がいてもなにも不思議じゃない。
大樹海には魔物が多く生息しているから、この地で生きていくにはそういう戦いが必要だっただけだ。
でもだ……。
「おや、意外とはっきり覚えているんだね。ポープリはこの女学生と知り合いかい? いや、まあ知り合いなんだろうけど、特別に?」
「ええ。この子の名前はハヴィア。魔物研究をしていた子」
「魔物の研究? ワズフィみたいにか?」
「はい。彼女は魔物の生態に関心を持っていて、ワズフィと同じようによく大樹海に調査に行っては無茶をしてよく怒られていました。ですが……」
「およそ230年前。正確には232年前に大樹海の大規模調査を行った際、こっそりついていって調査隊に見つかって送り返される予定だったんだけど、運悪く強力な魔物と遭遇して調査隊が壊滅。ハヴィアはそのまま戻ってこなかった」
なんとまあ、好奇心で身を滅ぼしたって話なんだろうけど……。
「それがなんで、この廊下にいるんだよ」
そう、問題はそこだ。
なんで大樹海に出るんじゃなくて、この学府に出るんだよ。
普通死亡したところに出るのか幽霊ってものじゃないか?
幽霊を探していて本人に「はい幽霊です」と名乗られると逆に疑わしくなるというやつ。
しかも調べるほど関係性がなとか怪しすぎるよね?
あれだよやらせってやつを疑うよね。
はっきり映っている「心霊写真」はただの「写真」でしかないということ。




