第1132堀:いきなりヒットは意外と困る
いきなりヒットは意外と困る
Side:ユキ
「まさか、監視一日目でもう反応があるとかどうなってるんだよ」
俺はその霧華からの報告を受けて朝からげんなりしていた。
「それがまた、報告書にあるようにポープリさんにしか見えていないんですよ。それで、録画を見直した俺たちには何も見えないですし」
タイキ君の言う通り、報告書にはポープリが5番モニターに幽霊が映ったと報告してきたが、それを視認できたのは当の学長のみということだ。
一緒にいたララだけでなく、その場に残っていた、タイゾウさん、ザーギス、コメット、エージル、霧華たちにも何も見えなかったと報告をしている。
実際、ポープリが見たという時間帯の映像を何回か再生したが、やはり全然それらしい姿は映っていないということだ。
「気のせいって可能性は?」
「一応あるな。でもなー、長時間見続けているところがな。一瞬なら見間違え、幻覚で押せたんだが……」
「確かに。他の連中とやり取りをしながら30分近くも見えていたとか、さすがに気のせいっていうのはあれですよね。監視室に行ってもう一度しっかり映像確認してみましょうか」
「そうだな。あとはポープリから直接話を聴かないとな。はぁ~、大樹海を攻略する前にこっちに動きがあるとは流石に思ってなかった」
「あれ? でもユキさんが監視しようって立ち上げたんですよね?」
「まあ、話し合った結果やらないわけにはってなってな。ほら、ノリコっていう例があるからな」
「あれは例外でしょう」
「例外だとはおもうが、学府で起こらないとも限らない」
「それはそうですけど」
と、そんなことを話しながら、ゲートでランサー魔術学府に向かおうとしていると……。
「は?」
「……ど、どこ、ここ」
「ほれ、呆けてないでさっさと行くぞ。と、おおユキにタイキではないか」
そういえば本日、ワズフィとナイルアがウィードで研修という名のレベルアップに来るんだったな。
とはいえ……。
「デリーユ。やたらと早いな。まだ8時だろう?」
「ウィードではな。だが学府ではこの時間から授業が始まるからそれに合わせたというわけじゃ」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「それでそっちは昨日の確認かのう?」
「ああ、さっそく反応ありとか、ぞっとするね」
「ユキがその手合いに後れを取るとは思わんが、無理はするなよ? タイキ、頼むぞ」
「ええ。そこは任せてください。それよりも、ワズフィとナイルアは大丈夫なんですかね?」
「初めてウィードに来れば当たり前の反応じゃから気にするな。ほれ、二度も同じことを言わせるな。殴るぞ」
そうデリーユがドスを効かしてそういうと、一瞬ビクッとした2人は即座にデリーユの方へと振り返る。
「いやいや。突然こんなところに連れて来られて驚くなっていうのは無理がないかな?」
「わ、私もワズフィに同意だよ。こ、ここは一体……」
「別に驚くなとは言ってはおらぬ。あくまで呆けるなといっておるんじゃ。ホレ、そのままついてこい。あとで存分に自由時間があるからのう」
「本当!? やったね! ナイルア、じゃあ後で一緒に行こう。あ、ユキ様。楽しませてもらうよ」
「う、うん。ほ、本当にウィードの噂って本当だったんだね。ユキ、連れてきてくれてありがとう」
「気にするな。ま、頑張って訓練してくれ」
「がんばれー」
ウキウキとしながらデリーユについていく2人だが……。
「自由時間になって体を動かせるだけの気力と体力が残っていればいいですけどね」
「だな。少しぐらいはウィードを楽しむ日を作るようにデリーユに頼んでおくか」
「印象最悪で戻られちゃ良くないですからね」
「ああ。そして、タイムリミットも考えなきゃいけないわけだ。さっさとこの幽霊騒動に決着がつくといいんだがな。まさか本物が出てくるとか思わなかったし」
「ええ、下手したら調査延長ですよねぇ」
そんな話をしながら俺とタイキ君はランサー魔術学府へのゲートをくぐり、監視室へと向かう。
学府自体はとっくに日が昇り授業も始まっているので、何のかんのと賑わいがあり、とても昨晩心霊現象が起きた場所とは思えない状態だ。
まあ、それこそ『学校』という特殊空間が醸し出せるものなんだけどな。
「流石に日中には出ませんよね」
「日中に出てきてもらったほうがやりやすいけどな」
ポープリが一緒じゃないせいか、とりあえず監視室までの道のりでお化けに出くわすことはなかった。
強烈なところだと日中でも出る場所はあるが、そこまでではないらしい。
そして監視室に入ると、さすがに監視メンバーの多くは休憩に入っているようで、エージル、コメットは仲良く並べた寝袋に入って健やかに寝ている。
エージルは当然だが、リッチであるはずのコメットがこうして寝るっていうのはなんでだろうとは思うが、まぁ、いつものことなので今考えることでもないか。
で、おとなしく寝ているメンバーはいいとして、今も起きていそいそと何かの作業しているのが……。
「おや、来ましたね。タイゾウ殿」
「ん? ああ、ユキ君。タイキ君おはよう」
そういいながらこちらを向いたザーギスとタイゾウさんは目の下にクマを作りつつも瞳はランランと輝いている。
疲労なんぞあろうが、決して眠らぬ! という感じだ。
まさにマッドサイエンティスト。
「おはようございます。ですが、間違いなく昨日から寝てないですよね?」
「ええ、あんなことがあったのに眠ってる暇なんかありませんよ。ねえ、タイゾウさん」
「ああ。まさか監視一日目にしてポープリ殿だけに見える怪異が出現したんだ。その原因を素早く解明しなくてはいけない」
あ、わかってはいたが、ダメだこりゃ。
電池が切れるか熱が冷めるまで待つしかない。
「わかりました。でも一言だけ言わせてもらいます。タイゾウさん、後でヒフィーに文句を言われるのでちゃんと寝てください。で、ザーギスも同罪で滾々と恨み言をいわれるからな。そこだけは覚悟しておけ」
「「うっ」」
俺の脅しに思わず言葉を詰まらす2人。
ヒフィーはとにかくこういう規則正しいキチンとした生活ってことに口うるさい。
まあ、治療を司る神様の一人だからな。日頃から健康には気を遣えというのは当たり前だろうし、それがタイゾウさんのこととなれば更に。
「で、タイゾウさん。例の映像っていうのを見せてもらえますか?」
「ああ、こっちに来てくれ」
そういわれて俺たちはタイゾウさんの使っているパソコンの前に回りこむ。
モニターには既に複数の映像が停止した状態で映っている。
その何れもが、ただ薄暗い夜の校舎が映し出されているだけだ。
これは、昨日設置した監視カメラからの映像だな。
「いいかい。この時間帯。1時23分の映像だが、ポープリ殿から連絡が来て10分は経っているんだよ」
「え? じゃ、このモニターのどこかに幽霊が映っているはずってことですか? あ、いや、映像にも映らないって話でしたっけ?」
「タイキ君のいう通り。この5番モニターに幽霊が映っているとポープリ殿は言っていた」
そうタイゾウさんが指をさす先は5番モニターの映像だが、そこには何も映っていない。
「アップしても?」
「構わないよ」
俺はマウスを借りて5番モニターを全画面で表示をする。
流石高解像度のカメラだ。
アップにしても映像が荒れることはなく、綺麗に細部まで撮影されている。
「この5番モニターって長い廊下を直線で撮影している奴ですね。反対側にカメラが見えますし」
「そうだな。カメラが向かい合っているなんて配置はこれしかない」
つまり、別のモニターに映っていましたとかいう勘違いは起こりえないわけか。
「その様子だとユキ君やタイキ君にも見えないみたいだね」
「全然みえないです」
「残念ですが俺も見えませんね。で、その幽霊の姿を見たというポープリはどこに?」
部屋を見回してみるが、そこにポープリの姿はない。
「ああ、ポープリ殿は昨日の騒ぎで仕事が進んでいなくてね。今は書類仕事中だよ」
「なるほど」
ま、幽霊を発見しちゃ仕事どころじゃないだろうな。
だから夜が明けてから昨夜の仕事の続きか。
俺なら眠くして仕方がなくてきっと寝てるだろうしなと思っていると監視室のドアが開いて……。
「ふぁー。まったく朝から書類の山と格闘とか、昨日もろくに寝てないのにきついねー」
予想通り眠そうなポープリが入ってくる。
どうやらほぼ眠れていないか。
「仕方がありません。たとえトラブルがあっても書類はしっかりやらないと減らないのですから。と、ユキ様。おはようございます」
「ん? ああ、ユキ殿。おはよう。朝早くからすまないね」
「おはよう。早速話をと思ったが、タイゾウさんたちも寝てないみたいだしな」
と、俺がまずは寝てみんな体調を整えてくれといったのだが……。
「いや、それはこの報告をしてからでいい。昨日見たことをできる限りまとめてみたからね。報告が終わったら寝かせてもらうよ」
「ほう。それなら私たちも聞かなくてはいけませんね」
「そうですな。ザーギス殿」
やっぱりやる気満々だよ。
はぁ、そうなるとあっちも起こさないとまずいか。
「ちょっと待ってくれ。2人も起こす」
「2人? ああ」
タイキ君は俺の視線の先にいる2人を見て即座に納得する。
当然、他のみんなも止めはしない。ここで寝かせたままにしておく方が後で厄介だからだ。
「そういえば、霧華」
「はい。こちらに」
「昨日の現象について霧華の方で何か確認できたか?」
「……いえ。ダンジョンの監視にも何も」
「特定の人にしか認識できないタイプか? ま、それはソウタさんが来てからだな。そのソウタさんが無理しないようにサポートは?」
「はい。今部下が付き添いをしています。エノル様もご一緒するようです」
「うん。エノルさんがいるなら問題ないか。と、霧華。そのまま起こすの手伝ってくれ」
「かしこまりました」
ということで、まずは嫁さんであるエージルを起こすことにする。
「おーい。エージル起きろ」
「んー? 眠い」
「眠いじゃない。仕事だぞ?」
「あー? ああ、ユキか……。わかったよ。とりあえず抱っこ~」
完全に寝ぼけてるな。
ま、嫁さんだから気にならないのでリクエスト通り抱っこして揺り起こす。
「これじゃ奥さんじゃなくてただの子供だよな」
「む。それは失礼だよ。どこからどう見ても旦那さんと奥さんの抱擁シーンじゃないか」
「寝袋に包まったままでそれをいうか。というか目が覚めたら霧華の用意してくれているタオルで顔を拭いてポープリのところに集まれ」
「了解」
「こちらです」
そこまでしてようやく寝袋から出てきたエージルに霧華が甲斐甲斐しく世話をする。
うん。どこからどう見てもやっぱり子供だよな?
と、それはまあいいとして次はコメットか。
「くかぁー」
「いやぁ、寝息なんて立てているアンデッドがいることが驚きだな」
本当に気持ちよさそうに寝ている。
とはいえ、このまま寝かせて置くことはできない。
「おい。コメット起きろ」
「んー? ユキ? どしたの?」
「昨日の幽霊騒ぎの検証をするぞ」
「あー……。そうだ、ほらこの前のご褒美を要求しよう。エージルみたいにして起こしてくれ」
「何言ってるんだか」
とりあえず、寝ぼけている連中と交渉するなんてことは不毛なのでさっさと抱き起す。
「うぇっ!? 本当にやってくれた!?」
「何驚いてるんだよ。別にこの程度、ご褒美の約束は使わなくていいぞ。お前ら研究者がだらしないのはよく分かってるからな」
「……むう。私みたいな美女を抱いてドキドキはしないというのかい」
「いや。仕事の場でそういうのはないだろう。ま、そういう風に扱ってほしければキチンと場所を整えろ」
「いったね。じゃ今度付き合ってもらおうか」
「ゲーム大会にならなければな」
そういうコメットも寝袋から出てきて霧華からタオルを受け取って顔を拭く。
はぁ~、メンバーをそろえるだけでもなんでこう疲れるのか……。
出ないのも困るけど。
出るのもそれはそれで困る。
調査を続けることになるし、力の入れようも上がるからね。




