第1125堀:集う者たち 唐揚げ
集う者たち 唐揚げ
Side:ユーピア
ワシは今最大のピンチを迎えておる。
目の前には小うるさいショーウ。
かの者を太皇望と呼びしはワシじゃが、かような処では望んではおらぬ。
じゃで、そう、自然に……。
「よっ、奇遇じゃな。ショーウ」
「あ、はい。陛下」
「じゃあのう。よし、アスリンたちいこうかのう」
「うん」
「はい、あっちに行くのです」
よし。自然な流れで挨拶をし、離脱に成功……。
「って、流すわけないですよ! ストップ! 止まりなさい、そこのババア子供!」
「誰がババアじゃ!」
「あなたですよ! なんでこのランサー魔術学府の町にいるんですか!?」
ちっ、気付きおったか。
そう、ワシは今、ランサー魔術学府に来ておる。
その理由は……。
「おいしい唐揚げたべにきたんだー。ショーウお姉ちゃん」
「そうなのです。ここの唐揚げは絶品なのです」
「ええ。美味しいのよね」
「というわけじゃ」
そうじゃ。美味いものを食べに来たのじゃ。
これ以上の理由はあるまい。
「いや、国主たるものがなにゆえかように少数で外国に来てるんですか。というか、国の業務は……」
「はっ、そないなもの、あのハイーンの爺が数日ほど喜んで引き受けてくれたわ。そうじゃ、あの爺にもお土産を買って帰らねばな。で、その候補がここな唐揚げということじゃが、美味いんじゃろう、シェーラ?」
ワシは隣にいるシェーラに確認をとる。
王女の言葉に嘘はあるまいし、ショーウもぐうの音も出んじゃろう。
「ええ、本当に美味しいですから。ね、ヴィリア?」
「はい。美味しいですよ」
「ヒイロ。ここの唐揚げよく食べる」
「私もアイテムボックスに出来立てストックするわね。で、そっちはショーウを連れてどうしたのルルア?」
「そうじゃ。学府にてしっかりと見学をしておるはずのお前が、なにゆえ斯様な処におる。ぬっ、サボりか?」
こやつ、日頃より己が立場を悪用し、斯様な贅沢三昧しておるのじゃなかろうか?
そう言えば日々の報告書にも、どこのめしが美味かったじゃの風呂がよかったじゃの、ふざけたことばかりを報告して来おるし。
「それは陛下でしょうが! 私はあくまで魔術学府の見学の一環としてルルアの案内で町に来ているんですよ。最近はずっとウィードで勉強していたんですから。というか、陛下こそラビリス殿たちに無理をいって来たのではないでしょうね? どうなんですか?」
「はっ。ワシが親友たちに斯様な無理強いを為す暴君なわけなかろう! ちゃんと快諾済みよ! のうラビリス」
「ええ。今回のことは私たちからの提案よ。というか、ユーピアはショーウの姿が見えないからこっちまできたのよ」
「うぉい。そこは言わんでいい」
「え? 何か御用ですか?」
「心配していたんですよ。羽伸ばしの意味もあってウィードに派遣したのに、他国まで行っているって報告があったんですから」
あー、もう。
ラビリスもシェーラも余計なことまで素直に言わんでもいいじゃろうに。
「陛下、ありがとうございます」
「よい。お前には今まで随分と頑張ってもらったからのう。少しは楽しんでもよかろう。ま、報告書にはずいぶん楽しんでおる様子も書かれておったゆえに、ちいとばかり憎さというも無論あった。ま、その姿を見る限り楽しんでおるようで何よりじゃ」
「ええ。ショーウはランサー魔術学府を楽しんでいますよ。ユーピア皇帝」
「うむ。ルルア殿には随分と世話をかけるな。さ、挨拶はここまでにして、ワシは観光に戻る。美味い唐揚げがあると聞いておるからな」
何せ、ワシに残されている時間はそんなに多くはない。だから目標をさっさと達成するのは当然。
なにより、かの美食にあふれしウィードで生活をしているアスリンたちが美味いと絶賛するほどなのじゃ。
それは食せねばならぬじゃろう。
臣下たちもお土産を待っておる。だからこそ喜んで送り出してくれたのじゃがな。
あ、爺にもな。
「いえいえ。私たちもその唐揚げを食べに来たんですよ」
「ほう。なら一緒に行くか」
「うん。一緒にいこー」
うぬ。目的が一緒なら別々に行く理由もない故、そのままその唐揚げを出しておるという店へと向かいつつ、ショーウとあれこれ話をする。
「陛下。実際に学府を見てどう思いますか?」
「ワシはただ町の方にいるだけじゃからな、何を言うもないが、学ぶためだけに町があるというのは意外と驚きじゃな。通常、どこかの領地に学び舎が存在しているのはあるが、こちらは成り立ちが逆じゃ」
余程、この学府の元となりし集団が力を持っていたのじゃろうな。
普通であれば、どこぞの有力者に取り込まれる筈なのじゃが、ここは学府のみで各国より中立を勝ち取っておる。
まあ、諸国にとって地理的にここを押さえる意味は少ないという別の理由もあるのじゃろうが、それだけではなくポープリという学長がどれだけ尽力したかがわかるというものじゃ。
「余程、この土地を捨てたくなかったのじゃろうな」
「でしょうね。なにせ、この学府の創立者は今も生きておりますから」
「それは聞いておる。故に来てみたというのもある」
ワシと同じ不老を背負う者。
如何なるものかと思っておるが、今の所顔を合わせる機会はない。
「それでしたらご紹介は容易にしてもらえるはずですが? ポープリ殿はウィードにもよく顔を出しているはずですし」
「それは分かっておる。しかしのう、ただ不老の話だけというのもな……」
「ああ、会談の内容ということですか?」
「うむ。この学府は魔術が学び舎という特殊な場所じゃからのう。ワシの統治者としての視点とはまた異なるものが見えておろう。そして、ワシは国主として、学長とは会わねばならぬ。その時は政治の駆け引きじゃ。ただ単に雑談をしに来たでは幻滅されよう」
「私は、普通に話に来たというだけでもいいかとは思いますけどね。まあ、手土産があればそれに越したことは無いとは思いますが」
「そうもいかん。ま、難儀よな。こういう時に立場というは」
ワシは国主であるが故、アスリンたちのように気ままに会いに行くことすら叶わん。
じゃが、その立場がなければ守りたいものも守れない。
ままならぬものじゃ。
じゃが……。
「あそこの宿がそうだよー」
「おいしーのです」
「うむ。ならば突撃じゃ! 続け者ども!」
「え、あ、はい!」
「ヒイロ、行きます!」
「こら、ヴィリアたちを煽動するんじゃないわよ!」
今は美味しい食べ物を心行くまで堪能しようではないか!
さあ、あそここそがアスリンたちが絶賛する唐揚げがあるという店。
その地へと一団となって突撃をかけておったら、横の路地より出てきた人と激突……するわけなく全員ピタッと停止した。
「おおっ。どうしたのみんな。勢ぞろいで」
「というか、アスリンたちはともかく、ユーピア皇帝までいるし。え、何? 訪問予定あったっけ?」
その路地から出てきたのは、アンデッドのコメット、そして将軍のエージルであった。
「いや、その質問はワシからも聞きたいんじゃが。2人とも、研究でこちらに来ていたんではなかったか? ワシの方はアスリンたちと遊びに来たという感じじゃな」
「ああ、納得。アスリンたちとは仲がいいもんね」
「それは国主としてどうかとは思うけど、まあ、それを言ったら僕たちの旦那や女王もだしねー。あ、で僕たちは普通に食事。料理はできないわけじゃないんだけど、作るのも手間だし外に食べに来たってわけさ」
「「「え?」」」
その時、ワシたちの気持ちは一つとなった。
何せエージルが如何にも不思議なことを口にしたからのう。
「エージルって料理できるの?」
その沈黙を破りしは、エージルと共に来ておったコメットじゃった。
「そりゃそのくらい出来るよ。上手いか下手かっていわれると下手かもしれないけどさ。これでも一応軍人だからさ。戦場料理とか狩りをして食事を用意するなんてざらさ」
「「「ああ」」」
その言葉に納得するワシやショーウ。
というか、アスリンたちも納得したようにうなずく。
「確かにその程度で良ければワシもできるな」
「はい。私も流石にその程度であればできますね。それにウィードの調味料があれば大抵の味付けは失敗しませんから、焼くだけでも結構いけます」
「あ、そうだ。今度ユーピアちゃんにお料理作ってあげるね」
「そうなのです。それがいいのです。お料理パーティーなのです」
「あ、いいですね。ケーキとかも作りましょう」
「いいわね。シェーラ。そういうの好きよ」
なん……だと……?
アスリンたちの手料理?
分かる。ワシにはわかるぞ。
その料理は確かに、これまでに無き秘宝じゃと。
うぬ、ここは唐揚げは後日にしてもらい、手作り料理を楽しむべきではなかろうか?
きっとまずいものも美味いといえる。
いや、たとえ命を失うことになろうが食ってみせる。
そう覚悟を決め、唐揚げを食べるのは止めようかと思っておったら……。
「ここだよー。噂の唐揚げが美味しいお店」
「え? 宿じゃない?」
「そうね。宿みたいね。まあ、昼間は食堂とかで稼いでいるんでしょうけど」
「いいですね。宿の人気メニューということですか」
「おー、ここなら私とナイルアもお世話になったね。ウィードに行く前に堪能しよう」
「う、うん。そうだね。おっちゃんとおばちゃんにも、あいさつしておこう」
「あー、ここかー。……ぬぐぐ負けた気が」
「いや、仕方ないだろう。ここ、有名店じゃん」
今度はミコスたちまでも現れおった。
「あれ? みんなも唐揚げの調査?」
「ま、そんなところじゃな」
「すごい偶然もあったもんだね。ま、入り口でこれだけ人数が集まってると邪魔だろうし、さっさと中に入ろう。席があるといいけど」
「ですね。席の確保が重要です」
ということで、ミコスたちとの雑談はそこそこにして、即座に席を確保するためにその宿に入る。
「おう、いらっしゃい。宿か食事か?って、おうアスリンちゃんたちじゃないか。久しぶりだな。元気だったか?」
するといかにもこの宿の主というべきそれなりにガタイのいい男が現れ、声をかけてくる。
どうやらアスリンの知り合いの様じゃが……。
「お久しぶりです。うん、元気だったよ」
「元気いっぱいなのです。それで美味しい唐揚げを食べに来たのです」
「おう。沢山食っていけ。友達も沢山連れてきてくれたみたいだな。ああ、そっちの嬢ちゃんはユキの兄ちゃんの奥さんか。どうだ、ユキの兄ちゃんは?」
「ええ。旦那様は元気ですよ。今日はちょっとお仕事で来れませんから、お土産に唐揚げを幾つか包んでくれませんか? みんな好きなもので」
「任せとけ。沢山作ってやるぞ。ほれ、席は空いているから座んな」
なるほど、とても気の良い主人なのじゃな。
アスリンたちの笑顔といい、店の中で食事を楽しんでいる者たちといい。
ここで食べるだけでも楽しくなれそうじゃな。
まあ、問題はその唐揚げじゃが……。
「美味い! 美味いぞ! 店主、ワシの所で働かんか!?」
「うぉっ!? おどろいた。いや、嬢ちゃん。うちの料理を褒めてくれてありがたいが、俺はここで宿と飯を出すって決めてんだ。またいつでも来てくれや。それなら歓迎するからさ」
くそっ! そんなことを言われたら通うしかなかろう!
唐揚げに集いし者たち。
唐揚げも作る人によって味ががらりと変わるよね。




