第1115堀:倒れない
倒れない
Side:デリーユ
ぶおぉぉぉ……。
そんな突風を巻き起こしながら拳を繰り出してくるはワズフィとかいう学府第2位の実力者。
魔術師が拳を武器に戦うなどと聞いた時には驚いたが、よくよく考えればさほど不思議なことではない。
妾とてそれは同じだからじゃ。
魔力で強化をした己の拳というが武器として最も性に合っていたというだけじゃ。
まあホントのことを言えば、妾はこの己が拳以外の武器はよう持たなかったというのもあるがの。
ワズフィとて魔力による身体強化が予想以上だったんじゃろう。
これは個々の才能じゃが、魔術を撃つよりも自身を強化して敵を倒す方が圧倒的に効率が良かったわけじゃ。
とはいえ……。
「どうしたんじゃ? ちっともあたらんのう?」
「そっちがちょこまかよけるからだよ! くそっ!」
うぬ、残念ながら技量がせっかくの身体能力に追い付いてはおらぬ。
いや、己が研鑽でここまでの力を手に入れていることを称賛すべきかのう?
さて、そろそろこやつの見極めは終わりじゃな。
ここまで攻撃をさせてやって未だ一撃も入れられないというは、しょせんその程度ということじゃ。
もう少し何か隠し種くらいあるかと思ぅとったがそれすらもない。只々力いっぱい拳を振り回しておるだけじゃ。
うぬぅ、ここまで粘られた経験がないか、それとも実はカウンターが主体か?
ともかく、こちらから仕掛けてみないと何もわからんし、後もつかえておるので、こっちから仕掛けてみよう。
トンッ。
「えっ」
おぉ、ワズフィめ驚いた顔をしておる。
ま、本人は全力で動いて拳を叩き込んでおるからのう。
それを妾がチョイと手のひらで押しただけで簡単に後方に下がってしまったのじゃ。
もちろん妾のレベルにものを言わせて力づくで押し戻したのではない。
ただ、そこいらの幼子でも出せるような力でトンと押しただけじゃ。
ワズフィの攻撃タイミングを見計らって押したというのがそのネタ晴らしにはなるが、まぁ、こやつの攻撃はそれだけ読みやすいということなんじゃよな。
「何を呆けておる。技量が足りぬというのはお主自身がようようわかっておろうに?」
妾と戦っている本人が一番わかっておるはずじゃ。
ここまで何度拳を打とうが、一つも当たらないどころか、妾が真剣に回避しているわけですらないことに。
それだけ、妾とワズフィの差があるということ。
「ここまで圧倒的な差を見せられると冗談って言いたくなるよ! だから、せめて一発入れる!」
「その意気やよし。だが、何発耐えられるかのう?」
さて、ここからは、ワズフィの防御力とか回避能力を見ようぞ。
まあ、先ほどのちょっと押しすら躱せなかったところ見るとほとんど期待は出来んじゃろうが、それでも試す必要はある。
これからの教育方針を決めるためにもというやつじゃ。
「やれるものなら……ごふっ!」
「うむ。遠慮なく打たせてもらおう。まずは一発」
もちろん本気で打ち込んだりはせぬが、さすがに甘い攻撃をするつもりもない。
とはいえ、流石身体強化に力を入れているだけあって、妾の一撃には耐えたか。
ワズフィは数歩下がりはしたが、カグラたちのように腹部を押さえてうずくまったりはしておらぬ。
ふむ、拳で戦うことを選んでおるだけのことはあるか。
「けほっ。ま、まじ? 一発でここまで……」
「おお、身体強化による防御力はあるのう。じゃが、回避能力の方は、今の所全くのダメダメじゃな。あとは、意識してガードや回避ができるか見せてもらおうかの」
「くそっ!」
ふむ、このままでは妾には敵わないと見て、今まで以上に真剣になって攻撃を繰り出してきては、距離を開けるという、ヒットアンドウェイスタイルに切り替えたか。
近づいたままの殴り合いは分が悪いというのは理解しているようじゃがな、攻撃してくるたびにカウンターを入れているのでどんどんボロボロになっていく。
じゃが、妾もそれなりに打ち込んでいてまだ動けるのじゃから見事なものじゃ。
だが……。
「はぁっ、はぁっ……」
さすがにもう限界なようで足が止まったの。
所々赤くはれているが、それでも自分の足で立っているだけ立派じゃ。
「うむ。ワズフィの実力は見せてもろぅた。根性は一人前じゃな」
「何を言って、まだ、わ、たしは……たたか、え……」
「そんな息も絶え絶えでよう言いおる。ま、今はゆっくり寝ておけ」
「誰がねる……」
スパンッ!
そんな音とともに妾の拳が顎を撃ち抜き、ワズフィはドウと仰向けに倒れる。
もう限界じゃったからな。ここまでよう持ったと褒めるべきじゃな。
「で、ユキ。どうじゃったか?」
妾はそう言いながら振り返ると、ワズフィを介抱するためにユキとエノラが近くまで来ておった。
「おう。意外と根性あったな」
「うむ。確かに根性はあったのう。じゃが拳の方は独学なのかさっぱり技術がない。ただただ拳を前に突き出しているだけじゃ。腰のひねりとか、そういうのがさっぱりじゃな」
「何言ってるのよ。デリーユ相手に、ここまでもっただけでもものすごいわよ」
「まあ、そういう技術なんかは追々教えていけばいいさ。ワズフィにはそもそも格闘というものを教えてくれる人がいなかったんだろう。っと、しかし、やっぱり格闘戦となると体のダメージが酷いな。ワズフィの右こぶしの指は半分折れてるぞ」
「それと無防備に受けた胸とかは肋骨が逝ってるわね。本当にワズフィは根性はあるわね。普通ここまで来たら激痛よ?」
「ふむ。本来内部までちゃんと身体強化を入れるのが鉄則なんじゃがな。そういう所も技量不足か」
「ま、そこまでの相手がいなかったってのもあるだろうな。さて、体の状態は確認したし、回復魔術で一気にやるか。と、その前に、エノラはなにか気が付いたことはあるか?」
「んー、そうね。ここまでボコボコにされながらも動けなくなるようなところへは致命打はもらってないから、そこはすごいと思うべきかしら? それともデリーユが手加減した?」
エノラにそう聞かれるが、妾は素直に首を横に振る。
「いや、もちろん色々手加減はしておったが、余りに隙がひどすぎればすぐに手足を折って行動不能にするつもりではあった」
妾には戦闘の厳しさを教えるという役割もあるからのう。
もし戦闘を舐めておるなら体に叩き込むのも仕事の内じゃ。
じゃが、そういう致命打はしっかりと防いでいたから、そこもまた褒めるべき点じゃろう。
「なるほどな。勝てない相手に対しても食らいつくだけの胆力はあるか」
「うむ。妾にここまで食らいついてきたんじゃ。大樹海の探索もそう問題にはなるまいて。もちろん鍛えるしのう」
「さらに伸びるなら問題はないか。じゃ、ワズフィは問題なく大樹海の調査には加われると。あとは、一緒に仕事するメンバーの意見だが……」
そう言ってユキはエージル、コメットに視線を向ける。
ああ、そういえば大樹海の探索はこの2人と共にするんじゃったな。
仲良くできなければいくら腕が立っても邪魔でしかない。
聞いておかなければいけないところじゃ。
「僕は文句なし。なによりデリーユ相手にここまで戦えるなら、大樹海でも問題なさそうだし」
「私もだね。とはいえ、連携訓練はしておいた方がいいだろうね。彼女、どうやら突っ込むのが得意みたいだし。誤射は避けたい」
「そうじゃな。接近戦だけしかみておらぬから、遠距離戦でどこまでやれるか見ておく必要はあるのう。じゃが、妾の見立てでは、こやつは誰かと組むというのは考えてはおらんじゃろうな。なにせ最後まで向かって来おったからな。誰かと組んで戦うというのを考えておればさっさと負けを認めるはずじゃ」
「ワズフィが試合に限っては最後まで戦うような気質ってことは?」
「ま、それもなくはないが、大樹海で魔物相手をするのじゃ、やばい相手に対しては逃げの一手を打たないと味方もろとも全滅じゃからな。とはいえ、これはあくまで妾の想像じゃ。意外と仲間と連携をするかもしれん」
と先ほどの模擬戦を振り返っておったら、遠くで見物していたほかのメンバーも近寄ってくる。
「お話し中悪いけど、ふひっ、意外とワズフィって私には合わせてくれるよ。魔物素材とかで大樹海に付き合うことはあったからね」
「へえ、意外ね。いえ、色々ナイルアのサポートをしてたんだから当然かしら? でもならさっきはなんで最後まで向かっていったのかしら?」
「あー、ミコスちゃんわかったかも。あれでしょう? 今は死ぬ心配がないから全力で向かってみたとか?」
「ふむ。なるほどのう。いままで全力で立ち向かう相手がいなかったわけか。じゃが、それならそこのナイルアは第一位なのじゃろう? それにポープリもいる。少なくとも学府では全力が出せないということはなさそうじゃが?」
「わ、私は搦め手が中心だからね。ワズフィの動きを封じて勝つから、そもそも全力を出すって意味が、ち、違うんだよ。それは、ポープリ学長も一緒、さ」
ふむ、ナイルアの説明で納得がいく。
それは周りのみんなも同じようで……。
「なるほど。確かに、ナイルアは道具、ポープリは圧倒的な魔術の弾幕を張るのですから。近づかせないことでワズフィの持ち味を生かす前に勝敗がきまるわけですね」
「だから、今回デリーユとの模擬戦はワズフィにとって珍しい全力を出せる相手だったわけね」
「ま、全力を出せる相手ってめったにいないしな。デリーユはそういう意味では理想的だったってわけだ。結果は惨敗でもそれでも得るものがあったんだろうな」
そうワズフィの評価を下したが、模擬戦はまだ始まったばかりじゃ。
ここで駄弁っていてもなんの足しにもならん。
「よし、ワズフィが復活するまでは、ナイルア。次はお前じゃな」
「へっ? 私かい? あの、私は別に大樹海に挑むわけじゃないんだけど……」
「それは分かっておる。じゃが、実力の把握は必要じゃ。ワズフィを倒した実力を見せてもらうぞ」
「えー。あの、ユキ。これって……」
「必要なことだ。ま、死にはしないから全力でやるといい。こっちの実力も知れて安心できるだろう?」
「い、いや。実力は十分ワズフィとの戦いで見せてもらったから……。どうみても私に勝ち目なんかなさそうなんだけど?」
「そなたに勝ち目がないからといって敵は攻撃を緩めてはくれんぞ。特にナイルアはエナーリアから追われる身じゃしな。ちゃんとそこらへんは鍛えておかねばならん」
「……うっ、これは逃げるのは不可能か。えと、私ひとりじゃ勝ち目なんてないから、カグラたちを入れても?」
「ん? ああ、それは後でやるぞ」
「「「え?」」」
「なにを不思議そうな顔をしておる。なぜカグラたちにも準備をさせたと思ぅとるんじゃ。スタシアやエノラはやる気があるようじゃが、ほかの連中は一度気合を入れなおす必要があるな」
どうも、ズラブルでの戦いが終わってよりこのかた腑抜けておるな。
ふむ、やはり一度拳を叩き込んで目を覚まさせるとするか。
拳で戦う者は最後まで倒れない。
なんで、こんな気合の入った女性が多いんだろうね?
あ、ナイルア?
そりゃー、後日かな?




