第1110堀:報告書を読んでの意見
報告書を読んでの意見
Side:ミリー
「はぁー!? 独力でスキル、才能を付与するエンチャント道具をつくったぁー!?」
前代未聞の報告に思わず私は大声を上げてしまった。
幸いなことに、まだユキさんとかは来ていないので、こんなはしたない姿を見られずに済んで良かったんだけど……。
「ん? 何かおかしいの?」
「……ナールジアさんの作る物ってだいたいこういう物じゃない?」
「だよね?」
う~ん、この報告が意味することの重大さをいまいち理解できていないらしいリエル、カヤ、トーリの三人。
おい、特に元冒険者の二名はある程度高位のランクだったっていうのにこれが何を意味するのかわからないの?
というより、3人とも一応警察の重役なんだから、そこはしっかりしてほしいって思いつつ説明する。
「えーっとね。あのナールジアさんが作るエンチャント装備とか装飾品でさえ、あくまでステータスの底上げがベースで、付与するタイプのものはあくまでスキルじゃなくて、効果にとどまっているのよ。普通、スキルや才能を増やすなんてことはできないのよ。ねえ、ラッツ、エリス?」
「そうですね。この手のエンチャント物はあくまで道具自体が効果を持っているのであって、装着している個人に技能を与えるものじゃないんですよ」
「そんなことができる武具って話も確かに無いわけじゃないけど、実物なんて私は見たことないわ。あくまで噂に聞いただけ、それも酔っ払いの戯言っていうのが真相って感じよ。その現物をまさか、ユキさんじゃなくて、魔術学府の生徒が作ったっていうのが驚いたわ」
エリスの言葉に、私もラッツもうなずく。
でも、リエルたちはまだ理解できないのか不思議そうで……。
「え? だって実際、ユキさんが僕たちにダンジョンマスターの能力でスキルつけてくれたよね?」
「うん。そうよね。実際にスキル付与ってできるんだから、それを装飾品とかでできるってそんなにすごいことなのかな?しかもこの程度の」
「……ユキの方がすごい。自慢」
「ああ、そういう意味なら。ユキさんで代用可能なことね」
うん、確かにカヤの言う通り、伝説のスキル、才能付与をできるユキさんは私たちの自慢なのは間違いないわ。
でもね、言いたいことは違うのよ。
「逆に考えて。いままでユキさんにしかできなかったことをする物を、学府の生徒が道具として作り出しているの」
「ですねー。お兄さん以外にできなかったことが、できるようになっているっていうのは驚きですねー」
「そういうこと。ミリーは知っているかもしれないけど、そもそもそんなことをできる物も人も見たことがないようなものを思いついて作り出せるっていうのが驚きよ」
「ああ、そういうことか。うん、あれ? それってすごくない?」
「でもナールジアさんたちはなんで今まで作らなかったんだろう?」
「……確かに。ユキが私たちにスキル付与する時はDPを消費する。それを道具で補えるなら、それに越したことはないはず」
そうカヤが言った丁度その時、会議室のドアから返事が返ってくる。
「あはは、お恥ずかしながら、ユキさんがDPを使ってスキル付与する方が断然効率がいいんですよ。レベル1のスキルならともかく、レベル2以降はどうやって付与するのかも全くわかっていませんし」
あのナールジアさんにして全くお手上げって感じで、特に気にした様子もなくそう言いながら入ってくる。
「あ、ナールジアさん。やっほー」
「やっほー。リエルちゃん。みんなもやっほー」
「「「やっほー」」」
なんか変な挨拶だけど、身内だけだと私たちってこんなものよね。
と、そこはいいとして……。
「3人ともわかった? そんなものを作ろうとすると、どう作ったらいいのか、どう付与するのか、どうレベルを上げるのかっていう難点があるのよ」
「そっか。そこがわからないと作りようがないよねー」
「うん。わかったよ。でも、そう考えると逆に不思議だよね。身に着けただけでそのスキル、才能が使えるようになるっていうのは」
「……不思議。でも、熟練者にはなれそうにない」
「はい、カヤの言う通り、あくまでスキルを覚えただけですから、熟練はしていないんですよねー。そこも問題の一つです。私たちもお兄さんにスキルを付与されてから実際に使いこなせるようになるまで随分時間がかかりましたから」
「スキルが使えることと、上手く使えるかは別物なのよね」
そう、ただスキルを覚えるだけで、熟達した方法で使えるわけでもないし、ナールジアさんの言うように今のところレベル1のスキルしか付与できないので、実用性はとても低い。
研究素材としては価値は高いんだけどね。
「ですから、今回スキル付与のエンチャントを作った子が来るのは楽しみなんですよ。私でもユキさんからのバックアップを受けてようやく作れたものですし、それでもどうやっても実用性が無くてお蔵入りになってたものです。それに何か私たちとは違う方法でその結果にたどり着いたってことです。なにせ学生さんの身ですから、私たちのように物資潤沢で作れるわけがないです」
うんうん。当初はあのエナーリアで馬鹿をやった大臣の娘な上に、単に助けを求めて縋って来ただけとか聞いてたからどんな屑かと思ってたけど、意外と有能なのよね。
まあ、そうでもないとユキさんがこちらに引き取ったりとかはしないでしょうけど。
「それで、今はそのナイルアは学府でお兄さんのお手伝いですか?」
「いえ、ナイルアはカグラと一緒にランサー魔術学府の支援後押しの方ね。大森林の研究に当たっているのはそのナイルアの友人のワズフィって子らしいわ。こっちも学府の成績上位の生徒なだけあって、コメットやエージルが絶賛しているわね」
しかし、ランサー魔術学府の人材は意外と豊富よね。
学府からここまでの人材が出てくるとは思わなかったわ。
「でもさ、この報告書を見ると、ナイルアってあのエナーリアで暴れた大臣の娘なんだよね。まあ、ユキさんが大丈夫って判断したんだからきっと大丈夫なんだとは思うけど……」
「少し、心配だよね」
「……ユキはああ見えて甘い。自分がリスクを取ればいいってことになるととことん甘い」
カヤの言葉に全員が頷く。
「ユキさんは私たちのためであれば鉄壁の守りを固めるくせに、自分が対象の場合は平気で自身を囮にすることは多いわ」
「ええ。お兄さんって意外と前線に出るタイプですよねー。まあ、ドッペルではありますけど」
「うん、ホントならそれすらやめてほしいわ。ユキさんは慎重だけど現場主義なのが駄目なところよね」
なぜか自分を大事にしないのよね。
娘たちもいるんだから、そこらへんは自重してほしいんだけど……。
「でも、実際に今までユキさんって予定外のケガ一つしたことないですよね」
「「「……」」」
そのナールジアさんの言葉に全員が沈黙する。
すごく困ったことに、その実績があるからユキさんを止めたくても止められない。
私たちの心配しすぎってことになるのよね……。
「こほん。でも、ナイルアかぁ。カグラたちからも、別に問題ないって報告も届いているからいいのかな?」
「カグラたちがユキさんのことで判断を誤るとは思えないよ」
「……カグラは特にユキの危険に敏感。さすが自分が誘拐しただけあった」
「それ、本人に言うのはやめときなさいよ」
ま、自業自得ではあるんだけど、その話が出るたびに泣いて謝ろうとするから、こっちも気まずいもの。
まあ、当時は私自身のこの手でぶっ殺してやろうとは思っていたけどね。
そこは私も心が広くなったわけよ。
ルルアとも仲良くなっているし、ここは大人の女性としての対応が必要か。
「ともかく、ナイルアは思った以上に才能があるみたいだし、こっちに来たらスキル、才能付与の研究をしてもらって何とか実用化したいわね。DPよりも汎用性が高いもの」
「ですねー。武具や装飾品を装備しただけで、魔術や技が使えるようになるとかものすごいことですからね」
「単一の魔術を発揮するエンチャント武具、装飾品はあるけど技能一式はないものね」
「はい。彼女がこっちに来る日が楽しみです。うまくいけば特殊なスキルも覚えさせることができるんですよ。つまりビームライ〇ルを覚えさせることができるんです!」
「「「……」」」
ナールジアさんのロマンスキルを聞いて全員沈黙する。
また、ナールジアさんの悪い病気が始まったわね。
さて、どうやってナールジアさんの妄想を止めようかと思っていると……。
「ナールジアさん。そういうのはやめてください。まあ、技術的に再現できそうにないですけどね」
「えー。ロマンがありませんよ。セラリア女王陛下」
ほっ。セラリアがやってきてナールジアさんに釘をさしてくれた。
誰でも使えるようになるビームラ〇フルとか物騒でしかないわよね。
「というか、作れたとしてもちゃんと報告してよ。ナイルアは本当に立場が微妙なんだから。勝手に隠れて物騒な武具や装飾品を作ったなんてしたら、私は夫を守るためにも処分しないといけなくなるわ」
「わかってます。そこはちゃんと報告しますよ。ユキさんもこちらに連れてきた人をそういう風に処分したくないでしょうから」
「もう、ナールジアさんの冗談は冗談に聞こえないんですから、もうちょっと言葉を選んでください」
「まぁ、ビーム系を使えるようにするのはあくまで私の夢ですけどね。実際戦力を上げるという点について今回のナイルアさんという存在は結構重要ですよ。ほら、誰もがエクストラヒールを覚えられたら、とは思いませんか?」
「あら、まだレベル1がやっとの段階で、最上位スキルレベルじゃないと覚えられないエクストラヒールを使えるなんてナールジアさんらしくないわね」
確かに、いまだにスキルレベルを一つ上げる方法もわかっていないのに、最上位レベルのエクストラヒールを使えるようになるエンチャントの話をするのはナールジアさんらしくないわね。
いつもなら、実現可能じゃないと……って。
「あのぅ、ナールジアさん。もしかして、開発目処って立ってるの?」
「まあ、やってみないとわかりませんけど、私たちよりも環境的に圧倒的に劣るナイルアさんがあれを作れたんです。そこを応用すれば、熟練度とか知識がない分威力は落ちるでしょうけど、十分エクストラヒールを使えるようにできる可能性はあると思ってますよ」
「え? それってすごくない?」
「うん。ものすごくすごいことだよ。で、その方法ってなんですか?」
「あー、そこはまだ秘密です。というか、頭の中には多分これだっていうのはあるんですけど、まだ紙にすら起こしてないんですよ。というか、先にここでセラリア女王陛下の許可をもらってからがいいかと思いまして」
そうね。ナールジアさんの言うように最上級でスキル付与ができる物ができれば今後ウィードの戦力はさらに高くなる。
でも、さすがに許可なしにそんなものを作るわけにもいかないわ。
「いいわ。まずはその計画書を出してください」
「はい。わかりました」
「よし、ナールジアさんの希望はこれでおわりね。じゃ、夫が来るまでに報告書について改めて話し合うわよ」
「「「はい」」」
とはいっても、ユキさんの報告書に問題なんてないし、引き続きランサー魔術学府を拠点に調査って所になると思う。
はぁー、私もついていきたいんだけどなー、仕事がねー。
意外とナイルア、ワズフィどちらも規格外の有能な人材でした。
そして動き出す兵器製造モンスター。
一体彼女が生み出すものとは?




