第1093堀:交換留学生
交換留学生
Side:カグラ
「……というわけで、交換留学の意味にはそういうことが含まれています」
ララさんが丁寧に説明してくれたおかげで、私たちに求められていることがはっきりと分かった。
なるほど、このランサー魔術学府は大陸間交流が始まってその存在意義が疑問視されているってことね。
だから新大陸の私たちがこの学府に呼ばれたのね。
「つまり、私たちがこの学府で過ごしたことで何かしらの成果を出して、この大陸には学府が必要だと各国に思わせると?」
「その通りだよ。カグラ」
「あれ? でも、そもそもこの学府を潰しちゃったら、ほかの国もみんな困るんじゃないってミコスちゃんは思うんだけど?」
そうなのよね。
ミコスが言うように、この大陸随一の魔力魔術を研究をしていて、育成も行っている場所だ。
そんな貴重な場所を潰すとか、正気を疑うレベルね。
「ミコスの言う通りなんだが、とにかくこの学府を潰したいと思う連中がけっこういるようだね」
やれやれという感じでため息交じりに言うポープリ学長。
どこでも敵対者っているのね。
ユキもぼやいてたけど、大陸が違ってもこういう争いってあるものなのね。
「まあ、おバカどもから見れば元々目の上のたん瘤だったうえに、よその大陸を見ちゃったら、結局何も力も成果を出さない場所でしかないモノね」
「はい。そういう風に見れば、確かに文句の一つ二つは言いたくなるでしょうが、それって先がないですね」
エノラのいうことはわかる。けど、馬鹿ってホント手に負えないわね。
ポープリ学長たちが何も成果を出してないとか、ありえないし。
それに、スタシアの言う通りこの学府を潰せばイフ大陸の魔術技術の発展は結局遅れるのは目に見えている。
ここの魔術が限られているのはこの大陸で魔力枯渇現象が進んでいるからで、学府が劣っているわけじゃない。何せポープリはあのコメットの弟子であり、ウィードとも交流がある優れた人なんだから。
そんな人がいる場所を無くすなんて、裏事情を知る私たちから見れば正気の沙汰じゃないわ。
「話はわかったけど……。ユキ、それで私たちは具体的に何をすればいいのかしら?」
「基本的には普通にこの学府のカリキュラムを受けてくれればいい。それで、まずは授業の感想とかだな」
「ああ、まずはそういうので頼むよ。そこで改善点があるなら普通に意見してくれていい。どのみち交換留学という意味合いもあるからね。お互いのいいところ悪いところを発見できるというのが大事なんだ」
ポープリ学長もユキと同意見で、私が通っていた魔術学院との違いもぜひ教えてほしいと言ってくる。
この程度のことだけで判断するのはどうかと思うけど、さすが、向上心もちゃんとある立派な人だわ。
……小さいけど。
「カグラとミコスの役割はそれでいいとしても、私やスタシアはここの授業を受けてもきっとついていけないわよ? 何せ私、ただの神官だし」
「私も魔術などおよそまともに使えない元将軍で姫でしたからね」
確かにまぁ、私とミコスは魔術学院の生徒だったから魔術を学ぶ交換留学生として意見は言えるだろうけれど、この2人はそもそも魔術を学んでいたわけではないですもんね。
2人とも教養はその立場からかなりのものがあるけど、魔術的知識は……あれっ、意外とあるかもしれない。
何せ、私たちの家族には、魔術知識が豊富な人がわんさかといる。
回復魔術はルルアさんにリリーシュ様、ヒフィー様。
攻撃系魔術に至ってはユキという規格外だけじゃなくナールジアさんたち妖精族、魔族のザーギス、魔剣使いのエージル、そして元ダンジョンマスターのコメットさんという、研究者としても全大陸を通してトップといっていい人材が集まっていて、その人たちから魔術のレクチャーを受けているんだから。
と、そんなことを考えているうちにユキがフォローをする。
「別に気にする必要はないぞ。一から学びなおすと思えばいい。俺たちが教えたこととの違いを学ぶって意味でもな。というか、俺やザーギスとかが専門知識をいきなりぶっこんでいったせいでわからないこともあるだろうから、ポープリたちにしっかり基礎を教えてもらうといい」
「なるほど。そういう考え方もあるのね」
「ふむ。この年になって一から学びなおすですか。そもそも意外と私は物覚えが悪いのですが……」
「そこは心配しなくていいさ。そういうことも含めてわかりやすく教えることができるのが良き先生というものだからね」
「はい。それこそ学び舎の神髄ですから」
確かに学校って人に教えるところだものね。
理解力の差はあれど誰もが平等にキチンと知識を得ることができるというのが学校の特徴であり、それが一番大事なことでもあるってご先祖様が言ってたわ。
「でも、私たちがここで勉強するのはいいとして、それだけでイフ大陸の馬鹿どもがおとなしくなるわけではないのでしょう? そこはポープリ学長はどう考えているのかしら?」
「確かに。私たちがここで学んで高評価を出せば確かに、国際的にはランサー魔術学府は必要とみなされるでしょう。ですが、その手の輩はその程度のことでおとなしくなるとは思えません。……私たちはあの狂信者たちと戦っているからわかります」
「確かにね。私もエノラ、スタシアと同意見ね」
「あははー。あの連中はねー。さすがにミコスちゃんもびっくりだったし……」
そう、コソコソとこういうねちっこいことをしてくる連中は、そう簡単にあきらめたりはしない。
まあ、さすがにあのアクエノキほどしぶといかといわれると違うだろうけど、油断はしちゃいけないと思うわ。
「私もこの程度ですべて丸く収まるとは思っていないよ。でも、時間を稼ぐには十分だ。なにせ、魔力研究の第一人者と認識されているウィードからやってきたユキ殿の新大陸の奥方たちが、この学院を必要といってくれるんだ。その発言力はかなり強いだろうさ」
「私たちの見込みでは、カグラ様たちの協力を仰ぐことによって、イフ大陸だけでなくロガリ大陸、そして新大陸の各大国もランサー魔術学府の存続に賛成してくれると思っています。それを押しのけてまで排除を訴えれば……」
「そりゃにらまれますね。下手をすれば今の立場すら失いかねない」
「そうなると、動けないよねー。そっか、その間に相手を調べてプチッとするのか」
「確かに有効ね。たとえ相手の正体を調べられなくても、稼いだ時間で結果をだして積み上げれば……」
「なお、ランサー魔術学府の排斥はないでしょう。……とはいえ、万一相手が狂的であれば暴走しそうではありますが」
「その時はなおやりやすいな。そうなりゃ各国とも犯罪者を抱えた集団の言うことを聞くとは思えない。何より、嫁さんたちに俺が手を出させないし、万が一にも被害なんか出させないからな」
あー、すごく納得。
そっか、それこそが私たちを呼んだ一番の理由なのね。
そして、ユキが守ってくれるっていうし安心ね。
まあ、私の体に触れようとするようなクズはサッサと燃やすけど。
「カグラたちには迷惑をかけるかもしれないけど、そういう連中がいたら少し挑発をしてほしい。襲ってくればこっちとしてもやりやすいからね」
「わかりました。なるべくそのように動きましょう」
「おっけー。で、ポープリ学長、ララ副学長。こっちもキャリー姫様に学府のことは調査するようにって言われているんですけど、許可はもらえますか?」
そういえばそうだった。ユキやポープリのお願いだけではないんだった。
何せ、魔術のことに関しての交換留学。
別大陸の魔術の学び舎の情報は、ハイデンにとっても今後の国の発展を考えると必須なのは間違いない。
その魔術の学び舎に出向くのにただ勉強してこいっていうのは、政治的にありえない。
お互いに情報を吸収して更なる技術を生み出し、発展につなげようとする。
キャリー姫様もそれは同じ。
『いいですか。魔力枯渇現象が著しい場所とはいえ、ユキ様やポープリ様のお話では魔術に対する研究心は目を見張るものがあるといっています。魔術の使用が難しいからこそ、見えてくるところもあるでしょう。そういう所を調べてちゃんと報告書を提出してください』
と、かなり真剣に迫ってきた。
でも、私たちはいまやウィードの臣下。
何よりユキの奥さん。
だから、ハイデンの方へはあまり忠義を見せると、スパイとして警戒されるって言ったんだけど……。
『何をバカなことを言っているのですか。ユキ様や他の奥様がたがその程度だと思っているのですか。なにより、カグラたちはハイデンとウィードのトップをつなげる立ち位置なのです。こういう情報のやり取りも許可をもらっています。だから、安心して情報を集めなさい』
あんな風に凄まれたら、いいえとは言えなかった。
はぁ~、幸せな結婚したはずなのに……いまだに胃の痛い中間管理職。
まあ、そりゃユキに頼めば突っぱねられるんだけど、そうなると姫様が怒るし、私としても協力はしてあげたいし、あー、なんだろう? 極端に言えばもっと休みが欲しいのかな?
うん。こんなこと聞かれたら姫様にもっと仕事渡される。絶対言わないでおこう。
そんなことを考えているうちに、学府の調査許可をねだったミコスに……。
「ああ、構わないよ。まあ、研究成果などは公開してもらうわけにはいかないから、そこは注意してくれ」
「ですね。ユキ様の奥様ということで、研究成果を見せることは可能ですが、そこを報告されてはイフ大陸の損失となりますから」
「大丈夫です。それは分かっていますとも。そんなことはしないですよ。ミコスちゃん的には学府の構造とか、環境、そして学生さんの意見を中心にまとめていきます」
ほっ、ちゃんとわかっているようで何よりだわ。
うっかりランサー魔術学府の研究成果を持ち出したりしたらそれこそ大陸間の大問題になるわ。
だけど、今後はそういうことにも気を配った方がいいわね。
まあ、元々その手の研究成果は厳重に管理と警備はしてあるでしょうけど、そこらへんもあとで話を聞いておく方がいいわね。
「うん。なら私から特にとやかくいうことはないかな。と、待ってくれ。ミコス、それならついでに頼まれてくれないか?」
「はいはい。なんでしょうか?」
「この魔術学府は各国から選りすぐりの魔術師を集めているところだ。だからその分、自分の力に自信満々の奴が多い。それで町の方で問題を起こす馬鹿もやはりいる」
「あー、その馬鹿の調査もってことですね」
あー、私の学院にもいたわね。
私に突っかかってきた馬鹿もいたし。
まあ、その程度ならいいんだけど、確かに町で悪さをするような奴もいる。
狂神とのつながりがあった前の校長はかなりそういうことを握りつぶしていたみたいで、今の校長は随分と苦労をしているみたい。
「その通り。我が学府の評判を貶めるような馬鹿は送り返すに限るからね。ということで、ミコスに限らず、カグラ、エノラ、スタシア。そういう不届き者の噂は集めてくれると助かる」
「わかりました」
「ええ。任せて」
「はい。お任せください」
なんか、学校に通うだけの簡単な話かと思っていたけれど、やっぱりやることは多いみたい。
まあ、でもユキのためなら頑張りましょう。
って、あれ? ユキはここで何をするのかしら?
ロマンだよね。交換留学生。
ドラマが始まる予感。
とはいえ、全員既婚者という不思議。
旦那は誰だろうねー? 増えたりしないことを祈るぜ!
うひゃひゃ!




