第1089堀:あの戦いの別の視点
あの戦いの別の視点
Side:ユキ
「よ。久しぶりだな」
「本当に久しぶりね。びっくりよ」
俺のあいさつの一言に、逆に驚きを込めた返事をしたのは、ルナという自称上級神に反旗をひるがえしていた?いや今でも反旗を翻しているセナルだ。
「落ち着いたらって言ってたからな」
「まあ、たしかにそう言ってたわね。でもさすがに、一か月近くも放置とは思わなかったわよ」
「いや、子供たちの世話のことを考えると短いだろう? で、どうなんだあの子供たちは?」
ここで言っている子供たちというのは文字通りの意味での子供ということではない、セナルが保護していた子供の姿をした神たちのことだ。
セナルの話の通りなら、あの神たちは中身も見た目そのままの子供らしいので、色々と大変だろうというのは想像に難くない。
なにせ、当人たちは子供のまま神様にされたかと思ったら、結局魔力枯渇現象で消滅しそうになったので少しでも耐えられるようにと眠らさせられていて、目が覚めたら周りがすっかり変わっていたという、浦島太郎のような状況だ。
そんなの子供の精神状態で受け入れらるのか? いや、逆に子供だから受け入れやすいのか?
もしかすると、大人の方が危ういのかもしれない。
ま、そういうことで精神安定のためにセナルにはついてもらっていたわけだ。
もちろん治療という意味ではプロフェッショナルであるルルアやリリーシュに対応をお願いしていたが、たった一か月だ。
肉体的な方はいざ知らず、そんな短期間で心のケアまでできるなら、地球でもカウンセリングなんて必要ないだろう。
「そうね。幸い落ち着いているわ。ハイレンやアスリンたちとも打ち解けているし、そういう意味でも安心しているわ」
「そうか。ハイレンとアスリンたちがなー」
アスリンたちは納得なんだが、あのハイレンはなー。あれは流石に女神とは認めたくないのだが、今までの働きを見る限りでは、こと本能的に正しいことを選び取るという一点においてだけ極めて優秀といわざるを得ないだろう。
とはいえ、いくら釘を刺そうが何しようが、予定を無視して動くので非常に使いづらいが。
はぁ、とにかく今後一切、ハイレンを作戦に組み込むはなしだな。
などと、駄目神ズの中でも問題児のことを考えていると、セナルは穏やかな顔で……。
「本当に平和ね。この国は」
「どうしたいきなり?」
「ここ一か月、ウィードのことはつぶさに見てきたわ。なんといっても色々な国の人々が出入りしているのに、互いに奪い合うこともなく穏やかにすごしているわ。それに、商業区なんか活気があふれて目を回しそうになるぐらい。あなたはこういう世界を目指しているのね」
「ああ、殺し合うのは苦手だからな。誰だってそうだと思うが?」
「確かにそうね。でも他人から奪おうとせずに、会話だけで済ませるのはとても難しいことだわ。それは私を取り押さえることになったあなたが一番良く知っているでしょう?」
「そりゃな。いきなりズラブル大帝国とハイーン皇国の戦いに巻き込まれたんだからな」
そう、あくまでシーサイフォの要請で使節団の安否を確認するだけだった筈なのに、そのために訪れたオーレリア港は敵に侵攻をされる寸前、状況を把握する前に対処する羽目になったしな。
で、その地を治めるグスド王国は滅亡しているしで、ほんと大変だったわ。
「この国の、いえあなたの技術と力があれば世界を制するなんて簡単でしょうに。なぜそれをしないのかしら?」
「簡単じゃないからな」
「えっ、どういうことかしら?」
「なんだ、ルルアから聞いていないのか? ウィードの方針は?」
「そういう話はしないわよ。彼女はあくまで治療術師でしょう? そういうことはあなたから聞くべきだと思ったのよ」
なるほど。確かに医者に今後の国の行く末なんか聞いたりはしないか。
さて、なぜ『世界征服』をしないかだったな。
「世界を制しても何もいいことはないからな。そもそもやる意味がない」
「なぜ? 世界を制すれば、魔力枯渇現象の調査もはかどるんじゃないかしら?」
「おい、本当にそう思っているのか?」
俺はあまりのアレな発言をするセナルに思わずそう聞き返す。
今の発言が本気なら、今後は一切協力を仰ぐのはやめて、学校の先生でもしてもらっていた方がセナル自身のためにもなるだろう。
などと考え直していると、セナルは苦笑いをしながら。
「いえ、そんな世の中単純じゃないわよね」
「そうだな。というか、わざわざ世界を征服する方が今よりはるかに時間がかかる」
「そうね。私はそれを身をもって知っているわ。まあ、私の方はあくまで自分と仲間の生存のためだったけど」
「そうだな。生きるだけでも大変だからな。だからこそ、俺はわざわざ敵は作らないようにしている」
そうでもしないと四方八方敵だらけで身動きが取れなくなるからな。
そんな面倒は勘弁です。
当初から変わらない俺の方針だ。初志貫徹。いやぁ、素晴らしいね。
「で、雑談はいいとして、話はできるか? 見たところ余裕はありそうだが?」
「ええ。私はいいわよ。でもそっちはずいぶん忙しいみたいね」
「そりゃ、国を運営しているんだ。楽な方がへんだよ」
為政者に仕事がない国なんて経済が動いていない証拠だからな。
「確かにそうね。私もセラフィーナ教会の時は大変だったわ」
「そういえば、なんでセナルはただのシスターだったんだ? 大司教にでもなっていればそれこそ自由にできただろうに?」
そこは聞いておきたいことだ。
自分自身の宗教団体をもっていながらそこのトップに立っていないというのはなかなか不自然だ。
リリーシュを祀っているリテア聖国は、あくまで娘のリテアが立ち上げた国で、しかもリリーシュ自身は純粋に権力なんかには興味なしだったという、まあ、ちょっと珍しいパターンだ。
セナルはどちらかというと、ヒフィーに近い。
とはいえ、国までは作ってなかったが、それでも大司教であれば戦力は動かし放題、指示ももっと出せただろう。あえてそれをしなかった理由はなんだ?
「あれは別に私の思惑があったわけじゃないのよ。ただ純粋に、力が落ちてきてセラフィーナ教会でトップにい続けることができなくなったの」
「そっちの問題か」
「ええ。だから、私に出来る範囲で細々と魔力を集めつつ、人の欲を刺激していくしかなかったのよ。真っ向から魔力が回収できるならあんなまどろっこしいことはしてないわよ」
「確かにな」
神様たるものが自分の手で世界を変えようとした割には、やり方がどうも小さかったからな。
元々の保有する力が少なかったから、そういう絡め手に行くしかなかったということか。
「残念だったかしら? こんなつまらない理由で」
「いや、十分納得した。セナル自身もギリギリだったってわけだな」
「ええ。さっきも言ったけどもし余裕があったらあんな方法取らなかったわよ。そしてその結果ここにいる」
「でも、ダンジョンの魔力を奪ってとか言ってなかったか? あと、俺と同じダンジョンマスターも殺したとか」
「がんばってやってたわよ。ダンジョンはコアに魔力を集めて貯められる便利な場所だから。だから、奥まで攻め入ってダンジョンマスターを殺してコアを奪ったわ。で、そのあとは適度に魔力が溜まったら回収してを繰り返していたんだけど、最近ダンジョンが攻略されたのか集まる魔力量が減っていたのよね」
「ああ、それは俺たちが制圧していたからな」
敵の収入、物資の経路を潰すのは戦略としては当然のことだしな。
どうやら、あの行動もセナルの動きを阻害する程度の働きはあったようだ。
「やっぱりか。おかげであの子たちに与えるための魔力も回収できなくなって、結局ズラブル大帝国とハイーン皇国の決戦を利用するしかなくなったのよね。本来であれば、ハイーン皇国をセラフィーナ教会で飲み込んでから動くつもりだったのに、予定変更を余儀なくされたわ」
「そっか。あの作戦は意味があったんだな。何にも反応がなくて、やってたこっちとしては微妙だったんだよ。というか、逆に奪い返すとか思わなかったのか?」
「そんな余裕はなかったわよ。なにせ全部子供たちの生命維持に回してたんだから」
「なんだ、本当にギリギリだったのかよ。もっと余裕を持てよ」
「その余裕を奪った貴方が言うセリフかしら?」
「いや、俺が言っているのは、誰かに奪われても大丈夫なように事前にリソースぐらい蓄えるなり残すなりしておけって話だ」
そう、ちょっとしたトラブルで現状が失われるというのは、ままあることだ。
だからこそ、備えとして貯蓄したりするわけだ。
この話もそうだ。確かに、俺たちがそのダンジョンを潰して回ったのだが、そもそも何かあっても奪還もできないような経費回しにするのはどうかという話だ。
「言いたいことはよく分かるけど、私はダンジョンを譲り受けたわけじゃないわ。あくまでコアだけを奪っただけ。だから何もかもできるわけじゃない。それに何より、下手に触るわけにはいかなかったのよ。だってルナ様にばれるでしょう?」
「あ、そっか」
なるほど、ダンジョンの機能を使わなかったのはそこか。
下手に使えばルナに探知される可能性があるっていうのはその通りだ。
「だから、シーサイフォ王国から魔物召喚専用に調整されたコアが宝玉として流れてきた時はホントにありがたかったわ。で、それを使って戦力を整えようと思ってた矢先にズラブル大帝国がいきなり勢いを増してきた。まあ当然よね。私がコアを使って戦力を整えるのなら、ズラブル大帝国だって同じことをしてくる。でも、それはハイーン皇国の戦力を削るのにちょうどいいとも思っていたわ」
「ああ、それで得をしようとして構えてたら最悪になったと」
「……そうよ。まさかダンジョンがああもあっさりと攻略されて、私の使えるDPがあそこまで制限されることになるとは思わなかったわ」
いやぁ、株で失敗したような話だな。
高くなると踏んでたら、ただの紙屑になってしまったというやつだ。
しかし、互いがお互い気が付かないうちに嫌な行動をとりあっていたってことか。
俺たちの方も、何の反撃も、それどころか動き一つなくて、情報が全く得られなくてそのせいで動けなかったからなー。
「いや、参考になった。で、あと聞きたいことは、ダンジョンマスターは全員殺したのか?」
「全員っていうのは何人かしら? 私が知りうる限りは殺してきたけど、生き残りがいても別に不思議じゃないわ。ダンジョンすべてを攻略したわけでもないから」
「それそれ、俺はそれを聞きたかったんだ」
ということで、さっそく俺はズラブル大帝国とハイーン皇国の地図を広げて見せる。
「……これは、あの地の地図で間違いないかしら?」
「ああ、ダンジョンを使えばこういう地図も簡単にできるからな」
「本当にでたらめね。こういう使い方を考えつくだけでも異常よ」
「いや、地理を押さえるのは戦いの基本だろう。と、そこはいい。セナルが掌握していたものと、それ以外で知っているダンジョンを教えてくれないか? それがわかれば生き残りがいるかどうかの判断ができる」
「そういうことね。いいわ。協力してあげる。何せ残っているダンジョンマスターがいれば、セラフィーナ教会の人たちも危険かもしれないんだから」
そう、これですべてのダンジョンを把握することであの大陸の不確定要素を減らすことができるだろう。
さて、生き残りがいるものかね?
セナルの方は意外とキツキツで動いていたようです。
まあ、敵側から見ればユキたちの存在は厄介極まりないですからね。
あの方法はベストではないのかもしれませんが、ベターではあったようです。
別の視点で物事を見るというのはとても大事です。
そして、残っているダンジョンには何が潜むのか。




