第1086堀:とりあえず本人に聞こう
とりあえず本人に聞こう
Side:シェーラ
「……なるほど。確かにそれは難しい問題ですね」
ユキさんから、ショーウさんが示した懸念のことを聞いて、私も悩んでしまいました。
確かに、たとえ他国の要請で行うとしても、他国の国内のことを勝手に処理をしてしまってはまずいことは沢山あります。
今回の村々の渇水への対処とかがそうです。
あくまで、『ダファイオ王国の名のもとに』ウィードが救援に来たというのが大事で、ウィードが独自にとか勝手に村々を助けたとなってはだめなんです。
それでは村々にとってはダファイオ王国が存在する意味がなくなるからです。
それでは後々統治の問題となるのがわかっていたからこそ、私たちもダファイオ王国をたてて対処に当たったわけですが……。
今回のドラゴンのコーラルさんの件は……。
う~ん、どうしたらいいんでしょうと悩んでいたら、ラビリスがあっさり
「それほど悩む必要なんかないでしょう。ドラゴンがいたのは事実。そのことを堂々と公表すればいいわ。ただその前にダファイオとロシュールに話を通しておけばいいだけよ」
「確かにそうね。ばれた時のデメリットをどうこうするなら、こちらから先に公表するのが大事よね」
「ドレッサ。そうは言いますけど……、勝手に対処してしまったことになりますから、周りの反応が心配です」
「お姉の言う通り。お兄は一度隠しちゃったんだよ。それをあとで言うのは色々問題にならない?」
そうなのです。ヒイロの言う通りです。
これが最初からフィオラ姫に言っていたなら何の問題もないのですが、大陸間交流の遅延を懸念して黙ってドラゴンを処理してしまいました。
「でも、お兄ちゃんってただ『魔物』を退治しただけだよね?」
「そーなのです。魔物退治はどこでやっても問題ないのです。水源調査で出くわしたドラゴンという魔物を退治しただけなのです」
「2人の言う通りよ。私たちは頼まれた水源調査をしていたらドラゴンという魔物が出てきたから倒した。それでいいと思うけど? というより、そもそもドラゴンって自然災害レベルの魔物よね? その処遇でもめる方が色々馬鹿よ」
「むう……、確かにそうなんですが、文句を言うところは文句を言うかと……」
そう、アスリンやフィーリアの言う通り、相手の国から頼まれていた仕事をする中で単に魔物を退治しただけと押し通せなくもない。
そもそもドレッサが言うように元々ドラゴンは災害ともいわれる魔物です。その処遇に口を出すのは愚か者のするとこなのですが……。
「それでもないものは欲しくなるのが人だからな。ショーウの言っていたことはあながち間違ってはいないな」
「……はい。すでに『友好的なドラゴン』としてガウルさんたちが紹介されていますから、その場にいればドラゴンが自分たちの味方になってくれたかもしれないのにという人はきっと出てくるでしょう」
「それで今後小国が協力を渋る可能性があるというわけですね。うーん、とはいえ、それってそもそもドラゴンがいたことがバレればですよね?」
「そうだ、ばれなければいい! コーラルにお話しする!」
はい。ヒイロの言う通りそもそもばれなければ問題はありません。
ですが、そもそも『ばれた時の問題』を検討しているので、今の話し合いの目的からはずれています。
と、思ったのですが……。
「ああ、そうだったな。ヒイロの案採用」
「やったー!」
「え? ユキさん。どういうことでしょうか?」
「別に難しい話じゃない。ヒイロの言うように当の本人を抜きに話をするわけにはいかないってだけのことさ」
「コーラルさんとお話を?」
「ああ。本人がドラゴンであることを話していいというのなら話す。黙っててほしいというのであれば黙る。確かに国の秘めゴトとはいえ、その点はコーラルには関係のないことだからな。俺たちがどう考え、どう画策しようが、そもそもコーラルが同意しなければ絵に描いた餅、空手形でしかない」
「確かにそうですね」
私たちがどうすると勝手に決めても、コーラルさん自身がこちらの意思に従って動かない限り、隠蔽しようとしても、公表しようとしても何れもうまくはいかないでしょう。
ということで、私たちは早速コーラルさんの所へと行くことになったのですが……。
「ユキ、なんで商業区の方に行くの? 私たちはコーラルに会いに行くのよね?」
ラビリスがみんなの疑問を代表して尋ねてくれました。
そう、私たちは今、なぜかコーラルが泊っているはずの霧華の宿ではなく、ウィードの観光地としても有名な繁華街。商業区に向かっているからです。
「ああ、今コーラルは商業区にいるってミヤビ女王から連絡をもらった」
「なんでもう、商業区なんかにいるのよ。コーラルってドラゴンよね? いくらドラゴンとはいえ、最低限の常識ってのがわかってないの? 商業区でドラゴンにでもなったら被害甚大よ?」
ドレッサの言う通りです、あの温厚で思慮深く、ウィードにも馴染んでいるガウルさんならともかく、まだ来たばかりで慣れていないコーラルさんが商業区なんかにいるのでしょうか?
下手をすれば隠す隠さないとか、どこかの小国の山奥にドラゴンが出たどころの話ではなくなってきます。
対策を打つ前にばれる可能性が……。
「そりゃ、ちゃんとお目付け役が付いてるし、変化防止のアクセサリーも付けているからさ」
「そんな道具初耳ね」
「丁度ザーギスの方に頼んでいたやつができたんだ。ガウルさんはともかく、ほかの竜人は若いからな。ガウルさんからもなにかと心配していて頼まれてたんだ」
確かに竜人の里の人たちにも同じ心配がありましたね。
それについてはあまり気にしていなかったのは、きっとユキさんが何らかの対処をしてくれているだろうと思っていたからです。
しかし、ザーギスさんも大変ですね。魔力枯渇現象の調査の合間にユキさんに頼まれたとはいえ、そんな道具まで作っているんですから。
ダファイオ王国へ納品した水を供給する装置も、エージルさんやコメットさんが主導でしたが、やっぱりザーギスさんが補佐として手伝ってくれていました。
こういったら嫌がられるかもしれませんが、縁の下の力持ちさんなんです。
「まあ、俺としてもこんなすぐにできるとは思っていなかったんだが、いやぁうちの技術部って性能高いよな」
「なんでそこでユキが驚いているのよ。私からすれば地球の技術の方がよっぽどびっくりなんだけど?」
ドレッサの言う通りですね。
私たちからすれば今でも『地球の技術』は驚きのモノばかりです。
あれに比べるのはどうかと思いますが、ウィードが誇る天才たちとはいっても結局は地球の技術の後追いをしているだけです。
なのに、その現状にユキさんは驚いているようです。
「いやいや、今回の変化防止のアクセサリーって地球の技術体系からは離れた、ほとんど情報がないことだからな。ザーギスたちが一から理論を組み立てて、作り上げたものだからな。普通そういう全く新しい技術の開発って数年から十数年単位のことだぞ?」
「えー、そうなの? お姉?」
「えーと、私はそういうことはよくわかりません。アスリン、フィーリアわかりますか?」
「「ううん。わからない」」
と、アスリンとフィーリアも即座に首を横に振ります。
まぁ、仕方がないですよね。
何せユキさんのそばでずっとこのウィードがドンドン発展してきたのを見て来ているのですから。技術開発なんてそれこそ毎日のようにされているものと感じているでしょう。
「そうね。技術の進歩って普通だったらものすごく時間がかかるものよ。だからこそ、ナールジアさんやエージル、コメットたちがあんなに夢中になるの」
「はい。ラビリスの言う通りです。ですがユキさんのお話を聞く限り、今回の変化防止のアクセサリーの開発はザーギスさんが本当に頑張った結果ということですね」
「……しれっと、頑張った結果って言ってるけど。冷静に考えれば『技能を封じる』アクセサリーってことよね。それってとんでもなくものすごいんじゃないかしら?」
「ああ、本人曰く、ダンジョンの魔力無効化空間という機能を取り入れたとは言ってたが、その現象をアクセサリーから発生させるようにしたっていうことだけでも驚きだよ。まあ、言うは易く行うは難しを簡単にやって見せたパターンだな。と、そんなこと話しているうちに見えてきたな」
ユキさんが言うので、行く手を一生懸命探してみますが、コーラルさんの姿はありません。
「あのぉユキさん。コーラルさんはどちらに? ミヤビ女王もいるのですよね?」
「そうね。コーラルは変装している可能性もあるでしょうけど、ミヤビ女王は変装はしないはずだから目立つはずよね?」
「ミヤビ女王はどこにいても堂々としているものね。まあ、国の名があまり有名でないだけじゃなく、そもそもハイエルフだっていうのがあるでしょうけど」
そうなんです。ミヤビ女王はハイエルフの国のため大陸間交流に参加することになったのですが、物珍しいエルフの国ということで色々問題が出ています。
その一番が誘拐とかですね。元々エルフという種族は珍しくて、数は多くありません。
で、ウィードにはその珍しいエルフたちが訪れるということで、奴隷商人や一攫千金を狙う犯罪者たちが狙うという事件も多くなりました。
とはいえ、警備は万全なので未遂ばかりで、成功したことは一度たりとありません。
何より、ミヤビ女王が山のような護衛も付けずにこうしてウィードをのんびり歩くことでその安全性を各国に広めると同時に……。
「この無礼者が! 我が同胞に何をするか!」
ズドーン!
そんなドスの効いた声と一緒に、轟音が響きます。
そうそう。このようにミヤビ女王自身が実力を見せつけることで、報復は容赦しないということを各国に伝えているのです。
これでエルフの扱いが少しでも良くなればという思いもあります。
って、違いますね。
「あ、いたわね」
「いましたね」
「うん。あの声はミヤビお姉ちゃんの声だよ」
はい。私にも間違いなくミヤビ女王の声だとわかります。
ですが……。
「ちょっと待つのです。あの方向って……」
「あれ、そういえばあそこってアルフィンお姉の……」
そう。あそこには聖剣使いであるアルフィンさんのお店があるはずです。
何かトラブルでしょうか?
即座に駆け出した私たちは、すぐにその現場にたどり着いたのですが……。
「全く。かように店員にしつこく迫るな。マナー違反じゃ」
「そうですな。見目麗しい女性がいるということで、その気持ちはわからないでもないですが。今のはだめですな」
そう言いながらアルフィンさんのお店の前に仁王立ちしているミヤビ女王とガウルさん。
話をパッと聞いた感じでは、お店の人にいま外に放り出された人がだれか店員に無理やり迫ったようですね。
まあ、こういうトラブルはウィードでは日常茶飯事であるものです。
「いてて……。なんでエルフと爺さんがこんなところに……」
「「ケーキを食べに来て何が悪い!」」
「あ、はい。すみませんでした」
……そうですね。直球でそんなことを言われればそういうしかありませんよね。
「えーと、とりあえず霧華?」
「はっ。あの馬鹿者は放っておいていいでしょう。丁度お二人に説教されていますし」
「そうだな。あんなのまでしょっ引いてたらキリがないか。さて、おーい。ミヤビ女王、ガウルさん」
ユキさんはとりあえずあの二人に話しかけることにしたようです。
この場面で私には何を言っていいのかわかりませんし、まあそうするしかないですね。
でも、なんでコーラルさんの姿だけは見あたらないのでしょうか?
と、首をかしげていると……。
「まったく、2人とも大げさじゃ。たかが私の尻に手を伸ばしたぐらいであろう? そのていどで騒ぎを起こしてはアルフィンに迷惑がかかる」
……あれ? ここのウェイトレスで見た記憶がない黒髪が綺麗な女性の方がアルフィンさんのお店から出てきました。
うーん、その顔はどう見てもコーラルさんのような気が……。
どういうことでしょうか?
色々考えても本人を交えないとお話になりません。
ということで本人に話を聞きにいったのが、地獄の一丁目。
さあ、君は砂糖を過剰摂取せずに出てこれるのか!!




