第1085堀:報告と対処
報告と対処
Side:ユキ
「……そうですか。彼らは」
「はい、残念ながら、魔物に襲われて。残されていたのはこれだけですね」
俺は沈鬱な面持ちでそう言いながらウィード調査隊が集めてきた、ダファイオ王国が送り出した調査隊の遺品をフィオラ姫に渡した。
もちろん、正確にいえばドラゴンに丸焼きにされたんだが、魔物であることに違いないので嘘は言っていない。
結局、コーラルはウィードでガウルさんやミヤビ女王と一緒に食っちゃ寝生活を満喫している。
やわらかベッドがいたくお気に入りのようで、あっさり前言を撤回し、もうドラゴンの姿にはならないといっているらしい。
結局のところ生き物というのは居心地の良い環境に流されるものらしい。
とにかく、戦闘になるよりははるかにマシだ。
経費自体も全然問題はない。
とはいえ、その事実だけは目の前のフィオラ姫に話すわけにもいかない。
なにせ、『ドラゴンが出現した』とうっかり伝えようものなら、とんでもない大騒ぎになりかねないからなー。
ということで、その件はウィードで秘密裏に処理するしかなく、結局今回の水不足の原因は……。
「そして、原因は明らかに出来なかったのですが、河川をさかのぼったところ記録にない分岐ができていて、水が坑道に流れ込み、奥にそれなりの大きさの池ができていました。それが今回の水不足の原因かと」
「そこを封鎖できれば水は戻るのでしょうか?」
「絶対とは言えませんが可能性は高いと考えています。調査隊を増員して工事に取り掛からせてもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「はい。お願いいたします。ただ、そのような工事まで全てお任せするのは流石に申し訳ないので、よければこちらの兵も連れて行ってもらいたいのですが……」
「何も障害がなければ否はないのですが、あの鉱山に出没する魔物はレベルが高い。ダファイオ王国の調査隊はいずれも全滅をしています。なので……」
そう、ダファイオ王国の兵士たちを工事現場まで連れていくってだけでも一苦労になる。
まあ、すでにダンジョン化しているから、魔物を掌握して遭遇しないようにすることもできなくはないが、それはそれで調査隊が全滅したことに疑問を持たれる。
うーん、ウィード調査隊があの鉱山の魔物を全滅させたことにするか?
いや、それこそ怪しいな。単に水不足の調査に行った筈の連中が、なんで付近の魔物を全滅させるまでのことをしているんだよって話になる。
そうなると、余計な手間にはならない程度に魔物が襲ってくる演出をしなくちゃいけなくなるんだが……。
「それは分かりますが、治水工事ともなれば人手が多いことに越したことはないでしょう。それに、ダファイオとしてのメンツもありますので。では、ウィードの方々には護衛に専念していただき、工事は我々がというのはいかがでしょうか?」
「なるほど」
人手の多さなんてダンジョン化している中では全く無意味なんだが、とはいえ、ダンジョン化していることはそれこそドラゴンがいたこと以上の秘密だ。
というか、ダンジョン化していなくてもその程度の土木工事は魔術が得意な嫁さんや俺が主導で行えば簡単にできてしまうのだが、ダファイオ王国のメンツといわれるとな……。
元からウィードに頼りきりじゃねえかと押し切りたいところだが、今後ダファイオ王国を起点に小国群の印象もよくしておきたいんだよな。
そもそものドラゴンの件だって、隠すのは全体のためとはいえ、ダファイオには黙ってやっちまったしな……。
ここは承諾するか。
どうせエージルの研究もしばらくは時間がいることだし、その時間を稼ぐって意味もあるか。
「わかりました。ですが、ダファイオ王国の兵を護衛するにしても、ある程度魔物を間引きをしてからになります。さすがに奇襲を受けることは避けたいですから」
「はい。よろしくお願いいたします」
「では、工事の日程は改めてお伝えします。まだどれだけ資材がいるかなどは分かっていませんので。それと、そのための資材をお願いすることは可能でしょうか?」
「もちろんお任せください。水は一時的とはいえ、十分に確保していただけたので、時間も十分にあります」
そう、資材を集め工事をするのはそんなに急がなくていいのだ。
水はこちらが確保したからな。
だからその時間ゆっくりと調査ができるわけだ。
ということで、エージルやコメットを筆頭にこの鉱山の情報をくまなく集める。
そもそもコーラルというドラゴンが来る前から、この鉱山に高レベルの魔物が出没するようになった原因は何なのか?
それと、鉱物はどんなものがあるのか?
なにより、魔力枯渇現象について何らかの情報は得られるのか。
まあ、ダファイオ王国に請われて水不足って重大問題の解決をはかったんだから、多少なりと調査に協力はしてくれるだろうが、流石にダンジョンを展開して情報頂戴なんてのは言えない。
それって、自国の土地を他国に明け渡せっていうのと同じだからな。
それに、たとえ一時的なことで、ダンジョンは撤去して返すといっても、それって財布の中身、個人情報を全部見られたようなもの。
どこも内心納得はしないだろう。
ウィードがそんなことを望んでいるなんて思われたら、小国群はこちらの希望する調査をしてくれないだろう。
そういった観点からも、『要求』をするにはするが、各国に不満や影響がない程度のモノにしなくてはいけないわけだ。
とはいえ、その『適度な要求』っていうのも面倒なんだが……。
さて、そんな悩みは後でみんなで考えるとして、フィオラ姫に聞いておかなければいけないことがある。
「その水の件ですが。どうですか? 調子は?」
「はい。今の所、設置した全部で問題なく動いていると報告が届いています」
「そうですか、それはよかった。ですが、いつ壊れるかはわからないものですから、報告は密にお願いします。なにせ水のことですからね。少しでも何かあれば村の人たちが不安に駆られるでしょう」
「はい。ご忠告ありがとうございます。こちらも厳重に注意せよとは言っていますが、より報告を密にするように伝えておきます」
「お願いします。またそれに伴い、不具合が起きた際の連絡方法について詳しくお話しましょう」
「え? どういうことでしょうか? 何かあったら逐一ウィードの方へご連絡をすればいいのでは?」
……うーん、今後のことをしっかり考えてるかどうかの質問だったが、そこまで考えてなかったな。
アーリア義姉さんぐらいと践んでいたが、そこは買い被りだったか?
いや、この問題解決したいと話に来た時はあとあとのこともしっかり考えていたんだが……。
まてまて、そういやぁその前に噴水用のコアに手のばしてたな。
となると、まだまだ成長段階って所か。
うん、そうだ。まだフィオラ姫はあくまで『姫』。王位を継承したわけじゃないし、王位継承を前提とした訓練をしているわけでもないらしい。
今回のことも、あくまで上からの指示でウィードを訪れたに過ぎない。まあ、上っていうと王様で今後のダファイオを心配して送り出したんだから、そこら辺を汲み取らないといけないわけだが。
うん、とりあえず、細かく説明しておこう。
「ウィードに来てご説明いただいた時と変わりがありませんよ。あの時は水の供給ではなく、大本の解決を求めたように、今の話もただ報告するのではなく、どの段階でどう対処するのかを決めるのです」
「ああ、なるほど。確かにこちらで勝手に想像してしまっているところはあると思います」
「ええそうでしょう。そしてそれはこちらも同じです。勝手にそちらで対応可能だと思い込んでいることもあるでしょう」
そういう所の認識をすり合わせして、対応マニュアルを考えなければ現場が混乱するのだ。
ということで、しっかりと故障の程度を決めてダファイオで修理か、ウィードに連絡が必要なのか、修理の物資はどこに備蓄しておくのか、とまあ細かいところまで決めておいた。
だが、当然想定外のことは起こるもの。そういう時は悩まずにこちらに連絡をするということで話が付いた。
あとで正式に書類にまとめて、マニュアルを作ることになる。
はぁ、世の中『ただ助けた』ってだけでは終われないのがつらいところだな。
とはいえ、ドラゴンを隠してるんだから仕方がないとも思う。
何より、あの水の装置のことは常に監視モニターでデータを取っているので、実際には何が問題で故障したかは簡単に記録できるようにしているから、これってウィード単体であればあまり意味のない対応なんだよな。
だがあくまでここはよその国。きちんと顔を立てないといけないわけだ。
さっきも工事の件で面子を立てる必要がありと思ったが、この水の供給、整備に関してもいろいろ気を遣わないといけないのは面倒だな。
いや、こう考えるべきか。
解決しているだけましだと。
普通は水不足の解消やドラゴン退治なんてできっこないんだから、それを解決する能力があることを喜んだ方が建設的だな。
「……長くなりましたが、調査報告と水源の状況確認は終わりです」
「ありがとうございます。これで父上に、国にいい報告ができそうです」
「まだ、解決したというわけではないので、そこは注意してください」
そう、喜んでいるところ悪いが、まだ解決したってわけではない。
あのコーラルが作ったため池の支流を封鎖しただけで、本当に川の水量が戻ると決まったわけではないのだ。
そこを勘違いしてもらっては困る。
うかつな報告をされると、あとでちっとも解決してないじゃないかと怒る連中もいるからな。
「はい。そこは重々理解しています。では、工事現場の安全が確保されるまでに多少なりと時間があるかと思いますので、その間に私は調査隊の遺品をもって一度王都に戻ろうかと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。では、物資の方の連絡はどうしましょうか?」
「そちらは、私が戻っているなら私に。戻っていなければ副官の方にお願いいたします」
ということで、フィオラ姫は会議室から出ていき、王都に戻るための準備を始める。
「ふぅ。何とか乗り切ったな。で、ショーウ殿。ここまでの対応はどう評価する?」
俺は横でずっと話を聞いていたショーウに尋ねてみる。
ズラブル大帝国が誇る大皇望の意見を聞いてみたかった。
「うーん。正直評価しづらいですね」
「評価できないか」
「はい。表向きには確かにダファイオ王国の問題を解決できているといっていいのですが、隠している内容がある意味爆弾です。ドラゴンのことをダファイオに黙っているという点が微妙なところですね」
「素直に言うと面倒が多そうだけどな」
「はい。それもわかります。ですが、ダファイオ王国にいたドラゴンをウィードが隠して連れ去ったということがばれた場合、それはそれで問題になるでしょう。そのままであれば襲われて被害を被ることになっていたかもというリスクの想像は、妬む者たちはしませんので」
「ああー、そっちか。確かに傍から見れば勝手にドラゴンを勧誘して仲間に引き入れたとも取れるわけだ」
「その通りです。ダファイオの許可なくドラゴンという戦力を引き抜いたとも見れます。まあ、ドラゴンなんて代物は御せるどころか普通の国であれば追い返すだけでもそれはそれは大変なはずですが、すでに竜の里と交流があり、さらに別でドラゴンも引き入れたとなると……。コーラルの存在がばれた時は……」
「小国の感情悪化は避けられないか」
「はい。その対処はきちんと考えておくべきでしょう。あとダファイオにも機を見て真実を伝えるべきかと。そうしておかないとばれた時にさらにこじれます。たとえ事後承諾であったとしても、少なくともダファイオ王国には話を通していたとあれば、トラブルはある程度抑えられるはずです」
「……確かにな。ショーウ殿、貴重な意見感謝する」
「いえ。きちんとした献策には至らず、あくまで参考程度の意見しか出せなくて申し訳ございません」
そう頭を下げるショーウだが、うん流石大皇望と呼ばれるだけあるなと思う。
嫁さんたちもみな感心している。
さて、コーラルと一度しっかり話しといた方がいいな、こりゃ。
ドラゴンはただ倒せばいいというわけではありません。
どこかのヒーローが勝手に倒すのは英雄譚ですが、それはそれで勢力図が塗り替わるので色々面倒です。
RPGの上に立つ人はこんな感じだと思ってください。




