第1081堀:合流と出発
合流と出発
Side:ユキ
「きたぞ。ユキ殿」
「どうも、ユキ殿」
そう言いながら、俺たちの前に現れたハイエルフの国の女王であるミヤビ。
そして竜人の里の長であるガウルさん。
アスリンたちに頼んでもらったんだが、快く引き受けてくれた。
下手をすればそのドラゴンは関係ないといって、来てくれない可能性もあったからな。
とにかく、ここに来てくれたということは協力してくれるということなので、さっさと話を進めるに限る。
「説明は要りますか?」
「そうじゃな。アスリンたちから受け取った情報と差異があるなら聞いておこう」
「ですね。今の所監視だけに留めていると聞いていますが、その後何か発見はありましたか?」
「残念ながら、新しい情報はありませんでした。いえ、あえていえば、監視しているドラゴンはこちらのドローンや使い魔には全く気が付いていないようなので、意外とぐっすり寝ている可能性がありますね」
「うむ、ドラゴンは一度眠りコケると起きるのに時間がかかるからのう」
「ええ。最低3日とか一週間。長いと年単位で寝ますからね」
うん。この情報だけでもありがたい。
どこかのドラゴン討伐物語みたいにドラゴンってやっぱ寝るのね。
それなら酒飲ませて首切った方が早いような気がしてきた。
いや、そんなことをするくらいなら何のためにガウルさんを呼んだのかわからないな。
「とりあえず、私たちとしては力による排除は最終手段として、話し合いで済むならそれに越したことはないのです」
そう、殺すだけなら簡単だ。
スティーブにさっくり殺ってもらうだけだからな。
とはいえ、ガウルさんの知り合いだったらかなりの問題だし、ほかの里のドラゴンの場合であっても色々トラブルの予感しかしないので、実力行使は本当に最後の手段だ。
「ま、それが最善じゃな。で、ガウルはいつ、そのドラゴンとの話し合いに赴けばよい?」
「お疲れでなければ、明日の朝にでも」
「わかりました。それで大丈夫です」
と、ガウルさんに快諾をいただいたので、その日はスティーブにガウルさんへの調査ルートの説明を任せ、俺はフィオラ姫と一緒に水の装置が無事に設置できているかの確認をしてすごした。
幸い今の所、水の供給装置にトラブルはない。
だが、エージルが危惧したように供給できる絶対量が足りないので、水が溜まるまでには時間がかかるというのは変わらない。
ああ、ちなみにトイレと仲良くしていたフィオラ姫は、とりあえず水の供給の準備ができたことを報告するためにお城に戻っている。
ま、俺たちの調査にはつれていけないしな。今のうちに報告をして、何かあった場合の準備をお願いしますといって、席を外させたわけだ。
ドラゴンと交渉しますなんてことは口が裂けても言えないからな。
なにせ、鉱山にドラゴンが居座ったなんて話が漏れれば、今回の水供給の件とかきれいに吹き飛ぶ。
村の人たちも迷わず逃げるだろう。
というか、ダファイオ王国どころかロシュール王国が出張ってきて、ドラゴン退治になる話だ。
そんなことになれば大陸間交流にも支障がでる。
うん、冷静に考えたが絶対阻止案件だな。
とにかく穏便に済ますために、まずはガウルさんに説得を試してもらう。
それでダメなら即座に身柄を確保して、情報を絞り出す。
そして場合によっては処分する。
というか、ガウルと同じ竜人って可能性はかなり低い。
ただの野生のドラゴンということも十分あり得る。
ま、その場合はただのお肉になってもらうか。
などと考え事をしたりしていたら、気が付けば翌日になっていて……。
「ガウルさん。戦闘の際は、スティーブを盾にしてくださればいいですから」
「おーい。なんかすごいこと言ってないっすか?」
「何をいっているんだい、スティーブ。護衛目標は身を挺して守るんだよ。将軍だった僕が言うんだからまちがいない。軍人に自由なんてものはないのさ」
「ここは地獄っす!!」
俺がツッコム前にエージルがお前は軍人なんだとスティーブに諭してくれた。
流石俺の嫁さんだ。
あと、俺のところの労働環境が悪いみたいな言い方はするな。
そもそも、最初からお前が調査隊なのは予定してただろうに。
「って、そこはいいとして。物理的な話っすよ。おいらゴブリン。ガウルさんドラゴン。スラきちさんじゃないっすから、さすがに盾にもならないっすよ」
ああ、確かにサイズ的に無理があるな。
というか、ドラゴンを守るゴブリンって意味わからんのは理解できる。
「いえいえ。スティーブ殿の護衛があるなら。何も心配もいりませんな」
「えー、そこで絶大な信頼とか、それって間違ってないっすか?」
「気持ちは重々分かりますが、ここでごねても話は進みませんからな。なにより実力的には可能でしょう?」
「うぐっ。確かにそうっすけど……」
ガウルに諭されてるでやんの。
そう、今重視しているのは戦闘になったときにガウルを守れるのかということだ。
間違いなくスティーブの部隊ならガウルを守り切るし、敵性ドラゴンもどうにかしてくれるだろうからな。
それが無理なら、その時はなりふり構わず各国に連絡を取って、現代兵器ぶち込んで制圧に回る。
それこそ大陸間交流同盟のピンチだしな。
「スティーブ。お前の言っていた人材の育成は前向きにというか、やっぱり物理的には必要だから、そっちは作る。だから、今回は大人しく行ってくれ」
「本当っすね?」
「大丈夫。俺、嘘ツカナイ」
まあ、単にレベルがスティーブと同じってだけなら簡単だか、現場で得た経験というやつを同じくらいまでっていうのはなかなか難しいとは思うけどな。
それにはなんとか今のスティーブたちの部隊と同じ練度の部隊を作らないと始まらない。
とはいえ、それこそスティーブたちの仕事だしな。
あれだけ、別の部隊が要るって言ってるんだ。先達の教導隊として頑張ってくれるだろう。
ただのレベル100と、実践経験豊富なレベル100は同じではないからな。
レベルも頭の中の知識もダンジョンの能力でいくらでも補えるが、『経験』ってやつだけはどうしても無理だ。
体感してこそ培われるものがある。
まあ、もちろん知識があるのとないのでは雲泥の差ではあるから必須だけどな。
だから、『嘘』はついていないのだ。
いずれにせよ、部隊を新しく作ること自体は間違いないからな。
「……なんか、すごく嫌な予感がするっす」
「なんだ。やっぱり部隊を増やすのが嫌っていうなら、現状維持もありだが。ことは俺たちが勝手に決めていいことじゃないからな」
「あ、いや。冗談っす。増員は是非お願いするっす」
よぉし。スティーブ本人からも言質は取った。
あとは候補のゴブリンを決めてスティーブの処に送り出すだけだ。
さて、その部隊を増員するためにも……。
「じゃ、作戦を説明する」
俺は早速今回の作戦説明を開始する。
「昨日から散々言っているが、目的はあのドラゴンをどうにかして排除して、結果として『川の水量をもとに戻す』ことだ。つまり、単にドラゴンを倒すとか退いてもらうことが目的達成じゃないから、そこは気を付けるように」
そう、今回の目的はあくまでダファイオ王国の水不足を解決することが最優先事項で、ドラゴンとの大バトルで川をぶっ壊してしまっては意味がないのだ。
まあ、ドラゴンのことが露見すれば水不足どころの騒ぎじゃないので、それこそウィードにとっては大打撃だから、そうなる前に止めを刺せと指示を出している。
「あ、そういえば聞いてなかったっすけど、万一おいらたちの手に負えない場合は?」
「ああ、その時は即座に撤退でいい。それは文字通り『災害』だしな。その場合、こちらの全兵器を投入してでも仕留める」
今のスティーブたちですら歯が立たないほどの『怪物』だったら、たとえ現代兵器を投入しようが、セラリアやエリス、ラッツも納得するだろう。
というかそのための現代兵器だ。
「ユキ殿。そもそも、そのドラゴンとの交渉は何を基準で失敗、成功と判断するのですかな?」
「あー、そこはこちらから随時連絡は入れますが、基本的に、こちらに攻撃を仕掛けてきた時は失敗。聞く耳持たないも失敗。というか、こちらのいうことを聞かなければ交渉失敗。成功はこちらのいうことを聞いて指示にしたがう場合のみ。厳しいですが、下手に暴れられればそれだけ色々な意味でまずいですから」
「わかりました。では、私はとにかく、その『成功』するように交渉をすすめればいいわけですな。まあ、初対面のドラゴン相手ですとなかなか難しそうですが」
「無理という判断になれば、スティーブたちが押さえますので、大丈夫ですよ。あくまでも交渉ができるものであればそれに越したことはないというだけですから。ガウルさんはけして無理をしないでください」
ガウルさんからは既に、このドラゴンとの関係はないと聞いている。
だから、交渉でどうにかなる確率はかなり低いわけだ。
「とはいえ、たとえ交渉が決裂したとしても即座に戦闘ではなく、無事に帰れる余裕があるようであれば、その場はなるべく帰ってきてください。そのあと、スティーブたちが戻ってドラゴンを叩きます」
「ま、妥当じゃな。しかし、妾にはドラゴンがなんで川から水を引いて溜めておるのか、ようわからんのう」
ミヤビ女王の言う通り、なぜ川の水が必要なのかというのがまだわかっていない。
ドラゴンにそういう習性があるのかとガウルさんに尋ねたのだが、即座にそんな性質はないと返された。
だが、それはあくまでもガウルさんの里にいるドラゴンの話だ。
水が必要なドラゴンというのもいるのは分かっている。シーサイフォ王国の沖で見つかったシードラゴンとかな。
「そこは交渉してのお楽しみですね。で、このドラゴンに会うまでのルートですが、基本的な難易度は高くありません。ダファイオ王国側は今では強力な魔物が出て近寄れないといっていますが、元々は鉱山として鉱物を掘り出していたので、そのルートが生きているのをドローン、使い魔で確認しています」
と、俺は映像を出してガウルさんたちが進むルートの説明をする。
幸いだよな。進む道はちゃんとあるんだから。
下手をすると、進むことさえ困難な場所もあったりするからな。
「7時に出発した場合の到着は13時の予定です。とはいえ、速度は結構出してもらうことになりますが。大丈夫ですか?」
「ええ。そこは問題ありませんよ」
この鉱山、意外と標高が高くて軽く1000メートルを超えている。
ガウルさんの里も1500メートルだったので、案外ドラゴンが住む条件として高度っていうのがあるのかもしれない。
まあ、ドラゴンの生態はとりあえずいいとして、目標のドラゴンがいる地点は700メートル地点の川の近くの採掘場なのだ、
「しかし、不思議だよね。当時はあそこまで鉱物を掘りに行ってたのに、魔物が強力になって今では取りに行けない。何かしらの魔力の状態が関わっているとみてもいいだろうね」
「そうだな。エージルの言う通り、魔物が強力になっている原因も探らなくてはいけないので、魔物との戦闘は極力避けてくれ」
自然はそのままで観察するからこそ、いいデータが取れるのだ。
「強力っつっても、せいぜいレベル60をちょっと超えるぐらいっすけどね」
「いやぁ、普通の人たちから見ればレベル60でも十分脅威になるし、そもそも戦術次第っていうのはスティーブよくわかっているだろう?」
「わかってるっすよ。じゃ、おいらたちはそろそろ行きたいとおもうっすけど、ガウルさんの準備はどうですか?」
「ああ、問題ないですよ。早速行きましょうか」
ということで、ガウルさんとスティーブたちは早速ドラゴンの説得へと向かうのであった。
向かうのはファンタジー世界で最強と名高い「ドラゴン」そして、最弱の「ゴブリン」
この二人に運命とは!
みんなハラハラドキドキの超絶バトルがあるって思ってるよな?
そうだ、きっと、そうならない!
だってこの物語ってそういうもんさ。




