第1080堀:ドラゴンのことはドラゴンに
ドラゴンのことはドラゴンに
Side:ミヤビ・ヤシロ
それはいつものようにウィードでスゥィーツを楽しんでいる時のことじゃった。
「あっ、ミヤビお姉ちゃんみーつけた!」
「発見なのです」
「ま、まってください!」
「お姉遅い」
口々にそんなことを言いながら走り寄って来るのは、アスリン、フィーリア、ヴィリア、ヒイロじゃ。
その後から、ラビリスとシェーラ、ドレッサがこちらは落ち着いた様子で向かって来おる。
まさに保護者という感じじゃな。
「どうしたんじゃ。ちみっこたちよ」
「ぶー、ちっちゃくないよ」
「そうなのです。フィーリアたちは立派なレディーなのです」
「え、えーと。はい。私たちは立派な大人の女性です」
「そう、ヒイロたちは立派なれでぃー」
うむ。そういうとこがちみっこなんじゃがな。
などと思っているうちに、保護者たちも到着した。
「まーたお菓子を食べているのね。ミヤビ様」
「気にいってくれたのは何よりではありますが、くれぐれも食べ過ぎには注意してくださいね」
「そこは心配いらぬ。スゥィーツだけではなく、バランスよく旨いものを食べておる。健康間違いなしじゃ。それに、この時ほど女王という地位におってよかったと思うことはない」
好きなだけ贅沢できるからのう!
宰相たちは国で仕事を頑張っておればよい。
女王はこうして贅沢をするものじゃからな!
「いいこと言っているようで、税金の無駄遣いしているって聞こえるわ。シェーラもそうよね?」
「あははは! 私はノーコメントで」
「はぁ、別にこの程度のことでは誰も文句を言わないわよ。ミヤビ様は今まで十分頑張ってきたんだから」
「うむ。ドレッサは話が分かるではないか。誉めてやろう」
「こんなことで褒められても。というか、ミヤビ様。用事があって来たのだけれど、ガウル長老は一緒じゃないの? 反応では先ほどまで一緒に来ているってあったけど?」
「なんじゃ。妾じゃなく、ガウルに用か。つまらんのう。いやまて……」
ガウルはドラゴンじゃ。
そのガウルに用ということは……。
「何ぞドラゴン絡みのことが起こったということか?」
「そうだよー。だからガウルおじいちゃんを探しに来たんだー」
「なるほどのう。って、アスリン。一応機密じゃからな。そういうのは黙っておくんじゃぞ」
妾から尋ねておいてなんじゃが、アスリンの素直さはちょっと問題ありじゃろう。
「大丈夫なのです。アスリンは話してもいい相手にしか話さないのです」
「そうね。アスリンはこう見えても人の目を見る力は確かだもの」
「ですね。さて、それはいいとして、ガウル長老はどちらに?」
「ああ、ガウルなら。ほれ戻ってきた」
と妾が視線を向ける先には、プレート一杯にケーキを乗せてやってくる爺が一人。
「おや、アスリンちゃんたちではないですか」
そう、甘い物好きのガウルがこちらに向かっておる。
「あ、ガウルおじいちゃんだ。こんにちはー」
「こんにちはなのです」
「はい。こんにちは。で、どうしたのですかな? ミヤビ殿に何か用ですか?」
ガウルはそう言いながら席に着く。
まあ、この状況を見れば妾の所に来たと思うわな。
じゃが……。
「違うぞ。ガウル。お主の客じゃ」
「私の? ケーキを食べながらでもいいでしょうか?」
「ええ、構わないわ。今すぐどうこうって話じゃないし」
「はい。ゆっくりケーキを食べてください」
「では、遠慮なく」
と許可をもらったガウルは遠慮なく悠然とケーキを食べ始めおった。
「いや、いいのかのう? ドラゴン絡みなんじゃろう?」
そう、ドラゴンともなれば国を挙げての大騒ぎになる事態なはずじゃが、それにしてはアスリンたちには焦った様子が見られないの。
まあ、アスリンたちの実力であればドラゴンであろうが相手にはならんじゃろうが、ほかの人たちからすれば絶対的な力の象徴じゃ。というか自然災害扱いされるほどじゃ。
それをのんびりケーキを食べてていいとは普通であればならんはずじゃが……。
「ほう? ドラゴンですか。私たちの一族以外にドラゴンが見つかったのですか?」
「はい。お兄様が小国の水不足解消に向かった先で発見したそうです」
「小国にドラゴン? どこじゃ?」
「ダファイオ王国だよー」
「ダファイオ? それはどこの国でしょうか?」
「聞いたことはあるぞ。ロシュール王国傘下の小さな国じゃな」
「あら、ミヤビ女王は詳しいのね」
「これから、各国に門を開こうとしておるのじゃ。そこらへんは踏まえておるわ。というか、大陸間交流宣言にてガウルと一緒に紹介されてからはあちこちとの面会が忙しくてのう」
正式に妾たちも大陸間交流を始めたことで、物珍しさからしばしば面会を希望されるようになったわけじゃ。
妾がここにおるのもただケーキを食べるだけではない。
外交のために留まっているわけじゃ。
「というか、ガウル。お主もそろそろ国のこと程度は覚えておけ」
「はぁ、その手のものは苦手なんですがね」
「苦手で済むか。ドラゴンの力を欲している連中は多いからのう」
ガウルは竜人族。
ドラゴンである。
その力を狙って交流を求める連中も多い。
妾はユキ殿にガウルの仲介をしたこともあり、斯様な意味でも忙しい。
こうして美味しい物でも食べておらねばやってられぬのということよ。
そのような中で、新たなドラゴンを発見したなとどいうことをこうもあっさり公言していいものか?
新たな混乱を呼ぶことになりかねんが。
「で、新たにドラゴンが見つかったゆえに、ガウルに話を聞きに来たということでいいのかのう?」
「そうよ。ドラゴンは見つけたけど、まだ会話をしたとかではないの。遠目に認めただけだから」
「なるほどのう。で、迂闊に首を飛ばすわけにもいかんか」
「はい。ガウルさんのようにどこかに仲間がいるのであれば、下手な手出しをして仲間を呼ばれればこちらも全力で対応しないといけなくなりますし……」
「こんなことは言いたくはないけど、ガウルたちの評判にも関わるわ。ドラゴンはやはり狂暴なんだって」
そうなると、ガウルの立場は悪くなるのう。
関係もないのに誹りを受けるだけではなく、何かしらの直接的被害を受ける可能性もある。
だからこそ協力を仰いだわけか。
「話は分かりましたが、それ以上のことここで話を進めてもよいのですか?」
「流石にこれ以上はだめだよー。ガウルおじいちゃん、食べ終わったら総合庁舎の会議室に行こうね」
「わかりました。で、ミヤビ女王はどうしますか? ついてきますか?」
「もちろんじゃ。ユキ殿たちにガウルたちの面倒は任せろといっておるからのう。それにほかのドラゴンの事とあらば、国家防衛のために絶対必要な情報じゃ」
ということで、妾たちはガウルがケーキを食べ終わるのをゆっくり待って、それから総合庁舎の会議室へと場を移し、さっそく話を聞くことにする。
「で、どのようなドラゴンなのですか?」
「これがその写真よ」
ラビリスがテーブルに置いた写真には確かにドラゴンの姿が写っている。
「おお、真っ黒なドラゴンじゃな。里の連中にはいるのか?」
「いえ。黒いドラゴンは竜人の里にはいませんね」
「じゃ、このドラゴンさんは知らない人?」
「そうなりますね」
「そうですか、知らないですか。そうなると、穏便な話し合いであそこからどいてもらうというのは難しそうですね。水不足の原因がこのドラゴンなので話し合いで済めばと思って来たのですが……」
「ん? シェーラ姫どういうことじゃ? 水不足の原因がこのドラゴンじゃと?」
「まだ確定したわけではありませんが、最近あの辺りの川の水量が減ったのは、雨不足などではなく、どうやらこのドラゴンが自分のためにため池を作ったのが原因みたいなんです」
「「はぁ?」」
そこから提供された水不足に関する情報を見ると、ダファイオ王国には元々ドラゴンが生息していたという記録などなく、また、鉱山の川は途中で分岐などはしておらず、まっすぐ一本のまま鉱山を下って町へと流れている。
そしてその町で、各村への支流をつくり水を送り出しているらしい。
「……確定したも同然ではないか」
「ですね。どう見てもこのドラゴンが自分の生活のための水を確保したせいで、村々の生活が立ちいかなくなっているという感じですな」
シェーラ姫は明言を避けているが、どこからどう見てもこのドラゴンが原因じゃ。
「あっさり納得してくれたのはありがたいことだけど、このドラゴンをどうするかっていうのが問題なのよ。ただ倒すだけなら簡単だけど、さっきも言ったようにガウルのところのようにどこかの里に属しているドラゴンなら、報復があるかもしれないわ。こっちとしてはあくまでダファイオ王国を助けるのが目的で行っているのに……」
「それでドラゴンによる災害を引き起こして滅ぼしてしまっては意味がないのう」
「そういうことで、話し合いで何とかならないかってことで、ユキから私たちにガウルさんに話を聞いてくるように頼まれたのよ。で、ガウルさんはあのドラゴンを知らないみたいだけど、交渉役として来てくれるかしら? 知らないにしても私たちが話すよりも会話にはなると思うんだけど」
確かにのう。他種族が話すよりも、ガウルの方が話を聞いてくれる可能性は高い。
どうせこのままなら、あのドラゴンはあっさりとユキ殿たちに狩られてしまうのがおちじゃ、ここは……。
「ガウル。どうするんじゃ?」
「ここで嫌というわけにもいかないでしょう。交渉したという実績はいるでしょうし」
「なんじゃ。わかっとるではないか。なに、妾も一緒にいくから心配するな。で、そなたらは、あのドラゴンについて何らかの情報は持ってないのか? 一応、調査隊の連中は焼き尽くしているみたいじゃが」
そう、面倒なことにあのドラゴンはどうやら水源の調査に来た者たちを攻撃して殺傷してしまっているようなのじゃ。
ドラゴンが眠る場所の近くに武具が散乱しているからのう……。
「あのドラゴンに関する情報はありませんよ。まぁ、竜族が人を攻撃することはこちらの里でもよくありましたからね。見てわかる範囲は別ですが、直接話を聞いて情報を集めるしかありませんね」
結局は行ってみないとわからないということかの。
まあ、ここ最近ずっと面会ばかりで飽き飽きしていたところじゃ。
ここはひとつ、他国へと向かってみるのも一興じゃろう。
「来てくれるんですね。よかった」
「……お兄に連絡してくる」
ユキ殿との約束を果たせたヴィリアたちは花が咲いたような笑顔を見せる。
うむ。この笑顔を見られただけでも話を受けた甲斐があるというもの。
危険性については、ユキ殿たちがおるから心配はいらんじゃろう。
と、妾はそんな感じでダファイオ王国のトラブルと関わっていくのであった。
餅は餅屋へ。
ドラゴンはドラゴンに。
分かりやすいね。
人材が増えるのはいいことだと思います。
さて、ドラゴンと話し合いは成立するのか?




