第1078堀:明日の予定
明日の予定
Side:コメット
「やぁやぁ、そっちの村は楽しそうだねー」
私はドローンから送られてきているお祭り騒ぎを見ながらそういう。
『ま、これぐらいいいだろうさ。なにせ今まで我慢してきたんだからな』
『うん。冗談抜きで水不足って深刻だからね。ミコスちゃんのところでもやっと雨が降ったときは同じようにお祭りだったよ』
『ええ。私も雨ごいの祈祷が成功したときにはこんな感じだったわね』
そういっているユキたちも、まずは一安心って感じだね。
うんうん、即席のものだったけど私たちも頑張って作った甲斐があるってもんだね。
『なにせ下手をすれば戦争案件だったし、上手く動いてよかったよ。そうじゃなけりゃ任せてって言った手前、僕たちの面目丸つぶれだったよ』
「だねぇ。そっちも見てるだろうけど、今のところ稼働状況は良好だよ。二つとも数値は許容値だね。とはいえ、空気中の魔力が尽きてしまえばそれで終わりなんだけど」
そう、この水が出る装置もウィードの噴水のコアと基本的なところは変わらない。
単に魔力を水に変換して供給しているだけ。
とはいえ、水を出すということだけに特化させたから、変換効率は普通の魔術師がやる100倍にはなってるけどね。
具体的に言えば1の魔力で100の水が出るようになっているって感じ。
いやー、魔力って不思議だよねー。
まああれだね、初心者魔術師と熟練の魔術師で、同じ魔術を使っても効率が違うってやつの再現。
こいつは無駄をできる限り減らして、とにかく魔力を水に変換しているってやつさ。
人が魔術で水を出す際には、ただ単に造り出すだけでなく、相手にダメージを与えるために水を一か所にまとめて形を整えて固定化しなくてはいけないし、さらにはそれを撃ち出す必要まである。
そういうよけいな所に魔力を使ってるのを無くして、純粋に水の生成だけに魔力を使っているって感じ?
だから、空気中の魔力だけで今のところ補えてはいるんだけど、それがなくなればこの装置は動かない。
『まぁ、その心配は当分いらないだろう。イフ大陸ならそれが問題だったんだが、ここはロガリ大陸だしな』
確かにロガリ大陸は空気中の魔力は豊富。
とはいえ、こうやって取り出し続ければそのうちなくなってしまうかもしれないけど、今すぐゼロになるってことはないだろう。
『そうなったとしても、僕たちが当分はメンテで魔力供給するから大丈夫だよ。なんてったって元々体動かす方が好きだしね』
「リエル。君の気持はありがたいけど、ちゃんと必要最低限の魔力は残しておくんだよ」
胸を張ってこちらに向かってVサインをしているリエルにそう釘を刺しておく。
リエルはまっすぐすぎるからねー。始めたら全部魔力をあげてすっからかんになるまでやりそうだ。
『で、他の水の装置は、明日から各村に届けて設置する予定になっているから、そっちのモニターも頼むぞ、コメット』
「任せといてよ。で、それはいいとして、水源の調査に関してはどうするつもりだい? まさかいきなりツッコムなんて真似はしないよね?」
魔力異常が起こっているかもしれないところにいきなりユキたちが突撃するのは流石にありえない。
ユキや彼女たちは替えの効かない存在だ。
それぐらい私も知っているし。ユキたちも自覚している。
本来なら今回の訪問だってあり得ないぐらいだったんだ。
さらにまだ調査の済んでいない、それどころか調査隊未帰還のところへユキたちがいきなり行くなんて絶対阻止するべき案件だ。
『流石にそれはしない。俺は死にたがりじゃないからな。とはいえ、任せてくれといった手前、あまり躊躇しているとそれはそれで問題があるからな。ということで、明日先遣隊としてスティーブたちを送り込む』
「ああ、なるほど。スティーブも大変だね。というか、将軍ってそんな役職だっけ?」
私のイメージだと確か後方から軍の指揮をする者って感じだった気がするんだが。
いや、ゲームでの将軍って普通それだよね?
そんなことを考えてたら、ユキからではなく、憤然とした様子のエージルとスタシアが画面に割り込んできて……。
『いや、断じて違うと僕から言わせてもらおう』
『同じく。そもそも将軍とは預かっている軍の指揮をすることこそが主な仕事です。自らが率先して敵地に乗り込んで調査するなどということはあり得ません』
と、スパっと否定してきた。
ああ、2人とも将軍だからね。
「あら? 私は先陣切って指揮するほうだったんだけど?」
「陛下は黙っていてください。コメット様、これは悪い例です」
「あ、うん。なるほど人による差ってやつか」
なんか横から女王が無茶苦茶言ってきたけど、そこは綺麗にかわしたと思う。
指揮も人それぞれって意味だしね。個性だよ個性。
『おいらとしては断じて否定したいんすけどねー。大将、いい加減下部組織でも作らないっすか?』
『お前の部下を調査に向かわせてもいいんだが、スティーブの方がこっちとしては安心なんだよな』
『まあそりゃ、おいらが一番高レベルっすからね。というか、将軍って別に腕っぷしが一番である必要はないっすから、そっちで他のやつ鍛えません?』
『教育、慣熟、経験を積ませるのに時間がかかるんだよな。というか、そこまで業務も多くないだろう。最近は』
うん。スティーブの気持ちもよくわかるし、ユキの気持ちだってわかる。
そうだよね、スティーブは仕事が忙しいってのは当然のこと。通常の将軍業務に加えて、こうして最前線で部下を率いて自身が作戦行動だしね。
で、ユキの方はスティーブであれば安心だということも。まあ今まで手塩に掛けて育ててきた上に、あの戦績から見れば当然だよね。
今更ほかの部下を育てるのは時間も資金もかかるからねー。
『いや、多くないって基準がわからないっすけどね。そりゃ、クアルの姉さんみたいにウィード全軍の統括ってわけじゃないっすからね』
「ですが、スティーブ殿は我がウィードの核となる魔物軍の大将です。あまりこういう任務に時間を割くのはどうかとは思いますが……。まぁ、それを言ったら私もなぜか陛下の秘書、側近をやっていますからね」
「あら、不満?」
「はい、不満です。ですが、国の規模を考えても下手に軍は増やせないというのもあります」
『クアルの言う通りだな。ウィードが軍備を整えるとなれば各国がどうしても警戒するからな。スティーブの魔物軍の方も最近はその実力を認知されているから、今ある部隊から調査部隊を作るしかないんだよなー。セラリアそこらへんどうにかならないか?』
「大国はウィードの力を知ってるから、無理を押し通せばできるでしょう。でも、わざわざそこまでして他国の反感を買うのをよしとするかね」
うん。とても難しい問題だね。
わかる。私にもわかるよ。
でも、わかりはしても最適解は分からない。
なので、そこはスルーして話を進める。
「ま、そこは後で話し合うとして、とにかくスティーブたちが調査に向かうってことだね」
『ああ。その予定だ。で、スティーブ。準備はどうだ?』
『別にただの調査っすからね。準備はすんでいるっすよ。部下の士気もいつもの通り安定っす』
「そりゃよかった。で、調査対象は情報が送られてきたあの鉱山の岩山ねー。そういやなんか、ショーウも同じ事したんじゃなかった?」
『はい。していましたね。とはいえ、あちらではなかなか経験の出来ない雪が降りましたし、アスリン殿たちがいたので楽しめたのですが……、今回は雪はなくどこにでもある土埃の舞う岩山ですからね。そういった娯楽はなさそうです』
私の言葉に肩をすくめながら応えるショーウ。
いやぁ、ショーウと私は意外に馬が合ったので、ルルアと同じように気安い関係を持たせてもらっているんだ。
当初はユーピアとのやり取りをみて、こりゃヒフィーよりの堅物かと思ったんだけど、これが意外と気さくなんだよね。
「まあ、鉱物資源が豊富な岩山ってだけだからね。そういう景色や空気を楽しむっていうのはないのかもね。だけど、私としてはどんな鉱石が採掘されているのかとかがっつり調べたい。あれは宝の山なんだよ」
『確かに鉱物資源というのは、国にとっては貴重でありがたい物であり、研究者にとっても宝の山ともいえるでしょうね。ですが、ウィードに鉱山資源が必要なのですか?』
「ああ、物資の確保という意味では全く必要ないね」
何せDPで好きなものが好きなだけ出し放題だし。
DPは有限です? 馬鹿言っちゃいけない。ユキの政策のおかげで、私なんかにゃ思いもよらなかったダンジョンの中で過ごしている人が山ほどいるんだ。DPがすっからかんになるようなことは今のところありえない。
というか、そんなことになるのは世界から魔力が消失するぐらいのレベルだ。
……ああ、そういや地球の現代兵器を後先考えずバンバン撃ちまくれば流石にすぐにすっからかんになるね。
うん、やっぱりこれって有限なんだろう。
おっと、うっかりこんなことを口走れば一緒に会議に参加しているエリスから研究資金の減額を申し渡されかねないからね。
『コメットの言う通り今は必要ないが、いざという時のために鉱物資源は確保してはおきたい。だが、どうしても飛び地すぎるしな。維持費もかかるから今は構想だけだな』
なるほどね。ユキはいつかダンジョンが使えなくなった場合を想定して、そういうことまで視野にいれているんだね。
いやぁ、流石というべきか、元々魔力がない世界から来たからこそ出る発想というべきかね。
物資を持っているというのはそれだけで強みになるのをよく理解している。
『ああ、でしたら我がズラブルから鉱山の一つか二つ、お譲りしましょうか? あの戦いの御礼がまだあやふやのままですから』
と、なんかショーウからものすごい提案が出てきたよ。
普通戦に負けたわけでもないのに国が他国に鉱山をあげるとか、そんなのありえないから。
『なに。反対意見なぞ気にしなくていいですよ。鉱山の利権などいくらでもどうとでもなりますし、必ずユキ様たちなら鉱山を譲った以上の価値を出してくるはずです』
ああ、そういう狙いなら大正解。
ユキが鉱山を普通に使うわきゃない。
そりゃまあ、普通に鉱物を掘ったりはするだろうけど、そこからできる生産品はこの世界にとっては希少すぎるオーバーテクノロジーの塊となるのは間違いないしね。
そして独占なぞせず、ズラブルにもちゃんとお裾分けをするから、将来を見据えるならユキに媚びを売って何の問題もない。
というか、ユキの実力を知ってなお、そういう手を使わない方が頭がイカレテいるというレベルだ。
そう、それは至極当然のはずなのだが……なんかショーウが言うというのがイラッとするのはなぜか?
と、まあいい。そんなことより鉱山の情報だ。
「鉱山をもらえるなら後でもらうとして、今はそれより調査する予定の鉱山の情報だよ。どれだけ事前情報はあるわけ?」
『そこに関してはドローンを今飛ばしている最中だよな?』
『うっす。偵察ドローン、偵察使い魔で上空偵察している最中っす。ま、今は夜で見えないっすけど。それと一応、ミリーの姐さんが事前の鉱山の情報はおくってくれったすけど、そっちで確認はしているっすか?』
「もちろん。そっちの情報はミリーから直接もらっているさ。ねえ?」
「ええ。ユキさんたちの安全にかかわることなんだから最優先で渡しているわ」
『じゃ、それに加えて、さっき村の人たちから聞いた魔物情報のすり合わせをしていこう。その答え合わせは明日の日中だ』
「どれだけの正解率になるか楽しみだね」
そう、明日の日中には鉱山の全容がわかる予定なっている。
ダンジョンを展開するからね。
さあて、ユキが予想したような厄介な状態になっているのか……。
明日の予定は鉱山を調べます。
コアで掌握してデータ回収という裏技。
とはいえ、これを使わない理由はないですね。
どこかで、正々堂々とかチートあるのに物理的に戦おうとする人たちはいますが、演出的にはいいとして、現実的ではないですよねー。
事前の情報収集こそ大正義であります。




