第1073堀:なぜ受けたのか?
なぜ受けたのか?
Side:ミコス
「いい。ちゃんと仕事をするのよ? あと、くれぐれも失礼のないようにしなさい」
「わかってるって」
「大丈夫よ」
カグラったらいつにもましてしつこい。
ミコスちゃんとエノラが愛しのユキ先生の足を引っ張るわけないじゃん。
というか……。
「カグラだって一緒に来るんだから、そんなにグチグチ言わなくてもいいじゃん」
「ええ。ただカグラはただの付き人その1だけどね」
「しかたないでしょ! 身分が高いっていうだけで色々とダメなんだから! 私だって堂々と手伝いたかったのに!」
あー、怒った。
それにもろに本音が出たね。
「カグラ。落ち着いてください。ミコスもエノラもちゃんと仕事をこなします。間違いなくそうなるよう私たちはこの二人が失敗しないようにしっかりサポートしてあげればいいのです」
「……スタシア様。はい、すみませんでした」
「いえ、その気持ちはよくわかりますよ。私だって旦那様の役に立ちたいですし、妻として横に立ちたいものです。ですので、お二人は私たちの代わりとして旦那様の横に立っていると思っていてください。よろしいですね」
そう言い放ったスタシア様の目は割かし、わかってるわよね、失敗なんかしたら絶対許しませんよ?といっていてホントに怖い。
「ま、任せてください。いくら何でも小国とはいえ王様とお姫様が相手ですし、そんな失礼な態度とかなんてとったりしませんから」
「はい。その点は安心してください。それより問題は……」
エノラはそう言いながら憂鬱そうに持っている書類に目を向け……。
「この装置の使い方がですね。エージルは頑張ってマニュアルを作ってくれたみたいですが……」
「うん。正直ミコスちゃんもよくわかんない」
「……それは私もね。で、スタシア様はどうですか?」
「うーん。私にもこれはよくわかりません。まあ、攻城兵器などと同じように考えれば組み立てるまではできるのですが、流石に故障の際の対応がですね……」
そうなんだよねー。
今回ミコスちゃんたちに託されているのは王族とかへの対応じゃなく、各村へ水を供給する機械の設置と万一異常があった場合の対応、そして記録なんだよね。
とはいえ、ミコスちゃんたちって専門家じゃないからその辺さっぱりなんだよねー。
「機械の設置につきましては問題ありません」
「あ、キルエさん」
そんな声がしたので振り返ったら、完璧メイドさんであるキルエさんがそこにはいた。
「コメット様、ザーギス様、ナールジア様が遠隔とはいえ皆様のサポートをする予定となっております」
「なんだ、それなら安心ね。私たちはあの人たちの指示に従って村への機械の設置をすればいいってことね。それならなんとかなりそう」
「はい。エノラ様の仰る通りです。なんと言っても私たちは専門家ではありませんので、わからないときは素直に訊いた方があとあとの問題はないでしょう」
確かにそうだよねー。
ミコスちゃんたちがどう頑張っても所詮できることには限りがあるし、今回の件はかなりシビアだからねー。
いやぁ、まさか水不足なんて大事の対応をすることになるとは思わなかったよ……。
「でも、なんでユキはわざわざ小国からの依頼なんか受けたのかしら? しかも自分自身が出ていくってかなりのことよ」
「確かに。普通なら部下を派遣するだけでいいはずですが……」
そうなんだよねー。なんでわざわざユキ先生が小国を助けるために自分がいくんだろうって思ったよ。
「今回の件で旦那様がわざわざ出るのは他国のうっ憤を晴らすためでもあります」
「うっ憤?」
「はい、やっかみ、嫉妬というやつです。ウィードは大陸間交流同盟の中で、特別な立ち位置にあります。そのことを皆様も十分ご存じだと思います。ですが、そんなことは大半の小国にはわからないのです。それ故、ただ私たちがなぜか運よくこの立場に収まってしまったと思っている連中もけっこういるのです」
キルエさんからそんなありえないことを聞いて、私は思わず
「はぁ!? ちょっと、ふざけてるの! ユキ先生がそんな運だけのっ!」
って言いかけたとたん、後ろからカグラが口を押さえ込んできた。
でも、なんでそんなことをされるのか理解できない私はすぐに振り払おうとしたけど、カグラは静かに……。
「ミコス。落ち着きなさい」
「でもっ!」
止めてきたのでもう一度叫ぼうとしたんだけど、スタシア様とエノラまでもがミコスちゃんに向かって……。
「ミコス。カグラの言う通りです。ここで騒いでも意味がありません」
「ええ。あなたの気持ちはわかるけど、静かになさい」
そんな説得を受けたおかげで頭が冷えた。
それにどう見てもスタシア様とエノラはお怒りモードだ。
「なるほど。いまウィードは小国たちのやっかみを押さえるための行動をしている。そういうわけね?」
「はい。その通りでございます。あくまでも魔力枯渇現象への対応は各国が主体的に行ってもらうというのが目標です。ウィードが国々の頂点となり、その指導のもと行われるものではいけないのです」
そうだよねー、それじゃ世界を統一しようとした神たちとおんなじじゃん。
そう、ミコスちゃんたちが目指しているのは共に手を取り合い協力して多角的な視点から情報を集めること。
「……確かに、魔力枯渇現象を調べるためにはどうしても各国の自主的な、そして主体的な研究が必要でしょう。そのために、ウィードは、いえユキ様は小国の相談を受けたのですね」
「言われれば確かにそうよね。ユキは力で世界をねじ伏せようなんてするわけないじゃない。友好を結んで世界を渡り歩く、そのための準備をしているんだもの。面会を受けるのは当然ね。そうよね、ミコス?」
「……うん。ユキ先生が好き好んで戦うはずないじゃん。でも……、はぁ。そのユキ先生が運だけであの立場になっているなんて思われてるのはなぁー。ミコスちゃんとしてはもう……うー あー!!って感じ」
そう、ユキ先生を低く見られてるっていうのがとっても不満なんだよねー。
というか、旦那様を馬鹿にされて奥さんが黙っているとか、そんなのありえない。
……いったいユキ先生がどれだけ苦労して頑張ってこの世界の人々のためにあの立場にいるのか。それって小国にはわからなくて当然だけど、そりゃ当然なんだけどそれでも分かれっていいたい。
「それで、今回のフィオラ姫の依頼となるダファイオ王国の水不足の問題はある意味都合の良いことでした。まず、水の問題を解決すればダファイオ王国は確実にこちらの味方になってくれるでしょう」
「これで小国の友好国が増えるってことね」
「はい。そしてこれを機に小国の不満も解消する足掛かりになればと旦那様は考えています」
「これまでは、私たちのような大国が相手だったのが、いよいよ小国へと手を広げるわけですね」
「ま、大国は抑えたんだからその次は規模の小さい国よね。布教と同じようなものね」
「だけど、他は確か、調査員の育成だけだっけ?」
「はい。ミコス様の仰る通り、多少の支援と引き換えに自国の調査を行うことを約束させましたが……」
「ま、そんなのあてにはならないわね。持っているなら支援して当然とみる国も多いと思うわ」
だよねー。一応約束はしたものの、ちょっとした支援でまともに仕事をするとは思えないよね。
繋がりと言っても所詮それだけのモノだし、それに忙しかったっていえばそれまで。
「ですね。だけど、それだけではあまり不満は解消できませんね。ああ、だからこその水不足ですか」
「あー、水不足解消ってものすごいことだしね。ミコスちゃんの処でも水不足の時はすごく困ってたし」
うん。フィオラ姫の話はミコスちゃんも聞いたけど、農地に依存してる男爵領のミコスちゃんとしては、一度ひどい水不足の経験があるから、あれって全く笑えない話。
なにせ、村の井戸が枯れて生活ができなくなって、あの当時とーちゃんが畑を放棄させた上に村まで移動させたることになっちゃったからねー。
「そういうことね。で、ここで大きな成果を出しておけば今後の小国の行動も軟化する可能性があるってことね」
「はい。それに旦那様自ら出ていくことで、小国に対しても対等に、そして真摯に対応することを示すことが出来ます。この水不足問題を解消することによって、旦那様が調査員の自国編成を頼み、それに口を出す権利を得たことが本格的に効力を発していくでしょう」
「ユキがわざわざ乗り込んで丁寧に小国の問題解決に助力してあげたのに、ほかの小国はただ支援してもらうばかりで何もしないってなったら流石に面子に関わるものね」
確かに、ユキ先生が小国たるダファイオ王国をちゃんと助けたのに、ほかの小国たちは支援を受してもらって何もしてなかったってなるとあれだよねー。
そんなの間違いなくミコスちゃんが記事にして大陸間交流同盟でつるし上げにしてやる。
「でも、代わりにほかの小国からも沢山お願い事が来ることにならないかしら?」
「そこは心配はございません。ダファイオ王国を助けはしますが、建前上水不足を解消するための新たな魔道具の『実験場』となることを代償として受け入れるということになっていますので、そうそう好き好んで土地を差し出す国もないでしょう」
「そっかー。ってアレ? それって小国を助けたって評判と矛盾しない? 結局、ダファイオ王国から取るもんしっかり取ってるし」
「そこは大丈夫です。私たちには、水不足の一時しのぎ自体が確実に成功するとわかっていますが、小国側からすれば結局手放さざるを得なくなるかもしれないギャンブルに土地を貸した上に予算も出さなければいけないという状況に見えるというだけのことです」
「ま、普通はそう簡単に他国に自国の救援など頼みませんからね。それだけ、今後力関係に気を使うことになりますから」
「ああ、そういうことかー。キルエさんとスタシアの説明でやっとわかったよ。今回フィオラ姫が助けてって言ったこと自体がある意味特殊なんだ」
「ええ。そうよ。普通でしたらありえないわ。支援を強化してほしいだけなら、ほかの小国と同じく挨拶程度で済ませるべきだったわ。今回のお願いは今後ウィードに頭が上がらなくなるモノだわ」
だよねー。キャリー姫様みたいな立場になっちゃうもんねー。
そっかー、ある意味今回のことって、ハイデン王国と同じ状況なのか。
いや、ユキ先生を攫ったミコスちゃんたちの方がよっぽどやばかったけど。
「そういうわけで、失敗はありえないと思いますが、万一にも失敗するようなことになればダファイオ王国の評価だけでなくウィードの評判も下がりますので、そこはくれぐれもご注意くださいね」
「うげっ。あー、なんかいきなりプレッシャーが……」
「ミコス、落ち着きなさい。ほかのみんながサポートするし。主に王族の対応はユキだから」
まあ、確かにそうなんだけどー、多分こういう時ってミコスちゃんにも絶対話が振られるよねー。
うん、どう答えるか準備しておいた方がいいかもしれない。
「さあ、皆さん準備は出来ているようなので、こちらへどうぞ。ショーウ様が同行されますので、協力していきましょう」
「彼女も一緒に来るのですね。その知識、あてにさせてもらいましょう」
そっかー、ショーウさんも来るなら、ミコスちゃんに話をフラれることってないかな? ないよね? ね?
そんなことを望みながらみんなと合流のため移動するのだった。
小国の感情整理と今後の調査に関して口を出すために動き出すのでした。




