第1067堀:あえて使い道を示すなら
あえて使い道を示すなら
Side:ラッツ
「ほほう。それは何やら面倒なことになってますねー」
私はお兄さんから相談を受けています。
今回のお兄さんに対する面会希望への対応についてです。
「だろ? ということで同席してくれると助かるんだけど」
「ああ、私がいればある程度けん制になるんですね?」
ま、こんな超美人うさぎさんが隣にいればお兄さんに手を出そうとしている女は引くこと間違いないでしょう。
「まあ、それもおおいにあるけど。ラッツはウィードで物資の管理をしているだろう。それに他国の主要貿易品とか。それで小国へのアドバイスなんかがあればと思ってな」
「ああ、そっちもですか。まあ、確かに育てて供給してほしいものは色々ありますけど……、そんなことして各大国の方から文句言われません? そういった貿易品になるようなものを小国に勧めるのは?」
「元々、大国が小国を押さえるだけの補助ができないせいでこういうことになっているからな。そっちの許可は取ってある。それに、そんなことで小国が持ち直すなら大国にとってもありがたいことだしな」
「なるほど。私たちが口を出しても問題はないってことですねー。なら、お任せくださいな」
ま、私が呼ばれたってことはそういう類の相談ってのはわかってましたけどねー。
向こうも女性をお兄さんに送って取り入るより、自分の足で立つ手段があるのならきっとそっちを選ぶでしょう。
「しかし、それで小国どうしの小競り合いが多発して、そのせいで奴隷が増加ですかー」
「何事もうまくいかないな」
「ですねー。でも、大国同士のガチのぶつかり合いよりは遥かにましですし、そこは納得するしかないですねー」
そんなことになったら村や町が一つなくなる程度じゃすまないですからねー。
ですが、当事者の被害を受けた者にとっては、そんな規模なんか関係なく絶望しかないわけですが。
「はい、では奴隷の回収には力を入れるように私の方からもエリスに予算を頼みますよー」
「頼む。被害を受けた、奴隷になった当人たちにとっては、被害の範囲の大きい小さいなんて関係ないからな」
「お任せくださいな。それに、その手の予算ならエリスも惜しまないですよ。で、その面会予定の資料は事前に目を通しましたけど、なんか特にパッとしないですねー」
私は率直に感想をいいます。
うさぎさんは包み隠さずにはっきりというんです。
「そりゃ、しょせん小国だしな。そもそも何か特殊な産業とか資源を持ってるくらいなら、有象無象の小国から抜け出して名のある国になってるさ。ノゴーシュの剣の国とかノノアの魔術の国とかみたいにな」
「確かにそうですけどねー。で、そんな連中と面会をしたところで益にはなりそうにないですよー」
「ま、そこは義務ってことで。それに、やっかみをちゃんと処理しないと後で大やけどするからな」
「めんどうですねー。ま、キルエが言っていたように魔力枯渇現象につながる何か有益な情報でもあるといいんですけど」
そう、今回の面会の価値はせいぜいそこだけでしょう。
最初からある程度の情報はその面会を押し付けてきた各大国から得ていますし、あるとすればその大国も把握しきれていない魔力枯渇現象のことぐらいでしょう。
とはいえ……。
「ま、それについちゃかなり望みは薄いけどな」
「ですよねー。小国にそうそうそんなヒントがあるわけもないですしー」
ええ、世の中そううまくいかないのは私たちがよく知っていますとも。
だって、お兄さんの持つダンジョンマスターの力に、地球の知識と技術、そして私たち自身の世界の魔力をつかった魔術という技術をもってしても、これまで何が原因で魔力が枯渇してきているかの手がかりの片鱗ですらつかめていないんですからねー。
まあ、外交面で設けないといけないというのもありますけどねー。
「セラリアの言う様に、あとはいい人材がいればいいんですけどねー」
「そこはなー。所詮こっちの支援を期待していると同時にスパイだろうしな。めんどくさい」
「それは同意です。送り込まれた人材なんてどう考えてもスパイですからねー。とはいえ、使える人材がほしいのも事実ですから、重要情報には触れさせないように注意して、表のウィードの運営ぐらいには入れていいと思いますけどねー。どこの部署も大変ですし」
「そうなんだよな。で、その人材を入れた分、ウィードからは本分の調査に回すと」
「ええ。それが無難ですねー。幸い大陸間交流同盟でも魔力枯渇現象の調査は通常業務として行われるものとなってきてますからねー。ウィードの人材をそこに送り込むことはとくに苦労はないです。だけど、それって本人の希望と能力次第ですからねー」
「そうだよな。ウィードで暮らしている住民はわざわざ不便な他所の調査なんかに行きたがらないんだよなー」
そう、お兄さんの言う通りウィードの生活に慣れてしまった住人たちで、わざわざ不便な外国へ行って命を危険にさらしながら魔力枯渇現象の調査をしてもいいという人はなかなかいない。
まぁ私だって、愛しのお兄さんがそんな義務を抱えてなければ手伝いなんてしませんしー。それくらいならみんなでそろって家で仲良く家族を増やして過ごしますよー。
「だったら、逆の発想にしますか?」
「逆っていうと?」
「ウィードの人たちが調査に行きたがらないなら、小国の人たちに調査をしてもらう。で、その代わりにある程度の支援をする」
「ああ、女性を受け取る受け取らないという話とは別にか」
「ええ。小国には各大国から魔力枯渇現象の調査の要請は行っていますけど、流石に所詮自腹ですからねー。だから率先してやっているところは少ないですねー」
「確かにな。調査隊を編成するだけでも資金はかなりかかるからな」
「ただの調査だけになかなか予算は投入できませんからねー。特にロガリ大陸では魔力枯渇現象そのものが見られませんからねー。なにか困ってるわけでもないし、大国が調べてねって言ってもやらないでしょう」
そうなんです。現実は悲しいというかなんというか、大国へは魔力枯渇現象の調査を頼みはしましたが、それはあくまでも大国の中のみ。属国の方までは手が回っていないんですよねー。
小国については任意ということになっています。
なにせ、ウィードにも大国にもそんな予算はないですし、それじゃ強制することもできませんから。
人を動かすのだってただじゃありません。
で、小国からすればそんな見返りがないことに金をかけるなら、自国を維持し、飢えている国民を助けると言うか、ほかの事業に使った方がよっぽどいいでしょう。
「話はわかるが、その予算はどうするんだ? 結局のところどこからかお金を出すことになるんだが?」
「そりゃ、ウィードから出すしかないですね」
「え? そんな予算をどこから……」
「いえ、ですからそもそもウィードが出す予定だった調査隊のための資金を回せばいいんですよ。それにうまくすれば交易で補える可能性もありますから、その分逆に予算自体は減らせるんじゃないですか?」
「なるほどな。わざわざこっちから人を送り込まなくていい分ってことか。でも、調査がちゃんとされるかってのがないか?」
「それは結局、大国の調査でも同じことですよ。で、大事なのは調査すべきことをどれだけ絞れるかってことですねー。あれもこれも調査なんかできませんし。そもそも調査員の質は流石に期待できませんからねー」
「確かにな。でもそれなら調査員となるメンバーを一度受けいれて教育するのはどうだ?」
「それはいいかもですねー」
流石はお兄さん。いつものことですが、即座にそういう案が出るのはすごいですねー。
おバカが調査しても、こっちの目的は達成できません。
なら、付け焼刃でも必要最低限の教育をして、ちゃんと調査して報告してくれるほうが私たちとしても助かります。
ですが……。
「ま、それはそれでスパイみたいなのは紛れ込むでしょうけど」
「ま、元からウィードには入り込んでるからそれはいまさらだろう?」
「確かにそうですけど……、で、調査内容や結果とかごまかされたらどうするんですか?」
「そこはウィードからのメンバーを加えるとかするしかないだろうが、そもそもそこまで気合入れて隠す調査内容や結果ってなんだ?」
「さぁ?」
「そもそも、大発見なら国の名前を売るいい機会だしな。とにかく、そこは考えても仕方ないってことにしよう」
確かに、協力するって言っていたのに実際には協力してないことがばれれば国としては終わりですものねー。
ウィードへの仲介の労をとってくれた大国に対しても喧嘩を売るようなものですし、まずありえないですね。
「そうですねー。ちょっと心配しすぎでしたー」
「いやそういう心配は悪いことじゃない。あとでその手の対策も考えておくべきだな。で、これで調査はマシになるか?」
「そうですねー。これでやっと小国での調査が始まると思いますよー。それに、予算だしているから進捗状況を確認するっていうのもできますし、案外妙手かもしれませんねー」
「ああ、もともと調査員の報告を聞いて現地に行くみたいな話はあったからな。やっとそれを実現するようなものか」
「はい。じゃ、さっそくエリスと話してきますねー。先に許可を取っておかないと、あとからお願いするなんてなったらエリスは厄介ですから」
「確かにな。でも、面会まで時間がないぞ?」
「この件なら詳しい内容や条件は後で伝えますでも行けるでしょう。なのでとにかくエリスの理解と納得が大事ですからねー」
「なるほど。それなら俺も行こう。ラッツが話してくれるとはいったが、奴隷の話は俺も混ざった方がいいだろう」
「あー、確かにそうですね。奴隷に関することになるとちょーっとエリスは頭に血が上りますし」
そうなんです。元々奴隷でしたからね。私たちは。
あの時、お兄さんに助けられてなければホント、どうなっていたことか。
ということで、さっそくエリスの居場所を確認して話をしに行ったんですが……。
「私も行きましょう」
「いいのか?」
「はい。どんな女性を連れて来たのかを見極めたくもありますし、なにより奴隷の話もです。国が確保しているのであればこちらに売るように直接交渉ができるはずです。ねえ、ラッツ?」
「まあ、できないことはないですけどー。でも露骨に引き取り約束をするのはどうかなーと思いますけどねー。なにより、条件次第では、国がわざと国民を奴隷にしたりしないかも心配です」
「……ズラブルでのことね」
「ええ。あちらではそんなのまでありました。ま、末期の国のやり方でしょうが。でも、小国だって国家の存亡がかかっているところもあるでしょう。で、そういうところは下手をすればそういうこともやりかねないでしょう」
「まあ、追い詰められたらなんでもやるしな。セナルとかも」
「「「……」」」
ええ、エリスの奴隷になった人たちを助けたいという気持ちは私だってよくわかりますが、その気持ちを利用して不幸を生み出そうとする連中もいます。
それはエリスもよくわかっているでしょう。
なにせ私たちはお兄さんと一緒にそんな反吐がでるような場面を幾度となく駆け抜けてきましたから。
「まあ、そこはもらった情報を確認しつつ、こっちも相手を見てどうするか決めよう」
「「はい」」
それはいつもやってきたことです。
なので、私たちはお兄さんと一緒にその小国との面会に向かうのでした。
そのまま調査人員になってください。
現地調達した方がいいのは世界の常識。
さてさて、こうしてラッツにエリスを従えてお仕事を開始します。
女性たちは二人の睨みを耐えてユキを篭絡できるのでしょうか!




