第1054堀:女神への対応
女神への対応
Side:ユキ
「この女の人がその女神?」
「はい。そうですハイレン様。ですが、ルナ様に従っているのではなく、中級神の一味だそうですが」
「ああ、アクエノキと同じってわけね。だから、なんか年増なんだ」
ハイレンは目の前でぐるぐる巻きにされて気絶しているその女性を見て、ごくごく素直に感想をつぶやいている。
ま、確かに美人ではあるんだけど、どこかきつそうなんだよな。
俺の周りにはいないタイプの女性。
なんとなく、自分に絶対の自信を持っていて、他人を見下すような奴っていう雰囲気がビンビンする。
あれだ、美人なんだけど性格が災いして結婚しそびれた中年女性という感じだ。
「というか、そもそもなんで私をこんなとこに呼んだのよ?」
「そりゃ、同じ女神様だしな。何か通じるものがあるかと思ってな。それに呼んだのはお前だけじゃないぞ」
「まあ、リリーシュ様とかノノア様とかヒフィー様もいけるけど、私たちはあくまでもルナ様派だし。それで話になるの?」
「話になるかどうかは実際やってみないとわからない。だから来てもらったんだよ。同じ女神なら話ができる可能性はあるだろう?」
「えー、いいたいことは分かるけど……」
そう、同じ女神なら多少は話を聞いてくれるかもしれない。
ということで、わざわざ女神たちを集めたわけだ。
と思っていたら、今度はリリーシュが首をかしげながら
「でもー、私たちに何の話をしろっていうのー? さっさとルナ様に突き出す方がいいと思うけどー?」
「そうですね。この女神は中級神派の一味です。反逆者なのですから、ルナ様にさっさと引き渡して処罰してもらう方がよいかと思うのですが?」
確かに、ただルナに処分を頼むだけなら俺だってそうしたんだけどな。
現実はどうやらそうもいかなくなってきた。
そのあたりの説明もこの際やっておくとしよう。
なにせ、これからこの女神たちの協力は必要不可欠だからな。
「それがそういうわけにもいかないんだ。なにせ、ルナに任せると情報を抜き出せないからな。どこからダンジョンコアを手に入れ、どこまで使い方を知ってるのかとか、ルナが選んだダンジョンマスターをコロコロしたとかほざいてたし、そこらへんの確認を取らないと、安心できないからな」
「「「あー」」」
そう、この女神、スラきちさんとの戦闘で聞き捨てならないことを言っていた。
この地にいたダンジョンマスターを始末したとかなんとか。
その情報の裏を取らない限り、ルナに引き渡すなんてできない。
そのまま全部デリートなんてされたら、何も情報が得られないからな。
今後のためにも、この女神からは絶対に情報を引き出す。
というか、むしろ……。
「ユキ。もう遅いわよ」
「は?」
と、ハイレンが苦笑いしながら俺の背後を指さしている。
そこには……。
「やっほー。中級神派の女神を一人、しっかり捕まえてきたみたいじゃない」
などとほざきながら、ルナがいかにも当然という感じで立っていた。気が付いたらいやがった。
きっと瞬間移動してきたんだろうな。
ったく、なんでこんな時に限って出しゃばってくるんだ。
「はぁー。ルナ。余計なことはするなよ。とりあえず情報を集めたいんだ。で、最後に何か女神パワーで情報を抜き取って、俺たちが得た情報とあっているか照合を頼みたい」
とりあえずあまり邪険にしてると思われると勝手に暴走するので、適当に言っておく。
これ以上の混乱は本当に勘弁願いたい。
「わかってるわよ。今回のことは私も情報が欲しいから余計なことはしないわ。というか、なんか中級神派がコソコソ動き出しているわね」
「……って、お前が何かしているわけじゃないんだろうな?」
そう、この件にルナが裏でかかわっている可能性があったからこそ、こいつとは連絡を取りたくなかった。
面白そうだからわざと敵を作り出して、とか考えていそうだったからな。
……ま、正直、家でのんびり撮り溜めしたドラマを消化しているようなこの女が、わざわざそんな仕事を増やすような真似はしないとは思いたいが、それでもそういう心配はキチンと払拭しておきたかった。
「まさか。そんなしょうもないことのために、こんな小物を逃がしたりしてないわよ。それくらいなら、まとめてプチッとしているわ。いやぁ、ここまで能力が低いとそう簡単に見つけられないのよね。神なんてこの世界に掃いて捨てるほどいるし、偽装しているのもいるから、そんなのわざわざ探すと思う?」
まあ、確かにそうだな。
そんな簡単に邪魔者を一掃できるくらいなら、俺がこんな面倒に巻き込まれていないか。
ま、もともとこの世界は、ルナにとっては俺で何とかなるならそれでいいんじゃない?ってレベルだからな。
しっかし、また聞き捨てならないセリフがあったぞ。
「おい、神なんてこの世界には掃いて捨てるほどいるしっていうのはなんだよ?」
「はい? まさか、この世界では神様がチョコチョコッと数えられるぐらいしかいないと思ってたわけ? 地球じゃ日本だけで八百万っていうのに。随分ね?」
「いや、それはあくまで概念だろう。いっぱいいますよって比喩だ。こっちの神っていうのは信仰心や魔力がないと維持できないんだろう? それで大半は消滅したって言ってたじゃないか? それが、行く先行く先、神を名乗る連中がポコポコ湧いて出るのはなんでだよ? いないいない詐欺か?」
なんだ、どっかの終わる終わる詐欺か?
『閉店セール』とか書いて、ずっと開いている店か?
「そりゃ大半は消滅したとか、魔力が切れて人に戻ったりしたでしょうね。でもそこのヒフィーとか、エクス王国のノーブルとか、ハイレンやアクエノキみたいに、魔力だけの精神体って感じで生きてた連中もいるわよ。そもそもベースが人なんだし、そこはけっこうしぶといのがいても当然でしょ」
「……確かにそうだな。だが、俺の仕事に『神様退治』ってのは含まれていないはずだよな?」
「それはね。実際、ここにいる連中だって『退治』していないでしょ。だけど、魔力枯渇現象関連で邪魔になるのなら神様退治も含まれるでしょうね。って前もこんな話したわよね? 私に反対していた連中やユキを認めていない連中はどこかでどうにかしないといけないんだからって」
「そういや、そういう話もあったな」
本当に面倒な仕事を受けたよ。
魔力枯渇現象を調査しなきゃならない。で、そのための各国の協力や神様(笑)たちへの交渉は自分の力でとかいうアホな条件付き。
普通の奴なら仕事ぶん投げてるわ。
で、調査するために外交もやれってか? 馬鹿じゃねえの? 外交は外交官にやらせろよ!
はぁー、本当に今更だな。
「ところで、この女神にどんな話を訊くつもりなの? 敵の背景とか?」
「ああ、その話だったな。今回はちょっと趣向を変えてみようと思ってな」
「趣向を変える?」
「そ。こいつは中級神派だからって別にアクエノキみたいに世間を騒がしたわけじゃない。ちょっと戦場のど真ん中ではっちゃけただけだ」
「ユキ。それってはっちゃけたっていうの? リリーシュ様、どう思います?」
「えーと……どうなんでしょうねー?」
「いえ、リリーシュ。そこはしっかりはっきり否定してください。この女神のせいで国を守るために立ち上がった兵士が幾人も倒れました」
「そうね。そしてなにより、ルナ様に反旗を翻しているのです。処罰をくださなければいけません」
ハイレンはいつものおバカ、リリーシュはわざとそういう返答しているのかいまいち不明。
そして、ヒフィーとノノアは中級神派の女神は断固処罰するべしって感じか。
さて、ここで説得するべきは、ヒフィーにノノアかね。
「こいつなんか『はっちゃけた』で十分だ。すべてに絶望して銃器開発して各国に喧嘩を売ろうとしたどこぞの女神様とか、人が対話をって言ったのにどこかのおバカお姫様と剣神の言うことをうのみにして敵対してたどこぞの女神様ってやつよりよっぽどな」
「「がふっ!?」」
「2人のことはおいといて…。裏で色々やっているかもしれないのよ? そこは良いわけ? はっきりとはしてないけど、どう見てもダンジョンマスターはヤってるわよ」
「もし、殺したから処刑台っていうなら、ここの全員処刑台行きだろう? 別に俺たちは関係してなくて迷惑はかからなかったから、特に恨みなんか持ってないね。というかむしろハイーン皇国側の馬鹿連中を巻き込んでくれてラッキーだ。堂々と処分できるからな」
ユーピア皇帝、ハンス皇帝共に、あの馬鹿たちを反逆罪でしょっ引けるってことで大助かりだ。
これで後顧の憂いなく、今度の統治の話に移れるってものだ。
おまけに、あの馬鹿どもに取り入ってたやつらも、あの女神が魔物を呼び出して暴れたおかげで肩身狭くなっているからな。
今まで担ぎ上げてた神輿がいなくなったからって、慌ててユーピア皇帝かハンス皇帝に取り入ろうとしている真っ最中らしい。
どっちも情報を共有しているからどのみち馬鹿どもは終わりだ。
……そして、それとは別にハンス皇帝とその部下たちも『終わり』は覚悟している。
ま、そこはまた別の話か。
今はそこの女神の処分だ。
「なに? 許したってことで仲間にでもなってもらうつもり? そういう説得ができるような性格には思えないわよ?」
「そこも良くわかっている。そもそも、力が上のルナに逆らったんだから、相応の覚悟があったんだろうってな。だからそこを利用する」
「「「利用?」」」
女神たちはみな、不思議そうに首をかしげてる。
しかしながら、嫁さんたちは得心したような感じでやれやれって感じになっている。
「俺は今回のことで中級神派が厄介だということに気が付いた。いや、あらためて思い知った。まあ、どうしたって俺を嫌って敵対する神連中もいるが、こういう面倒はなるべく減らすのが世の中をうまく生きていくコツだ」
そう、ハイレンをおちょくるのと違い、敵ばかり作っては生きていけない。
そういうものだ。
ここまで言えば、さすがにルナは分かったようで……。
「ユキ。まさか……」
「そうだ。俺たちはルナ、つまり上級神派の『ふり』をしている中級神派ということにしよう」
「「「はぁー!?」」」
そろって驚きの声を上げる女神たち。
「そんなに驚くなよ。どこだって敵に入り込んでの情報収集はやるだろう? それと同じだ。敵には情報を喋らなくても、仲間なら情報を漏らす。違うか?」
そう題して、『僕たちは君の仲間なんだよ』作戦。
敵には情報を喋らなくても、味方になら情報を教えてくれるという単純な話だ。
「えーと……。ユキって意外とお馬鹿だったわけ? そんな簡単に信じるとホントに思うの? このセナルって女神が?」
「失礼な。ハイレンよりはましなつもりだ。というか、お前もあんまりセナルと変わらんだろうが。『正しい』と信じることをやっただけだぞ。こいつも」
「ん? そうなるわけ?」
「ハイレンちゃーん、騙されちゃだめよー。で、ユキさん、このセナルおばあ様が逆に襲ってこないともかぎらないのよー?」
「いやいや、リリーシュ。お前さんが一番セナルに喧嘩売ってるからな」
見た目若い女性に対しておばあ様呼びとか、完全に喧嘩売ってるだろう。
「だってー、一番年上なんだものー。ね、ちゃんと敬わないといけないわよねー?」
「その通りです。年上はちゃんと……。いえ、そんなことよりリリーシュの言う通り、襲ってきたらどうするのですか?」
「そうよ。力を取り戻してないとはいえ、レベルは私たちよりも上なのよ? こんなのがウィードや関係国で暴れたりしたら、それこそ大変なことになるわ」
「煽るのは禁止だ。で、このセナルってやつが暴れないようにちゃんと枷ぐらいはつける。そこはルナにも手伝ってもらう」
「私?」
「そうだよ。流石にウィードで危険を冒すわけにはいかないからな。ちゃんと何重にも対策は立てる。だが、その前にまずは女神ども。俺の作戦に協力しろ」
案外この連中ルナに対して忠誠心が高いのか、『中級神派』を名乗るのは嫌みたいだからな。
そこはちゃんと説得しとかないといけない。
押してもだめなら引いてみろ。
北風と太陽作戦だね。
敵がだめなら味方になればいいじゃない!




