第1044堀:もう一人の皇帝
もう一人の皇帝
Side:霧華
『で、霧華。ウェーブ将軍のことを信じるか?』
そう問うてくる我が主様。
先ほどウェーブ将軍から皇城の地図をいただき、それを利用してハイーン皇国皇帝の御座所に忍び込もうとしている最中で、やはり主様はその真意が気になっているようですね。
「……半分半分というところでしょうか。私という他国の密偵を捕らえることができればそれはそれで評価されるでしょう」
『なるほど、どちらに転んでもウェーブ将軍にとってはいいわけだ』
「はい。私が密かに皇帝陛下の情報を得てくればそれでよし。私が見つかった時は皇帝陛下を守る将軍として馳せ参じ、皇帝陛下を守るという名目で自分自身が直に謁見する機会とする可能性が高いでしょう」
まあ、私としては失敗するつもりは毛頭ありませんし、ハイーンの皇帝を確認する良い機会ですので全く問題ないのですが。
そう、ここで私が皇帝の情報を得るのは主様の手助けとなります。
元々その予定でもありますし私にとって何も問題はありません。
「で、ウェーブ将軍の様子は?」
『隊長と別れた後は、事前に言っていたように巡回の兵士と雑談をしながら徐々に門の方へ向かっています』
ふむ。ちゃんと約束を守ることはしますか。
多少なりと信じていいでしょう。とはいえ、私が油断すれば躊躇わずに後ろから切りかかるでしょうが。
私はそんなことを考えつつ、皇帝の寝所があると教えられた中庭へとやってきました。
パッと見ただけでも警備の兵士として32名いるのが確認できました。
これが多いのか少ないのかまではわかりませんが、その警備に視界的な隙はありません。
そして窓やドアにはやはり情報通り衛兵が立っています。
『おおう。強烈だな。とはいえ、大国の主だ。これぐらいは当然するか』
「ですね。こういう危機感はちゃんとあるようです。さて、どう中を確認したモノでしょうか」
『上からは……やめておいたほうがいいな。中庭が見える窓にも警護の兵士がいる。上も監視されているな』
主様の言う通り、屋根を一部破壊して侵入経路を作るという手はあるかと私も思ったのですが、ちゃんと中庭を城の上階から監視する兵士がいます。
『う~ん。これは、朝を待った方がいいか? 給仕の連中とか出入りしそうだし』
「それが最善ではありますね。ですがとりあえずその前に窓から中を見てみましょう。私の姿は敵には見えませんから」
『気を付けろよ。光学迷彩が解除される可能性もあるからな』
「はい」
主様の言う通り、この中庭は魔力無力化ゾーンになっている可能性も考えられます。
なので先に魔力無効化ゾーンか調べるための棒を突き出します。
その棒の先には、神社で使う大幣ほどではありませんが、付けられた紙に魔力が込められています。
そしてその魔力が霧散すれば、紙の色が青から赤になるという仕掛けがしてあるので、それで判断ができるということです。
発想はリトマス試験紙というものからだそうです。
「まずは前方2メートルは安全のようですね。というか所詮光学迷彩が解除されるだけですから、それほど気にする必要はないのではありませんか?」
『いや、自分の身を張って調べるよりはるかにましだ。そのまま慎重にな』
「はっ」
確かに主様の言う通りです。
わざわざ私自身の身を使って調べる必要などありません。
なので、ソロソロとこの魔力確認棒を伸ばしていきます。
元は2メートルなのですが、継ぎ足すことで最大十数メートルまで伸ばせます。
もちろん、私自身は光学迷彩も効いているので堂々とやらせてもらいます。
中庭を囲む建屋の屋根の上をぐるりと一周回ってみましたが、どうやら中庭の上空には魔力無効化領域は無いようです。
あとは、中庭の地上そのものですね。
なので私は魔力確認棒をそのままに中庭に突入します。
こちらも依然反応はなしですね。
しかし、私自身には光学迷彩が効いていて見えないとはいえ、目の前で宙に棒の先に紙が付いている妙なものが通りすぎているというのに、全く反応しない兵士にはちょっとがっかりです。
もちろん、こちらとしては見つからないために風が立たないようにゆっくり動かしていますし、当然ぶつかるようなへまはしないように万全の注意は払っていますが、それでも気配すら察知できないのは護衛としてどうなのでしょうか?
まあ、私にとっては楽なのですからいいでしょう。
「報告いたします。魔力無効化は今のところ確認はできませんので中庭に侵入します」
『了解です。隊長お気をつけて』
『気をつけてな霧華』
「はい」
主様のあたたかいお言葉をいただきさらに気を引き締めた私はスタッと中庭へと降り立ちます。
もちろん着地音など立てず魔術も使わず静かにです。
やはり光学迷彩はちゃんと効いているようで、周りにいる衛兵たちは一切動きを見せません。
しかし、ここまで来て多少疑問がわいてきます。
王の警護ではありますが、ここまでやるでしょうか?
どうもいささか人が多すぎる気がします。
……まあ今気にしても仕方がありません。
罠で、捕まえるというのであれば、さすがにここまで来ればもう囲んで来ていてもおかしくないですから。
とりあえず、あちらの窓の方に向かいましょう。
ということで、私は予定通り部屋の中を覗くためその皇帝の寝所である中庭の建物の窓に近寄ると……。
『やはりカーテンがしてあるな』
……はい。主様の仰る通りカーテンが閉まっていて、中の様子はうかがえません。
ま、夜ですからね。当然のことでした。
とはいえ、そんな当たり前のことに対策を考えてないわけがありません。
こういう監視も多く、かつ、封鎖されているところへ潜入や情報収集ができなくて何が忍びでしょうか。
まずは、外にいる兵士の動きの再確認と、建物の中にいる兵士などの確認。
当然皇帝の寝所には兵士や侍女が控えているものです。
ですので、窓やドアから無事侵入できても、中で出くわす可能性が高いです。
光学迷彩が作動しているとはいえ、気配を察知されて対処されること自体が駄目なので、ちゃんと数を把握したうえで行動を起こすべきでしょう。
ということで、感知能力と魔力感知を引き上げて建物の中を調査します。
……やはりそれなりの人数の人がいるので、警護の兵士が建物の中にもいますね。そして、この反応の中に皇帝がいるのと考えていいのでしょうか?
ああ、複数の人に囲まれるようにして、それでいて一定の距離を保たれている人が1人います。
これがそうでしょうか? ……入ってみればわかることですね。
私はドアの方へと近寄り、兵士たちの意識が一瞬それたタイミングを見計らって、そっとドアの中に体を滑り込ませした。
ああ、もちろんカギは開錠しています。
入った部屋の中はそれはそれは豪華な作りなのですが、いささか私としては落ち着かないですね。
国のトップが住むにふさわしい装飾といえばそれまでですが…、どうも生活感がないです。
そして、主様はこの手の部屋は苦手となさっています。汚さないように気を遣うからと。
と、そんな感想はいいとして、調査ですね。
部屋の中にはたしかに兵士がいますが、な、なんと皆、居眠りをしているようです。入ったドアの正面にも2脚の椅子が用意されていて、ドアを見張る形で護衛の兵士は確かに座っているのですが…、こんな警備で本当に大丈夫なのでしょうか。
まあ、私は楽でいいですが。
とはいえ気づく兵士がいないとも限らないので、周囲の警戒はしつつ中に進んでいきます。ちなみに、城の中庭に作られている部屋なので皇帝の寝所とはいえ、たいして大きくもありません。
それに、見える身を隠せる場所も限られています。
何のかんのといって。こういうのは侵入者対策ということでしょうね。
そんなことを考えつつ、護衛の兵士に囲まれる皇帝と思しき反応があった場所へと足を進めます。
その目的地には皇帝たる地位に相応しいといえるそれは豪華なベッドがあるのですが、残念なことに天蓋が下りていてその中は確認できません。
『うん。露骨な偉い人用のベッドだな。俺はどうもあれは苦手だけど』
ですね。主様はこういう装飾過多なものは苦手となさっています。
というかこの部屋の大きさを考えると、暖気などを考えて天蓋を付けているのでしょう。
人の出入りで外気が入り込み室内の温度が安定しませんからね。
さて、なぜ天蓋がついているかはいいとして、中の確認をしましょう。
お付きのメイドは二名がおそばで椅子に座って待機していましたが、ちょっとこちらの無味無臭の気化しやすいお薬をぽとっと肩に落としてあげると、たちまち首がガクッと落ちて夢の彼方へと行きます。
さて、あとは皇帝の姿を……と思っていると。
「誰かな?」
そんなご老人らしき声が部屋に響く。
無論私は返事などすることはなく、静けさだけが返事となる。
「ふふっ。ワシの部下たちが問われて声を返さない時点で誰かが侵入している証拠よ」
ああ、なるほど。
これは一杯食わされたということですね。
とはいえ、返事をする理由は……。
「そなたに殺気がないのはわかる。何ぞ話を聞きに来たのではないか? それとも単に物見が目的か? それとも私の勘違いで、このおいぼれの首でも取りに来たか?」
これは相手は完全に私がいることを認識していますね。
うかつにこのまま無言で去れば、かえってこのことを伝えられて問題になる可能性がありますね。
「ふむ。では、条件を出そうか。ここで話してくれれば、今日のことは黙っていよう。どうかな?」
ほう、さっそく次の手を打ってきましたね。
この御仁は頭の回転は速いようです。
さて……どうしたものかと迷っていると……。
『そうか。なら話をしないとな』
主様が代わりに答えてしまいました。
「おや? 気配から女性かと思っていたが。なんと、男であったか」
『いや、派遣しているのは美人さんだぞ』
「ふむ。なるほど。使いの者か。ふむ、声を届ける魔術は確かにあったな」
どうやら、かなり見識もあるようです。
これは、隠す理由はありませんね。
素直に天蓋を取り払うとそこにはベッドに横になったご老人の男性が横たわっていました。
それを確認し、直ちに光学迷彩の魔術を解きます。
「ほう。本当に美人さんだ。ごほっ。初めまして、私はこのハイーン皇国が皇帝。名をハンスという」
『意外だな。もっと長い名前があると思ったが』
「ああ、変わりすぎて老人には覚えにくい名ならあるな。確か……ハンスノールド・ベイルグセ・ア、ア……なんだったか?」
「はぁ。ハンスノールド・ベイルグセ・アーゼル・ハイーンです」
「あぁ、それだ」
なんでご本人が自分の名前を憶えていられないのか。
ああ、そういえば元の名前から変わりすぎて覚えられないといってましたね。
確かに、なじみがなければ覚えられないモノでしょうが、それでも権威の問題があるかと思うのですが……。
『わかるわかる。勝手に周りが権威ある名前というやつに変えて事後報告だから、全然実感がわかないんだよな』
「そうそう。何度も領土の名前を継ぎ足して混ぜて、変えて、もうわからん」
『「わっはっはっは」』
なんでこのお二人は和やかに話をしているのでしょうか。
はぁ、話ができてるのですからいいのでしょうか?
「さて、ワシは名乗ったが、そちらも名乗ってもらえるのかな?」
『名前はユキだ。まあ、こっちではそう名乗っている』
「こっちでは…ね。まあ、やっかいだが。ユキ殿という名は覚えるのに支障はない」
『それはよかった。さて、互いの自己紹介が済んだところで、ちょっと夜の長話に付き合ってくれないか?』
「よか、ごほっ、げほっ……」
と言いかけ、ハンス皇帝は口から血を吐き出します。
そしてこの咳はよくないです。
『霧華。まずは治療だ』
「はっ」
早速私は主様の命に従って動き始めます。
さて、この場合はなんの薬を使うのが適切でしょうか?
ハイーンの皇帝とようやく対面。
そこで語られることとは?
それでズラブルとの関係に変わりがあるのか?
何が起こっているのか。
あと、コメントはいつも読んでおります。
ありがとうございます。
そして誤字脱字や日本語意味不明みたいの所もあるようで申し訳ないです。
なんか最近結構忙しくてそういうのになりがちです。
なるべくそういうのがないように頑張ってきたいと思いますがよろしくお願いします。
もともと、勢いで書いているのでなかなか見直しとかしないんですよねー。




