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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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第1039堀:大山脈捜索の本当の意味

大山脈捜索の本当の意味



Side:ショーウ



「雪山は物凄く寒いです」

『やかましいわぃ。毎度毎度馬鹿の一つ覚えのコメントなぞいらん』


かような辛らつかつ無慈悲な応答をなさる我が主で親愛なるユーピア皇帝陛下。

現在私は、ユーピア皇帝陛下の勅でかくも極寒の大山脈に赴いているというのに…、何という冷淡な扱いか。


「それは仕方ありません。軍務の報告上である故、まずは天候の状況をとなるのは当然のことです」

『かようなこと、報告書の中だけで良いわ。しかも単に寒いといぅとるだけじゃろうが。で、報告することはそれで仕舞か? 今日の探索も成果なしか?』

「はい。残念ながら……といいたいですが、今回はそれ以上にひどいです」

『ひどい?』

「ええ。ここ5日ほどは天候に恵まれましたが、本日は猛吹雪となっています。とても人が活動できるような環境ではありません」

『ふーん、猛吹雪のう……』


あ、こりゃダメだ。ユーピア皇帝は『雪山での吹雪』という最悪のコンボが少しもわかっていない。


「あとで、アスリン殿たちが記録した映像がデリーユ殿経由で届けられますので、確認してください。視界ゼロ、氷点下の世界。私だけでなく、アスリン殿たちですら足を踏み外し遭難する可能性があります。ミリー殿からはこのような日は間違っても一歩たりと外に出ないし、決して出ないこととの厳命を受けております」

『ふむ。ミリー殿がさようなことをいうほどか。確かに、雪山の進軍経路を検討したさいにもそういう話はあったな』

「はい。フォーマ王国への進軍ルートを決定したときに話が出ました。確かにこのような環境であれば人は簡単に凍死します。防寒具の用意だけでも途方もない金額がかかるでしょう。あのルートをやめて本当に正解だとひしひしと実感しています。そして、両将軍の見識の深さには驚くばかりです」


この私ですら雪山程度、準備さえ整えれば問題なく行けるだろうぐらいの気持ちでしたから。

しかし、実際体験してみると準備がどうしたなどというレベルではありません。兵士たちには数人ごとに適当にテントでもあればいいだろうと思っていましたが、これではあっという間に凍死します。


『ふむ。最北端のルートは真に進軍し難き地ということか。なら、警戒はいらなかったかのう?』

「いえ。逆に警戒の兵は絶対必要でしょう。なおのことあのルートが穴となりますから。あそこを無事抜けられる軍があれば、それは確実に精鋭であり、かつ、後戻りなぞ考えていません。ひたすら前に進むしかないのです。当然、もう一度雪山を無事超えて撤退できるなどとは思っていないでしょうから」

『……つまり死兵ということか』

「はい。あそこを敵が進んでくるのなら、それを迎撃することは容易ではないでしょう。ですからなおのこと警戒を厳にする必要があります」

『よぅわかった。警戒をさらに強めることとしよう。しかしのぅ、眼前の雪山の話ではなく、なんで最北端ルートの話がでるかのぅ』

「それは仕方ありません。なにしろ外はとんでもない猛吹雪なのです」


私はそう言いつつ、コンテナに取り付けられた窓から少しでも外を覗き見んと目を凝らす。

晴れていればそれは綺麗な雪景色が見えるのだが、今は……。


ゴォォォオォォ……。


ただの白。

ほんとにただただまっ白。

そして、これが夜になればただの黒に変わるだろう。

しかも光すら意味がない。

雪がこの世のすべてを覆い隠し、明かりも全く意味がない。

このコンテナから一歩でも外の世界にでて、なお生き残れる人などいないだろう。そう思える。


『しかし、ここまでかくも何も見つけられぬか。ゲーエンとかいうモノの正体を探る以前の問題じゃな』

「はい。そもそも、大冒険者ゲーエンの伝説自体が遥か昔のことです。おそらく僅かな痕跡ですら見つけることは不可能でしょう。なにより期間も短すぎます。今回ゲーエンが大山脈に挑戦する前に立ち寄った町を見つけられただけでもかなり幸運ですよ」

『そうじゃな。今回のことは、ワシらにとってはむしろ大山脈の魔物の調査こそ大きな価値といえるか』

「ええ。この件、そっちの方が我が国にとって価値のある情報でしょう」


ユキ殿たちにとってはダンジョンマスターという災厄の元を追うことが大事かもしれません。ですが、私たちにとってはそんなものより目の前に実際に見えている魔物という脅威の方がむしろ危険度が高いのです。

いえ、あのユキ殿があそこまで警戒しているのです。情報としてだけしか知らないダンジョンマスターなる魔物を操り災いをなすという非現実的な存在について正しく認識できていないだけなのでしょう。

この雪山という現実でさえ、ただ言葉の意味としてしか知らなかったように。

ですが、だからこそ、先ずは私たちは自らが理解ができる問題に対処していきましょう。


『うむ。ワシらが理解の及ばぬことは、ユキ殿たちが対処し守ってくれようぞ。そのことで頼りきりは致し方ないが、人は人として出来ることを着実こなしていくより他にない』

「はい。本来私たちだけであれば、こうして大山脈に手を出すこともありませんでしたし、ダンジョンという脅威も全く見落としたままだったでしょう」

『そうじゃ。ユキ殿たちがきてより、我が軍の進軍を阻む障害は着々と取り除かれつつある。フォーマ王国に点在するダンジョンにはすべて監視を送った。何かあれば即座に反応できるじゃろう。ヴォルの方もハイレ教より贈られし宝玉、マジックギアを揃え昔以上の軍となっておる。ここまで後押してもろぅておいて負ける方が可笑しいわ。ほかの戦線もミラベルや小規模ではあるが他の部隊が見張っておる。万一抜かれても対処は間に合おぅ』

「はい。ユキ様は些か神経質過ぎるほど些細な犠牲をも厭うておられるようですが…、もとより私たちは自らの血を流さずに結果を得られるなどとは思っていません」


そう、私たちは『戦争』をしているのだ。

それで自分だけは無事でいられるなどと虫の良いことは考えていません。

もとよりこの身も半身を焼かれた過去があるのですから。


『うむ。確かに犠牲がなくばそはいいことじゃ。じゃが、犠牲を恐るらばすべてを失う。ま、ユキ殿とていざとならば斯様な決断、ためらわんじゃろうがな』

「確かに。そうでなければヴォル将軍率いる第二方面軍相手に、たとえあの空母があるとはいえ絶対的な数の差を知りながら戦いを挑もうとは思わなかったでしょうから」


ユキ様も、いざとなれば周りに犠牲を強いる戦法であってもためらわずに使うでしょう。

だからこそ信用ができる。

彼は決して甘くはない。常に状況を着実に見極めている。

何かあれば必ず手を打ち、そして被害を最小限にとどめるだろう。


『もとより、我が国より遥かに実力が上じゃ。彼らですら失敗するとあらば、ワシらでは到底成功せぬ。ならば、背中は任せ、ワシらはワシらが目的の達成に邁進すべきぞ。そのためにユキ殿は、能うかぎりのおぜん立てをしてくれたわけじゃな』

「では、陛下」

『うむ。どのみち端から大昔の人物を追えるなどとは思っておらぬ。じゃが、このままアスリンたちにはその雪山で捜索と調査をしてもろぅとる方がよかろう。ワイバーン以上、どころか国一つ滅ぼせるほどの怪物を従えておらば、大山脈の魔物とて易々と対処できよう』

「あはは。あれは心底驚きましたよ。しかし、陛下がご存じだったとは思いませんでした」

『ワシはアスリンの親友ぞ? 十魔獣がこと、知らぬわけがないわ』


十魔獣。

それはなんとアスリン殿個人に仕えている魔物の総称。

しかも恐るべきことに、一騎当国。一騎で国を落とせるといわしめるほどのレベルだ。

まあ、それでもスティーブ殿たちと当たればなすすべもなく負けるとか冗談のような話をされても、さすがにいまだに実感がわかないですが…、イグちゃん、フェーちゃんの威圧感はこの身で直に感じました。

あれはもう、敵対しようなどと毛先ほども思えない脅威でした。

あれですら負けるようなことがあれば、それは本当にどうしようもない。それだけな話です。


「しかし、本当に良いのですか? かの十魔獣の一騎だけでも援軍として手助けいただければ……」


打倒ハイーン皇国は簡単に成るだろう。

犠牲も最小限で。


『わざわざワシらの戦いに彼女たちを巻き込む道理はない。いや、巻き込みとぅない。血が流るるを知らぬわけではなさそうじゃが、それでもいらぬ業を背負わせることもあるまいて。それにな、戦後もようよう考えねばならぬ。ユキ殿やセラリア女王はそこまでもちゃんと見据えておる』

「ですね。ウィードのおかげで勝てたなどと、国が乱れる元です」

『こたびのことはまっこと都合がよかったのぅ。馬鹿どもがアスリンたちの実力を知らば適当に理由をでっちあげ、前線に出そうとしたじゃろう』


そんな陛下の言葉が聞こえていたのか、急に部屋のドアが開き。


「その割には出がけには随分とごねてくれたじゃない? ユーピア皇帝ちゃん?」


ラビリス殿、ミリー殿、エージル殿が揃って入ってきた。


『うぬ、それとて、アスリンやラビリスを危険なところに送るのに違いはないからのう。嫌なのは事実じゃ。のうのうとワシのそばにおらばよい』

「いや、そんな平然と返さないでください。で、皆さんは全部聞いていたのですか?」

「全部ってわけでもないけど、それなりにね。別に隠すことでもないでしょう」

「そうだね。今後のことも踏まえると、僕たちが表立って力を貸すとまずいからね。だからこそユキは後方を固めようって動いているんだけどね」


どうやら、陛下がアスリン殿たちを遠ざけたことに関しては特に思うことは無いようです。


『うむ。ユキ殿が好意、無駄にせぬためにもな。この戦い、ワシらが力だけで成し遂げる』

「はい。皆様もよろしくお願いします」

「ええ。そういうのは構わないわよ。そもそも他所の争いに口を突っ込むっていうのは本来はとってもデリケートなものだし」

「今回のは突発的かつ偶発的だったしね。とはいえ、ユーピア皇帝、大皇望ショーウ、これだけは肝に銘じておいて頂戴」

『なにかのう? ミリー殿?』

「なんでしょう?」


陛下と私がそう質問をすると、続けて答えたのはなぜかミリー殿ではなくエージル殿が……。


「僕たちの旦那であるユキは君たちの死を望んでいないし、ズラブル大帝国の崩壊も望んでいない。何かあればあなたたちなんかではどうしようもない方法で割り込んでくるから、そこだけはしっかり覚悟しておくといいよ」

「くすっ。そうね。ユキってそういうのがとても得意だものね。ピンチだと思っていたらいつの間にか勝利していて、その挙句に訳が分からないような不思議な後始末だけを任されることになるわよ」


うん? 何を言っているのか全くわかりませんね。


『ふむ。ようわからんが…、ともかく安心して突っ込んで来いということじゃな?』

「ええ。その答えで十分よ。後ろは任せておきなさい。ダンジョンマスターやこの大山脈のこともあるからね。正面作戦に参加する余裕も意思もないけど、だからこそ確実に後ろは抑えるわ」

「背中はしっかり守ってくれるということですか」

「そうよ。私たちは不測の事態に備えるために完全に後方に引っ込むわ。だからハイーン皇国との戦いは全て任せる。まあ、当初の予定通りね」


なるほど。ユキ殿の方針が完全に固まったというわけですか。


「中途半端に戦力を散らすよりはいいことかと」

『そうじゃな。とはいえ、ハイーン皇国におるウェーブ将軍とやらとのやり取りはどうするのじゃ? そも放棄するのか?』

「そこは交渉しつつね。戦力としては後方支援だけってこと。まあ、当初の予定通り多少の戦力融通はするけど、その戦力はあくまでユーピア皇帝の直属ってあつかいだから……」

「問題なくヴォル将軍率いる第二方面軍が勝てば使うことはなく、何かあって陛下が前線に出ることになっても、あくまでも陛下の力と」


やはり、よくこちらのことを考えてくれていますね。

まさに盤石というべきでしょう。


『なんともワシらに都合が良きことじゃな。そちらの目的は知っておる。じゃが、見返りは…うぬ、何がいいか悩むのぅ』

「ですね。ここまでいろいろ支援されてしまうと、今後大陸間交流同盟に入るときに色々問題が出そうです」


いやはや、もう負けるとはこれっぽっちも考えていないのはすごいですね。

こうしてとある吹雪の日。その日は私たちにとって大事な戦略を考える日となったのです。



これでアスリンたちが戦地に無意味駆り出されることを回避。

ズラブル大帝国は自らの手で大陸の覇権と平和を握るために動く!


そしてユキたちはその戦いの中でどう立ち回るのか、ハイーンはなぜ動かないのか?


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