落とし穴番外:宝物捜索
宝物捜索
Side:アージュ
お姉さまに首根っこを押さえられたまま浜辺に連れてこられたものの、宝物を探すというイベントには私も内心興奮していて、けして嫌ではありませんでした。
ですが……。
「全然、これっぽっちも見つかりませんよ!」
そう、なぜか見つからないのです。
掘っても掘っても掘っても掘っても、どこを掘っても、いくら掘っても宝箱は見えてきません。
絶対この浜辺にあるはずなのに…、私の魔術にもそれらしいものはなにも引っかからないのです。
……まぁ、お兄様のことですからそういうサーチやソナーを無効化するようにしているのでしょうけれど。
ホントになんて厄介な。…とはいえ、そんな意地悪はやめてくださいとお兄様に言ってしまえば、私には探せないと、見つけられないと宣言するのも同じです。
疲れて一緒には来ませんでしたが、ドレッサたちはここまで自力で謎を解いてきました。
だからこそ私たちがそんなずるをするわけにはいきません。
何としても自分たちの力で宝箱をみつけないと。
というわけで、いったん作戦会議をすることにしました。
「はい。今はラビリス、シェーラ、ドレッサが屋敷で休憩中なので、私が司会進行を務めます」
わー、パチパチ……。
私の指揮官就任宣言にもアスリンたちは少しも嫌な顔をすることなく快く受け入れてくれます。
本来の立場であれば、アスリンやフィーリアが私に命令を出すべきなのですが、ここは仕事場ではありません。
今はあくまで遊びとしてみんなで力を合わせていて、命令を出しているのです。
だから何も問題はありません。
「これまで無作為に砂浜をあちこち掘ってみましたが、全然見つかりません。ですので、ちゃんと考えて場所を決めて探しましょう」
「話は分かりますが…、なにをどうやってその場所を決めるのですか? 掘るべき場所がわからない以上、とにかく人海戦術の方がよさそうな気がしますが?」
「お姉さま。それでは何も考えずに掘り返しているだけです。そしてその方法を試した結果、今のところ何も出てきていません。だから考えようというのです」
「むう。確かに」
お姉さまは一度始めたらひたすらその方法でやり抜くという傾向が強いですからねぇ。
まあ、将軍としては下手にコロコロと指示を変えては混乱を招くだけという意味合いもあるのでしょうが、ここは少人数で意思の疎通にもまったく問題はありませんから、方針の一貫性よりしっかり考えるべきなんです。
答えを知っているお兄様だって、とくに口を出すことなくこちらを静観しています。
「でも、スタシアお姉ちゃんの言う通りだよ。その掘る場所ってどうやって決めるの?」
「さっぱりわからないのです」
「そうですね。地図を改めてよくみてみましょう」
私はそう言いながらアスリンたちが探し出した宝の地図を簡易指令室のテーブルに置きます。
まぁ、確かにただのビーチパラソルとテーブルが置いてあるだけです。ですが、誰が何と言おうともここは簡易指令室のテーブルなのです。
で、その地図にはお兄様がお作りになったとはとても思えない雑な地図とも言えないような落書きと共に、よくみると何やら文字が書いてあります。
「この地図の真ん中の×が付いているところはもう私が探しましたけどありませんでした」
「ヒイロも探したけど見つからなかったよ」
地図に従って掘ったけどダメだったというヴィリアとヒイロ。その彼女たちが視線を向ける先にはお宝さがしの前にはなかった大穴が開いた砂浜と、その脇に連なる砂山の山脈があり、その頂きには旗印か何かのようにスコップが突き刺してあります。
「はい、それで分かったのは、この地図の×の位置の精度は高くは無いらしいということです。というか、恐らくただ単にこの砂浜一帯のどこかにあるというだけの印かもしれません」
「なるほど。ただこの砂浜に目的地があるという印ということですね」
「はい。お姉さま。ですから、真に考えるべきは……」
私は地図に書いてある文字に視線を移す。
書いてある言葉は……。
『水の迫ることなき緑ある地を求めよ』
「水の迫ることなき緑ある地ですか。ふむ」
お姉さまは地図に書いてあるその文字を呟くように読んで、あたりに隠れた敵でもいないかと探すような鋭い視線で見回していますが、いくら探しても残念ながらこの砂浜には緑があるような場所は全くありません。
「どういう意味なんだろうね? 砂浜に緑なんてないよー」
「ないのです」
「お兄おしえて?」
「ダメだ。ちゃんと頭を使うようにな。で、ヴィリアは分かったか?」
お兄様がそうヴィリアに質問します。
そうですね。ヴィリアは頭の良い子です。
答えではないとしても、何かヒントになることでも思いついているかもしれません。
「ええーと、お兄様。一つ質問していいでしょうか?」」
「おう。いいぞ」
「この地図はここの浜辺を示したものですか?」
「そうだな。この浜辺で間違いないぞ」
お兄様はそう断言します。
作った本人がそういうのですからやはり間違いないですね。
ま、嘘をついていたら別ですが、お兄様がこの時点であえて嘘をつく理由もありませんし、真実を言っていると思います。
でも、宝物も、その目印となる『緑』も見つからない。どういうことなんでしょう?
と、私が思考にふけっている間に、ヴィリアはさらなる質問を続けます。
「そうですか…。では、お兄様。浜辺、砂浜というのはどの範囲をさしますか?」
「いい着眼点だ。砂浜って言っても海辺の砂がある場所だけをそう呼ぶわけじゃない。堺も砂浜って、浜辺って認識できるだろう?」
「「「あっ」」」
そういわれて私たちも理解した。
そっかー。うん、砂浜、浜辺って何も海に近接しているところだけを言うわけじゃない。ここから浜辺といってしまえばそれで終わりだ。
土地の範囲なんて人によりけり。
つまり……。
「水の迫ることのない緑ある地というと……」
お姉さまの声と視線に引きずられるように私たちは海辺から私たちがやってきた森への道へ視線を向けると、森との境の手前にわずかではありますが、そこには確かに雑草が生えている場所が存在しています。
「あちらが怪しいですね。なにやら看板も立てかけてありますし」
お姉さまの言う通り、その看板には『浜辺は綺麗に使いましょう。ごみは持ち帰りましょう』という警告が書かれている。
つまり、あの緑がある場所も浜辺の一部だとこの土地の管理者は伝えているわけですね。
そして、お兄様はヴィリアにいい着眼点といっていました。
ならば……。
「あちらが怪しいです。水の迫ることがない。ということは水際からはある程度離れているということです。そういう意味でもあそこはこのヒントに合致しています。あそこを探しましょう!」
「「「おー!」」」
ということで、さっそく私たちはその場所を調べることにします。
私も一緒にスコップを抱えて雑草が生えている場所にたどり着くと……。
「ここ一帯の地面は砂ではなく土ですね。何かを埋めるにも問題ないでしょう。ま、砂だと波にさらわれて持っていかれる可能性もありますからね」
「なるほど。確かにその通りですね」
「あと、何かを隠すにしても水気があると物というのは腐敗したりするものです。ですので腐敗を避ける意味でもこちらにしたのではないですか? ユキ様?」
「おう。その通りだ。じゃ、あとは頑張って見つけてくれ」
お兄様のお墨付きもでました。
宝はここのどこかに存在しています!
ザクザク……。
既にアスリンたちも自分の勘に従って怪しそうなところを掘り返し始めています。
私も負けじと同じように掘り返そうとすると……。
「待ちなさい。アージュ」
「なんですかお姉さま? 宝はもう目の前なんですよ?」
「だからちょっと落ち着きなさい。ここまでせっかく考えたんです。ユキ様が埋めたその場所の当たりつけてからでいいでしょう」
「お兄様が埋めた場所ですか? そんなわかりやすい目印があるとは思えませんけど?」
お兄様が隠蔽したのですから、それは巧妙に隠されているはずです。
それを見ただけで探せるわけがないはずですが……。
「これはあくまでもユキ様が用意した遊びです。ですからちゃんとヒントはありますよ」
「お姉さまにはわかるのですか?」
「ええ。で、ユキ様、この宝探しの準備をしたのはいつごろでしょうか?」
「最近だな。そしてスタシアの言うようにそこまで気合を入れて隠してはないさ」
最近隠した。
そして、お兄様は本気では隠していない。
つまりわかりやすいヒントがあるということですね。
私は今一度落ち着いてこの浜辺の緑がある一帯をしっから見直したところ、たった一か所だけポツンと緑がないことに気が付きました。
そして何より、露骨に掘り返した跡があります。
なるほど。たしかにあれは盲点ですね。
「お姉さまはいつ気が付いたのですか?」
「ここに到着したときに気が付きましたよ。あの古い洋館をあれほど簡単に用意できるのに、あそこだけ不自然でしたからね」
「確かに。では早速掘ってきます!」
と言いながら、私は目標を定めてスコップをもって走っていきます。
その後ろで……。
「やっぱり妹には甘いな」
「ユキ様も十分甘いかと。私やヴィリア、そしてアージュに対してすぐにヒントを出してくれました」
「そりゃ、かわいい嫁さんたちに意地悪する理由がないからな」
「ありがとうございます」
ちっ、お姉様とお兄様はホンッと仲がよろしくていいですね!
それって喜ばしいことの筈なのに、なぜか腹が立ってきます!
こっそり撮ったこの写真をお父様やお母様、お兄様にも……いえ、お兄様はお姉様に頭が上がりませんから不要ですね。送りつけてからかってもらいましょう。
と、そんなことを考えながら、私は目的の場所にたどり着きました。
『浜辺は綺麗に使いましょう。ごみは持ち帰りましょう』
と看板には書いてあり、その足元はいかにも一度掘り返して埋めなおしましたよと言わんばかりの跡がありありと残っています。
確かにお姉さまの言うように、雰囲気を出すのであれば、いくらでもずっと昔から埋まっていたようにできたはずです。
なので逆に、ここが一番怪しい。
私は迷わずスコップを地面に突き刺し掘り返し始めると、そう何度も掘ることもなく。
ガキン。
スコップが地面とは違う何か固いものにぶつかる手ごたえが伝わってきました。
さっそくそのあたりの土を掘り広げ。
「ありましたわ!」
「「「おー!!」」」
そう、そこにはきれいな宝箱が埋まっていました。
そうです。私たちはみごと、宝物を探し当てたのです。
そこからはみんなで協力してちゃんと土を綺麗に掘り返し、宝箱を地面へと運び出します。
「おっきいねー」
「沢山宝物が入っているのです?」
「さっそくあけよう!」
「だめですよ。屋敷に持ち帰って、ドレッサたちと一緒に開けましょう」
「そうですね。ラビリスたちも待っているでしょうから、戻って一緒に見ましょう」
さぁて、中身はいったい何が入っているのでしょうか?
そんなワクワクを抱えて私たちはお屋敷へと戻るのでした。
「みんな楽しそうで何よりだな」
「ええ。で、あの宝箱の中身は何が?」
「コラコラ、それはあとでのお楽しみだな。先に答えを言うもんじゃないだろう?」
「それもそうですね。なるほど、これも楽しみというやつですか」
「そうだな。スタシアもゆっくり覚えていけばいい」
「はい。ありがとうございます」
……あーもう! なんか腹が立つ!
宝探しって一度はやってみたいよね。
古い地図とか文章から、位置を割り出して、宝物を発見する。
ロマンだよね。
もう、日本じゃ徳川の埋蔵金とかもなくなったしねー……。
どこかにロマンはないのかね。




