落とし穴番外:海での楽しみ方
海での楽しみ方
Side:ユキ
「こう…でしょうか?」
「ええ。いい感じよ。じゃぁ、このまま畳みかけるわ! 行くわよ。トス上げて」
「はい!」
と掛け声と共にスタシアがボールを頭上高くにあげる。で、それに合わせてセラリアがジャンプし、頂点で静止した瞬間を見計らって思い切りスマッシュを叩き込む。
バシン!!
音を聞いただけでもその一撃の強烈さがわかる。
おっ、これは決まったか…と思ったが。
「なんの!」
バフッ!
リエルが即座に飛び込み、ボールを掬い上げる。
「リエル。上げるからお願い!」
「任せて!」
リエルが掬ったボールをそのままトーリが上手に頭上にあげている間に、クルッっと立ち上がったリエルはさらに、アタックの態勢をとる。
おぉ、流石運動神経抜群のリエル。
たとえ砂浜であってもその動きは微塵も鈍ることがない。
「これで……おわりだよ!」
と、リエルが思いっきりボールを叩き込む。
しかも狙ったのか、ボールはビーチバレー初心者のスタシアの左をかすめるコース。
コートギリギリとかではなく初心者を狙うあたり、確実に勝ちを取りに行ってるのがわかる。
しかし、そんなことは百も承知といわんばかりにスタシアはサッと態勢を整え。
「終わりでは……ありませんよ」
バシン!
ボールをちゃんを受けて見せた。
スタシアも自らが前線に赴く将軍であり、剣の腕もしっかりしているので、運動神経は悪くはないとは思っていたが、初めてのビーチバレーにここまですぐに適応できるのだから、いやはやものすごい。
この世界の女性は全般的に才能に恵まれているようだ。
そしてなにより……。
プルンプルン……。
と、大きいのも小さいのも、胸が揺れている。
いやぁ、眼福眼福。
まぁ、この炎天下でビーチバレーに付き合わされているのだから、正当の報酬か。
ホント、嫁さんたちが一杯でよかったと思うことその一だな。
いくら堂々とおっぱいを見ても別段何も言われない。
まあ、うっかり見すぎるとそのまま別の試合になるので凝視はだめなんだが。
「しかし、さすがに差が出てきたな」
意外なことに初心者のスタシアとペアを組んだセラリアの元王女コンビが、トーリとリエルの運動神経抜群の獣人コンビと互角に渡り合っている。
しかし、運動神経だけじゃなく、トーリとリエルは元々一緒に冒険者もやっていたから何といっても阿吽のコンビネーション。
これに対しセラリアとスタシアは所詮即席のコンビなので、隙をつかれて徐々に点差が開いてきた。
そう、よくは頑張ってはいる。だがやはり負けているのだ。
まぁ、リエルもけっこうマジになっているからな。
いやいや、遊びに全力を尽くす。いいことだ。
そんな感慨にふけっている間にもついに……。
「ゲームセット。トーリ、リエルチームの勝ち」
私にやらせなさいといそいそと引き受けた審判のルナがそう告げると、やったーと喜ぶトーリとリエル。
「やっぱり強いな。2人とも」
「はい。まだまだ負けませんよ」
「うん。僕たちは負けないよ」
そういう2人の笑顔がすごくまぶしい。
これぞ砂浜のアスリートって感じだ。
で、その反対にこんな筈ではと言わんばかりにがっくりと肩を落とすセラリアとスタシア。
「で、負けた方もそんなに落ち込むな。また次こそリベンジすればいい」
「そうね。負けたことを引きずってても仕方ないわ」
「ですね。次こそちゃんと戦略を立てて戦いの臨みましょう」
「ええ。早速今夜は作戦会議よ。明日はリベンジするわよ」
「はい」
ははは。流石に今すぐもう一度勝負といいださないぐらいの理性はあるようだ。
さて、ここは落ち着いたしと、俺が海の方へと視線をむけると……。
「エノラ。大丈夫?」
「なんか沈んでない?」
「沈んでないわよ! これでもユキに教えられて泳げるようになったんだから」
「これって泳げているのでしょうか?」
「ん。少しは進んでる。それに、ギリギリ沈んでないから泳いでいると私は認定する」
浅瀬の方でそんなこと言いながら、和気あいあいと泳いでるカグラ、ミコス、エノラ、サマンサ、クリーナ。
学生チームだな。ま、エノラは司教だが、元々勉強中の司祭補佐だったから生徒という扱いでもいいだろう。
と、それはいいとして、まさしく海を満喫している状態だ。
若かりし頃は俺も……。いや、こんなつつましやかな海水浴なんぞしていなかったな。
俺がやっていた海水浴は……。
「なはははははは! リーア、遅いぞ!」
「むー!! 負けないよ!」
「私も負けませんよ」
「いやー、僕って参加したの、間違いだったかなぁ?」
そうそう。あんな感じで海を激走?していた。
ちょっと沖の方に見える島まで泳ぎきるとかいうのはざらだったな。
とはいえ、立ち位置的には、俺はエージルみたいにその争いに参加したことを後悔するタイプだったな。
とか言いながら、何回やっても懲りなかったよな。
……んと、学習能力ねえよな。俺も
「まぁサマンサとクリーナはいいとして。リーアとジェシカはあんなに激しく泳いでいいのか? いくらドッペルでも妊婦だろう?」
そう、リーア、ジェシカ、サマンサ、クリーナはただいま妊娠中で本体は海には来ていない。
ドッペルを代わりに使って海を満喫しているのだが。とはいえ、あれはやりすぎじゃないか?
ほら激しいシーンとか見ると手に汗握るし、別の体だとはいえあそこまで激しく動いていると本体に影響がでそうだ。
なので、我が家族の健康管理を担当しているルルアにお伺いを立てる。
「はい、大丈夫ですよ。まあ、心配なのはわかりますが。ずっと家なのも精神的に来ますし、ちゃんとあれでバランスはとっていますから」
「……あれでか」
「はい。ユキさんだってお分かりだと思いますよ? そもそも、みんな全力を出せばああして海を泳ぐなんてことしなくてもいいんですから」
「いやー、それは本気というか。ガチというか」
完全戦闘モードだよ。
しかし、ルルアの言うことももっともだよな。
泳いでるぐらいでどうにかなるなんてないか。
「で、旦那様はどうなさるんですか? 一緒にお日様を浴びますか?」
「なんなら一緒に寝てもいいわよ?」
「いや、それはどちらも遠慮しておく」
「残念です。オイルもしっかり用意していたのですが」
セラリアとキルエがわざとらしくそんなことをいう。
うっかり乗ったら、絶対そっちにもっていかれるしな。
そういうのは夜にな。
「というか、今さっきまでビーチバレーやってただろう。セラリア」
「ええ。だから休憩よ。あら、あなたは何を考えたのかしら?」
「若いんでな」
「あら、夜は楽しめそうね。まあ、とりあえず私は休むわ」
セラリアはそれだけ言うと満足したのか、目にタオルをあててのんびり寝始める。
ま、あれだけ動いていれば当然だよな。
「さて、そういえばアスリンたちがいないな」
「アスリン様たちなら、沖合にある孤島の方へ行っておりますよ」
「あなたが何か宝物を隠したんでしょう?」
「あー、そういえばそんなことをしたな」
夏の間に誰か探すかなーって思って隠しておいたのだ。
ほら、『孤島の冒険』なんて子供心をくすぐるだろう?
「とりあえず、ちょっと様子を見に行ってくるよ」
そう言って立ち上がったら……。
「お兄様。私たちも連れて行ってください」
と声をかけられ振り返ると、そこにはお揃いの青いビキニを着たアージュとスタシアがいた。
「こっちはいいけど。スタシアはさっきまでセラリアと一緒にビーチバレーやっていただろう? 大丈夫か?」
「はい。確かになれない運動でしたが、この程度なら全く問題ありませんよ」
流石にビーチバレーをやっている間になれたのか、スタシアも水着を恥ずかしがるそぶりを見せなくなった。
「あはは、先ほどはご迷惑をおかけしました」
「いや、慣れたんなら何よりだ。水着は別段恥ずかしいものじゃないだろう?」
「ええ。このまますぐに水に飛び込んでも問題ないですからね。水用の服と考えれば合理的です。何より、皆さんも同じ格好ですし。いえ、エリスさんとかはもっとすごいですし」
その一言についつい俺たちはミリー、カヤと一緒に泳いでいるエリスに目を向ける。
「ああ、あっちは気にするな」
エリスはプライべートビーチに来る時は必ず通常の水着じゃなく、エロい方向で攻めてくるからな。
前はブイの字、今回はマイクロビキニ。
次はどうなるのやらと思ってしまう。
というかあの3人、酒のつまみでも捕っているんだろうだが、なぜかずれないんだよな。
う~ん、不思議すぎる。
「とはいえ、声をかけないのはあれだな…。おーい、今からアスリンたちを追って孤島に行くけど、3人はどうする?」
「私たちは遠慮しておきまーす。これから一杯やるんですよ」
「はい。お昼から飲む機会なんてなかなかないですからね」
「……お土産はウニとサザエ」
「わかった。採れたら採ってくるよ」
「沢山採ってきますねー」
「こらアージュ、勝手にそんな約束するな。ではみんな、行ってきます」
そんな感じで酒のつまみの追加を頼まれた俺たちは沖にある孤島へと向かう。
出来なくはないが、空を飛んでいくってのは流石に海に遊びに来た意味がないので、クルーザーを使っていくことにする。
さすがに流れがある中で手漕ぎボートとか地獄だし、時間は有限だ。
まあ、金持ちの海遊びって感じだ。
ブオォォォ……。
とクルーザーのエンジン音が響き、海上を飛ぶように走っていく。
「うひゃぁぁぁぁ! すごい! すごいよお兄様! 海の上をこんなに早く疾走するなんて!」
「こら、アージュ。立つんじゃない。危ないって言われただろう? まったくすみませんユキ様」
「いや、楽しんでくれて何よりだよ。ああ、そっちの冷蔵庫に飲み物があるから好きに飲むといい。これから上陸してアスリンたちを探すことになるからな。ああ、パーカーとかも出しとけ。森の中に入ることになるから、ケガをしないようにな」
「はい。準備をします」
「はーい! 楽しみだね。お姉さま」
こうして俺たちはアスリンたちが宝探しをしている孤島へと到着する。
どうやら、アスリンたちもクルーザーで来たようで、すでに一隻船が泊まっていた。
「おーい! アスリーン、フィーリアー、シェーラ―、ラビリスー……」
「やはりどうやら、みんな島の中へといっているようですね」
一応クルーザーの中を確認したが、もぬけの殻。
「ま、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロも一緒だしな。ちょっと探せばすぐ見つかるだろう」
意外とこの孤島の探検隊メンバーはかなり多い。それに島自体はそこまで大きくないからきっとすぐに見つかるだろう。
ということで、俺たちもさっそく島の中へと足を踏み入れるのだった。
みんなは海で遊ぶと言ったらどんなことをして遊びますか?
泳ぐは当然として、ビーチバレー? スイカ割? それとも魚釣り?
孤島に行くのは……難易度たかいよね。




